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Story ID:LLAWkCbU0 氏(14th take)

「アイデン&ティティ」
Lyrics ID:LLAWkCbU0 氏(14th take)

「はぁ……」
自室の四畳半部屋に寝っころがって、蒼星石は小さなため息をついた。

話は、数時間前…

「僕はロックをやりたいんだ……まだ駆け出しだった頃の、もっと研ぎ澄まされていた頃のロックを」
蒼星石の一言が始まりだった。
ローゼンメイデンは既に安定した人気を誇り、武道館でのライブを成功させたほどだった。
しかし安定期に入るにしたがって、彼女らの書く曲はポップでよく言えば親しみやすく、悪く言えば当たり障りのないものへとなっていった。
そこには人気を持続させたい事務所や音楽関係者らの意図があった。そして彼女らにも、その考えが無意識のうちに音も立てずに入り込んでいた。
「蒼星石さん…それはちょっと…難しいですね」
口を挟んだのはマネージャーだった。
「どうして?確かに今のポップな曲は僕も好きだよ。でも、本当のローゼンメイデンのロックはこんな…」
「ちょっと落ち着くです、蒼星石」
翠星石が熱くなりはじめた蒼星石を制す。いつも感情を表に出さない蒼星石のことばにメンバーたちは少し動揺した様だった。
「蒼星石の言うことは私にもわかるです。でも、今のリスナーが求めているローゼンメイデンは、蒼星石の言うようなのとは違ってきてるです、だから……」
「そんなのっ、おかしいよ。ロックはリスナーに媚びるための音楽じゃないんだ。僕らの本当に伝えたいこととか言いたいことをぶちまけて共有しあうためにあるはずだよ!!!」
「……だったらアンタが曲を作りなさいよ」
一同が一斉に静まり返る。水銀燈だった。

「水銀燈……」
確かに彼女の言うとうりではあった、しかし……
「ローゼンメイデンなら……このバンドならできるはずなんだ」
僕らのスキルなら、今よりもっといいものが作れるはずなんだ、蒼星石は確信していた。
「……いいわよね、貴方は…。曲も作らず、歌詞も書かずに太鼓叩いてるだけなんですから」
皮肉交じりに水銀燈は答えた。事実蒼星石は一緒に曲や歌詞を作ったのことはあるものの、自分で一曲作ったことはなかった。
「……」
「もうやめようよぅ!!こんなの…嫌だよ」
険悪な雰囲気に雛苺が泣き出してしまった。
「雛苺……」




結局、これからの方向性については今後十分な話し合いが必要と言う真紅の意見にのっとってその日は終わった。
「理想と現実は違うのかな……」
仰向けのまま蒼星色は呟いた。世の中には妥協すべき事だらけだ。でも、せめてロックの世界だけは自分達の気持ちを信じて進める。そう思ってたのに……。

蒼星石は何気なくラジオをつけた。スピーカーからは、雑音混じりにギターと歌声が聞こえた。
それは歌声と呼ぶには余りに汚い、ヨレたダミ声だった。でもその歌は、何故か蒼星石の心に直に届いた。
「(僕もこの人みたいに強く生きられたらなぁ……)」
蒼星石は思う。この声の主はかつて、フォークの世界で確固たる地位を築いた。しかしその人は、自分の表現の赴くまま、あっさりとその地位を捨て、ロックの世界へ進んだ。観客のブーイングの嵐に、涙ながらも力の限り叫び、自分を貫き通したその人。
どうすればそんなに自分を貫けるのだろう。どうしたらそんなに自分達の音楽を信じられるのだろう。
「教えてよ、ディラン……」

その時、奇妙な音が聞こえた。どこか涼しげなハーモニカの音だった。蒼星石は起き上がる。

戸口に、その人は立っていた。


モジャモジャの頭に帽子とサングラスが程よく似合うその男は、ギターを抱え、肩にかけたハーモニカを吹いていた。

蒼星石は呆然とその姿をながめ、そして……

「うわあああぁぁあぁあwせdftgyふじこあwせ」

絶叫した、つーかパニクった。
どちらかと言うとそれは不審者に対するものだった。

男はハーモニカを吹くのをやめて、蒼星石の方を向いた。
「驚かせてすまない、私は「うわああああ、へ、変質者ぁ~~、誰かあああああ!!!!!!」
蒼星石はその場にあったありとあらゆるものを彼に投げつけた。それらはことごとく彼に命中した。
「痛っ、ちょっと、落ち着い、いたたっ。深呼吸して私の姿をよく見てほしい、あだっ」
その言葉に蒼星石は投げるのをやめた。パーマに刺さった鉛筆を抜いている男は、間違いなくボブ・ディランだった。
当然ディランがここにいるわけが…それ以前に日本語を話しているわけが…ない。どう見ても変質者だ。
しかしそんな彼の声は、不思議と自分を落ち着かせてくれた。
深呼吸しても事態は大して変わらなかったが、
「(少なくとも、悪い人じゃ……ない?)」
なぜか蒼星石は、盲目的に思った。



「……驚かせてすまない。私は……そうだな、アイデンティティのアイデンにしようか」
のっけから電波的なことを言い出した。蒼星石は少し後悔した。
「え、あ、あなたは、その……ディランですか?」
自分でも意味が分からず、蒼星石は聞いた。
「私はディランではない。…正しくは、君が強く思い描いた人物のイメージが私をこの姿にさせた。だから君に私はディランのように見えるのだろう」
言ってる意味が分かるような分からないような……。夢でも見ているような、それでいてはっきりと意識のある奇妙な感覚だった。
「(よくわからないけれど……僕の作ったディランの化身ってことでいいのかな?)」
そんなバカな、と思いながら蒼星石は男を見た。
先ほどアイデンと名乗った人物はいつの間にか部屋の隅に座っていた。こちらの視線には気づかず、ギターを爪弾いていた。
「え~と、ディラ…じゃなかったアイデンさん。あなたはどうしてここに?」
なんとなく話しづらいが、黙っているとさらに気まずいので、蒼星石は聞いてみた。
何故か自分は正座でかしこまっていた。
「さぁね、私は自分の存在意義を知らない。勝手に生まれ、勝手に現れるからね」
予想外の返答だった。
「えっ?そんなの…不安じゃないんですか?」
自分の存在意義を堂々と知らないと言った人間(?)を、蒼星石は始めて見た。
「別に…まぁ、時々思うけど、そんなくだらないもの自分で勝手に探していけばいいだけの話さ」
またもあっさり切り返してしまう。しかし、そっけなさの裏に優しさの垣間見える彼の言葉は、少し好きだと蒼星石は思った。

「歌を聴くかい?」
「え?」
いきなりだった。
「あなたの……ですか?」
「私のことを信じてないようだからね。丁度一曲歌いたかったところでね」
それだけ言って彼は唐突に歌いだした。
その声は間違いなくラジオから聞こえてきたものと同じだった。そして、更に何も通さない生の声はさらに蒼星石の心を震わした。
ヨレた、汚くも心に響く魂を持った歌はまちがいなくディランのものだった。


『Just Like a Woman』を歌い終えたディラン…もといアイデンは、小さく「ありがとう」言ってまたギターを爪弾きだした。

彼が何なのかは結局わからないが、正直どうでもよくなってきた(よくないが)。…少なくとも歌っている彼は少なくとも本物のボブディランだった。
蒼星石は心地よい気分でしばらく余韻を味わっていた。

しばらくすると、どうしても聞きたいことが思い浮かんだ。ひょっとしたら、彼はこのために来たのかもしれないと蒼星石は思った。

「どうしたら、あなたみたいになれるんですか?」
爪弾く音が消えた。サングラス越しに目が合った。
「それは、私に対する質問かい?それとも、ディランに対する質問かい?」
「どちらにも…です。僕、もうわからないんです。僕たちは、僕たちを信じてここまで来たのに、いつの間にか周りに流されていて、みんなそれに気づいているんです。
でも、多分このままじゃ流されたままローゼンメイデン…僕らのバンドです…を見失ってしまいそうなんです。僕は、それを止めようと思って話したんですが、結局喧嘩してしまって……。
僕は、メンバーのみんなが大好きなんです。でも、僕は何もできない。曲も作ってないし、ドラムもそんなに上手くないし。僕は無力なんです、あなたみたいな力をもっていないんです。
こんな、こんな後ろむきなこと言うべきじゃないのですが僕は…僕は…」

両手を握り閉めたこぶしの上に、涙が一粒落ちた。蒼星石はもう喋られず、結んだ口から嗚咽がこぼれていた。

「……私はその質問に対して、言葉で返すことはできない」
静かに、重みのある声で彼は言った。
「かわりにこの歌を聴いて欲しい。これが答えになると私は思う。無責任な話だが。だけどもこの歌で、君がヒントをひとかけらでも見つけられるはずだ」
蒼星石は顔を上げた。彼はギターを構え、歌い始めた。

むか~し、むか~しある所に
良い服を着て乞食に銭を投げる若いおまえがいました。
周りの人々に、「気をつけないとおまえも落ちぶれるぞ」、
と忠告されていたのに、
若いおまえはそれを冗談だと思って聞き流していました。
そして家もなくうろつく人々をあざ笑っていました。
だけど今のおまえは一体どうなんだ?
次の飯を食うために金をかき集めないとならない有様じゃないか。
大声でしゃべらなくなったし、全然自信も持って無さそうだ。
帰る家もなくて、誰にも見向きもされないってのはさあ、
一体どんな気分なんだ?

塔の上の女王や他の全ての上品な人たちは、酒を飲んでいました。
そしてそれができるのは自分達の力のおかげだと思っていました。
あらゆる種類の高価な贈り物を交換していました。
だけどおまえはそのダイヤの指輪を
質屋に入れておいたほうが良かったのでした。
おまえはよくボロを着たナポレオンと、
その言葉遣いを面白がっていました。
さあ、彼の元へ行けよ。おまえを呼んでいるぜ。
おまえに断る権利はないはずだ。
何もなくなったということは、何も失うものがないということだろ?
おまえの姿はもう透明で見えちゃいないよ。
隠すべき秘密なんてありはしない。さあ、どうだい?
たった一人で帰り道もないまま、石ころみたいに転がっていく気分は?

歌が終わった後、周りは音一つない静寂だった。

その歌は、全然優しい歌詞を詩い
その歌は、全然優しくない声で謳い
その歌は、全然優しくない男が歌った

なのに、その歌は、蒼星石の聴いたどの歌にも負けない優しさがあった。愛があった。
歌い終わったとき、蒼星石は大切なことを見つけた気がした。そしてさっきのように余韻に浸ろうとした時。

「今度は、君の歌を聴かせて欲しい」
彼は言った。
「ふぇっ!?」
蒼星石は変な声を上げた。すっかり喋るという行動を忘れてしまったのだ。
「い、いまなんて?」
「君の歌を聴かせてほしいんだ」
「そ、そそそんな、無理ですこんな、こんないい歌の後じゃ…それに僕、曲なんて作ったことなくて、歌も下手くそでギターも少ししか弾けないしその…」
蒼星石は真っ赤になってうつむいた。ちらりと彼の顔をうかがうと彼は表情を変えずこちらを見ていた。
「私の声は綺麗かい?私のギターは上手いかい?歌に、ロックに大切なものを、君はもう、見つけたはずだ。違うかい?」
「……でも…」
確かに彼の歌を聴いて、歌う彼を見て、蒼星石は見つけた。しかしだからといって彼の前でしかも即興で歌うなんて無理な話だった。
歌も専門ではなかったし、ギターに至ってはCとGとDを四分音符のダウンストロークでしか弾けなかった。
「私のギターを貸してあげよう」
「うっ……」 いよいよ逃げられなくなった。
「君の感じたこと、思ったこと、考えたことを素直に吐き出してごらん。君はもう、歌えるはずだ」
どうにでもなれ、蒼星石は一度深呼吸した。つい先ほど、彼に深呼吸を促されたことを思い出していた。
「(……よし)」
蒼星石は歌った。

……歌い終わる頃、彼が少し微笑んだように見えた。


後日

ワアアアアアアアァァァ!!!!!!

ライブ会場は怒涛歓声の渦に巻き込まれていた。
その後、ローゼンメイデンはポップ志向とロック志向の両方を取り込み、今まで以上にパワーアップするという結果になった。
その影には、メンバーとマネージャーらを説得し、より結束を固めた蒼星石の活躍があったことはいうまでもない。

その熱気はライブ終了後もやむ気配がなかった。

「うわ~凄いわねぇ」
能天気に水銀燈が言った。
「何言ってるですか、もうアンコールも終わったあとですよ」
翠星石だった。確かに観客の熱は異常だった。ロックの反骨と思想が観客をもパワーアップすることになったらしい。
「もうやる曲もないよ、どうしよう、疲れたよぅ」
雛苺が慌てている。
「そうだ、いいこと思いついた」
「?」
水銀燈は黙っていた蒼星石に向いて言った。
「前わたしが言ったことを真に受けてあんたが作った曲。あれ一人でやってきなさいよ」
「ええええええ!!!!そんな…今言われても」
「私も賛成ですぅ。あの曲簡単ですしね」
「そんなぁ、ひどいよぉ」
なんだかんだで押しに弱い蒼星石は結局アコギ一本で歌う羽目になった。着々と準備を始めるスタッフを見つつ、水銀燈は言った。
「あのときは……ひどいこと言ってゴメンね」
「「「!!!」」」 全員驚いて彼女を見た。水銀燈が謝るなんて前代未聞だった。

「あのとき、あんたが作った歌を聴いてね、私、びっくりしたの」
こっちがだよ、と全員心の中で思った。
「綺麗な声で、ポップなメロディで、かっこいい伴奏の曲がいい曲だって今まで思ってたの。ううん、最初の頃は違ったけど、いつの間にかそう思ってきたんだ、自分に甘えてたのね」
一度、言葉を切る。観客のザワザワとした声が聞こえて来る。
「でも、あなたの歌を聴いて、気づいたの。歌に大切なのは、そんな小細工じゃない。本当に愛される歌はなんというか、魂のこもった曲だって、そういわれた気がしたの」
「水銀燈……」
「それ、私も思ったです。それから、凄く感動したです。だから…私からもごめんねです、蒼星石」
翠星石は照れくさそうに笑いながら言った。
「みんな……」
蒼星石は全員の顔を見る。みんな笑っていた。
「ありがとう……」 少し、泣きそうだった。
「さ、あんたの出番だよ」
「行って来るです、蒼星石」
「頑張れ~」

頑張れ負けるなと激励を背に、蒼星石は暗いステージでへと現れる。意外なメンバーの登場にざわめきを増す観客。
「あの、みんな…今日はきてくれてありがとう。もう歌う曲もなくなったけど、最後にこの歌をみんなに聴いて欲しいんだ」
蒼星石が話し出すといつの間にか観客は静かに蒼星石の言葉を聞いていた。
「僕にはきれいな声も、はっとするようなギターの腕もないけど、大切なのはそういうことじゃないと思うんだ……うん、もう言葉はいらないね、最後の曲『アイデン&ティティ』」
誰も聞いたことのないタイトルに、一瞬歓声が上がった。

ジャーン、ジャーンと蒼星石のストローク音が会場に響きわたる。

「アイデン&ティティ」
Lyrics&Music:蒼星石

僕は時々わからなくなる
僕はどうやって笑うのか
僕はどうやって話すのか
僕はどうやって気持ちを伝えるのか
一人の夜は僕が消え入ってしまいそうで
震えながら朝を迎えたこともある

怖いよ 寂しいよ 悲しいよ……

するとある日奇妙な男が来て
僕の首をつかんで無理やり立たせたんだ
そしたら……

まわりをみれば みんながいた
やさしくて きびしくて あたたかい

どうして気づかなかったのだろうずっとそばにいたのに
僕は静かに泣いていたよ
僕は男にお礼を言って みんなのところへ駆け出した
僕はもう大丈夫 心配しないで
僕のアイデンティティーはみんなのなかにあったから……
これから僕がみんなを助けたい 臆病な僕の一つだけの勇気

もう一人の夜も怖くない だからみんな そばにいてくれるかい

素人でもわかるギタープレイ、しかしか細くも力の限り歌うその姿は、全ての人の心に響いた。
「(あの人も、見ていてくれるかな……)」


あの後、アイデンは
「もう君に私の必要はないようだ、さよなら。ティティにもよろしく言っておいてくれ」
と言って帰っていった、もとい消えてしまった。
蒼星石に背を向け、ハーモニカを吹き鳴らす彼の姿は次第に消えていった。
「え…待って、僕」
言いかけたところで彼の姿は完全に消えてしまった。
蒼星石はその場にへたり込んだ。
「待ってよ…まだ…お礼も言ってなかったのに…」

この歌は、彼の前で即興で歌ったものをもとに彼を表す歌詞を加えたものだった。
「(これで…お礼になったかな…)」

『アイデン&ティティ』はライブの隠れた名曲となり、懸命に歌う姿が蒼星石の人気を上げた。

そして、ごく一部のファンの中では、この歌を歌っているとき、ステージの隅の袖のところにボブディランによく似た男が一瞬現れるという都市伝説が伝わっていたという。

fin


最終更新:2007年01月10日 01:59