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Story  ID:4s6+1Cxk0 氏(4th take)
Rozen Maidenライヴツアー20**-Alice-は、連日大盛況だった。
今回のライヴツアーは500人クラスの会場から7000人クラスの会場まで、様々な規模で行われている。
例え小さな会場であっても手抜きはしない。プロの心意気以上に、彼女たちの音楽への真摯さ故に。
だが、そんな彼女たちであっても時にはどうしようもないトラブルに巻き込まれるわけで───

     -Trouble~真紅の場合~-

控え室の扉が開く。
そこには真紅以外のメンバーが既に揃っていた。

「やあ真紅、遅いなんて珍しいね……ってどうしたの?」

蒼星石の視線の先、真紅からは普段の覇気が感じられなかった。
どこか視点の合わない瞳、やや紅潮した頬。そして、なにより。

「けふっ…な、なんでも…ないのだわ……」

言葉に混じる咳と変質した声が、「何でもない事はない」と言う事を証明していた。
風邪である。立派な、誰が見てもあからさまに発熱している風邪であった。

季節は冬、乾燥と気温差が大敵な時期。油断をすると風邪引きが続出する。
決して自己管理が甘い方ではないのだが、連日のツアー疲れによって─何しろ、休みが数日ではなく数時間単位なのだ─ついに真紅は風邪を引いてしまった。
他のパートならば気合と会場の熱気で無理矢理吹き飛ばすことが可能なのだが、真紅はヴォーカルである。
変質した、音域の狭い声でRozen Maidenの曲を歌うのはほぼ不可能に近い。

「何でもないことはないのです!真紅、そんなエロっちい顔見せてねーで帰って寝るですよ」
「そ、それは…できないのだわ……来てくれた…観客に、申し訳が…立たないもの……」
「あらぁ、でもそんな状態で歌うつもりぃ?コーラスの部分なんか歌えなさそうよぉ」
「それに真紅、ここで無理していたら後の日程にも影響するよ?」
「うー、真紅ぅ。我慢はめっなのよー」
「……風邪は…お尻に、ネギをいれると、いい…」
「そ、それは勘弁なのだわ………」

なんだかんだと言いながら、メンバーは真紅を心配しているようだ。
ツアーの成功失敗という観点から、そして「ずっと一緒だった」メンバーとして。

「うぅ、わ、解ったのだわ…でも、ステージには…立つわよ…」
「…?それで、どうするのさ?」
「蒼星石……ちょっと…」

真紅が蒼星石を手招きする。何?とそばに寄った蒼星石に何事かを囁くと

「……えー!?」

…驚いた。サプライズである。冷静な彼女にしては珍しく大慌てだ。

「お願い…貴女なら、きっと…できるのだわ……」
「う、ううっ……僕、そういうの苦手なんだけど…」
「貴女は…もっと自信を持つべきね……」
「そうですそうです。なんだか良く解らねぇですが蒼星石はもっとびしーっと自分に自信を持つべきです!」

結局、押し切られる形で蒼星石は真紅の提案を飲むことにした。
リハーサルをしている時間はもう無い。簡単な音合わせをして本番を迎えるだろう。
会場の外からは、既にざわめきが聞こえていた。


超満員の会場。
大型会場と言えるレベルの収容人数を誇っているのだが、それでも札止めをしなければならない程ある。
ざわめきの中、ライトが落とされた。
幕が、開く。

チッ、チッ、チッ
翠星石のスティックがリズムを刻んだ。
オープニングはいつもインストゥルメンタルから始まる。
この点も真紅には幸いしていた。
水銀燈のギターが余韻を残し、そして静寂が訪れる。

「皆、僕たちに会いに来てくれて有難う!」

蒼星石がベースを片手に語りかける。
それに応えるオーディエンス。轟く歓声。男女入り混じった、カオスだ。

「あなたたちぃ、乳酸菌摂ってるぅ?」

Yeahhhh!!!!!

「わざわざこんな所まで来たおめーらに、翠星石達の音楽を聞かせてやるですよ!」

Arhhhhh!!!!!

「………(グッ)」

薔薇水晶は無言だが、サムズアップは欠かさない。
オーディエンスの盛り上がりは、早くもピークに近かった。

「うーと、でもね、でもね、大事なお話があるのよー」

雛苺が、いつもよりちょっと真面目な口調で言った。
しん、と静まり返る会場。
こほん、と真紅が咳払いをする。

「この真紅の不手際で、今日は歌うことができないわ」

どよめく会場。
「えええー」「真紅どうしたー」「紅茶の飲みすぎかー!」
戸惑いの声が、各所から挙がった。

「でも、安心して。今日は私の代わりに彼女が歌うから」

真紅を照らしていたスポットライトが消え──蒼星石を照らし出した。
他のメンバーがヴォーカルを務める曲はいくつかあるのだが、蒼星石のそれは一つも無い。
つまり、ファンは蒼星石の歌声を知らないのだ。
期待と不安の入り混じった声が、やはり挙がった。
蒼星石が萎縮している。そんな様子を見た翠星石が、予備のスティックを蒼星石に投げつけた。
慌てて振り向くと、翠星石が笑いながら何かを言っている。声は聞こえないが、唇の形で解った。

「蒼星石の歌声は真紅にも負けねー魅力があるですよ。翠星石が保証するです」

蒼星石はこくり、と頷いて、マイクを取った。

「ふふっ、僕の歌声なんて滅多に聞けないよ?皆への、1日遅れのバレンタインプレゼントさ!」

にやりと、ニヒルに笑う。
そう、これは仕事だ。萎縮している場合ではない。
オーディエンスは自身を見に来ているのではなく、Rozen Maidenというバンドの曲を聴きに来ているのだ。
ならば、どんな形でもやりとげなければならない。

「貴方達!真紅が問うわ。薔薇の指輪に服従を誓う?誓うのなら───」

真紅が、オーディエンスに薬指を差し出した。

「──指輪に、キスを。」

演奏が、始まった。



蒼星石のヴォーカルは、真紅のそれよりも低くハスキーだった。
だが、決して音域は狭くなく、そして真紅とは別の魅力を醸し出していた。
バラードやソウルを好む音楽性が、しっとりとしたどこか物悲しいヴォーカルを作り出したのだ。
始めは戸惑いを見せていたオーディエンスも徐々にそれを受け入れ、最後には蒼星石のヴォーカル曲を熱望する声すら挙がっていた。
その日のライヴが終わった後、「出待ち」をするファンが普段より3割ほど増えていたという。


最終更新:2006年07月25日 11:36