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Story  ID:t3D1nxiy0 氏(4th take)
プレイヤーではなくとも、バンドに欠かすことの出来ない人物は沢山居る。
ライヴへと足を運ぶオーディエンス、裏を全て請け負うスタッフ、そして様々な事務を受け持つマネージャー。
敏腕マネージャーならばメンバーの負担は実に軽くなるものだ。
しかし、Rozen Maidenの場合は少々違うようで────

     -Trouble~金糸雀の場合~-

週末である。
土曜の午後、街が活気付く時間。
老若男女町へ繰り出し、思い思いの「目的」を果たさんと歩いている。
そんな中、一際目立つ女性の集団があった。
一見周囲から浮いて見える派手な服装の彼女達。しかし、違和感等無く着こなしていた。
Rozen Maidenの6人+マネージャーの金糸雀である。

「本当に大丈夫?」
「大丈夫!しっかりばっちり仕込んであるかしら!」

不安げな表情で金糸雀に視線を向けるのは、イメージカラーである「赤」に身を包んだ真紅だ。
マネージャーに対してこうも不安を露にするのは理由がある。
金糸雀は時折…いや少々それよりも多い頻度で何らかのミスをしてしまうのだ。
会場の住所を間違うようなライトなものから、機材の手配を一部忘れてしまうクリティカルなものまで、列挙しようものなら軽く小一時間はかかる程。
それでも彼女がマネージャーとして着いているのは、単に付き合いが長いだけではなく、「いざ」という時の危機対応能力が人並外れて高い為である。

今日の会場は立地条件がよい上に「多目的ホール」という場所なので、空きを確保するのがかなり難しく、半年前に予定を組んでようやく確保する事が出来たのだった。
それほどの会場である。真紅が不安がるのも無理の無い話であった。

「おー…並んでるですねえ」

感嘆の声を上げる翠星石。
開場まで3時間以上あるというのに、既に列が出来ていた。

「…あれ?」

…はて、何かがおかしい。
黒尽くめの女性がやけに多い気がする。
それに気付いた蒼星石だったが、さして気にもせずに裏口へと向かった。
関係者用の通用門を通り、控え室への廊下を歩く。
前日までにセットリストの構築とリハーサルを終え、当日は余裕を持って行動するのが薔薇乙女達の常であった。
当日行う事は、簡単な音合わせとそれによる楽器の調整、そしてライヴ前のお茶会だけである。
今日も、そうなる…はずであった。

「…あらぁ?」

かちゃり、と誰も居ない筈の控え室の扉を開ける。
そう、誰も居ない筈であった。
しかし、そこには……

「……?Rozen Maidenのお姉さま方じゃないっすか」

既に、別のバンドのメンバーが居た。
M字ハゲと逆立てた髪が特徴の「プリンス」が率いる「Head-chara」である。
蒼星石が覚えた違和感の正体はこれだった。彼らは所謂ヴィジュアルロックバンドであり、そのファンも相応の者が多い。

「……ダブル、ブッキング……」

薔薇水晶が呟く。明らかなブッキングミスであった。
ちろり、と翠星石が金糸雀に非難の目を向ける。
これほどまでにクリティカルなミスは、今まで無かった。
表情は傍目にも解るほど狼狽し、血の気が引いている。
普通、どんなに遅くてもブッキングミスはチケット発売前の段階で発覚するものだ。
だが、今回の場合は違っていた。会場職員の手を通さずに金糸雀が直接チケット販売を行っていた。
その為、発覚しなかったのだろう。

「…どうしたものかな」

頬を掻きながら蒼星石が言う。
既に双方のファンは集まっており、今から予定の変更などできよう筈もない。
他のメンバー─もちろん、「Head chara」のメンバーも含めてだ─も思わぬトラブルに困り果てている。
と、雛苺が何かを思いついたように顔を上げた。
「そうなの!」という言葉に全員の注目が集まる。

「一緒にやればいいのー!」

ソロライヴが常だった薔薇乙女達には考えもしなかった案だった。
彼らの曲は知っている。セットリストを変更し、組み合わせればどうにかなるだろう。
真紅がプリンスに視線を向ける。プリンスが頷いた。
多少のイレギュラーは予定の内だった。

「それで行きましょう。それしかないのだわ」

真紅の一声で、全員の心が決まった。
慌しくセットリストを組替え、コードの確認を行う。
それぞれのパート同士で話し合い、この場でなければ出来ない事をやってみよう、という事になった。


ざわざわ、と観客がざわめいている。
互いのバンドイメージからは掛け離れた客が混じっているのだ。混乱も当然だろう。
釈然としないまま、照明が落とされた。

「ぃょぅ貴様等、戦闘民族の誇りは持っているか!」

プリンスがマイクを持って問う。
芋を洗うかのように客がひしめいている会場から、黄色い歓声が上がった。

「今日は貴様等愚図の為に、特別な仕掛けを用意した!」

「えー」「うそーっ」「どうにでもしてーッ!」…やはり黄色歓声である。

「さあ来い、クソったれの相棒ども!!」

バンドのメンバーが所定の位置につく。…が、その人数は倍であった。
プリンスの隣に立った真紅が、ぴしっ、と頬を叩いた。
一部から悲鳴が上がる。「プリンスに何すんのよ!」といった非難の声すら聞こえてきた。
真紅がマイクを手に取る。

「全く、なんて下品なの。これだから人間のオスは……」

深く、溜息をつく真紅。プリンスが青筋を浮かべた。
心なしか地面が揺れている。…プリンスの髪が、金色になったような。
慌てて蒼星石が二人の間に割り込んだ。

「まあまあ二人とも、こんな所で争うのもなんだし…落ち着こうよ。ね?」

困り顔で仲裁する。まさに苦労人といった風情だ。
真紅からマイクを受け取り、こほんと咳払いをした。

「会場に来てくれた皆、いきなりの展開で驚いてると思う」

クールに、しかし心を込めて言葉を紡ぐ蒼星石。
火花を散らしていた二人も何時の間にかやめていた。

「ちょっとした理由でね。今日は、彼らと僕らのツインライヴなんだ。
皆が満足するかどうかは解らないけど、彼らも僕らも頑張るから、楽しんで欲しい」

ニヤリ、とプリンスが笑う。
先の遣り取りもイベントの内だった。
若干不満げにしていた一部ファンも、プリンスの笑みで仕方なく納得したようだ。

「貴方達!真紅が問うわ。薔薇の指輪に服従を誓う?」
「貴様等、覚悟しろよ!ここからが本当の地獄だ!」

お決まりの台詞と共に、ライヴが始まった。

始めはどうなるか不安だったこの「突発イベント」も、終わってみれば盛況である。
所々でメンバーを入れ替えるなど、2チームだからこそ出来るアレンジも行い、普段とは一味違ったライヴとなった。
合同での打ち上げを終え、薔薇乙女達は行きつけのロックカフェへと向かった。

「どうなるかと思ったけど、案外なんとかなったわねぇ」
「彼らが承諾してくれて良かったよ、本当に」
「全く、金糸雀のお馬鹿はなんてことしてくれたですか」
「あぅ…ごめんなさいかしら……」
「金糸雀ー。元気出すのよー。落ち込んじゃめっめっなのよー」
「ま、でも…あまりこういうミスは感心できないわね」
「………でも、楽しかった…」

カフェで紅茶を飲みながら、今日のライヴの感想を口々に言うメンバー。
そんな中、金糸雀は「頭上に黒雲を浮かべている」という表現がぴったりなほど落ち込んでいた。
今までは、チケット販売を終えた段階でのこういった失敗などは無かったのだ。
だが、たまたま全て自分で行った今回に限ってクリティカルなミスが発生した。その事で凹みに凹んでいる。
好物の卵焼きにも手をつけていないほどだ。
心なしか、額の艶が淡い。

「…カナ、マネージャー降りるかしら」

テーブルを見つめたまま呟く金糸雀。
ぴしり、とあたりの空気が凍った。ぽたり、ぽたりと涙が落ちる。
悔しかった。ミスをネタに自身をいじるメンバーに対し、全てを自分の手で行い、敏腕マネージャーとして認めさせたかった。
けれど、実際はどうだ。
失敗どころではなく、雛苺の言葉が無ければライヴそのものが中止になりかねない。それほど散々な結果だ。
悔しくて、悲しくて。自分に嫌気がさしていた。
こんなに迷惑を掛けるなら、マネージャーは自分じゃなく別の人がやるべきだ。そこまで考えていた。

「金糸雀」

真紅の声。
顔を上げると目の前に居た。

ぴしっ。

真紅が金糸雀の頬を打った。大粒の涙が弾ける。

「ふざけんなですよ!しっかり責任を取りやがれです!」

テーブルの向こうで翠星石が言う。責めるような、そんな目だ。

「責任を取るから…だから、降りるのかしら。それしか責任取る方法がカナには浮かばないのかしら…」

力無く呟いた。事実、金糸雀にはそれしか考えつかなかったのだ。
だが、翠星石の言葉はそれを否定するものだった。

「そんなもの、責任取る事にはならんです!」

つかつかと靴を鳴らして金糸雀の傍へと向かう翠星石。
金糸雀の頬に手を添えて、自分へと向かせた。
キッ、と睨みつけて、言葉を続ける。

「最後まで仕事を全うするです!それこそ責任を取る唯一の方法ですよ、このお馬鹿!」

ぺち。
金糸雀の額を叩いた。
他のメンバーは何も言わない。
うぅー、と唸りながら額を抑え、翠星石を涙目で見た。
続いてメンバーを見回すが、それに異を唱える者は居なかった。

「全く、使えない子ね。そんな事も解らないなんて」

真紅が溜息をついた。
やはり、否定の意志は感じられない。
ああ、自分はまだ此処に居てもいいのだ。
心のどこかで安堵した。居場所を失うことが怖かった。
曲がりなりにも長く付き合ってきた仲間だ。そこから自ら外れるのは、嫌だった。
ぐっ、と涙を拭いて金糸雀は立ち上がり、腰に手を当て、いつものポーズで。

「そ、そこまで言うなら仕方ないかしら!このRozen Maiden一の頭脳派金糸雀が、きちんと面倒見てやるかしら!!」

ぴしりと指をさして、笑った。
それを見て水銀燈と目を合わせ、苦笑いをする蒼星石。
横では雛苺と薔薇水晶がハイタッチを交していた。

まだまだ、このバンドは7人でやって行くことになりそうだ。


最終更新:2006年07月25日 11:36