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Story  ID:dp5XgKXP0 氏(5th take)
どのようなグループにもリーダーとは別に「楔」となるべきまとめ役は居るものだ。
それがなくなってしまうと途端にバラバラと崩れてしまう。
軍における参謀、政治における内務・外務大臣、そして─彼女達の場合は「調停役」。
無意識のうちに頼りにされてしまう存在。
だが、そんな人間も時には失敗するようで───

     -Trouble~蒼星石の場合~-

今日も今日とて練習に精を出す薔薇乙女達。
真紅と雛苺、水銀燈と薔薇水晶、蒼星石と翠星石がそれぞれペアを組み、互いのパートのチェックを行っていた。

「雛苺、高音が少し揺れているわ。喉に負担が掛かり過ぎよ」
「うゅー……」
「………銀ちゃん……ここ、ちょっと遅くした方がいい…」
「そぉ?ああでも貴女も~~~♪って所が不安定ねぇ」
「蒼星石、どうしたです?今日はプレイに冴えが無いですよ」
「うーん、なんか調子が悪いんだ…こんな日もあるって解ってるんだけど」

いつもの風景、いつもの事。
けれど、蒼星石だけはいつもとは違っていた。
コードミスなどの細かいものがあまりにも多く、不調だということが目に見える。
ふう、と息をついて伸びをする蒼星石。そして、心配げに見つめる翠星石。
双子という事もあり、相手の不安な様子が解ってしまう。

「少し気分転換したらどうですか?」

翠星石がスツールから立ち上がり、ドラムスティックを差し出した。それを見つめる蒼星石。

「ベースばかり弾いていても煮詰まっちまうです。たまに叩いてみるのもいいもんですよ」
「……そうだね。たまに叩いてみようか…借りるよ、翠星石」

スティックを受け取った蒼星石が、翠星石と入れ替わりでスツールに座る。
顔つきだけではなく体型もほぼ同じなので、高さの調整は必要なかった。
感触を確かめるようにニ・三度バスを踏み、スネアとタムを叩く。

「あらぁ、蒼星石がドラムス叩くなんて珍しい事もあるものねぇ」
「……翠星石がサボりたいだけ…」
「久しぶりに良い物が見られそうだわ」
「わくわくなのー!」

滅多にドラムスを叩く事の無い蒼星石が叩くとあって、メンバーの目は自然とそちらへと向いていた。
「あ、あまり見ないでよ」と照れ気味に言いながらも、蒼星石はドラムスを叩き始める。
単なる音の集まりだったそれが、徐々にリズムを織り成し─それは普段彼女達が演奏するものとは違う、ジャズのリズムへと変貌して行った。
ロックとはまた違う複雑さを持ち、リズムというよりは「ミュージック」といった方が正しい、そんな音達。
落ち着いた、大人の音色であった。
「……へぇ…」「翠星石より上手いかもぉ…」「うるせーです」そんな事を言いながらも、プレイに耳を傾ける5人。
そのプレイは暫く続き、クライマックスであろう個所へ差し掛かった時である。

ばき。

そんな音と共に、ドラムスの音色が止まる。

「あ、危ない!!」
「??………っ!」

すこーん!

程なくして、小気味良い音と共にスティックが薔薇水晶の頭を直撃した。
頭を抱えしゃがみ込んでしまう薔薇水晶。とても痛そうだ。
良く見れば蒼星石が右手に持っているスティックが中ほどからぽっきり折れている。
「ばき」という音はどうやらスティックが折れたために起こったものらしい。

「だ、大丈夫?ごめん!」

慌てて蒼星石はスツールから降り、薔薇水晶に駆け寄ろうとしたが─

びんっ…べち。
「むぎゅっ!」

水銀燈のギターとアンプを繋ぐコードに足を引っ掛けて、物の見事に転んでしまった。

「うわぁ…顔からいっちゃったぁ…」
「め、珍しいこともあるものだわ…」
「蒼星石も薔薇水晶も痛そうなの……」

今度は翠星石が慌てて蒼星石の元へと駆け寄る。流石に転ばなかった。
暫く「うぅぅぅうぅ…」という唸り声がステレオで聞こえていたが、やがて蒼星石が立ち上がり、続いて薔薇水晶も立ち上がった。
「大丈夫ぅ?」と水銀燈が薔薇水晶の元へと向かう。

「アザにはなってないわねぇ…ちょぉっと赤くなってるけど」
「………ぐす…いたい……」

涙目の薔薇水晶と、スティックがぶつかった個所を優しく撫でる水銀燈。
頭というよりは額に近く、アザになっていたら見えてしまう。
流血も無く、ちょっと冷やせば問題はなさそうだった。

「ちょっと見せてみ……蒼星石、鼻血が出てるです!」
「ふぇ…嘘、うわ…かっこわるい…」
「んな事はいいからちょっと待つです!」

一方蒼星石はというと、顔から行ったせいか流血沙汰となってしまった。
翠星石がティッシュを数枚取り出し、顔を拭いてから栓を作って流血個所を塞ぐ。

「翠星石が膝枕してやるから、少し寝ているですよ」
「でも、翠星石も練習が…」
「スティックが無ければ練習も何もないです。気にしないで寝ていやがれです」
「う…ごめん…」
「多分ヒビでも入ってたです。だからあんな軽いプレイで折れやがったですよ。気にする必要はないです」
「………ん」

こくりと頷いて、翠星石に視線を向ける。そこで、はたと気付いた。
自分が転んだのは何故か?スティックが薔薇水晶を直撃して─

「そうだ、薔薇水晶!」
「……ちょっと痛いけど…大丈夫…」
「そっか…よかった。ごめんね」
「……気にしない」

涙目にのままサムズアップする薔薇水晶に、蒼星石は安堵の表情を浮かべる。
「ほれ、寝やがれです」と翠星石は蒼星石の頭を膝の上に乗せた。

柔らかな髪を指で梳きながら、「痛い所は無いですか?」と問い掛ける翠星石。
それが心地よいのか、微笑を浮かべながら「大丈夫だよ」と答える蒼星石。
普段はどちらかと言うと蒼星石が姉と言っても違和感の無いこの二人だが、このような状況だとやはり翠星石が姉なのだと思わせられる。

「二人とも仲良しなのー」
「さすがは姉妹ね」
「………銀ちゃん…私も…」
「えぇ?薔薇水晶も…膝枕、して欲しいのぉ?」
「……うん…」

結局、この日の練習はここで終わる事となった。
全員で合わせるにも、ドラムスティックの無い状態ではそれも難しい。
それより何より、翠星石の上で、蒼星石が眠ってしまい、また翠星石も一緒に眠ってしまったから。
「仕方ないわね」と溜息をつきながらも、真紅が二人を見守る目は温かい。
またそれは、他の3人も同様であった…否、水銀燈のみが鼠を見つけた猫のような目で蒼星石を見つめていた。


─その後、蒼星石が誰かの手によって額に「肉」と書かれていた事に気付くのは帰宅後の入浴時であったとか。


「-Trouble~蒼星石の場合~- Appendix」

Story  ID:dp5XgKXP0 氏(5th take)
「……?薔薇水晶?どうしたのさ」
「…肉………」
「へ?」
「……おいしそう…」
「…あ、あの…薔薇水晶、さん…?」
「いただきます」
「………駄目」
「え、あれ…ば、薔薇水晶が二人……?」
「………蒼星石を食べちゃ、駄目…」
「…な、何この展開…」


最終更新:2006年07月25日 11:37