Story ID:8xtPcxMy0 氏(5th take)
物事には何でも波長という物がある。
それが合う時にはパズルのピースがかちりと合うように自然となり、合わぬ時は不協和音のように存在そのものが不快となるものだ。
だが、その波長も合い過ぎては逆に問題であり───
-Trouble~薔薇水晶の場合~-
ざわざわと騒がしい、真昼の通り。
若者好みの店が集まるそこは、平日であっても休日であっても活気がある。
サボりや休講の学生、時間が自由になるフリーター…そんな人種が行き交うそんな中、ある一角に人垣が出来ていた。
囲まれているのは我等がRozen Maidenのメンバーである。
撮影スタッフが数人、そしてメイクも居る。この日、メンバーは新譜に附属するブックレットの撮影をこの場で行っていた。
メンバー6人思い思いのアイテムを手に町を歩く、そんなお約束のショットを数枚撮影し終え、続いて個人のショットの撮影へと移行する。
それぞれの舞台衣装をフィーチャーした服装で撮影は順調に進み─途中、翠星石が「蒼星石と一緒に撮るです!」などと言い出したのを除けばだが─、薔薇水晶の撮影を行う事となった。
「いいロケーションを確保してあるのかしら。薔薇水晶、そこで撮影するかしら!」
びしっ、と金糸雀が指し示した先にはドールショップがあった。
「Dollworker-ENJU-」と看板に書かれたそこは、アンティークドールを専門に扱う所らしくショーケースには様々なドールが置かれていた。
今回の撮影コンセプトは、「一つのアイテムを使ってメンバーの魅力を引き出す」というものである。
水銀燈であればカクテルグラス、真紅ならばティーカップ、雛苺ならばぬいぐるみ、翠星石・蒼星石の姉妹ならば花束…といった具合だ。
そして薔薇水晶はそのミステリアスな魅力を引き出すため、アンティークドールが選ばれたのだ。
「…………」
こくり、と無言で頷く薔薇水晶。
てくてくと店に向かって歩き始めると、それにあわせて人垣も移動する。
「やあ、お待ちしておりました。ようこそようこそ」
少し吊り気味の目を細めた笑顔でメンバーとクルーを出迎えたのは、タキシードを爽やかに着こなした青年であった。
フランス人形であろうか、カールの掛かったブロンドが美しい人形を片手に抱きかかえている。
白崎と名乗った彼は、「おやおや、撮影されるのはこの方ですか。よろしくお見知り置きを、お嬢さん」と薔薇水晶の手を取って挨拶した。
その様に嫌味は無く、極めて自然である。こういった挨拶をし慣れている事は容易に伺えた。
「このお嬢さんと共に居ることで写真映えする人形は……これでしょうか、ね」
白崎が取り出した箱─鞄を模したそれには薔薇の意匠が施されている─には、膝を抱える形で小さな人形が納められていた。
シルバーブロンドのロングヘアに白を基調としたドレス、そして白薔薇の髪飾り。
瞳を閉じているそれは、ただの眠っている少女にしか見えぬほど精巧に作られていた。
「………綺麗」
薔薇水晶は表情こそ変えてはいないが、ほうと溜息をついたという行動で充分感動を察することが出来た。
「……触れても、いいですか…」と白崎に問い、許可が下りると壊れ物を扱うようにそっと抱き上げる。
曲げた左腕に座らせる形で抱いて微笑む薔薇水晶。
─まるで、動き出しそう。
そんな事を思わせるほど、それは肌の色や存在感が人間そのものであった。
「……ええと、申し訳ありませんが……」
撮影クルーが申し訳なさそうに言う。
曰く、「あまりに自然すぎて魅力が相殺されてしまう」という事だった。
「それならば別の人形をお出ししましょう」と奥へと向かう白崎。
だが、薔薇水晶がそれを制止した。
「……この人形以外では…撮影したくない…です」
きゅ、と少女人形を抱きしめて主張する。
「おやおや、どうやらかなりお気に召したご様子ですね」と白崎は少々大袈裟に言った。
だが撮影クルーにとってはこれは洒落では済まない話であり、最悪撮影予定などを全て変えなくてはならなくなるのだ。
「薔薇水晶、我侭言っては駄目かしら!スタッフの人たちに迷惑が掛かるかしら!」
金糸雀がたしなめるが、薔薇水晶は頑として譲らない。
首を振り、主張を通そうとするばかりだ。
「それなら薔薇水晶、他の人形が駄目ならどうするつもりなの?その人形では貴女の魅力も人形の魅力も打ち消しあってしまうのよ」
見かねた真紅が助け舟を出す。
それを受けた薔薇水晶が暫し考えて、店の外を指差した。
その先は──中華料理店。
「………あそこで…撮影するの…どうかな。食事の風景…」
シュールである。
不思議な魅力が持ち味の彼女と、一般的すぎる行動の「食事」を合わせて撮った写真は果たしてどうなるのか。
撮影のプロですら、それは予想できなかった。
「………悩むより…やってみよう?おなかも…すいたし…」
時計を見ると14時である。
朝から撮影を続けていたため、全員食事をしていないのだ。それでは空腹も無理は無い。
少々の話し合いの後薔薇水晶の案で行くこととなり、人形を丁重に返却して全員で中華料理店へ移動するのであった。
「…で、薔薇水晶。普通こういう撮影って杏仁豆腐とか使うものだと思うけど…」
困り顔でテーブルを見遣る蒼星石。
それもそのはず、薔薇水晶の前にはシュウマイの乗ったせいろが3枚ほど置かれていたからだ。
「乙女」というには少々離れた選択である。
「………シュウマイ、好物だから…駄目…?」
雛苺の真似をするように、頬に指を添えて首を傾げた。
「いや、駄目とかそういう問題じゃ」
「…多分言っても無駄です、蒼星石」
薔薇水晶を制しようとする蒼星石と、それに対して諦念を以って諌める翠星石。
ある意味で正しい選択肢なのかもしれないが、しかしこれはレジャーではなく仕事である。
クルーに視線を向けると、こちらも困ったような表情でなにやら話し込んでいた。
「…どうします」
「どうもこうも…イメージって言われてもこれじゃあ…」
当然、意見は纏まらない。それはメンバーの間でも同じであった。
そんな間にも、薔薇水晶はシュウマイを一つ二つと摘んでは幸せそうな表情を浮かべている。
ちらり、と薔薇水晶に視線を送った水銀灯は、その「幸せそうな表情」にふと気付き、
「……幸せそうな薔薇水晶も可愛いわねぇ」
と呟いた。
その言葉にメンバーも視線を向ける。
普段無表情な薔薇水晶の、こんな表情は滅多に見られる物ではなかった。
「…なるほど、こういうアプローチもありかもね」
蒼星石は頷き、メンバーもそれに同意する。
クルーにも同様の話を通し、結局薔薇水晶の写真は「しうまいを美味しく頂く薔薇水晶」という奇妙なものとなった。
その後発売された新譜は、ブックレット効果か順調に売上を伸ばし、新たなファンを獲得する事に成功した。
薔薇水晶の写真も話題にのぼり、普段クールな彼女の変わった一面という事で概ね好評であった。
が、やはりイメージ優先という事もあり、後に発売される全てのアイテムにおいて、こうした写真が載る事は二度となかった。
─その後、「Dollworker-ENJU-」に頻繁に出入りする薔薇水晶の姿が目撃されているが、その目的は決して明かされなかったという。
最終更新:2006年07月25日 11:37