アットウィキロゴ
Story  ID:CeXvqCd+0 氏(215th take)
「私たちがローゼンメイデンを結成して何度目の夏かしら?」
「さぁ、2回目?3回目? まぁどっちでもいいけどぉ~、よくここまでこれたわねぇ~うふふ」
「そりゃ~、翠星石の実力の賜物ですぅ~」
「カナだってばっちりマネージメントしたかしら~~」

蒸し暑い梅雨時、とあるスタジオでローゼンメイデンのメンバーが集まっていた。
それはローゼンメイデンを結成し、今年で2度目の夏。
別に夏にこだわる必要はないのだが、今までに発表した曲を集めてベストアルバムを作ることになったからだ。
その製作中に懐かしい曲を聴くたびにデビュー当時の苦労などが思い起こされ、自然に懐かし話の花が咲く。

「そこで金糸雀が転校してきたのよねぇ~」
「そうだったわね、懐かしいわ、今でもあのバイオリン持ってるの?」
「もちろんかしら~、あのバイオリンがなければカナはローゼンに入ってなかったかもしれないかしら~~」
「懐かしい話ですねぇ~、あれぇ?」
「どうしたんだい翠星石、いきなり考えこんじゃって?」
「いやぁ~、みんながバンドし始めたのは記憶にあるですけどぉ~、ばらしーはいつローゼンに入ったですかぁ?」

翠星石の一言で場の空気は硬直した。
真紅は飲みかけのティーカップを唇につけたまま、水銀燈は静かに目を閉じ、翠星石と金糸雀は互いの顔を見合わせ、蒼星石にいたっては腕を組みながら低く「ん~~ッ」と唸りながらそれぞれが思い出そうとしていた。
そう、薔薇水晶はいつローゼンメイデンに加入したのかを!

確かばらしーは同じ学校じゃなかったわよねぇ~あれぇ~?
カナが転校した時、ばらしーはいたと思うかしらぁ~
翠星石の記憶が確かならばらしーは茶道部にいたような気がするですぅ~
そうかな?僕は美術部にいたと思ったけど、あれ、違ったかな?
私の記憶ではばらしーは2枚目のシングル発売の後に加入したのだわ

それぞれの記憶に食い違いが生じている。
とにかく薔薇水晶とはいつ出会い、いつこのバンドに入ったのかどうしても思い出せない。
こう言う場合は本人に直接聞くのが一番なのだろうが、あいにく薔薇水晶は雛苺と近所のコンビニに買出しに出かけている。
よって簡単な消去法をとることにした。
まずは真紅の言った2枚目のシングル発売後というのを確かめるためにその曲をかけてみる。
デビュー当時の曲はいい意味で荒削り、あまり作りこまれていない音がかっこよく感じられる。
その曲風の中には確かに薔薇水晶の存在は感じられなかった。

「ね、私の言ったとおりだわ、この時点でばら……薔薇…」
「えっ?なぁに真紅ぅ、ばら……ばぁらぁ?」
「ばら……なんだったかしら~?」
「何ですぅ~、みんなで何を言ってるですかぁ~?」
「あれ?僕たちは何の話をしてたんだろう?」

スタジオにいる彼女達はキョトンとした表情のまま数秒ほど動きを止めた。
今まで自分達が何の話をしていたか覚えていないのだ。
ただセカンドシングルの曲がスピーカーから流れているだけ。

「ただいまなの~」

その曲が間奏の部分に差し掛かった頃、額にうっすらと汗を滲ませた雛苺がコンビニの袋を抱えてスタジオに帰ってきた。

「もう、ヒナ一人で買い物は重かったのよぉ~」
「それはしょーがねぇですぅ、チビ苺がジャンケンで負けたのが悪いのですぅ~、それよりアイスは溶けてねぇでしょうねぇ~」
「それは大丈夫なの~、アイスが溶けないようにヒナ、走ってきたの」
「走ってきたのかい、それは大変だったね、とにかく食べよう」
「うわぁ~い、アイスクリームさっそく食べるかしらぁ~」

テーブルの上にアイスクリームのカップが並べられる。
真紅のミントアイス、水銀燈のチョコアイス、雛苺のストロベリーアイスなどを取り分けていると不思議なことに気付いた。

「あれぇ?なぁにこのサバ味噌缶詰ぇ? 誰が頼んだのぉ?」
「す、翠星石はそんなの頼んでねぇですよぉ~」
「私も頼んだ覚えはないのだわ」
「カナだって知らないかしら~」
「ねぇ、雛苺、この缶詰は何だい?」
「むにゅ~、ヒナも知らないの~ヒナも今気付いたのよぉ」

誰が頼んだものなのか、テーブルの上で寂しそうにポツンと置かれた缶詰に目を向けながら彼女達は不思議な顔をしていた。
だが、しだいに缶詰から口にしているアイスクリームの話題になると誰もその缶詰に目を向けることなく、忘れてしまった。

「ほぉ~んと暑いときはアイスに限るわぁ~」
「そのとおりですぅ~~」
「それはそうと、ベストアルバムには何曲くらい入れる予定なんだい?」
「そうね、できれば私たちが今まで出したシングル全部を入れたいのだわ」
「この際だからリミックス曲もたくさん作りたいかしら~」
「うわぁ~い、楽しそうなの~、リミックス作りたいの~~」
「いいわねぇ~初期の曲にもっと深みのある音作りをしてみたいわぁ」
「それいいね、でも凄く大変な作業になるよ」

アイスを頬張りながら話はリミックスの方向で進んでいく。
まず手始めに何故かスピーカーから流れているセカンドシングルを
もう一度聴き直し、どの部分をどのように作り変えるか考えることにした。

水銀燈の荒いディストーションから始まり、真紅の高音を利かせた声が入ってくる。
それは聴くものを瞬時にローゼンメイデンの世界へと連れ去ってしまうほどの力強い曲であった。
これをリスナーが驚くような曲にしてみたい、そう思いながら思案してみるが、閃くようなアイデアが浮かばない。
いつしかアイスについていたプラスチックのスプーンを口にくわえながら水銀燈は少し苛立ち気味になる。

「曲を作りかえるのは苦手なのよねぇ~、とにかく休憩よ、休憩~~」
「ま、それもいいわね、少し外の空気を吸ってきましょう」
「あっ、待ってですぅ~、翠星石も散歩に行くですぅ~」
「カナも行くかしら~」

朝からスタジオにこもっていてもいいアイデアなど浮かぶはずもない。
よって真紅の提案により近所の公園を歩くことにした。
この時期の夜7時はまだ薄明るく、外灯の明かりがぼんやりとした淡い光でしかない。

「はぁ~、やっぱり外の空気はいいですねぇ~、緑の香りがするですぅ」
「うん、いいね、僕も植物の香りは大好きさ」
「気分転換もできたし、そろそろスタジオに戻りましょう」
「そうねぇ、いい感じでリラックスできたわぁ~」

1時間ほど公園から街をブラついた彼女達は足取りも軽くスタジオに戻り、ドアを開けた。

「あれぇ、なぁに、この曲の感じはぁ……」
「あら、どういうことなの?」
「うわぁ~い、さっきの曲が変身してるの~~」

ドアを開けたとたん耳に入ってきた曲は、原曲のイメージは壊さずそのままでいるにもかかわらず、いたる箇所に手を付け加えられ、大胆かつ繊細に生まれ変わっていた。

「誰が曲をイジったのぉ~?」
「す、凄ぇ~ですぅ……あれぇ?」
「ど、どうしたんだい、翠星石」

驚きの声を上げた翠星石はテーブルを見つめると不思議な顔をした。

「ん~~? おかしいですぅ~、缶詰が空っぽですぅ」
「本当かしら~、缶詰が空っぽかしら~」
「誰が食べたんだろう?」
「そんなの決まってるじゃなぁ~い……ば、ばら…?」
「ばら…?薔薇………」
「ふにゅ~~、ば、ばらぁ~~なのぉ?」

何かを思い出せそうで思い出せない。
そんな歯がゆい思いに彼女達はしばらくカラになった缶詰を見つめていた。
すると、どこから入ってきたのか、缶詰の周りで2匹の蝶がヒラヒラと舞っているのが見えた。
それは透き通るような白い蝶と、淡く可憐な紫色をした蝶であった。

……さ、もう帰りましょう、他の女神もまっていますわよ
……むむぅぅ…
……ほら、いつまでも人間界にはいられないでしょ、貴女はムーサのエラトーなんだから
……むむぅ……今の私は…薔薇水晶だもん…エラトーじゃないもんッ

「あぁ~、蝶がいるの~かわいいの~」
「あら、本当ね、でもこの部屋にいたら可哀想だわ、逃がしてあげましょう」
「そうねぇ~、ねぇ、翠星石、そこの窓を開けて逃がしましょう」
「がってんですぅ~」

……ほら、エラトーのお友達が窓を開けてくれたわ、さぁ帰りましょう
……いやだもん…私はもっとみんなと一緒に…いたいもんッ
……ダメでしょ、貴女は7番目の女神エラトーでしょ、人間の子供みたいにダダをこねちゃダメよ
……うぅ~ん……でも…でも…
……さ、お父様や他の神々もお待ちかねよ、帰りましょ
……う、うん…解った

開けた窓から心地よい初夏の風がフワリと入ってくる。
その風に導かれるように白い蝶が外に出ようとするが、もう一方の薄い紫色をした蝶は何度も彼女達の周りをフワフワと飛び回る。
それはまるでジャレ付く子犬のように見られた。
ひときわ水銀燈の周りを飛んだ紫色の蝶は最後に彼女たち全員の顔をよく見るかのように飛び、白い蝶の後に続いて窓から外に出ると、そのまま夜空に消えていった。

「気持ちいい夜風だわ、さぁ、頑張って曲を作るのだわ」
「そうねぇ~、なんだか徹夜になりそうな予感だわぁ~」
「ヒナも頑張るの~」
「じゃ、カナは何か夜食を買ってくるかしら~」

2匹の蝶を見送った彼女達は心地よい夜風を感じながらも、どこかで何か大切なものを忘れている、そんなモヤモヤとした何とも言えない気持ちを感じていた。
そして2週間後ベストアルバムが完成し、当然のようにオリコン1位になり、雑誌のインタビューをうけることになった。


「こんにちは、サウンドデザイナーの白崎です」

「こんにちはぁ~うふふ」
「どうもですぅ~」
「こんにちはかしら~~」

「いや~、それにしてもローゼンメイデンの6人はいつも元気ですね、そのパワーが今回のベストアルバムにも反映されているのがよく解りますよ」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「ヒナ、嬉しいの~~」

「特にセカンドシングルを大幅にアレンジした曲、ミューズあれは凄い評判ですね、あれは金糸雀さんのアレンジですか?」

「ん~~、それはよく解らないかしら~、気付いたらあのアレンジが出来ていたかしらぁぁ」
「うん、確かにミューズをアレンジしようって話になったんだけど、いつの間にか出来ていたんだよね、ちょっと不思議な感じだったよ」

「へぇ~、そんな不思議な出来事があったのですね、確かにあの曲のアレンジ構成は海外でも凄い評判だそうで、なんでも『人間業ではない!』なんて言う評論家もいるみたいですね」

「そうね、私も改めて聞くと鳥肌が立つときがあるわ」
「確かにミューズのアレンジは奇跡ですぅ~」

いつものようにインタビューを受けている彼女たちの頭上に白い蝶がヒラヒラと飛んできた。

「ローゼンメイデンは奇跡の曲を作ったってことですね、では、その奇跡の曲に続く新たな曲はいつでる予定でしょうか?」

「ま、今ちょうど作っている最中だわ」
「そうそう、今度の新曲は激しいわよぉ~、ん?えっ?」
「あれぇ~?」
「ほよぉぉ~~」

インタビュアーを始め、全員が突然クラッと目眩を感じた。
そして一瞬ではあったが時間の軸が歪んだような感覚を覚えた。

「いやぁ~、スミマセン、なんだか目眩がしましたよ、はははは~、ではインタビューの続きいいですか?」

「あら、貴方も目眩がしたの?」
「えっ、真紅も目眩がしたのかい?」
「蒼星石もですかぁ、翠星石もちぃ~っとクラッとしたですぅ」
「……うどん…食べる?」
「えっ?えぇ~~っとぉ、ば、ばらしー、インタビュー中にうどんなんか食べたらダメですぅ~~」

「ほんとう、どこからうどんなんか持ってきたのぉ~?」
「……ケチャップも…ある」
「ダメかしら~、うどんにケチャップなんか入れたらダメかしら~」

「はははは、相変わらず薔薇水晶さんは奇抜ですね、その奇抜さがあのミューズのアレンジを生んだのでしょうね」

「そうね、ばらしーがいないと私たちの曲は完成しないと言っても言い過ぎではないわ」
「そうだね、ばらしーは音楽の才能が僕達の中で一番かもしれないね」
「……マーガリンも…あるよ…」
「あぁ~、今度はマーガリンも入れようとしてるですぅ~」
「もう、ほんとうにお腹痛くなっても知らないわよぉ~」
「……むむぅぅ……痛いの…いや……グスン」
「はぉらぁ~、泣くことないじゃなぁ~い」

「いやぁ~、本当にローゼンメイデンの7人は仲がいいですね~、やっぱりこの仲の良さがいい曲を生む秘訣なんでしょうね」

いつもの風景、いつものローゼンメイデンのインタビュー、いつもの声と笑顔がそこにはあった。
その微笑ましい場面を確かめるかのように飛んでいた白い蝶はフワリと薔薇水晶の髪に止まる。

……エラトー、貴女が言ったようにみんないいお友達ね、だから今回は特別にしばらく人間界に居させてあげるわ、だからエラトーは人間の音楽をたくさん勉強してらっしゃい

白い蝶はそう言い残すと静かに羽を広げ、そして止まった時と同じようにまたフワリと飛び立っていった。

……人間のお友達もいいものね、エラトーが少し羨ましいわ
  私もそのうち人間の世界に入ってみようかしら?
  そうね、その時の名前は雪綺華晶ってどうかしら?ふふふ

ヒラヒラと飛び去っていく白い蝶に向けて薔薇水晶はニコッと笑いながら手を振った。

「……またね…バイバイ」

それを見ていた彼女たちは「ハァ~~」とため息を付く。

「ま~たばらしーが何もない空間に向かって喋ってるですよぉ~」
「ほんとう、困ったものだわ」
「まぁ、いいんじゃなぁ~い、ばらしーらしくてぇ」
「それもそうだね、はははは」

彼女たちには見えない白い蝶に向かって手を振る薔薇水晶はとても優しい笑顔を見せていた。
そして同じ笑顔をこんどは彼女たちに向かって見せると、こう言った。

「……私………みんな、だぁ~~~いスキだもんッ……えへへへ」




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年07月20日 00:46