ねこっぷキャラセットを使い、ほのぼのと怪談短歌を投稿したり、返歌を送ったりする企画です。
5村目までは人間チップも入れていましたが、6以降はねこたちだけの文芸村となっています。
2014年から毎年夏に開催しています。

  • 怪談短歌村1 (掲載国終了)   wiki
  • 怪談短歌村2 ~ 猫の集まる喫茶で ~  wiki
  • 怪談短歌村3 ~ 妖怪たちの百物語 ~  wiki
  • 怪談短歌村4 ~ 夏祭りに集いしもの ~  wiki
  • 怪談短歌村5 ~ 夜の学校 ~  wiki
  • 怪談短歌村6 ~ 古書店に綴る歌 ~  wiki
  • 怪談短歌2020 〜つわものどもが夢の予定地 〜  wiki
  • 怪談短歌村8 〜寂れた避暑地にて~  wiki
  • 怪談短歌村9 〜夜のアーケードをよぎるもの~  wiki
  • 怪談短歌村 10 ~ひまわりの迷路で~  wiki



投稿作品一覧
 末尾の()は作者猫の頭文字です
 投稿時は視覚効果を加味したタイポグラフィ作品もあるのですが、ここでは文字列のみで採択しています。失礼

■怪談短歌村1(2014)

1 騒がしや 耳に染みつく 蝉の声 みな口々に 南無阿弥陀仏 (ま)
2 七代を 祟り殺すと 決めたのに 二代で絶える 少子化怖い (さ)
3 散る花びらに亡き夫の姿思う 声かけれども返事はあらじ 蝉の声 虚し (も)
4 鈍色の 昏き波間にたゆたゆと 沈むあなたの甘き唇 (ま)
5 押入れの襖(ふすま)が音もなくひらく なんだ猫かと 触れたら消えた (ま)
6 大花火 横に座った 浴衣の娘 にっこり笑うが 君の影なし (し)
7 ぬばたまの やみにしじまの おとずれる 誰が膝擦る 汝が手が探る (き)
8 幽霊と 検索したら 画面消え ほんのり浮かぶ 青白い顔 (し)
9 罰として 閉じ込められた 幼き日 べそかく我に 触れた 何かが (も)
10 黒板に 障子に目あり と書き付けて 家にいますと 手挙げる生徒 (も)
11 青い海 イソギンチャクかと思ったら 見覚えのある指輪はめてた (う)
12 マウスオン すれば招くよ 白い指 クリックすれば 窓が開いて (う)
13 うみねこの 鳴き声かなし 砂浜で 見つけた骨を また埋める夏 (も)
14 手を挙げる 生徒の横の 壁に耳 誰も教えぬ 今もいますと (き)
15 うちの子ね 押入れいれても 泣かないの 変よねあそこ 鬼がいるのに (ま)
16 変なのよ。あの子押入れ好きなのよ。昔あそこで死んだのにねえ (ま)
17 指輪とり スナック豪遊 夢が醒め 横から感じる 鬼嫁の鼻息 (し)
18 図書館で 借りてきた本 濡れていた ひらいてみたら 目目目目目目目 (う)
19 山の夜 車に手を振る 白い服 スマホでタクシー 呼んだら泣いた (さ)
20 イマドキは 幽霊なんて いないよと 笑うあなたに 笑む背後霊 (さ)
21 ぬばたまの 闇を探して 一晩中 今日も夜明けて 出番ないまま (さ)
22 軒下に生み捨てられた白猫の まだ目もあかず尾の先ふたつ (う)
23 旅行先 安くしますよ この部屋は やっぱりね ほら 頭痛がするもの (も)
24 黒髪の 少女佇む 無人駅 電車来ぬのに 踏切が鳴る (し)
25 盆の雨 声出せぬ輩の 涙かな この世に未練 残す者多し (し)
26 あな見事 たまやたまやと 花火あげ 魂(たま)を散らして 色即是空 (う)
27 バス停が こんなところに あったかな 振り向くたびに 近づいてくる (う)
28 迷い道 とぼとぼ帰る 畦の道 ゆらゆらと咲く 青い手の群れ (ま)
29 今日も雨 明日も雨で 困ります 体がどろどろ 溶けていきます (ま)
30 近頃は 電気ばかりで いやですな 舐める油の ひとつとて無し (ま)
31 それどこか 手ぬぐいかぶって 踊っても 怖がるどころか 動画ネットに (さ)
32 私なら 半額よねと 一つ目が ぱちぱちまばたき まつげエクステ (さ)
33 夏終わり 逆光に仰ぐひまわりの首の角度で思い出す友 (う)
34 「おやすみ」と 私が言えば 「おやすみ」と 優しく笑う あなたはだあれ (ま)
35 貝殻を 耳当て聴こゆ 海の音 中に誰かの 叫び混じって (も)
36 夏菊を 手折り倒れる 音を聞く日 枝折り萎れる 根もあらざるに (き)
37 妖怪時計 買ってくれろと せがむ子に ヤフオク眺めて いちま~いにま~い (さ)
38 ひそひそり 新たな匣が 噂する 萬便利屋 韋駄天逃げた (き)
39 天井のしみから伸びて糸をひく ぷわりゆらゆらゆらゆらつつー (う)
40 「メシよこせ」 飛び乗る足に 起こされて 猫缶開けて 線香立てる (ま)
41 「メシよこせ」 猫が言うから 猫缶を くわせてやったら 全部吐いた (ま)
42 洗濯物 ひるがえる夏 背伸びして 隣を見れば もう一週間 干しっぱなし (も)
43 飼い猫が 脚にすり寄り 壁を見る 何もないのに …何かあるの? (も)
44 じゃあ俺は? 1.5倍 払うかと 三つ目がとおる 客逃げる (も)
45 ひたひたと廃病院をひとひとりいたいいたいといつしかふたり (き)
46 「将来の夢は医者です。」ひたひたと標本瓶に結ぶうたかた (う)
47 ネットなら おまかせあれと 声がする 動画の隅に いつも映る背 (ま)
48 満天の 星降る空に 誘われて 一歩踏み出す 足元に闇 (ま)
49 目的地 ちゃんと入れた はずなのに 見知らぬ民家 案内終わる (し)
50 壁にある 想い出多き 爪の跡 脚にまとわるのが 好きだった愛猫 (し)
51 閑さや 岩にしみ入る 呪詛の声 砕きてみれば 彼岸花咲く (う)
52 手放した 古い車と 再会す そうだね今日は 彼の命日 (ま)
53 長いこと世話になったと出てゆけば 忘れ物だと耳投げられる (う)
54 夏の海 波が おいで おいでする 足首浸る 自転車のベル 我にかえる (も)
55 暴風雨 妖怪も避難 根駒寺 住職が言う 何か用かい? (し)
56 手放した 楽器と再会 リサイクルショップ 我を責める 古き友 家に帰せと (も)
57 夏祭り 河童のお面 つけた子は あれ本当に 人間だったのかな? (も)
58 曲がり角 曲がってもまた曲がっても ぶつかる君と 恋に落ちゆく (ま)
59 生暖かい 風が怖くて 紅をさす 手に持つ鏡に 赤い化け猫 (し)
60 近道と 書かれたトンネル 通り抜け 雪国で見る 自分の墓よ (う)
61 行き行きて 雪の降りゆく国で知る 逝きはよいよい 還りはこわい (き)
62 烏羽玉の 黒髪乱れ 引き摺らる 一夜の妻の 虚空におよぐ (き)
63 失恋し 自殺しました この部屋で 語る幽霊 いかにも非モテ (さ)
64 ところでさ 地縛霊まで 男かよ 嘆くおいらも 非モテ渡世さ (さ)
65 スイカとり さくっと包丁 いれたらば 種のならびが 埋めたあの人 (さ)
66 まったくね 帰巣本能 鳥レベル 何度捨てても 戻る人形 (さ)
67 会いたくて やっとこれたと 言われても 今日はあなたの 初七日のはず (さ)
68 突然の 雨に 「どうぞ」と 唐傘お化け 「大丈夫ですよ」 わたし 生きてませんから (も)
69 目をこらせ 紛れこんだぞ どこにいる 人食い狼 化ける村人! (う)
70 青い火を たどってゆけば にぎやかな お祭り広場 来たよ今年も (う)
71 転生に 来世前世と 言葉聞く ゲームの中に 教えをみたり (も)
72 突然の雨に 「どうぞ」と後ろから 声の主 一本足で立つ 唐傘お化け (も)
73 西瓜割り 棒思い切り 振り下ろす 手応え違う 黙って埋める (も)
74 「ぬくいのう」 聞こえた声に 振り返る 猫が寝ている 隣に寝てみる (ま)
75 かき氷 早くしないと とけちゃうよ 早くしないと 生き返っちゃう (う)
76 あのねオレ 彼女できたよ 会ってくれ 家族増えたら 嬉しいだろ、な? (う)
77 見えぬなら 覗き放題 女風呂 下半身無いから 喜び半減 (し)
78 下手だから 目隠し外して 西瓜割り 見事命中 血しぶきが飛ぶ (し)
79 待てないよ 再会までの 三回忌 十王殴り 罪重ねても (う)
80 犬が呼ぶ 打ち上げられた ビンの中 人魚のウロコ ぴったりはまる (う)
81 素麺を 頼んでみたら 裏飯屋 流れてきたよ 黒い素麺 (し)
82 夏祭り 提灯のともしび 静かに消える 静寂の中 火の玉燃える (し)
83 見える人 見えない人も いるけれど やっぱり夏は 怪談噺 (し)
84 何もないところで何か避けている 前の車が不意に加速す (ま)
85 なにゆえに 歌を「一首」と 数えるや? 傾けた首 床に転がる (う)
86 なにもかも しらないほうが いいことも あるというけど 見たい正体 (さ)
87 夕顔の 白さ際立つ 夏の宵 寺の鐘鳴る 満月落ちる (う)
88 仲間寝る 一人ひとりの 枕元 いい夢みろと ロウソク立てる (し)
89 日が昇り 妖怪達が 会議する お布施の額に 頭痛める (し)
90 かげろうの ゆらめく 黄昏 彼は誰そ 梁からゆれ落つ 釣瓶落としの (き)
91 蛍狩り 息子とともに 大勢が 捕われたきり 帰って来ない (う)
92 憂し辛し憎し恨めし是非もなし縊死転落死嬉しや情死 (う)
93 ひがんにて 彼待つ海岸 いざ行かん 朝の紅顔 夕は蒼顔 (き)
94 黄泉の国 里帰りツアー 出発す 君の街にも あなたの街にも (し)
95 夏祭り 太鼓囲んで 盆踊り 赤い帯の子 知らずに消えた (も)
96 新盆の 読経のさなか つむじ風 遺影傾く 我を忘るな (も)
97 昼飯は 素麺にしてよと 声がする 遺影に優しき 或りし日の笑み (し)
98 素麺を 啜り繋がる 意図愛し 彼のひと筋に 今も連綿 (き)
99 純愛と 思っていたのに 遺影の目線 美人探して キョロキョロ動く (し)
100 これにては 仕舞の呪文を たてまつる あぎょうのさんと さぎょうのごなり (ま)

■怪談短歌村2(2015)

1 いらっしゃいませと出された水ふたつ なんだ他のは 見えてないのか (な)
2 いらっしゃいませと出された水ふたつ そこにいたのか 背中におまえ (な)
3 階段の 途中で上を 見たらダメ ぶらさがってる 電球の横 (す)
4 静寂と 暗闇包む 待ちのカフェ 鏡にウツる ムラサキの影 (ま)
5 お財布を 忘れた気がして 引き返し 店はどこぞと 惑う黄昏 (う)
7 迷子だと 呼ばれた名前 我が子なり 今まで繋いだ 手は誰のもの? (真)
8 人の血を啜りて咲くや 鉄線花 昨夜つぼみは 白かりけるを (あ)
9 午前二時 哀しく響く 着信音 隣りで眠る 貴方からなの (ま)
10 案内所 駆け寄る顔に ひと安心 泣いてるどころか ニヤリと笑う (ま)
11 昨日まで 忘れてたのに やめてよね 染まった私 明日は二十歳 (な)
12 塀の外まで並び咲くや 鉄線花 蔓絡めるは 無垢なる指先 (う)
13 あの世まで 女心とエコな風? 花子さんたら音姫鳴らす (あ)
14 「おいまたか」 「無粋な音だ」 「まあまあ」と音楽室の 眠げな囁き (真)
15 盗まれた影の代わりに恋人の長き黒髪足元にしく (す)
16 真夜中の便所にふっと禿げ頭現れ嘆く「おお、かみがない」 (う)
17 木漏れ燈に 微風こぼるる蜜の艶 ゆびの根 搦む やどりぎ の 戀 (あ)
18 きもだめし 初めて入った廃校の 壁で待ってた わたしのなまえ (な)
19 喰われた子、ごめんと言ったら いっせいに おれも無罪と 墓がガタゴト (す)
20 私たち もっと綺麗に殺せるわ花を摘むようにその首を、ほら (あ)
21 蒸し暑い 真夜中のトイレ ウォシュレット ノズルの変わり 手が伸びてきた (ま)
22 富士樹海 そこが皆んなの 秘密基地 参加したけりゃ 吊り縄貸すぜ (ま)
23 こうやって ひねればぽろりと 落ちるよと 聞いてはかどる 首の収穫 (な)
24 吊り縄と聞いて浮かぶは月吠えの 獣に抗う 村のおはなし (う)
25 見し人のけぶりを雲と追いゆけば思ひ出の野に 雨花の染め咲く (あ)
26 富士樹海 道行き共にす 吊り縄は 首輪の代わりにゃ なりゃせんて (う)
27 激流を 遡ってゆく 魚の背 跳ねたら人の 手足ついてた (す)
28 終電で 揺り起こされて 目が覚めて 慌て見回す 僕しかいない (う)
29 イケメンに 抱き着く娘 数名の元カノの亡霊 行く手を阻む (ま)
30 給食の献立表に書かれてる あなたのなまえ スペシャルメニュー (す)
31 雨上がり 恋しきひとは 神上がり たまと結びて 墨染めに咲け (す)
32 包丁の 刃に貼り付きし 髪三すじ まな板にのる パプリカ一切れ (真)
33 お盆には帰ると言っていたけれど 今地獄だから帰れないって (な)
34 化けて出た 父が恨むは 若い僧 時代の流れ キラキラ戒名 (す)
35 田舎寺 土産に貰った USB 電子墓参の アプリが揺れる (ま)
36 自転車の ライトがぴかり トンネルを 照らすも奥は 見えぬ黄昏 (う)
37 硬きもの 舌に残りし 冷や奴 米粒ほどの 真白き乳歯 (真)
38 石投げて 水面の月は 失せにけり 代わりに浮かぶ 白きかたびら (す)
39 誰ぞ彼 気配交わる トンネルの 奥からぴかり 一つ目の鬼 (あ)
40 ドローンを 飛ばして観たよ 細い路地 カニ歩きする あれは人間? (ま)
41 ふ 、 と 息を吐くみたいに 目が覚めた 泣いてる君と 笑顔の写真 (あ)
42 話しかけ 手を伸ばしても 届かない横顔 わたし ここにいる、 のに (あ)
43 肩の上 おもいためいき 幾月夜 ずっと一緒、と 囁いてみる (あ)
44 かりそめの 白帷子を まとう女性 水底にゆく まぼろしを見た (真)
45 まぼろしの よこがおとても うつくしく ほほえむくちびる まとうくれなゐ (う)
46 山寺で 流しそうめん 白糸が 黒髪となり 霧たちこめる (ま)
47 右オーケー 左オーライ 茶碗割り クラクション響き 永久のたびだち (ま)
48 「宿題はやった?」 と声してじんわりと かつての親の苦労を思ふ (う)
49 マスコミで 心霊スポット 我が住まい ギャラ次第では 映ってやろうか (ま)
50 ひもじくて 牛を食べたら ツノ生えた 人を食べたら 君に会えるか (す)
51 廃院の 孤影が舞うは 「道成寺」 まとうリネンを 西日が朱に (真)
52 下り立てば 闇にのまれる 無人駅 「歩いて帰る」 それが最後の (す)
53 ドローンで 猫カフェ撮って アップする なんだこの顔 閲覧注意 (ま)
54 これでまたパーツが増えた あといくつ集めてできる すてきな家族 (す)
55 白蛇を 殺した日から あの家の 家族はみんな 手萎え足萎え (す)
56 裏切りに 鐘落ち焼ける 長恨歌 比翼連理を 願えども蛇 (あ)
57 陽が落ちる ほんの手前に 手招いて 逃げ場はない と  嗤う黄昏 (う)
58 不運かな 路地から出たら はねられた ガラス細工の 猫碑がたたずむ (ま)
59 秋が来て 裏山で獲る アケビの実 今年は甘く よく叫びます (す)
60 「かえりたい」 迎えの豪雨に手を延べて 生簀跳ね出し道路を泳ぐ (あ)
61 実家より 届いたあけび 裏山に 埋まったあいつの 最後に似た声 (真)
62 下駄箱に恋文ならぬ注意書き 「ノックしてから 開けてください」 (あ)
63 ペアカップ 先に割れたの 僕の方 ごめんと言った 笑顔うつくし (す)
64 街中の 防犯カメラ 写ってやる 負けず嫌いの 幽霊ランナー (ま)
65 エレベーター 五階のボタン 押したのに 猛スピードで 堕ちていく籠 (ま)
66 誕生日 蝋燭吹いて 願い事 誰かの命 何処かで消える (す)
67 客の無い 車内に響く 降車ベル 誰かが帰る お盆も終わり (な)
68 解体後 リサイクルした 血天井 冷房いらぬと 知らぬが仏 (す)
69 客の無い 車内に響く 降車ベル 運転席も 人影はない (ま)
70 「はいどうぞ」 くわえたばこの すぐ横に 炎は点る 墓場の小径 (真)
71 「こりゃどうも」 二本くわえて 吸いつける 片方は置く 線香代わりに (真)
72 注意書き 守らず入れた あの子への 恋文届かず 今はいずこや (う)
73 五階です。ごかカk意イイご5ゴthす ドアがヒララ魔 誤解death (あ)
74 焼け焦げた柱の影から子守唄 歌っているのはあの日の私 (な)
75 全身を あますことなく 差し出して 飲んでと迫る 果汁100パーセント (う)
76 古ぼけた 時計の螺子を 逆向きに 巻いてつぶやく 「戻れたら」って (う)
77 実家から 駅まで親父と 二人連れ 「お前幾つだ」 「父さんを越したよ」 (真)
78 葦原や いきてかえりし 比良坂の 松に掛かりし 我が背の骸 (な)
79 迎え火の 提灯下げてるばあちゃんの 後ろにいるのは じいちゃんじゃない (な)
80 「この煙草好きだったんだ」と呟いて か細く昇る 煙を眺め (う)
81 百奇譚 最後の灯りを 吹き消した 途端に点る 九十九本 (真)
82 猫の森 数があわない 客と影 舌舐めて待つ 誰が人やら (す)
83 いつの日か おまえと酒を酌み交わす 夢はおまえが来るまでお預け (な)
84 猫カフェの マスター・ルーツ 調べあげ タイムトラベル コチョコチョしちゃお (ま)
85 ゆーえすびー それはどういう 意味じゃろか 孫見て学ぶ 老夫婦の霊 (う)
86 「おいまさか」「勘弁してよ」「あらあら」と ざわめく影に 化生も混じり (う)
87 幼き日 ウサギを追いし 古き塚 今もことりが 住んでいるらし (す)
88 蝋人形 猛暑に耐えかね 燃え出した あとには骨が 転がるばかり (すな)
89 終電を乗り過ごしたのか 知らぬ駅 沼のなかへと レール途切れて (なす)
90 宙に向け 夜通し猫が 唸り声 祖母の訃報が 翌朝届き (真)
91 「祖母ちゃんは 猫嫌いだったな」と 通夜の席 うち以外には 現れたらしい (真)
92 藻に澱む 沼の奥より 立つ泡の 弾けるごとに 鳴る恨み歌 (な)
93 たまいしの 鎖につなぐ 十の影 わたしの胸で そっとおやすみ (ま)
94 引っ越した ご近所さんは 廃病院 風の噂じゃ 有名スポット (う)
95 ものすごい 顔で逃げ去る若者を 見送り消える 白きひらひら (う)
96 古駅や 蛙飛び込むみずの音 大海知らぬままリフレイン (あ)
97 残り香を よすがの常世へ 帰らじと 三千世界の 鴉を殺す (あ)
98 宿題を 忘れたガキが 姿消す せんせーギロチン 用意していた (ま)
99 床に臥す 私の隣、画面が光る 転生しますか? Yes?No? (な)
100 これをもて 百の怪異の 終わりとす しなば草をぞ さかさまに摘め (な)
101 猫カフェに 色とりどりの 百の首 とき来ればみな カッと目をひらく (ま)
102 世の中の 根に持つ恨み 決まってる 食い物の怨 勝るものなし (ま)
103 化野の 露と絶えにし 破れ家に いまなほ待てむ 白無垢のひと (な)
104 怪談の本の匂いを嗅いだんで 降りる階段「一段多い」 (う)
105 借りてきた スーツケースに 注意書き 鍵掛けないと 人を噛みます
106 集まりて 百語られし 怪談の 百一話目は あなたの横に

番外 怪談俳句
A 置き去りの 財布あけたら 中に舌
B 井戸覗き ただいまという 家のしきたり
C 実るほど こうべを垂れる 首を刈る
D ゆるキャラにまちがえられてうらめしや
E 猫の手を 借りたけれども キャッとなる
F くちづけの さなかに耳を 舐められた
G この糸を 巻き終わったら あなた死ぬ
H 死んだ彼 壁ドンしても 突き抜ける
I 人形の 徘徊介護 しようとは
J 壁の奥 塗り籠められて 幾世紀
K 今しがた 通り過ぎたの 目がみっつ
L 首斬られ たところから思い出す
M 朝さいて 昼にはしぼむ おばあちゃん
N 百年も 伸び続ける髪 うらやまし
O ほおずきの 中に孤独な 心臓が
P 返り来る また還り来る 可燃ゴミ
Q レーシック よく見えるように なりました
R 人魚喰い 陸では生きて ゆかれない
S 黒いもの 見たくないから サングラス
T 風鈴の 中に脳みそ 透けてみえ
U (蝋人形 猛暑に耐えかね 燃え出した)
V 階段の 下に湧き出す 黒い沼
W ついてくる 足音ひとつ 濡れている
X 赤いべべ 脱がせてみたら 腹に口
Y 恋人が 海から還る 満月に

■怪談短歌村3(2016)

1 ゆらゆらと歩く先々 ミチオシエ 俺は確かに死んだと思った (う)
2 遠い夏 池で出会った ヒロシ君 今年は息子が 遊んだらしい (こ)
3 玩具に本 通学鞄 お洋服 亡き子の望み 次はトモダチ (玉)
4 「この路は往かず戻れ」と 砂地蔵 聞かず進むや あしあと十二 (風)
5 空蝉の ぽたりぽたりを踏みしだき 梢仰がば 君がぶらりと (う)
6 「冷蔵庫 開けて食べてね」 母の声 中から聞こえる その冷蔵庫 (こ)
7 肝試し 騒いで坊主に叱られた とぼとぼ帰る 藪の廃道 (は)
8 ふらふらと 彷徨う影が 出た出たと 画面を指差し 俺を無視する (こ)
9 「夢か?」と問へば 「夢よ」と応える それでも良いよと ただ泣く初盆 (う)
10 緑濃き 沼の底より 昇る泡 ひとつひとつに 口が付いてた (は)
11 夏祭り 見知らぬ顔が 母と言い もう帰ろうと 我の手を引く (玉)
12 朝焼けの二千年蓮 揺るる香や 混じる一輪 手招く指、が (風)
13 身を投げし 若い男に 口づけて 紅を刷きたし うたかたの恋 (こ)
14 さぁすくえ 騒ぐ金魚に 人の顔 すくえ 救えと 地獄の祭り (玉)
15 英霊の名を頂きし行軍に たわんだ手足で 裾引く老婆 (う)
16 なぜ笑う 紅い振袖 知らぬ顔 祖父の葬儀の 写真の端に (玉)
17 障子紙 長い板間に土間の蔭 とたとたとた。 と 見知らぬ跫 (う)
18 青白く 叩けば光る 海ホタル 妻の背中に べっとりといる (こ)
19 オークション 出したタンスに 値がついた ようやく日の目を 見る僕の骨 (こ)
20 我を見て 甘えて鳴く猫 応えれば 「おかえりなさい」と 初盆の夜 (玉)
21 「痛くないようにしてね」と耳掃除 火葬の扉の奥で聴こえた (う)
22 差し招く 人の顔した 平家蟹 食べて両手に 鋏を握る (こ)
23 割れ壁の ひびより下がりし 黒髪の 引くか引かぬか 躊躇う夕暮れ (う)
24 たすけてと 叩く壁音 飛び出して はて隣には 部屋は無かった (う)
25 重ね葉が 人の顔に見えるなど 嘘だと笑う 幹のが本当 (う)
26 人面の 噂を聞きて 冷やかしに 捕らえて見れば 俺のその顔 (う)
27 夏霧に はるかにかすむ雪渓や 君は褥で冬を待つらむ (風)
28 王子様迎えに来てと壁叩く 「扉」はそこよ、気づいてはやく!!! (風)
29 「出かけなきゃ」 海霧<じり>に響くは遠吠えか 濡れて惑いて 深い霧の夜 (風)
30 あかあかや あかあかあかや あかあかや 月ささぬ部屋 君は染まりて (こ)
31 幽霊を 瓶に封じし 涼しげに 「祟ってやる」の 声にもひやり (玉)
32 夜明けだわ──ずっと一緒にいたかったけど。せめてあなたを一人で食べるの (風)
33 猫遊び 転がすものは 紅い目で 「もうやめてくれ」 ほろりと泣いた (玉)
34 事故物件 家賃安いし夏涼し 幽霊がブスなのだけキツい (風)
35 散りそめし 花舞い昇る 薄紅の 空の路にて 手招くは誰ぞ (は)
36 夜食よと 心づかいの声掛けを 要らないと蹴る ひとり身の夜 (は)
37 共寝する 肌冷やかに 牙熱し 恋路にまどふ 我やなになる (こ)
38 事故物件 借り手 若いし 男前 脳筋なのが 玉に瑕だわ (こ)
39 過去ログの 墓下見たら 空っぽで やはりお盆は 帰るものらし (こ)
40 夕立が 近づいて来る 柳陰 佇む人の 足もと霞む (こ)
41 洗濯機 手洗いモード 押してみる 無数の手の渦 引きずり込まれる (こ)
42 寝過ごした 見知らぬ駅の静かさや ふと影よぎる 朽ちしきさらぎ (風)
43 「圏外」の漂泊 ひとり、立つホーム だんだん汽笛が 近づいてくる (風)
44 もう呼ばぬ 呼ばないようと言った癖 死後も終わらぬ 深夜のナースコール (う)
45 「見えてるな?」 横断歩道で 言われたが 霊がいすぎて どれかわからぬ (は)
46 交差点 千切れた手足がごちゃ混ぜで 誰か成仏してみりゃ直る (う)
47 祖父亡くし 送った帰りの 無人駅 ホーム這い寄る 祖父また落とす (は)
48 形見にと 刀を一本 譲り受け 月夜に抜けば 斬りたいと啼く (玉)
49 夜食よと 呼べど焦らせど 出てこない 箪笥の隙間 いつ見てもいる (こ)
50 死なぬから 斬っておくれと ねだる声 姿探せば 声のみ再度 (玉)
51 「おばあちゃん。何がしたい?」と微笑んで すがる目で見る 「死にたい」のだと (う)
52 床下に あいつを埋める 穴を掘る 叔父が見つかり また埋め戻す (こ)
53 びっしりと 衣服の下のフナムシの 追うた先にも また土左衛門 (う)
54 日が暮れて ゆうやけこやけ 子ら帰る かえる子五人 影ひとつきり (は)
55 高速を駆け抜け鍛えたババア道 100m走 2秒31 (風)
56 見上げるは 蒼の向こうの 更の青 我を抱くは 水底の怪 (玉)
57 愛してる あなたの耳、に 囁いて 空気を抜いて チルドで保存 (風)
58 日が落ちて 海霧<じり>引き連れて 入港す 錆の匂いの くろがねの城 (こ)
59 おーいおい 声と影だけ 駆け抜けて かえる子5人 影も揃いぬ (玉)
60 しょうがないなぁ 泣き止むまでは いてあげる 箪笥の上で ミドリの眼だけ (風)
61 深く 深く 深く 深い水底の 共寝に積もれ 深海の雪 (風)
62 「帰れるか?」含み笑いで尋ねれば 「帰らぬ」と言う 絡むは水藻 (う)
63 半眼あけ 転がる猫が キーを押す 俺より上手く 怪談つくる (こ)
64 恋人を 捨てたお前と 食べた俺 いずれを恨むか 骨投げて問う (こ)
65 息切らせ 山の神社に 逃げ込めば 振り返る巫女 鬼女の面して (こ)
66 暗がりに 顔なきモノが 立っている 見えないふりして トイレに入る (こ)
67 九十九の 話者を集めし 怪談会(かいだんえ) いつしかひとり 青白く座す
68 押入れの 芳香剤を 買いに行く 屋根でカラスが イツマデと啼く (は)
79 それ良いね 応(いら)へば彼が目を剥いた そういや彼まだしゃべっていない (は)
70 いないない ばあ と出す顔 下がる顔 澄む青空に 白いかんばぜ (う)
71 かにかくに うみのひねもす いまそかり でんでらりゅうば おもいこんだら (こ)
72 棺開け 覗いてみれば 誰もおらず 「代わりにどうだ」 肩を叩かれ (玉)
73 夏の夜は 短し 我と来て遊べ 鄙の籬に 鬼灯ともす (こ)
74 蛍飛ぶ 捕らえてみれば 小さき火 よくよく見れば 焼かれる人が (玉)
75 振り向けば 確かに閉めた天袋 伸ばした指先 何かに触れた (う)
76 しゃれこうべ 歌えや歌え 夜明けまで 死に行く我の 為に歌えや (玉)
77 やれ抜けぬ 腹に通りし筍の どちらを切るか 腐るを待つか (う)
78 繰り返し 廻る既視感 何度でも ビルから落ちた 我が屍体見る (風)
79 居ていいと 言いしが後の 祭りなり 始終ポァポァ 家までふっ飛んだ (は)
80 焼野原 ずるずるずる、と すれ違い 生者か死者か 見分けもつかぬ (う)
81 この坂を越えれば我家と ゆらゆらと 追えども着かぬ 光る逃げ水 (う)
82 帰り道 火の車押す 猫がいた ああこれでもう あいつもいない (は)
83 おいのもり こっちの水は 甘いかと 片目のぬしが 舌を垂らして (こ)
84 カミサマに お礼しなきゃと 供え物 紅く滴る 皿いっぱいの (玉)
85 もう来てる 見えないけれど そこにいる 猫は知ってる 涼しいところ (こ)
86 死人花 胸から溢れて 地に落ちて 狂い咲く先 届けあなたへ (玉)
87 階段を 転がるように 登りゆく 頭がひとつふたつみつよつ (風)
88 VHS ダビングなんて この時代 呪いの動画 かくさんきぼう (風)
89 うらめしや 言い終わらぬうち 殴られる 痛っ、ボール やめ「ゲットだぜー!」 (風)
90 名所にて 『ここのゴースト 地縛霊 連れてはゆけぬ 戻ってこれぬ』 (う)
91 ふたりきり そっと誰かを隠す君 三本目の腕 袖から覗く (風)
92 レアモンを 探しに行った 神社の屋根 這い寄る爺に Get you された (は)
93 流星が 落ちて来る間に 願い事 人を呪わば 穴ふたつ開く (こ)
94 山道で 元気に挨拶 見送って あの人さっきも 俺追い越した (こ)
95 盆踊り 星墜ちる夜の手拍子に 君の人魂 降り來たるかな (風)
96 髪洗う その首筋に 手が触れる 知らぬふりする 我笑う声 (玉)
97 俺のほか 奇妙に曲がりし生き物の どちらが歪か 俺のがそうか (う)
98 歌人(うたひと)の 血もて綴りし 九十九(つくも)歌 言霊宿りて 短冊の舞う
99 百話目に 語るは嘘の ものがたり 嘘と言うのが 嘘であるらし
100 猫や猫 いざ立ち上がれ 子の刻が 来たれば正体 現して舞え

番外
A あと一話 百物語が終わるぞと 準備したのに 九十九(つくも)で仕舞い (は)
B おいでよと 鬼火がまねく 荒屋敷 芋汁の湯気 寂しマヨイガ (こ風)
C お盆とは 獄卒たちの 夏期休暇 (こ)
D 共寝する 肌柔らかに 吸いついて ぬっぺっぽう 美人なりせば 嬉からまし (こ)

■怪談短歌村4(2017)

1 古井戸に 網張るクモの 糸黒く 君に与えし かんざし光る (み)
2 帰宅して 母から聞いた 友の訃報 さっき別れた あいつは誰だ (と)
3 赤い糸 結ぶ縁は 一つだけ 私の相手は もう崖の下 (ひ)
4 占いも 霊判定も 怖くない 襲撃? いいぜドンドン来いよ (と)
5 枕元 セピアと違わぬ 君の影 彼岸は未だと 声も出せずに (ひ)
6 灯り点け 数年ぶりに 会う彼女 画面の表示 『許さないから』 (と)
7 これ一本 除菌除霊に ファブリーズ あのTさんも 「リピしています」 (と)
8 メリーさん いまねあなたの うしろにいるの 俺の背後に 立つんじゃねぇ (バァン (と)
9 ○(まる)かいて けんけんぱっぱ しおぱっぱ あなたたべごろ ここまでおいで (み)
10 眼鏡借る 視界にじめばその端に 君まだ見えて居る 七七日 (式)

11 糸繰りて 抱かむか 海に 身を投げて 白き珊瑚と 成りて絡むか (み)
12 アルバムを 探して仏間に 足運び 母の遺影に 目眩を覚ゆ (み)
13 ハレの日に 白無垢着せる 小袖の手 最後の仕上げ ぽんと背を押す (と)
14 捨て猫の 哀れと思い 餌やれば ひとのみに吞む 手首も首も (しゃ)
15 アケテクレ 誰が言ったか 開かず間の 触れずに開いた 一寸の闇 (ひ)
16 かぎろひの 立つ瀬あやかし 目眩して 淵覗く我 招くは我が手 (しゃ)
17 ティータイム 自分で焼いた 『死者の骨』 一壷分は 少し多いか (と)
18 開くなよと ガムテープ張り 釘を打ち お札張りなど すべて無駄です (しゃ)
19 べとべとさん お先にどうぞと 言われても 妖怪じゃない 僕ストーカー (しゃ)
20 猫達が 怪談語る お祭りに 行きかう人は 人間なりや? (と)

21 夜明け前 今日も吊るすよ 照る坊主 ニッコリ笑う みんなも笑う (と)
22 吸いつきし 蛭に煙草を 押し当てて 剥がれたその顔 母によく似る (み)
23 ねむいねむ 眠くて溶けてしまいそうですねむいとけねむ とけねむ溶けた (しゃ)
24 扉開く 欄間状に 光漏れ 手だけが並ぶ 冷やかな箱 (ひ)
25 一人死に 百人死ぬも かまわない ただ狼の 首を吊りたい (と)
26 花束に 想いを込めて あの人へ 歪な 四つ葉のクローバー (と)
27 金魚すくい ポイの上には 人面魚 にまりと笑い 口に飛び込む (み)
28 「この先は 急な下り」の看板の裏に書かれた「この先 現世」 (み)
29 携帯が ふと暗くなり 映る顔 私の肌色 端の白色 (と)
30 『今行くね』 LINEの通知 メリーさん スタンプ連打 マジギレされた (と)

31 盆の夜 崩れて久しい病院の 敷布の上に 母はまだ居り (しゃ)
32 蝉時雨 網戸にびっしり なきわめく おまえを埋めて 5年後の夏 (み)
33 裏を見て 表を読んで 裏を見て 裏に返そう さあ落ちてゆけ (しゃ)
34 祖父送る 帰りの夜道に 行き会った 草鞋の少年 駆けていく空 (しゃ)
35 鴉鳴く 葬式の夜の 歪さよ 次はオマエと 響いて刺さる (ひ)
36 退屈な 国語の時間 窓の外 落ちてく彼女 ずっと見ている (と)
37 牛の首 聞いた者みな 死んでいる その裏潜む 赤い人影 (と)
38 朱に染め 咲き誇りたる 彼岸花 此処は昔の 戦場の跡 (ひ)
39 繰り返し 落ち行くさなか 突然に あなたと目が合い 頬染めて笑む (しゃ)
40 同居人 眠る時だけ 現れる 部屋の隅に 佇み嗤う (ひ)

41 戦時中 大勢ここで 亡くなった 昔話と 思いしものを (み)
42 雪女 夏に会ったら 雪だるま どっちが素顔 聞くのがこわい (み)
43 壁のシミ お化けに見えると 孫が泣く 違うよ婆を 埋めてあるだけ (しゃ)
44 婆立つ 孫も熱狂 パーリナイ さあ今始まる 伝説の夜 (と)
45 祭り空 音遠く聴く 屋上で ウナジの長い 女と花火 (式)
46 橋の先 こっちを見てる 女の子 あれもしかして 首が浮いてる? (と)
47 「もう寝るの?私らちょいと星見風呂」 それきりだった。ーーひとりで帰ろ (式)
48 墓参り 彼らにすれば 夏祭り 花の代わりに 短歌を添える (と)
49 まあ! なんと! むごい! ゆるせん! ひとでなし! おぼえてやがれ! みんな丸呑み (み)
50 窓ガラス 壊して回る 夜の校舎 緑の膿が ごぽり溢れる (式)

51 精霊馬 迎え火もなく 遊ぶ子ら 枕元にて 先祖総立ち (と)
52 今日の君 口調がちょっと 変じゃない? 今朝食べられた あの子に似てる (と)
53 語尾に点 変換やノリ 考察法 乗っ取る方も 大変なんです (と)
54 子をあやし 進む夜道に 背中から 俺を殺した場所はここだね (と)
55 破れ宿の 奥で童と 隠れん坊 もういいかい もう喰らおうよ (しゃ)
56 虫食いの 古文書の中 「じ□ん□□ □ろ□う□□が □□で□□□た」 (み)
57 おるすばん ひとりであそぼ かくれんぼ 母が見つけた 血染めの人形 (と)
58 □□□□□ □□□□□□□ □□□□□ 残った文字も 赤に喰われた (と)
59 真っ白に 磨き磨いた この体 ほらほら早く 食べてください (と)
60 最終日 残されわざと 人を吊る しかし噛まれず 敗者と勝者 (と)

61 夜の道 オオミズアオが 追ってくる 窓に張りつく 青ざめた顔 (み)
62 墓の下 未だ未練か 悪戯か 肝試しの夜 鬼火ぞ燃ゆる (ひ)
63 学校の 鏡の中で 動く影 振り返ったら もう遅い (ひ)
64 狼さん 赤窓仲間と 会議中 まだ気づかない? 背後の牙に (と)
65 川霧に 消えゆく君の 背ぞ哀しき 届かぬ場所へ 黄泉還る我 (しゃ)
66 我先に 階段駆ける 子どもらの 先に揺れるは 朽ちた吊り縄 (と)
67 喧騒を 遠く静かに 聞く彼が 何を吊ったか 知る人もなし (と)
68 風呂行くと 言った妹 出てこない 遅いねと言えば 母「誰よそれ」 (しゃ)
69 提灯の あちらにひとつ またひとつ 影のないひと 探してあるく (み)
70 我先に 階段下りる 子どもらの 数かぞえれば ひとり増えてる (み)

71 呟きの 海にあやかし 紛れ込む 住みよい時代に なったものです (しゃ)
72 肝試し 孫がくるぞと 張り切って 墓石ごとごと 爺婆騒ぐ (しゃ)
73 カーテンも閉めず抱き合う 熱帯夜 不意の稲妻。 正体見たり (式)
74 孫号泣 親の悲鳴も 響く墓地 全員正座で 坊主が説教 (と)
75 満開の 花火咲かせる 海面に 俺も見たいと プカリ骸骨 (と)
76 夜を駆けて 烏の逆(さか)を 謀るとも よに比良坂の 関は許さじ (と)
77 鼻唄と 冥途への道 ガラゴロと 今朝の土産は 獣の死体 (と)
78 特製の スパイス中に 塗り込めた 私の体、お味はいかが? (と)
79 インスタに あげた写真に 幽霊が ポーズ決めてて なんか腹立つ (と)
80 あやとりの 糸が無いのと ろくろ首 あなたの首も 引き延ばしましょう (しゃ)

81 あやとりの 糸がないのと ろくろ首 自分の首に 絡まって居り (しゃ)
82 「今日見たよ」「あの店いたね」「あの子誰?」 なにも知らない その僕は誰 (と)
83 冷笑の 美しき君 透き通る 氷の柱に 封じて涼む (み)
84 じいちゃんの 古いアルバム 開いたら セピアに笑う 友人がいた (しゃ)
85 鈴の音が 三たび夜中に 家巡り あくる朝知る 結界の札 (み)
86 まっくらな トンネルの中 ざわめいた 床一面に 人の手、手、手、手… (しゃ)
87 生き別れ まみえし双子か 兄弟か? 衣服も髪も 全てが同じ (ひ)
88 招かれて 家に怪異が 襲い来る ぶちまけられた 最後の晩餐 (ひ)
89 ひのふのみ お手玉ほどけ 散らばって いつむうななと されこうべ投げ (ひ)
90 妬ましい 百万回目で 死んだ猫 千度億度と 死んでも死ねぬ (と)

91 壁から手 丑三つ時の 夜の静寂 筆を持たせて 意思疎通 (ひ)
92 宵ごとに 逢瀬重ねし 我が妹背 画幅を抜けし 手ぞ美しき (しゃ)
93 水色の 浴衣に泳ぐ 金魚達 一匹はねたような気がした (と)
94 ビール手に ストリートビューで肝試し クリックしたら 背後に気配 (式)
95 最期には あの子に迎えに 来てほしい 願えばどこかで 猫がこたえた (しゃ)
96 Siriに聞く 「明日の天気はどうですか?」『晴れです。それでは足を下さい。』 (と)
97 タマの尾よ 絶えなば絶えね 長らへて 裂ければ魔物 我が手に余る (み)
98 押し入れに 生えたキノコを 採って食べ 翌日足に キノコわらわら (み)
99 仏壇に 出したおぼえの ないコップ 笑顔の親父に 「一杯やろか」 (と)
100 来世では 猫になろうと 決めたのに 後ろ髪引く 反魂の香 (み)

101 やめとけと言うただろうと キノコ採り むしりむしってその足舐めた (式)
102 雷鳴が轟きわたり「あら停電」 そう言う君だけ ほのめき浮かぶ (み)
103 卒塔婆、墓 塗って塗られて お盆フェス ジジイとババア ナワバリバトル (と)
104 初心者のはずが強過ぎCランク あたしら人生二度目だもんね (式)
105 遭難し 最後倒れた 耳元に 「課金してリスタートしますか?」 (式)
106 挽き肉をくりゃれと老いた猫が言う 骨と奥歯も喰っておくれよ (式)
107 素敵でしょ 私が塗った 赤い壁 一晩経つと あれれ黒色? (と)
108 老いぼれに なんとも酷なことを言う 骨なら焼けば なんとかなるかの (と)
109 押入れの 狭きに挟まり 母笑う 母の世界は 5cmと成り (しゃ)
110 からころも きつつ破れども つましあれば けさぞあやめて 剥がむとおもう (しゃ)

111 今日もまた 呪詛の文言 既読スルー 新種のフィルタ あやかしバスター (み)
112 同窓会 卒業写真 これがおれ 指し示す指 ぜんぶひとりに (み)
113 歌うたう 風鈴みれば されこうべ 風を頼りの 呪詛よ恋歌よ (+式)
114 シロアリが 耳から出てきた その夜に 頭がガリガリ 痛み出し (+ひ)
115 シロアリが 耳から出てきた 餌持って それからなぜか 頭が軽い (+と)
116 歌うたう 風鈴みれば されこうべ 真っ赤な舌が 経諳んじる (+と)
117 歌うたう 風鈴みれば されこうべ 響くバリトン 皆聞き惚れる (+と)
118 まちじゅうに ひびくふえのね ぼくもいく 連れて逝きましょ 底根の国 (と)
119 うらめしや 皿が一枚 足りないの ちょっと待ってて ドラマいいとこ (と)
120 この夏に 初めて彼女が できました 初のデートは 紐無しバンジー (しゃ)

121 「うちに来て」 泊りの誘いに 舞い上がる 貰った住所は 地獄の番地 (しゃ)
122 公園で 拾った天使 風呂で飼う バッカルコーンで 鶏も丸呑み (+式)
123 金屏風 裏からのぞく 元彼女 私と同じ 墓に入ろう? (+と)
124 金屏風 裏からのぞく 先祖達 子の晴れ舞台 こっそり祝う (+と)
125 オルゴオル まわすと窓に タコの足 よく聞けば 旧支配者のキャロル (+と)
126 SAN値0 ゲームオーバーした彼は もう病院から 出れないらしい (と)
127 夏は来つ 真赤き内の唐衣 おのれおのれが身の上にきる (と)
128 亡き母の 顔付けた蛭 拾い上げ もう離れぬと ごくりと飲んだ (と)
129 密室に 遊女の死骸 散った数珠 心中だとか そうでないとか (と)
130 母の墓 毎日水を 遣りに行く そのうち目でも 出やしないかと (しゃ)

131 ろうそくも 白熱球も ないからと LED化の ちょうちんおばけ (しゃ)
132 私メリー あなたのうしろに いるのよと 電話を掛けたら 着信拒否 (しゃ)
133 私メリー あなたのうしろに いるのよと LINEしたのに 既読無視 (しゃ)
134 踊り場の 鏡の横に 謎の紙 「こちら定員 一名様です」 (と)
135 今流行り 付喪神達の ツイッター 某雑誌より 色々知ってる (と)
136 台所 蛇口をひねり 水を飲む はて鉄錆が 混じり込んだか (と)
137 すぐコール 水のトラブル クラ●アン 「パイプにネズミ 詰まってますねぇ」 (式)
138 ポケGOで 珍しいキャラ 捕まえた 画面の外にも出るすごいやつ (しゃ)
139 文が来る この手で沈めた あの子から 暗く冷たい 海の底より (と)
140 暗闇の 無人の階に エレベーター 足音だけが 乗ってくるらし (しゃ)


■怪談短歌村5(2018)

1 天の川 見上げてつなぐ 君の手は 今も小さく 濡れて冷たい (も)
2 感謝して 残さず食べよう 給食のおばさん とてもおいしかったよ (も)
3 見んミンと 鳴くセミの声 遠い夏 死んだ子かなカナ 今も憑くツク (も)
4 亡き猫を ミケやミケやと 今も呼ぶ あの縁側の下の 曾祖母 (式)
5 通販で 買った河童が 赤かった 絵の具塗ったら スネ毛が生えた (式)
6 釣り上げた魚の口がパクパクと「みごとに釣られた。つぎはおまえな。」 (る)
7 夜の道 気配感じて 振り向けば 足音だけが 追い越して行く (も)
8 愛しいと抱いた赤子の柔らかく 崩れた頬がほろほろと落つ (る)
9 足指に 戯れるかな クモの糸 愛撫にも似て 魚信にも似て (も)
10 骨身にも染みる子供の愛らしさ 明日は私の出汁入りスープ (る)
11 雨樋を 洗い繕う 台風過 詰まりは泥と 枯れ葉と 目玉 (式)
12 廃校の 前に停まりし 白いバス 駆け出す子らの 音なき笑顔 (式)
13 ドーナツの 穴だけ残して 食べ終えて 無限のそこへ 落ちてゆく君 (も)
14 茜さす 紫野ゆく 葬列を 我は見守る 君が手を盗り (も)
15 神隠し なな不思議の"伍" 「屋上で 星墜ちる夜へ 綴じ籠められた」 (式)
16 久しぶり 別れた彼女を 見かけたよ 盆踊りの夜 空に浮かんで (も)
17 しのぶれど 色に出にけり 星がこひ ぬばたまの髪 綴るひと文字 (も)
18 道端に ころりころげた 犬の首 見てたら指がうごうご生えた (る)
19 夜の道、黒のロングに、ワンピース お化けじゃないわ ただの死神 (る)
20 雪崩れ打つ緑の奥の破れ祠 外れた戸から手が出て招く (る)
21 なな不思議 陸は夏の学校で「星満つるとき あやかし踊る」 (る)
22 枇杷の実の ごとく鈴生り 犬の首 遊ぼあそぼと 枝の遠吠え (式)
23 口惜しや 祠に隠れし 幼子は 異形の神の 骰子(ダイス)となりぬ (も)
24 六地蔵 藁笠の下に 首がない 雪密室の 年の瀬の夜 (も) 
25 「薔薇ノ木ニ 薔薇ノ花サク。ナニゴトノ不思議ナケレド。」語る骸骨。 (も)
26 去年まで 天使だったという証 君の背中の 裂け目に触れる (式)
27 盆の夜 樹海の奥の古宿の 廊下にずらり さがる常客 (る)
28 あの池に 人面魚がいる 見ておいで したり顔する 猫の尾ふたつ (も)
29 雨のたび溶けて流れていく体 母さん、わたしは雲になります (る)
30 本年は 盆の墓場の 運動会 暑さのために 中止となります (式)
31 まだ残る 柱の傷は 一昨年の 母狂乱の 首の高さに (も)
32 午後六時 町にチャイムが 流れます ゆうやけこやけ 明日は子焼け (る)
33 猫はみな 涼しいところ 知っている 何かたたずむ その下にいる (も)
34 暑すぎて ナスもキュウリも しおれぎみ 今年は帰省も 一苦労だよ (る)
35 不審者に 追いかけられて 逃げ込めば 出てきた警官 「こんな顔かい?」 (も)
36 オムレツに 小倉トースト ハム添えて コーヒー香る 古井戸の底 (式)
37 ねじれてる 君も花火も くるくると のばして千切る 夏飴細工 (も)
38 吹き抜ける 風恐ろしき 廃屋に 吸い寄せられし わたしはいない (る)
39 掛け軸の 中から出てきて 酌をする 酔えばよく見る 夢の残り香 (も)
40 天の川 仰ぎて見れば はるかなる カササギ渡る 魑魅の群れかな (る)
41 向日葵の小径に遊ぶ 迷路園 吾子の手冷えて にこりともせぬ (式)
42 迷路園 さまよい歩く足首を 掴む者あり 吾子がわらった (る)
43 ババ抜きの 残り3枚 しくじれば 夜の校舎に 閉じ込められて (も)
44 しづやしづ 鎮め千尋の わたつみに うたかたの夢 歌に結びて (も)
45 卒業を せねば出られぬ 校舎なら いざ窓ガラス 壊してまわろ (式)
46 あの赤き 星や落つると 君は問う 生まれし町の 煮えゆくさなか (も)
47 艶やかに 君が息吹く 風車 六道輪廻 果てなく回る (も)
48 井戸の底 なんて本当は ないのかも 墜ち続けてく 堕天使か君 (も)
49 部屋の中 見知らぬ髪が落ちている 黒 白 金髪 蛍光色まで (る)
50 道歩む 足裏なにかを踏んづけた 脱皮途中の 手が潰れてた (る)
51 幽霊の 正体見たり 夏期バイト 十年前から 同じ履歴書 (も)
52 かなしきは 死んでも治らぬ 認知症 わたしゃタマだと こぼす化け猫 (も)
53 柳持ち、青き校舎で鳴きすする、鮮烈の華、消える土曜日。(客)
54 腹を裂き産まれぬ赤子抱きしめて、微笑む鬼と祭り火のあと (客)
55 紫の指先絡み黒髪の、百合散り間際、黒猫がなく。(ニャア) (客)
56 橋の上 手摺掴んで揺れながら ギイギイギイと 母笑う夜 (る)
57 脱衣所に脱いだ靴なし 貸切と思うて入れば 黄色い悲鳴 (式)
58 本棚の 裏から出てきた 薬指 半年ぶりに 指輪をはめる (も)
59 耳ふさぐ 指は蜜の香 朔の夜よ バンシーの声に 鎧戸閉ざし (式)
60 いつ見ても 空見上げてる 隣人が 今日は首だけ ぶらり浮いてた (る)
61 花瓶から 生えてきた手に 肩続き 頭、胸出て 途中で千切れた (る)
62 紅粉の罅割れ散れる 君が肌 没薬(ミルラ)塗り込む 永久にあれかし (式)
63 台風の 去りし浜辺に 横たわる 魚の体 長き黒髪 (も)
64 光満つ 水面切り取り 黒髪を 翼と広げ 沈み来る君 (る)
65 山奥の 墓前にてふと 潮薫る ああ祖父はもう ただ海なのだ (る)
66 鯨取り(いさなとり) 渡海の果ては 補陀落か 墓忘るとも 里さかえあれ (式)
67 言霊に 繋がりし闇 さざめいて 電子の海を 抜けゆく今宵 (も)
68 代々の 主仰ぎし 城の月 柘榴落つ頃 明るく爆ぜる (も)
69 日に焼けて ついには影と なりにけり この南風月の 向日葵の下 (も)
70 狂おしや かくなる上は 神棚の お札を外し 室温下げる (も)
71 かしい 写真に残る この人が あなたの首を 締めております (る)
72 うち捨てた 祖国へといく バスの列 なみだひとつを 死出の手向けに (る)
73 今日もまた もぎとりし首 一夜干し 焙じて溶いて モーニングコーヒー (式)
74 藪枯らし 巧みに覆う 骨の上 ここらの葛は ひときわ甘い (も)
75 にゃあにゃあと 数える指が 霞みゆく はて、百首だか 朦朧の夜 (式)
76 古ぼけた ピアノの鍵盤 押してみる また聞きたいの あなたの悲鳴 (る)
77 葛の葉の うらみし君を 手折る音 覆い重ねば また甘み増す (式)
78 わだつみの 沖つ白波 寄せくれば 泡立ち群れる 魚顔の民 (る)
79 風吹けば チリリンと鳴る 南部鉄 君の歯強く 涼を奏でる (も)
80 波頭 踏み分け走る 白兎 飛び込む穴は 不可思議の夢 (も)
81 来年は もとより来世も 繰り返す 夏の一日 怪談短歌 (も)
82 鉄よりも なお涼しげに 鳴きましょう 軒先揺れる 吾がしゃれこうべ (る)

■怪談短歌村6(2019)

1. 四つ辻にいつも立ってるおばあさん 買い物かごに耳がいっぱい (ミ)
2.夕闇の 遠くに見えた 人影が すれちがっても まっくろのまま (お)
3.悩んでる人を一人にしておけぬ それが私の悪いクセなの (ミ)
4.夏祭り 明かりの灯る 橋向こう 行きかう人の みな顔がない (よ)
5.お面屋の あるじがにこりと 手で招く 欲しい?それとも 買い取ろうかい? (よ)
6.きらきらと 飴で飾った りんご飴 ここにわたしの 顔があったよ (よ)
7.ポイ握り 揺れる水面を 覗きこむ 黒や茶色の 目と目が合った (よ)
8.抱きし子と ふたりぼっちの夜昏し 桃腐り落つ 黄泉比良坂 (ま)
9.雨だれの後ろのうしろ 手のひらを隠しておいで この舌のした (ま)
10.青しろき小夜啼鳥の巡回夜 玉の緒絶えん 「この児は無罪」 (ま)
11.古書の端 年季の入った インク染み なんだか人の お顔に見える (野)
12.「この色が好き」と君が言ったから 緋色で綴る 怪談噺 (野)
13.「好き」と言った色の滲んだ筆さえも 持てないこの身 幽かなるかな (野)
14.あでやかに咲く彼岸花 折り取ってまた重ねてく盗人の首 (ミ)
15.夏祭り キツネのお面かぶってる あの子の首筋 毛むくじゃら (ミ)
16.古書店の ひそひそ声が気になって ページめくった 染みが増えてた (よ)
17.あの本の 染みを数えて 過ごす夜 ちゃんと読んでと お顔が告げる (野)
18.目が合った 途端魚が 尻尾巻く この目がヒトに 見えぬというか (野)
19.帰省する先がない人増えた盆 地獄の鬼の休暇取り消し (ミ)
20.おもてなし 団地の庭のおままごと どの子の顔も みな裏返し (ま)
21.ゆく川の 青きに浮かぶ 白波の さらり揺れるは招く手のごとく (野)
22.地に落ちた 椿の花を 拾い上げ あなたにそっとくちづけしたわ (お)
23.蝉の音が 一斉に止む 午後三時 後ろを見ては いけないような (お)
24.指の先 硬貨が示す メッセージ 『今すぐここを逃げてください』 (お)
25.じいちゃんと同行二人 ご朱印を集めて巡る八大地獄 (ミ)
26.盆の明け 山と積まれた 栄養剤 第九の地獄 無言で語る (お)
27.選手たち 東京に向け 夢語る 尻子玉よりメダルがほしい (お)
28.何もない隅を見つめて猫が鳴く 母食い尽くし我が腹も鳴く (ミ)
29.浜辺より 深き者ども 来るそうな 酢味噌で食うのが いいのだそうな (よ)
30.古池や かわず呑み込む 水の怪 近頃かわずじゃ 足りないらしい (よ)
31.盃が進みゆくほど透き通る妻のお里は掛け軸の中 (ミ)
32.提灯を かかげて歩く夜の道 行きはひとりで 帰りはふたり (野)
33.袖さえ匂う 女郎花摘み 頸折らば 骨と脂の 覗く色の香 (ま)
34.つき落とし火刑水責め木に吊るし罰金土葬 ああ安息日 (ミ)
35.谷底も 森の怪・川の怪 群れおるで 次は酢味噌で 喰ろうてみよか? (ま)
36.赤い傘 さしてそぞろと 歩く夜 隣に宿るはヒトに限らず (野)
37.海・山・川 産地直送 深きもの 酢味噌で喰おかな BBQかな (野)
38.鬼灯を 提灯代わりに飾る夜 盆が明ければ わたしは独り (野)
39.大好評 旬を味わう物産展 人気はもちろん酢味噌和えです (お)
40.信じない 幽霊なんているものか ここにいるのは私だけ。──「かな?」 (ミ)
41.終電に 揺られてふらり帰る夜 風もないのに 吊り革揺れる (野)
42.帰り道 突き当たりにあるカーブミラー 助手席の彼 そこにだけいる (ミ)
43.何気なく 本を開いた 次の間に 私を見てる 私の顔が (お)
44.古井戸や 脳に染み入る 猫の声 ねこですよろしくおねがいします (お)
45.七不思議 みんなと語ると あら不思議 「僕の知ってる不思議と違う」 (野)
46.願はくは 花の下にて 春死なむ 浮かれた衆生 皆道連れに (ミ)
47.暑い夏 涼を求めて寄り道し 鳥居の下で背を撫でられて (野)
48.最期の夜 出来もせぬのに 変更す 「丑の刻参りを 委任します。」 (ま)
49.託すべし 貴船は遠し 電柱に 鳴く蝉の横 打つ藁人形 (ミ)
50.震度6 地下5センチの震源は でいだらぼっちの貧乏ゆすり (ま)
51.君が行く 殯の浜の 黄昏に 巡り来たるは 死者の誘い/きみがいく もがりのはまの たそがれに めぐりきたるは ししゃのいざない (よ)
52.昼下がり 顔型の染み 口元に 付いたばかりの カレーの染みが (お)
53.おそろしい 胎のわたしを撫でた手で 兄をあやめた 母の心が (お)
54.ほくそ笑む 父母を落とした 崖の上 今度は俺が殺してやった (お)
55.ひたひた「?」 ひたひたひたっ 「…気のせいか」 ひたひたぴた「!」 バタンむしゃむしゃ
56.霖雨明け 凛と佇む社へと 鈴音鳴らして 燐火が往くよ (野)
57.白妙の 真砂尽きせば あなたこそ 帰りこむとぞ ただ骨を食む (よ)
58.服屋の戸 差し込まれたは 子鬼の手 ぼくの手にあう てぶくろください (お)
59.ゴーグルを かぶって電子の肝試し 終われどひとり おばけが消えぬ (野)
60.子守歌 歌う娘の 胸の中 赤子の頭が ころりと落ちた (よ)
61.夕立に白く霞んだ交差点 精霊船が兄乗せ渡る (ミ)
62.紙魚落とし 古書屋の主の 除霊業 カレーの染みは 天日干しせよ (ま)
63.朝まだき 裏の畑で ポチが鳴く 去年親父と 重ねて埋めた (ミ)
64.軒端から ぽたんぽたんと 指が落つ 拾ってかじる 人面ねずみ (ミ)
65.夢にてもせめて会いたし 恋い焦がれ 濡らす枕は君の骨壷 (ミ)
66.ひとつきが ふたつきになり まだ続く 緋色の絨毯 急行の旅 (ミ)
67.旅館では お札がないか 探すのと 覗く戸棚に 一面の札 (よ)
68.おや坊や もうそんな年になったのね 渡すは人の革の手袋 (よ)
69.夕時雨 街で出会った 女子大生 電話ボックス 探してるらしい (ま)
70.仏には 桜の花を たてまつれ 屍山血河を 覆い隠さん (お)
71.背の高い 君が好きだと プロポーズ 彼女の頬が ぽぽぽと染まる (お)
72.首落ちて なおも止まない子守歌 ねんねんころりよ おころりよ (野)
73.見つめても けして映らぬ この姿 濡れた袖もて 君かき抱く (お)
74.「見つめ合うと素直におしゃべりできないの」 言って彼女は 首を伸ばした (野)
75.肝凍る 夜闇の中で 写された 透けるパリピの エンジョイナイト (お)
76.日が暮れて 夕焼け小焼け みな帰ろ 歌うあの子の 影が消えてた (よ)
77.ぽぽぽぽぽ ぽぽぽぽぽぽぽ ぽぽぽぽぽ ぽぽぽ?ぽぽぽぽ ぽぽぽぽぽぽほ
78.孤立した 暗き山荘 手をつなぎ さあ、始めよう 怪談短歌 (ミ)
79.写真撮るほどに近づく黒い影 最後の一コマ ああもういない (よ)
80.出口など無く閉ざされた我々が ひとり、ひとりと また増えていく (よ)
81.うつしよに たえて不思議のなかりせば なほあぢきなし 夏の夜かな (野)
82.輪になって 夜毎無惨な 殺し愛 十五人村 標準編成 (ま)
83.夜が明ける つないだ手と手離れてる 隣に座ったあなたはいずこ? (野)
84.「本日もお疲れ様」と後ろから 声がするのは つかれてるから (野)
85.立ち上がれ! 我ら狸の 連合会アライグマなど 鍋にもなれぬ (ま)
86.山深し ヘッドライトの 照らす板 此の先ゆかば 「巨頭オ」の村 (ま)
87.かあさんが 帰ってくるまで あけないよ 子ヤギ七匹 オーブンの中 (ミ)
88.ここんとこ お肌の調子良いみたい 瘡蓋剥がし蛞蝓を塗る (ま)
89.令和初 そんな綽名に興味がね なくもないのと 怪異が躍る (野)
90.笑い声 どこからするのと 家探し 借り物鞄が あやしと見る子よ (野)
91.仏壇に ご飯を供える 習慣は 祖母が死んでも まだ続いてる (ミ)
92.ゲーム依存してると思った弟が 「彼女作った」と使い魔よこす (ミ)
93.その鞄 開けてはならぬ 開けたなら 手足折り曲げ ぴったりはまる (ミ)
94.雪の日や 地蔵来たりて ドアを蹴る 被せたカレー 辛すぎたらし (ま)
95.ぬばたまの 月に叢雲 花に風 心霊怪異に 現代科学 (お)
96.泊めてねと 彼女がほどく 濡れた髪 潮の香りに絡む海藻 (ミ)
97.「人魂の正体見たりプラズマ」と 言う科学者の背後でピース (野)
98.錫杖を鳴らして渡るお坊さん 頭陀袋の中 もぞもぞ動く (ミ)
99.大勢の 人の呪いから 生まれ来た 決して見えない ブランコの波 (ま)
100.かにかくに谷中は恋し 小夜更けて 墓も桜も 猫と語らう (ミ)
101.絶海の孤島に住まう固有種は 天敵おらず飛べない天使 (ミ)
102.山奥の 打ち捨てられた廃屋の 暦はずーっと夏休みのまま (野)
103.茜色 暮れて辺りを染める時 手形が一つキャンバス彩る (野)
104.誰も彼も 見ないふりする コンビニの 真白の人影 我も見ぬふり (よ)
105.たこパする? それともタピる? BBQ? やっぱりタレは 酢味噌で決まり (ま)
106.掘り出し物ですと出された壺の中 落ち行く人の 無限の連なり (よ)
107.見ぬふりを したはずなのに 「HEY!カノジョ 今晩おヒマ?」 と陽気な声が (お)
108.おばけだって タピりたいのと街歩き 列に並ぶの 押し出しダメよ (野)
109.ヒマよヒマ オールナイトで 遊びましょ 霊とアタシの こぶとり寓話 (ま)
110.春嵐 花散る街の 灯の下や 足元するり 一つ目の猫 (ま)
111.オシャレして タピオカ持って 決めポーズ 人もおばけも 「映え」が大事よ (お)
112.持ち寄りし 百物語 語り終え 壁床抜けて 家路にぞつく (ミ)
113.茜色 境を揺らがすその前に カラスが鳴いたら帰りましょ (野)
114.この夏も 猫が集いて しなばそう 百余の短冊 逆さまに詠め (よ)

  • ガキ喰えば鐘が鳴るなり法隆寺
  • 置いてけと声が聞こえる排水口
  • 腹の虫 羽化して残す 木乃伊かな
  • 急に字が上手になった自動書記
  • 塩撒けば 家族がみんな いなくなり
  • 小袖の手 八つ口見せる チラリズム
  • 文字が皆 羽虫に見える 呪い受け 
  • 白無垢も経帷子も白は白
  • 賽子の目をひとつずつ潰してく
  • 溺死した 友からメールで スマホが故障
  • あなたから 届いた手紙 釘を打つ
  • 図書館の 本が吐き出す 蜃気楼
  • 言魂を 千年残す 短歌の呪

■怪談短歌村7(2020)

1. ヒロインと 同姓同名 読み進む 筋書き通りに 焼け落ちる家 (た)
2. ワイシャツの 真白き袖が 交差点を 行きかふ 中身なき袖のみが (お)
3. 黄昏に 染まりし庭の 百日紅 影の世界の 花は血のいろ (お)
4. 人肉を使っているとうそぶいて 豚まんを売る ひとつ目の鬼 (た)
5. 「君の名は。」 問ふこゑがして 振り向けば お化け屋敷の ポスターぺらり (お)
6. 食卓の 卵料理を 見つめゐる 大暑の朝の 片目の死神 (お)
7. 栄光の道を駆け抜け 飛んだのと 崖下の草むら どくろが笑う (豊)
8. 鍵掛けず シャワーを浴びる 開放感 さっぱりとして 鍵開けて出た (豊)
9. 井戸の底 命からがら 抜け出せば 喰い損ねたと 声が響いた (か)
10. ブツブツと 何か聞こえる 墓の下 おれら 三密避けられないぞ (か)

11. 草いきれ 人死にゐると 声がして 進めば不意に 崖の上なり (お)
12. なお透ける 小袖振袖 辻ケ花 袖振り合うも 多生の縁よ (た)
13. 橋の下 手首から先 転げ落ち 慌てて呑み込む なくさぬように (た)
14. ヨーイドン 抜きつ抜かれつ 走ってく ハラペコ鬼は 常に最下位 (た)
15. 今はもう 夜を恐れぬ 人々に ねないこだれだと 這い寄る影が (か)
16. 火が灯る 『どうだあかるくなつたろう』 光を見れば 浮かぶ人魂 (か)
17. 店の外 ずっと置かれた 忘れ傘 傘泥棒を 喰っているとか (か)
18. お菊虫 なる土産物 取り出せば 庭の井戸より 我を呼ぶ声 (お)
19. 三密を 避けて空席 目立ちゐる 法事に死者が 集まり来たり (お)
20. 辻ケ花 広げて疾うに 亡き祖母を おもふ 或いは鬼かもしれぬと (お)

21. 池の中 「進入禁止」の看板を 立てたおじさん 未だ帰らず (た)
22. 傘の骨 数えてみれば また増えて 錆かと見ゆる 鉄の匂いす (た)
23. 唐傘を ひらきてとぢて 蝉時雨 遺品は誰のため泣くのだらう? (お)
24. いつの間に 事故物件に なった家 玄関に塩 むしろ出られず (た)
25. 迷い道 ふわり導く 火の玉に 懐かしき母の 気配感じた (か)
26. ふて寝すりゃ そこに新たな 住人が あ、こりゃどうも お気になさらず (か)
27. 廃屋に 盛り塩ふたつ 火の玉も ふたつ かへれぬ 子どもらの数 (お)
28. 空席に 険しい視線 刺す男 目を見開いた 「密です!破ぁっ!!」 (か)
29. テレワーク 部長も理事も いそいそと 画面の端に 映り込んでる (た)
30. 赤い雨 白い傘骨 辿ってく したたり落ちる 涙のように (か)

31. 俺たちの 力集めりゃ 容易いさ 山に灯るは 『犬』文字かな (か)
32. 画面越し 議論の果てに 大ゲンカ 「直接殴る」と 出てきた貞子 (か)
33. 託された 祖母の形見の 大鞄 時々動く 重さが変わる (た)
34. 当面は 密の回避で 中止です 七人みさきと百鬼夜行 (豊)
35. まえうしろ うえしたななめ みぎひだり どこを向いても 触手しかない (た)
36. 屋上に 残されし靴 あかあかと 陽に照らされて ワルツを踊る (お)
37. 人を喰い 人に食われて 恋をする 悲哀を唄う 私は誰か? (か)
38. 殺されし 三人姉妹の 振袖を いつまで 見つめゐるのか 亡者 (お)
39. かへらうよと 誘へど動かぬ 友達の 後ろ姿に 赤き雨降る (お)
40. 夏祭り 君とはぐれて 夜が明けて 浴衣のままに 老婆となりぬ (た)

41. 夜が更けて まだやめられぬ スマホゲー いるのいないの 天井映る (た)
42. 渡さない 私のための 白無垢よ 袖通すなら 腕切り落とす (か)
43. こりゃなんだ 令和時代は すごいなと わらわら集う 歴代社長 (か)
44. クレーンが みぎにひだりに 進めゆく工事 現場は 無人なれども (お)
45. 開かれぬ 祭りに捧ぐ 揚花火 散り咲きひらく 魂の群れ (豊)
46. 旧校舎 手首から先 揺れ招く 壁一面の 死者の手の花 (豊)
47. 祭りの 中止告知の ポスターは 浴衣姿の 亡者のゑがほ (お)
48. ひとまわり 大きくなった 妹は 脱皮したてで 目がよく見えn (た)
49. スイカはね、笑ったお口に 似てるのと 言う子の顔ぞ 割れ西瓜かな (豊)
50. ぬばたまの 闇の深きに ひそむもの ひたひたひたひたひたひたべた (豊)

51. ひたひたと 手の鳴る方へ 置き去りに 走れ走れど 足は進まず (か)
52. 絢爛に 死に花咲かせ 我が命 暗い夏など 真っ平御免 (か)
53. ハイウェイを ひたすら走る おばあさん 栄光の道 繋がる日まで (た)
54. かにかくに 祇園はこいし 化けてなお おこぼ鳴らせし 舞妓の意地よ (た)
55. 砂浜の 西瓜ぽつりと あの夏に 死せる家族の 手拍子を待つ (お)
56. 栄光を 追ふ老婆ゐると 工事中の 噂になるも 途切れし道路 (お)
57. 硝子窓 おぼろに透かす ヒトガタの ヒトでないもの こちらを見てる (か)
58. 鐘の中 七重巻かれて ひとまわり ああ嘘吐きの 哀れな末路! (か)
59. 死に花を 咲かせたしてふ 蝶が舞ふ コンクリートの 熱に焼かれて (お)
60. 月明かりに 誘はれ歩けば 路地奥の 墓地 ひとだまは やはらかき色 (お)

61. 靴音が 遠ざかりゆく 真夜中の 出会ひは 鬼と蛇の化かし合ひ (お)
62. トンネルの奥で妖怪みつけたと 語るその人 目が光ってる (た)
63. 丑三つに 背から感じる 視線より 順位抜かれる 恐怖が勝る (か)
64. 迫りくる トレンドワード 薙ぎ払い そこのけそこのけ アマビエさまぞ (か)
65. 独身寮 壁の向こうの 呻き声 正座して聞く 透き通る君 (た)
66. 何処より はらり舞い落つ 短冊や 詠み人知らず 怪談短歌 (か)
67. 「犯人は ここにいます」と名探偵 満面の笑み 今、牙を剥く (た)
68. ぬばたまの 夜は褪せなむ 時代でも 世に怪談の 種は尽きまじ (た)
69. 巨大なる 異教の神は 蛸のやう 触手が贄を 求め蠢く (お)
70. 竜宮より 来たる魚が 恋の歌に 続くなぞなぞ 問ひかけて 風 (お)

71. 壁に残る 手形はまるで 花 死者の 思ひ出話を 飾らむとして (お)
72. 雪の後 祠に続く 足の跡 行きは二人で 帰りはひとり (た)
73. ぬばたまの 闇より昏き 足跡に 誘はれし子が 次の子を呼ぶ (お)
74. 玉と 舞妓が踊り 競ひあふ 座敷の客は 骸骨ばかり (お)
75. すりガラスの 向かふは祭 お囃子の コンチキチンが 去年より続く (お)
76. 街をゆく 人ことごとく 同族か 慌てふためく 口裂け女 (た)
77. ホントだよ キラキラひかる 空の星 瞬きしては みんなを視てる (た)
78. 噂高き 心霊スポット トンネルの 奥は千年まへの いくさ場 (お)
79. コンビニへの 行きも帰りも 数分の はずが 気づけば ゲームの世界 (お)
80. Twitterにて 瞬時に世界へ 広めたし 今ぞアマビエ 海より来たれ (お)

81. 有名な 心霊スポット 看板に 「テイクアウトも 利用できます」 (た)
82. ひとりだけ 横を向いてる 記念写真 生き残ったのは 彼一人だけ (た)
83. ぬらぬらと ゴミ箱の下 いつまでも 捨てた私の 鱗が芽吹く (豊)
84. 透き通りゆく君 語るコイバナの 相手はとほき シベリヤの土 (お)
85. 詠み人も 知らぬあやかし 歌はれて 言葉の呪力に 囚はれゐたり (お)
86. パソコンの 設定してと 頼んだら 手だけぽろっと 送られてきた (豊)
87. 多忙さを 嘆く男は 疫病神(えやみがみ) 土産ばなしは 世界の民話 (お)
88. 卒業を 祝ふ少女ら 制服の 肩に置かれし 手は誰のもの? (お)
89. 積雪のため閉ざされし 拝殿に 足跡はなく 一輪の花 (お)
90. 慌てずとも 人間は疾うに 滅びたりと ふたくち女が ゑみつつ言ひぬ (お)

91. 民の声 聞き届けたまえ 今ここに 大海割れよ 光とともに (か)
92. 古い井戸 歪なままで すぐ消える 「ここから出して」の 呻きと共に (か)
93. 豆腐屋の手伝いしてるちびっこは なぜか雨の日だけ店にいる (か)
94. 村の為 苦渋の決断 友吊るす 男の瞳 いつしか紅く (か)
95. 猫たちが 見つめる場所に 何がある? 「何もないよ」と 知らぬ声する (た)
96. 我が妹背 野辺に送りて 日は西に 伸ゆく影と 這い寄る黒髪 (た)
97. 黒板の 裏にひしめく 我が師の怨 誰一人とて 卒業させじと (た)
98. 夏の海 打ち上げられた 貝殻に 宿借り磯這う 六本の指 (た)
99. 星の数は 途方もなくて 見上げれば たましひのみの 我が身小さし (お)
100. 肝試しに 訪れしひとら 崖下へ 落ちゆく「詐欺だ」の叫び残して (お)

101. 誰のための記念か 皆が横を向く 集合写真は 遺影にならず (お)
102. 高級車 乗り回す男に 目をつけて 憑いていったら 実家がお寺 (た)
103. 夕暮れに ふたり手つなぎ かげおくり 影が昇れば わたしはひとり (豊)
104. ぎんいろの 鱗持ちゐる 深海魚 いまは腐臭と 恨みを放つ (お)
105. 幻肢痛に 泣きつつ手首 あるゆめを 幾度も見たり 墓にゐてさへ (お)
106. 大海に 割れよと命じ 預言者は 力尽きしが 邪神顕現 (お)
107. ロッカーの 扉開ければ まぼろしの 波に溺れて しまふ我が夏 (お)
108. 昆虫の 宇宙飛来説に 何の意味あるの?と 猫が 蝉咥へゐる (お)
109. 古井戸を 埋めれば むかし落とされし 女のこゑが 我を呼びたり (お)
110. 君が今 食べたケーキに 入ってた イチゴ味する 赤い目の群れ (た)

111. お客さん こんなところで 降りるんですか どこまで行っても 壱円ですよ (た)
112. 雨の日は 外へ出られぬ 子どもゐて 父は地蔵に 傘捧げ持つ (お)
113. 絞首台の 下に咲きたる アルラウネ 刑吏を見つめ 吐息かぼそく (お)
114. 妹の 通夜も葬儀も 虫の群れに 囲まれ髪を 狙はれし姉  (お)
115. 下敷きに なりたる教師の 定年を 知つてゐたのか 倒れし桜は  (お)
116. ヤドカリを ひつくり返す 子どもらの 悲鳴は夏の終はりの磯辺  (お)
117. 鳴く声が ただ響くだけ 猫の尾が 二本見えたは 影か現か (か)
118. 肥え太る 畏怖と流言 広まる名「   」 私は もはや わた しで は  な   く (か)
119. ステーキを がっつり食べる ダイエット 絶対痩せる まず太ももから! (た)
120. 南極の 氷浮かべた グラスから ふつふつとわく 太古の異形 (た)

121. 夜も更けし いまこそ摘まん しなばそう 天地(あめつち)すべて 逆しまにして (豊)

■怪談短歌村8(2021)

1 盆終わり「また来年」と手を振って 祖父は帰りぬ 開かずの金庫 (ぢ)
2 来年も 緊急事態宣言を 出せばと 鬼が 笑ひ合ふ夏 (さ)
3 土砂降りを さそふ妖怪 足長に 会ひたし 続く 熱帯夜には (さ)
4 廃屋の 床押し破りし 青竹の 枝先飾る ダイヤの指輪 (お)
5 春の宵 逢瀬楽しむ猫達の 愛の言葉に混ざる 「たすけて」 (ま)
6 こわいはなし してよとせがむ 子供らに まとわりつかれて 首もげ落ちぬ (ぢ)
7 亡き祖父は 今年も金庫の 番号を 言はず 売家の 看板に雨 (さ)
8 廃屋にて 拾ひし指輪 きらきらと 光りてをんなの 幽霊を呼ぶ (さ)
9 以津真天と 鳴く怪鳥が 射貫かれて 猫集会に落ち 救け乞ふ (さ)
10 窓ガラス 振り返ったら 飲み込まれ 後に残るは 赤い靴だけ (ま)

11 あの子とね 話せるのよと 母笑う 受話器越しから サムイ…クルシイ… (お)
12 いっこうに 人出の減らぬ 行楽地 ゾンビばかりと なった世界で (ぢ)
13 愛らしく 踊り始める 赤い靴 次の履き主 探しに行こう (ぢ)
14 夏の夜の 暑さに解ける 猫団子 痕に一本 骨が生えてた (お)
15 更地にて ぽつり佇む 開かずの金庫 盆の時期だけ 現れるとか (お)
16 餌まけば 沼の中から 顔を出す 乙女の面影 残すが哀れ (ぢ)
17 砂浜に ひとつ捺された 小さな手形 波寄せ 引いて うぞりと増えた (お)
18 生首を 小脇に抱へし さむらひの むかしばなしは 処刑の作法 (さ)
19 窓ガラスに 爪を立てれば 背筋凍る 音して受話器も ただふるへをり (さ)
20 金庫より 鬼が出ぬやう 見守りし 一族 骨となれども 盛夏 (さ)

21 背後から 視線感じる 振り向けば 肩の高さに 目玉がひとつ (ぢ)
22 清流に 麦わら帽子 浮かんでる 拾えば重し 黒髪よどむ (ぢ)
23 人面魚 ゐるとふ沼も 埋められて 跡地に花を 供へし河童 (さ)
24 夢うつつ 寄り添う重みに 猫かなと 撫でつつ気付く うち猫いない (お)
25 道ばたの 麦わら帽子 拾い上げ 被ってみたら がぶり噛まれた (お)
26 波引けば 猫の足跡 てんてんと テトラポッドに刻まれ 八朔 (さ)
27 「ぽ、ぽぽっ…」と をんなの声に 振り向けば 八尺様の 麦わら帽子 (さ)
28 帰る家 忘れて迷っていましたと 警察官に 送られてくる母 (故人) (ぢ)
29 行楽地は 腐肉の臭ひに 包まれて ハイチ生まれの 死者の地と化す (さ)

30 赤き靴が 探す少女は 傲慢の 罪を悔ゆれど なほ踊りゐる (さ) 
31 活気ある 夜店の売り子に 問へば 「猫団子」 珍味と 自慢されをり (さ)
32 真夏日に 焼かれし 黒のボンネット 目玉落とせば ぢゅうと音して (さ)
33 警官の 注意も聞かず 母は笑む モンペ姿と 二十歳の貌の(さ)
34 「昔いた猫の夢よ」と妻が言う うなずき気付く 俺、嫁いない (ぢ)
35 爪長き妻の 習慣 夜ごと夜ごと 猫の姿勢になり 爪を研ぐ(さ)
36 熱帯夜 虚ろな顔の ベートーベン バケツで水をかけるニノキン (ま)
37 腕の中 ゴロゴロ喉を 鳴らす君 甘えん坊は 相変わらずね (ま)
38 地獄にて 仏が垂らす 細き糸 登りて落つは 蜘蛛の胃の中 (ま)
39 鉄橋に ぷらぷら人が 揺れている 風で飛んで 来るらしいと聞く (お)

40 「カネ貸してくれ」と頼みに来た友の 腹に大きなガマ口(ぐち)開く (ぢ)
41 過ぎし日の 乙女よ哀れ  渡せずの 恋文流し 是(こ)を手向けとす (ま)
42 宿直の 教師気づけば みづたまり バケツの穴が 犯人示す(さ)
43 帰省すれば 実家の猫が 喉鳴らす 鴨居に頭を ぶつけながらも (さ)
44 人として 生まれしは過去 夜を重ね 熱き血潮を われ恋ひ集む (ぢ)
45 一度だけ 蜘蛛助けたる 男ゐても たがひに見分けが つかぬ地獄か (さ)
46 放課後に 列なし帰る 子供らの 影を盗んで 涼を味わう (さ)
47 新聞に 載るは奇怪な 溺死体 腹には銭が 詰まっていたとか (ま)
48 鉄橋より 飛び降り自殺の 一報が あれど 凧しか見つからず寂し (さ)
49 借金を 断り友と 別れしが 足もとの影 にたり笑みをり (さ)

50 やは肌の あつき血汐を 忘れずに 今宵も山を 越ゑてくる鬼 (さ)
51 "はい"、"はい"、と いつも聞こえる 謎の声 今日もかと思う 耳元で "いいえ" (お)
52 「一枚、二枚、三枚…」 マスクを数へるは スペイン風邪に 斃されし子ら (さ)
53 腹のなかの 小銭大銭 水底に 広がり 人魚の黒髪飾る (さ)
54 死ぬときは 迎えに来てねと 言った妻 還暦越えたら もう時効かな (ぢ)
55 そのはてに のこるは何と 問ふな説くな 墓にマスクは 着せられぬゆえ (ぢ)
56 水妖との 恋はみのらぬもの けれど 夢見てしまふ いつか地上へ、と (さ)
57 白妙の 衣まといし 花乃嫁 豊作願いて 木に吊るされぬ (ぢ)
58 人 車 あまた行き交う 橋の上 地蔵が増えた 僕死んだ後 (ぢ)
59 謎の声に 夜ごと誘はれ 踏切へ 向かへば むかし手にかけし妻 (さ)

60 七度目の ループなのよと 笑ふ妻 愛し愛され 殺し殺され (さ)
61 ヒトガタに 恨みを込めて 釘を打つ 見られたからにゃ おまえが代わり (ま)
62 帰り道 笑う誰かと目が合った 今は窓の外で揺れている (ま)
63 雨ざらしの 花嫁衣裳 豊作を 願ひしは誰?と 責めつづけをり (さ)
64 先の見ゑぬ 橋のむかふは 異世界か 妖怪どもが 行きて戻りて (さ)
65 流星雨 見上げる君の 横顔を 目に焼き付ける 滅亡の朝 (ぢ)
66 丑の刻参りの 足に赤き靴 かろやかにゆく 先見ゑずとも (さ)
67 ばうばうと 吠ゑつつ笑ふ 犬神に 囲まれ部屋の 窓開けられぬ (さ)
68 人間は辛かろう ほら噛んでやろ 昼寝夜遊び ゾンビはいいぞ (ま)
69 盆終わり うっかりさんな 母のため 茄子につけるは 自動運転 (ま)

70 目をすがめ 歪なままで 双生児 私を見ては ただあざ笑う (ま)
71 剣山を 耳に当てれば 罪人の 呻き苦しむ 声が聞こえる (ま)
72 流れ星へ ねがふは 君との一瞬が 永遠になること 首絞めながら (さ)
73 廃屋の 床傾ぎゐて ビー玉を 転がし遊ぶ ゾンビ幼し (さ)
74 初盆が 終はれど戻れぬ 母のための 施餓鬼会(せがきえ) マスクも並べて供養 (さ)
75 カタカタと 家鳴り日増しに 増えてゆく 眠れぬ夜毎 憑き物太る (ぢ)
76 双生児の 姉妹が 古き鏡向け 母の背中へ 呪詛書き入れぬ (さ)
77 真夜中に 合はせ鏡を 覗き込めば 剣山のうへ わたくしがゐて (さ)
78 馬肥ゆる 季節のまへに われ肥ゆる 夏 守宮(やもり)まで かくも素早し (さ)
79 御大を 偲びて辿る 400間 境港は 夜なお楽し (ぢ)

80 背後から 引っ張られている 心地して 振り向く今度は 唇がいた (お)
81 ここからは 運賃変わると アナウンス 鳥居の先へと 消えゆく鉄路 (ぢ)
82 アマビエの 再来ねがふ この世情を 水木ロードの 像ら笑ふか (さ)
83 悪行の 罰は あたまのうしろにも ぱつくり開く くちびる、歯、舌 (さ)
84 井戸端に たたずむ女 数かぞえ 欠け皿に書く 怪談短歌 (ぢ)
85 夏休み 蔵で見つけた 地図の場所 掘って見つけた 婚約指輪 (骨つき) (ぢ)
86 冒険の つもりが掘れば 肝試し 白骨の横に 父倒れゐて (さ)
87 蝉しぐれ 拾ひし帽子の 黒きしみに 気づゐて 昏き夏が始まる (さ)
88 はかなさが 好きなのと君 微笑んで 線香花火 もう首落ちる (ぢ)
89 異世界に 転生希望らしいけど 地獄も十分 異世界でしょう? (お)

90 まなうらに 線香花火の かがやきが 残りて 人のはかなき寿命 (さ)
91 異世界にて 勇者となりたし 叫べども 男は地獄の 釜へ沈みぬ (さ)
92 墓石に 被せられしは 手づくりのマスク 花柄が 晴れ着にも見ゑ (さ)
93 義母の手記 盗み開いた ページから 呪いの文字が 虫と化し散る (ぢ)
94 お菊らの 井戸端会議も マスク越し コロナの風は 異界へ及ぶ (さ)
95 虫となりし 呪詛は四方へ 広がれど 我が家の守宮(やもり) 義母より強し (さ)
96 かき氷 赤いシロップ 滴らせ 5歳で消えた 妹の味 (ぢ)
97 「聞こえてる?」「聞こえているよ」 「見えている?」「いや、見えないな」 「美味しかったよ」 (ぢ)
98 あの日より 食べられぬ味 かき氷 母が殺せし いもうと思ふ (さ)
99 きゃうだいに 拾はれし骨 薄く細く テーブルの下の いもうとの墓 (さ)

100 なにもない場所でしきりに警告す 無機質の眼は なにを見たのか (お)
101 猫たちに 誘われ迷い込んだ街 一面に 咲くは逆さの しなばそう (お)
102 警告音 鳴らしてけふも この辻を 通れど 千年まへの いくさ場 (さ)
103 いにしへの 戦場も 田舎町になり 令和の盛夏 信号は青 (さ)
104 蝉のこゑ 煩し けれど ビル街の 何処にも蝉の すがたは見えぬ (さ)
105 肉親への 怨みつらみは 血見るまで 止まぬものなり 世界の神話 (さ)
106 迫害を 受けたる民の すさまじきは 同族殺しの過去 野の百合 (さ)
107 火で焼いて 水に流して 塩撒いて お札貼っても そこにいる君 (ぢ)
108 城落ちて 死体を捨てた 井戸の中 盆の時だけ 水澄み渡る (ぢ)
109 泣きさうな 顔の迷子は 藁草履 ひきづり歩く 遊園地跡 (さ)

110 にぎにぎしく 猫集会が 始まりて 二本目の尾を 揺らす新入り (さ)
111 鈴鳴らす 猫に誘はれ 路地ゆけば いちめんのあか 古き刑場 (さ)
112 雷光が フラッシュとなり 網膜に 焼きつけられし 君のすがたは (さ)
113 恨み込め 出刃包丁で 首を刺す 笑うあなたは 霊感皆無 (ぢ)
114 金色の スズメは逃がせ いじめれば 送り狼 後ろに迫る (ぢ)
115 曽祖父の 形見の眼鏡 かけて見る セピア色した 平楽寺書店 (ぢ)
116  逆さまに 吊られ死したる 僧文是 あやかしどもも この名を恐れむ (お)
117 落とされし 城の井戸にて 四百年 待ちたる妻は 桃山小袖 (さ)
118 戦国の 世に落城は 多けれど 血の雨止まぬ 八王子城 (さ)
119 アイリングの 青鮮やかに 夏鳥が 飛ぶ 八王子城址の森を (さ)

120 霊感の なさを笑へる 友の首に 残りし指の跡は 血のいろ (さ)
121 君に似た 写真の顔を 塗りつぶす 夕餉の魚 ひどく焦げてる (ぢ)
122 ひまわりの 影が 灼けつく石畳 打ち水すれば 亡き人を見る (ぢ)
123 山道を 歩けば 送り狼の 足音消ゑず ただ、ひたひたと (さ)
124 曾祖父の ひいきの書店 セピア色の 写真はとほき 夏伝へをり (さ)
125 あやかしに 恐れられしは 僧文是 悪意が次の 怪談を産む (さ)
126 温泉の 名前の由来 面白く 聞いているうち 骨まで溶けた (ぢ)
127 たそがれの 光ゆらめき 教室に ふたすじ開く 涅槃への道 (お)
128 明日よりは 独り暮らしと 心憂く 母の狂笑 止まらない夜 (お)
129 薔薇ノ木ニ 紅キ薔薇サク。ナニゴトノ不思議ナケレド。君埋メシ夏 (ぢ)

130 長旅に 疲れし僕を 出迎える 海に沈みし 故郷の友ら (ぢ)
131 現世へと キュウリの龍の背に乗って 乗ってわかった これかなり酔う (ま)
132 怪しげな 談笑聞こえる 短夜に 歌姫隠す 村外れの木 (ぢ)
133 文豪の 愛用の筆 今もなお 言の葉綴る 延びゆく毛先 (ぢ)
134 ひとくちで 燃え尽きるとぞ 火竜そば 忌みしその名を 十度唱えよ (お)

■怪談短歌村9(2022)

1 身に覚えなき文字並ぶパソコンの検索履歴「記憶の消し方」 (浮)
2 夜更けて シャッターがみな 開きだす 今宵開幕 あやかしの市 (にゃ)
3 見切り品 買ってないのに 憑いてくる ナマモノだけに 足が早くて (浮)
4 盆の海 ひねもすのたり のたくるぞ 波のまにまに 黄泉路覗かせ (にゃ)
5 手に取ったスマホ待ち受け画面には 自分の顔と 信じるなの文字 (にゃ)

6 踊り場を塞ぐ紙 ただただ叩く403の彼の名を名を名ヲ (キ)
7 我の息 沈めて閑か 蛇ヶ淵 捨てろ捨てろと まだ足りぬらし (キ)
8 憂鬱な4限途中の青空に ああ今日もあの子が落ちていく (い)
9 悩み事 聞いてあげたい だって俺 ずっとここから 離れられない (浮)
10 ストーカー、いなくなったと聞きました 次はお札が入り用でしょう? (にゃ)

11 いつになく 人が残った バス終点 降りる背で聞く「いってらっしゃい」 (にゃ)
12 色褪せた 婚礼写真 白無垢の 祖母と立つ人 今年も違う (浮)
13 茄子の牛 私にそっと手渡して「また来年ね」と母が笑う (い)
14 来世では猫になるのという君は知らずや夜ごと油を舐める (浮)
15 来年は これ作ってねと 写真出す キュウリのハーレーダビッドソン (にゃ)

16 店先で 怪異入荷の お知らせを見つけたあなた。ついていますね (にゃ)
17 謎解きの 最終問題 絶壁に 並んだ靴と 解答用紙 (浮)
18 血に染まる シンクを流す 夜明け前 吸血鬼なのに 歯槽膿漏 (キ)
19 親不知 越路の磯の 引き波の 小さき指や歯 足首を剥ぐ (キ)
20 薔薇ノ木ニ 薔薇ノ花サク。ナニゴトノ不思議ナケレド。薔薇 君ヲ食ウ。 (浮)

21 月影に 躍る遊び女 麗しき 足元見れば 揺れる尾の影 (浮)
22 おじいさん 「呪い」と書いた いつまでも 妻が「あっち」に行かないように (い)
23 棚の隅 魔女とオバケのクッキーが「気が早いね」とくすくす笑う (い)
24 楽しみにしてたクッキー 期限切れ 住人ともども 気づかれないまま (浮)
25 おまえさん さっさと来いよと 歯医者言う タダで銀歯をいれてやるから (にゃ)

26 いつまでも 百物語が終わらない 燭の灯りが 増えゆくばかり (にゃ)
27 堤防の先で子供の遊ぶ声雨の夜だけ聞こえるという (浮)
28 旧校舎 見知らぬ誰か 揺れ招く 今は校舎も 無いというのに (にゃ)
29 望月の いや愛づらしき 汝が胸に いざやうずめん 牙の白きを (にゃ)
30 呪い歌 書き連ねたる 短冊を 何度捨てても また舞い戻る (浮)

31 この歌は反故にせよとの遺言を破りて貼れど はや消えかかる (浮)
32 懐かれて 飼うしかないと 笑うけど 君にはそれが 猫に見えるの ? (浮)
33 歓迎か 胡桃、団栗、毬栗の やたら降り来る 墓参りかな (キ)
34 四辻で これは猫です 懐く尾の目が猫はいますよろしくお願いします (キ)
35 怖い夢 見たと起き泣く 幼子を 抱き寄せあやす 「こんな顔かい」 (浮)

36 あやかしを殺し殺して山一つ 殺し足りぬと怪異が一つ (い)
37 廃屋を 緑に包む 蔦の根も 生えぬ白壁 人の形に (にゃ)
38 空池に魚模様の猫ぽつり 水音がして、魚は消えた (い)
39 夏休み 親戚の子らが 集まると 必ず誰かと 入れ替わる僕
(浮)
40 猫の目は 怪しを映すと 言うけれど 嘘ね。あの子は見てくれないもの (にゃ)

41 どんぶらこ 拾った赤子の ふとももに むかし流した 児と同じ痣 (浮)
42 かえりみち きらきらひかる ほしたちが どこへにげても わたしをみてる (い)
43 おや雨か 手のひら落ちた 一滴が どろりと赤い 空を見上げた (い)
44 おにぎらず 「鬼斬らず」とは 縁起良し 地獄の鬼に 今 大人気 (浮)
45 してみたい ? 店外デート それならば あの札剥がして ?  キャバ嬢ねだる (浮)

46 桜散る 中にのみ見ゆ 君慕い 春を数えて われ苔むしぬ (浮)
47 ドローンが 操作無視して 飛んでゆく セント・エルモの火を引き連れて (浮)
48 コーヒーの 冷えゆく盆の 二人席 ふと香りける ”君が見た光” (キ)
49 醒むれど 身に覚えなき 筐の中 人型が笑む「履歴を消去」 (キ)
50 ツナ缶の 油きる指 汚れたと 舌這わす瞳の けだものの金 (キ)

51 竹の子を 埋めたと言わる 庭燈篭 甘くて丸い きのこが生える (キ)
52 甘いのは 香りだけだよ そのきのこ とまった虫が そのままとける (浮)
53 次の旅 連れてゆく子はひとりだけ 手荷物制限 厳しLCC (浮)
54 人ならぬ ものと知りせど 止められぬ 沼にはまりし 心浮き立つ (浮)
55 暴風雨 吹き荒れる中 煌々と 霊見送るは 大文字の火 (い)

56 繰り返す どうせここから 逃げられぬ さあ次の人 これが░▓▒つ目 (い)
57 如何なるや 祖霊導く 送り火は 右を左へ 惑わす大の字 (浮)
58 これほどに 盛大なれば 宇宙にも 届けよ そうだ 京都、行こう。 (浮)
59 作ったと ドヤ顔の母が 持ってきた なんと実際にタイヤが動く (い)
60 待ち合わせ いつも必ず 井戸のそば あなたは何も聞かないけれど (浮)

61 絶世の美女にそぐわぬ 太い脚 服を脱がせば トラツグミ鳴く (浮)
62 いつからか 二つに増えた 大文字 たまに尻尾が はみ出てるとか (い)
63 このシチュー とても美味しく 出来たから またかってくる 琵琶湖の人魚 (キ)
64 視力には なんら問題ないけれど 見えすぎるので 眼鏡かけてる (浮)
65 澄んだ目と 褒めても彼女 憂い顔 事故の前なら みっつあったのよ (浮)

66 轢かれたる 獣のむくろ 一筋の 血の流れゆく 遙か彼方へ (にゃ)
67 見慣れない 降車ボタンのすぐ脇で 薄らと開いて 待つ扉かな (にゃ)
68 図書館の 本に挟まる 赤い紙 司書手作りの 魔除けのしおり (浮)
69 金魚鉢 猫の形に だらけゆく 夏終わりが もうすぐそこに (浮)
70 手術室 やっぱりやめると泣く患者 見物人が あまりに多く (キ)

71 目覚めると 口に広がる 鉄の味 寝床に散るは 獣の死骸 (い)
72 障子の目 手の目尻の目 親白眼 百目一つ目 あなたにも目 (にゃ)
73 花筏 よくよく見れば 浮く魚 僕のほか亡き 沈黙の春 (浮)
74 大将の おまかせ握り 酒虫と血鯛に河童 野髑髏 summon (浮)
75 サイコロを 転がし決めた 君だけど 目の中いれても痛くない好き (浮)

76 忘妻の 日と間違えて 締め出され ひとり避難所 猫又と飲む (浮)
77 「あの医者に 切る場所間違えられたのよ」「そうそう私も」「僕も」「ワシらも」 (にゃ)
78 五月蝿い!とナースコールも無視されて 覗いたカルテ「死亡退院」 (キ)
79 君笑う ふっと鳴き止む 秋の虫 気づいているよ ささがにの糸 (浮)
80 ここ切れと 外野わんわん 営業妨害 口ぬいあわせておきゃよかった (キ)

81 偲ぶれど 外に出にけり わが魂は 蓮台野まで 一息に飛ぶ (浮)
82 夏空の 蒼きと蝉の声が呼ぶ 我は窓開け 異世界へ飛ぶ (にゃ)
83 こわいねと 身を引き君は 消えるけど それも立派に 怪談だから (浮)
84 猫が鳴く 夏の終わりに猫が鳴く 亡者食いたし また来年と (にゃ)
85 野分過ぎ 白き面(おもて)で 猫が舞う どこか楽しげ 我も加わる (浮)
86 村閉じた 画面に怪異 写りなば いざや唱えよ あーさんさーご (にゃ)

■怪談短歌村10(2023)

1 満開の ひまわり畑 はしゃぐ子に レンズ向ければ 覗き込む花 (葵)
2 吊されて 揺れる言の葉 花の首 落ちて芽吹くは あやかしの種 (囲)
3 夜も更けて 道を無くした幼子の 背をじっと見る ひまわりの群れ (囲)
4 向日葵の 香りが誘う 迷い道 入りたる人 みな西を向く (葵)
5 夜来れば 双葉 牙剥き共食いす 間引き要らずの あやかしの芽よ (葵)
6 ひもすがら いかなる業を運びしや 最終バスに 蝉の降り積む (囲)
7 レンズ越し 連なる人の背を追えば 黄色の海へと合掌し行く (囲)
8 キャンプ場 遊ぶ子供の 声聞けば ぶらさがりし子も また揺るがるれ (葵)
9 よもすがら 箒で床を 突く僧は 空蝉などは 見ん見んという (葵)
10 あの歌が消えないのだと言う人の 背に口がある ああ歌っている (囲)
11 掃除機が 首持ち上げて ゴミ探す 俺は違うと 部屋逃げ回る (葵)
12 爪を切る パチパチパチと 爪を切る パチパチ短くなっていく指 (囲)
13 日暮れにて 帰る子供の 数欠けて 揺れる枝先 吊る影ふたつ (囲)
14 逃げ惑う さなかにふいと 鏡見る なんだとそうか、今おれはもう… (囲)
15 切った爪 すぐに焼かねば また伸びる もう目が生えた もう角裂けた (葵)
16 混浴に 美人がいると 飛び込めば たちまち凍る 雪女の湯  (葵)
17 ついてくる 三歩離れて 赤い靴 鏡の中まで 追いかけてくる (葵)
18 あなたとはいついつまでも離れずと 共に貫く この五寸釘 (葵)
19 「ようぼうず。今日もボウズか」と笑われた だって坊主が憑いてるんだもの (囲)
20 雨垂れの 雫や赤き 夕間暮れ またぽつぽつと 穴のあく顔 (葵)
21 夜目になお 赤き楓に 釘を打つ 呪い凝りて 丑みつ甘し (葵)
22 切るごとに 白くなりゆく 妻の顔 桜ばかりが 濃く染まりゆく (囲)
23 渚寄す 海月の背中 口々に 殺してと鳴く あのひとの顔 (囲)
24 曙や 赤き楓に 蝶集う 翅に髑髏の 紋を背負って (囲)
25 経文を 真鯛に変えた 名僧の 古き友らし この海坊主 (葵)
26 薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク。バラバラノ 手足接木シ 不思議ナク咲ク (葵)
27 大風に 花吹雪の濃く舞えば あの日のままに 君が消えゆく (囲)
28 ナニゴトノ不思議ナケレド 極マレバ 手指コボルル コボレテ芽吹ク (囲)
29 黒い蛆 蠢いている 部屋の隅 君への恋文 その成れの果て (葵)
30 どこかにはいるはず毛の無い雪男 これもちがうと 氷像倒す (囲)
31 無視されたわけではなくて君だけが見える人だと気づいたわたし (葵)
32 猫を飼う ちいさく丸くふわふわの 半分溶けた おそらく猫を (囲)
33 蛆どもの 羽虫となりて 飛んでいく 君の欠片を 世界に蒔きに (囲)
34 白波の 寄する渚に 今宵また 骨のかけらを 積む青い蟹 (葵)
35 怖い話 聞かせてくれる おばあちゃん 十年前から 床下にいる (葵)
36 天下る龍に愛されたと語り パチパチ爆ぜる 黒焦げの人 (葵)
37 後ろ首 ツンツンされる ふりむけば 壁いっぱいに 生えている指 (葵)
38 鳴く口に 貝を添えれば 唄となる 見世物小屋に ゆらりたゆたう (葵)
39 お土産を 持たせて見送り ふと気づく 俺に妹なんていないと (葵)
40 マンホール 落ちゆく私を待ち受けて 地蔵が笑う ごとごと笑う (囲)
41 その子二十 (生きていればね) 黒髪の 巻きつきし首 うつくしきかな (葵)
42 「出て行け」と 泣く子を外へ 突き出せば 足取り軽く 鬼走り来る (葵)
43 仏壇の中から腕が伸びてくる 伸びてかさなり 家中埋めた (囲)
44 かろかろと カエル鳴きおる 川の縁 河童隠るる 萱の刈り跡 (葵)
45 写真加工 クラスの中で 大流行 とても自然に 人間(ひと)に見えると (葵)
46 道端に 佇む女 足霞む 崖のところで 靴は脱いだと (葵)
47 萱失せて 我が行く末も 断ち消えぬ 六文銭を 埋めて消えん (囲)
48 図書館で 一番怖い 本探す 差し出す司書の 背中割れてる (葵)
49 海ならば そちらがいいと 薔薇の海 夏の終わりに 沈みゆく君 (囲)
最終更新:2023年08月25日 23:57