事実
537 名前: 名無しさん 投稿日: 2005/08/17(水) 18:16:33 [ l7IdhjOw ]
「もうすぐ・・・のはずですが」
広大な平原の上、独り言を言っている男が一人。
男は、古都ブルンネンシュティグを目指していた。地図も持たず、たった一つの情報だけを頼りに。
「ここからずっと南東に行きゃぁ、でっけぇ街が在ってよぉ。確か、名前は何て言ったかなぁ・・・」
今考えると自分でも呆れるが、その時はそのたった一言が天の声にも思えた。
酒場で隣のテーブルに座っていた酔っ払いから、偶然聞いたその言葉。
「あの!すみません、その街とは?」
思わず大声で、身を乗り出して聞いてしまった。
「お?おお、こっからよぉ、ずっと南東に行くんだ。そぉするとよぉ・・・」
「それは聞きました。街が在るというのは本当ですか?」
そう聞くと、酔っ払いは馬鹿にしたように答えた。
「あぁ?兄ちゃんよぉ、そりゃぁ広い大陸ですぜ?あるもんはありますよぉ」
しかし、今の状況で、そんな事は気にも留めなかった。
「それは確実なんですね?」
もう一度聞き返す。
「確実づらぁ」
最早、酔っ払いは呂律も回っていなかったが、それだけ聞ければ充分だった。
「(街が・・・街が在る!)」
男にとってはその事実は、カルチャーショックであった。
自分を育ててくれた養父母には、ここアリアンの他に、砂漠に村が一つあるだけで、
他の街や村は全て「赤い悪魔」が焼き尽くしてしまったと聞いていたから。
「(どうして、嘘を?)」
頭の中をそんな疑問が過ぎったが、今はここを抜け出したい衝動に駆られ、ひたすら走っていた。
長い間砂漠のモンスターを相手に武道の鍛錬を重ねてきた男にとって、狼や平原の蜘蛛など相手にはならなかった。
「・・・?蜘蛛達がまったくいない・・・」
男は奇妙な事に気づいた。そろそろ平原を離れ、森林地帯に移動しようとしている。
「と、いう事は、街に近づいているということ・・・かもしれない」
そう思うと、妙に足取りが軽くなる気がした。
そう。「気がした」のだ。
実際、足取りは重い。何故なら、日の照る砂漠を駆け抜け、平原の狼の群れを相手にし、そろそろ
体が限界を訴えてきているのだ。正直、泣き言の一つも言いたくなる。
「(・・・どうせ、これ以上生き延びようなどとは思いませんが)」
頭の中で、自問自答が堂々巡りをし、精神的にも不安定になってきている。
その時、風が吹き抜ける。気味が悪いくらい、涼しい風が。
「(そうだ、止まっては、いけない)」
追い風を受け、鉛のような足をまた一歩、動かした。
前々から、アリアンのような平和な都市で、一生を終える事だけは避けようと思っていた。
だが、養父母から教えられたことによって、それは妨げられていた。
でも、今は違う。教えられていた事実は、事実ではなかったから。確かに養父母は自分を大切にしてくれた。
しかし、嘘をついてまで、自分を外界へ触れさせないようにしていたのは何故?
そんな事を考えていたらいつの間にか、地面に突っ伏していた。
ツヅカナイ
最終更新:2008年07月07日 22:34