アットウィキロゴ

『Winter rolled round again.』


1

755 名前: LB 投稿日: 2005/09/06(火) 01:02:59 [ jBEiwBKc ]
 >>563-564 残滓
『Winter rolled round again.』

これで今日は2人目。今は昼、上出来かな。
母はうるさく言うが、最近出来た煌びやかな宿達との競り合いに勝つには強行手段もとるべきなのだ。
うんうん と自分で納得する。
ティアはいつもするように 二階の露台で寝転がっていた。ここは彼女のお気に入りの場所なのだった。
日向に照らされると、体に溜まり切った疲労が排出されるような気がするのだった。
しかしながら、目に馴染みきった青天の空を眺める顔は不満一色。
(…つまんない)
それは怠惰な日常への不満、単純な未知への渇望だった。
何代も前から続いているという家業の旅館経営は私を縛ってやまない。ぶちまけてしまえば うっとおしい。
昔はよく家族で 港町として有名なブリッジヘッドまで買出しに行ったり、動植物の狩りに出かけたりしていたのに。

「あーあー…楽しかったなぁ……………」
                                                           スベ
母が旅館経営という家業を私に押し付けようとしているのなら、かたや父は 家宝 とも言える特異な術を私に教えてくれた。
接待や簡単な料理なんかよりはずっと難しい物だったけども、強さとかそういうのを求める心があったから、決して苦ではなかったとティアは思う。
人間なら誰しもが望んでやまない 力 私のように確固たる目的、野望がないにせよ、いずれ手助けになるというもの。
しかしまぁ、宿を継がなければならない今の身の上のままでは、せいぜい護身程度にしかならない。
必ず…町を出て行って…何か大きい事を成し遂げてやる。
そう誓ったものの…父が病の床に伏している今、その決断は揺らぐばかりであった。
症状は重く、完治にはかなりの時間を要する、ということらしい…

「あー天使様だーー」

憂鬱からその声で覚め、身を横に返せば、眼下――噴水付近で子供達がはしゃいでいる様子が見えた。
天使を見るぐらい…もうどうしたものでもないというのに…そんな事で大喜びできる子供はずるい。
――それに。
天使に対する評価は断定的に言えば嫌いだった。
三日前ほどだったか、客の一行の中にいた天使が、母にセクハラを働いた件(当然、母自身がぶっとばした)も勿論許せないが。
父が天使を避ける素振りを見せる、それが理由で、それが何よりも苦痛だった。
畏怖と言ってもいい、天使を一目見るだけであのしなやかな父の笑みは凍りつき、苦痛に耐える様に顔を強張らせる。
酷い時は自室に篭り、何かを呻き始め、しばらく出てこない有様だった。頭を抱え、許しを請うように。
普段誰に対しても人当たりが良く、大事には必ず自より他を気遣い、行動するあの父が――天使にどのような仕打ちをされ、父をあそこまで追い詰めたのかを思うと、侮蔑の意識が湧き上がってくるのは仕方が無い。

そういえば、と町を見渡して疑問を抱く。いつも通り多くの人々の喧騒の中、今日は天使が極端に多い気がする。
迷惑だ、とティアは思った。こんな様、父には見せられない。折角の快晴なのに、父を外に連れ出すことが出来ない。
罵声を浴びせかけてやりたかった。彼らが悪いわけではないのは勿論承知している。矛先を向けるのはおかしいと分かっている。
それでも日々募る様々な不満と葛藤は限界を迎え始めていた、爆発は近い。
ならば、全部吐き出すまで。その場所は決まっていた。

2

756 名前: LB 投稿日: 2005/09/06(火) 01:03:46 [ jBEiwBKc ]
当館で最も誇れる物、それは町の東南に聳える山脈から引いてきたという温泉、通称…………残念ながら忘れてしまったが。
とにかく、ハノブ産の高級大理石を所々にあしらったらしい浴槽は、毎日掃除していると艶めかしい光沢が目に付く。
浸かっているだけで…………何と言えばいいか、そう、優越な気分に。これを作った先人はきっと偉大な方だったに違いない、うん。
意気揚々と、タオルと石鹸片手に廊下を駆ける。自室から数歩先の階段を下り、右折。
途中、特に懇意の女性従業員と鉢合わせた。
彼女がこちらの様子を見るやいなや――右手の親指を上にあげて ニカッっと眩しい笑みを見せ付けてくれた。
こちらもそれに呼応し、同じ動作をする。うん、なんと素晴らしき意思伝達の速さ。
後はのれんをくぐり、窮屈な着物をロッカーに叩き込む。石鹸をタオルに包み、ひとまず洗面所へ。
傍の体重計に乗る………………ぎりぎり想定範囲内だ。
浴場の扉を、ゆるりと空け、目標を中央の大きな浴槽に定める。

「あ」

………………合ってはならない人影が、そこにあった。
ちゃんと入り口には途中で会った彼女のグーサインが示した通り、"清掃中"の掛札がかかっていたし、母はまだ別の準備に勤しんでいるはずだったから、他人が入っているわけが無い、なのに。
ウェーブの掛かった、僅かに黒みのある、焼けて溶け出した鉄の様な真っ赤な髪が、浴槽の外へと垂れていた。
肩の下まで湯船に浸かっていて、よく分からないが華美な女性なのだろうと思う。
だがこれでは、と追い出しを図る、今は一人で入りたい。

「すいませーん、もうすぐ清掃の時間になるので上がってくださーい!」

その人がこちらを振り向き、言葉を返すのと、こちらが悲鳴を上げるのは同時だった。

「おや、それはそれは…すぐに終わらせるから待ってもらいたい」
「お…おとこぉぉぉおお!?」

前髪も長いようで、顔の半分が見えなかったが、響きの良いテノールが帰ってきた。何ということだ、おのれぇ。一人風呂を邪魔した挙句、男である身で女風呂に進入するとは。
備え付けのバスローブを体に巻き付け、洗面器を二枚重ねて右手に携える。腰を落として抜刀の構え、そこから居合い抜きの動きで、洗面器をリリース。
放たれたそれは、左からこちらへ振り向いた相手の逆、右へ弧を描いて飛んだ。
すこーん、と良い音を立て、洗面器はその後頭部に直撃、彼はそのまま湯の中へ顔を埋め、沈んでいった。

人々の吐いた息が、白い もや となって、残留し始めた。
空は青天から一変、陰りの色を見せ始めた、雲による覆い。
同時、白の点が、空から舞い降りる。ブルンに初雪が到来したのだった。
その雪と共に、訪れた二つの影と一つの光。

「ようやく…迎えることが出来ます。もう二度と離さない……絶対に。あぁ…私の大切な…宝物……」

光は語り、標的へ走る。影はただ追従を。


<前   ▲戻   次>

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年07月08日 22:25