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第一話「家出娘は冒険者?」


1

891 名前: 名無しさん 投稿日: 2005/09/20(火) 22:29:22 [ b6Gnz/6I ]
他人もすなるSSといふものを我もしてみむとてするなり
と言うわけで投下~



一口に冒険者といっても、さまざまな人種がいる。

 己が身を盾に、ひたすら仲間を護らんとする剣士がいれば、決して敵と刃を交えず、ただひたすらにアイテムを拾うことに執念を燃やす剣士が。
 仲間の剣に炎の力を与え、さらには凍れる一撃で敵を葬る魔術師がいれば、わざわざ初心者用ダンジョンにやってきてメテオを撃ち込み、「俺様tueeeee!!」を誇示する者。
 昏き復讐に身を焦がすものもいれば、友達に誘われて始めてみました♪と言う冒険者も。

 この物語は、ちょっと変わった二人組の冒険者の物語。



 古都ブランネンシュルグと鉱山街ハノブ、神聖都市アウグスタをつなぐ東プラトン街道。
 普段なら隊商たちや乗合馬車の行き交うはずが、しかし今日に限ってはほとんどそれらの姿は見られない。

 代わりにいるのは、伝統的なロマの衣装に身を包んだ一人の少女だ。
 歳は十代の後半くらいか。
 ややくすんだ金髪を窮屈そうにフードに押し込め、手には簡素な横笛。
 胸元には犬笛に似た意匠のペンダント。そして耳には不思議な光を放つ輝石のイヤリング。

 ビーストテイマーか、サマナーと呼ばれる冒険者に間違いない。


 ――うぉんうぉんうぉん

 生理的嫌悪感を呼び起こす無数の蟲の羽音。
 少女を取り囲んでいる蜂の群れのものだ。

 これが、街道に人気のない理由。
 普段なら森の奥に生息するはずの殺人蜂の群れが、なぜか街道付近に巣を作ってしまった。

 そして、これを排除するために呼ばれたのが冒険者の彼女、フィーナだ。


 ――ぅおんっ!

 羽音がいっそう高まり、蜂の一群がフィーナを襲う。
 だが、彼女はひるむことなく、構えた笛で蜂の群れを指し示し、

「Ha――h!」

 鋭い呼気とともに気合が迸る。
 と同時、彼女の傍らから飛び上がった影が、蜂の群れを吹き散らす。

 渦巻く嵐。止まらぬ風。生きた竜巻。
 ウィンディと呼ばれる風の精霊だ。

 ウィンディはフィーナの攻撃命令を受け、蜂の群れを一気に吹き散らす。
 優れた剣士や槍使いの手を煩わせる蟲の群れも、吹き荒れる疾風の中では無力。
 たちまちのうちに切り刻まれ、地面へと落ちる。

 そして、蜂の群れをウィンディに任せ、フィーナが走る。
 例え働き蜂を仕留めた所で、すぐに沸いてくる。
 確実なのは、元から断つこと。

「見つけたっ!」

 大の大人でも抱えきれないほどに大きな、殺人蜂の巣。
 彼女の接近に気づき、さらなる蜂の群れが巣から飛び出してくる。

 フィーナは不敵に微笑み、手にした笛を唇に当てた。
 渓谷を吹き抜ける風のような清冽な旋律が響き、蜂の群れを吹き払う。

 そして、いつの間にか彼女の傍らには、燃え盛る炎の犬、ケルビーの姿。

「Ya――、Hah!」

 彼女の声に合わせ、ケルビーの尾から炎が放たれる。
 放たれた炎は狙いを外すことなく巣に突き刺さり、炎上させる。

「Yes!」

 いまだ尾に炎を燈すケルビーと、そして蜂の群れを追い払ったウィンディを足元に従え、フィーナは誇らしげにポーズを決める。

 と、視界の隅でがさりと茂みがゆれる。

「ん、まだいた? ――ケルビーっ!」

 再び炎玉が放たれる。
 命中地点から聞こえる、鈍い吼声。

「え――吼声?」

 茂みを掻き分け、現れたのは――

「く、くくく――!?」

 一撃で巨岩すら打ち砕く、3ヤードを越える巨体。
 その名は、キングベア―。

「クマ――――っ!!」

2

892 名前: 名無しさん 投稿日: 2005/09/20(火) 22:29:59 [ b6Gnz/6I ]
 後頭部に焦げ目をつくり、怒りに燃えた瞳でこちらを睨みつける。

 蜂蜜は熊の大好物だ。
 おそらく、先ほどの蜂の巣を狙っていたのだろう。
 だがそれを彼女が燃やし、さらには熊自身にまで一撃を加えてしまった。
 さすがに怒りもするだろう。

「えへへ……」

 可愛く笑ってごまかそうとするが、

 ――グァァァッッ!!

「やっぱ、許してくれないよねぇ~~っ!」

 脱兎。
 そんな形容詞が似合うような見事な逃げっぷり。

 だが、怒りに震える熊は彼女を逃がしはしない。
 吼声をあげ、地響きすら立てながらフィーナの後を追う。

「も、もう駄目ぇ~~っ!?」

 熊の爪が、逃げる彼女の背中をかすめる。
 その瞬間。

「ふっ!」

 翻るスカート。
 旋風のごとき回し蹴りが熊の側頭部に突き刺さり、1トン近いはずの巨体が大きく仰け反る。

「お嬢様、ご無事でしたか?」

 枝毛一つない栗色の髪に、頭を飾るホワイトプリム。
 エプロンドレス姿も美しい、その姿は正当なブランネンシュルグ系メイドの姿だ。

「ミーア、ナイスタイミング!」

 フィーナの顔が、ぱっと明るくなる。

「ええ。メイドですから」

 微妙に答えになっていないが。

「普段は路傍の石の如く気配を消し、されど主が求めし時は常にその傍らに。それがメイドたる者の務めです」

 ミーアの蹴りに大きく仰け反った熊が、しかし大したダメージも無かったかのように起き上がり、こちらを睨む。
 ミーアも負けじと睨み返し、構えを取る。

「わたくしが食い止めている間に、お嬢様はお逃げください」
「でも、私の足じゃすぐに追いつかれちゃう……」

 フィーナの言葉に、ミーアは笑みを浮かべ、

「お嬢様がそこに連れているのは何ですか?」
「あ……」

 言われて思い出す。
 火犬、ケルビーの持つ能力を。

「さぁ、わかったのなら早く。わたくしもすぐにまいりますわ」

 こくりと頷く。

「ミーア、気をつけて。――ケルビー、行くよっ!」

 フィーナがケルビーの背に飛び乗る。
 彼女を背に乗せたケルビーは一声唸ると、すさまじい速度で走り出す。

 主人が走り去っていったのを確認し、ミーアは改めて熊と対峙する。

「たとえ主が見ていなくとも、常に奉仕は全力で。不肖ミーア=ウェズリー、お相手させていただきますね」

 そして、キングベアーの咆哮が街道に響き渡った――

3

897 名前: 891-893 投稿日: 2005/09/21(水) 12:43:34 [ Uoh8ZGD2 ]
 まさに、風を切るように走る。
 フィーナは、ケルビーに乗って走るときのこの感覚が好きだった。

 初めてケルビーを呼び出したときは、嬉しくて思わず鉄の道付近まで走っていったものだ。

 帰りに道に迷ってしまい、途方に暮れていた時、名前を呼んだらすぐにミーアが駆けつけてくれた。
 なぜ? と問うフィーナに、彼女はいつものように笑みを浮かべ、「メイドですから」と答えてくれた。

 だから、大丈夫。
 ミーアは絶対にいなくなったりしない。
 たとえキングベアーが相手でも。

 後方からはいまだに熊の吼声が聞こえる。
 本当に、大丈夫だろうか。
 かなり高レベルの冒険者でも、キングベアー相手には苦戦するという。
 ひょっとしたら、いくら彼女でも……

 恐ろしい想像が脳裏をよぎり、フィーナは後ろを振り返る。
 そこには誰の姿もない。

 引き返そうか。今ならまだ間に合うかもしれない。
 そう思って、ケルビーに引き返すよう命令しようとした時だ。

「お嬢様、戻ると危ないですよ」

 聞きなれた声。
 ふと横を見れば、見慣れたメイド姿が併走していた。

「み、ミーア!! いつの間に!?」
「メイドですから」

 恐らく、フィーナを乗せている状態でもケルビーの速度は時速20マイルを越える。
 それと併走していることも驚嘆に値するが、何よりいつの間に追いついたのかも気になるところだ。
 だが、そんな些細な疑問より、彼女が無事だったことが嬉しかった。

「足止めはしましたけど、まだ諦めていないみたいです。とにかく、がんばって逃げきりましょう」

 ミーアの言葉に笑って頷き、さらに速度を上げる。
 ミーアも相変わらず涼しい顔でそれに追いつく。
 後方からの熊の気配は近づきもせず遠ざかりもせずといったところか。

 と、前方からこちらに歩いてくる人の姿。
 魔術師とウルフマンの二人連れだ。

 声をかけなきゃ、と思ったときにはすでにすれ違っていた。

「「あ……」」

 フィーナとミーア、二人の声がハモる。
 そして直後。

『うは、ありえねw 何でクマww』
『リザよろwwww』

 そんな声が周囲に響く。
 どうやら、不運な二人に八つ当たりしてクマの気も済んだらしい。
 森が再び静寂に包まれる。

 フィーナたちは、ゆっくりと立ち止まり、顔を見合わせる。

「ね、ミーア。これってMPK?」
「……不可抗力ではないでしょうか?」


――――続きますっ


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最終更新:2008年07月21日 22:00