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サーヴェリー姉妹-19


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905 名前: FAT 投稿日: 2005/09/23(金) 09:37:24 [ sA2y8tm. ]

いつものように歯を磨き、顔を洗って髪を梳かす。後頭部の脱毛症
はフプレと再開してから少しずつではあるが直ってきている。それ
でも髪全体のバランスを考えると明らかにそこだけが短すぎたので
昨日、思い切って肩まであった髪をばっさりと切り落とし、うなじ
や耳を隠さないくらいに短くしてみた。やや短くし過ぎた感はある
がおどおどしながらフードを深くかぶり続けるよりは大分ましだ。

「いらっしゃいませぇ~!お客様お一人ですか?カウンター席へど
うぞ~!」
「お待たせいたしました、スッポンとサソリ肉の甘辛煮込みになり
ます。ご注文は以上でよろしかったですか?ごゆっくりどうぞ!!」

私は今・・・

ブルネンシュティグの繁華街にある人気の料理店“カタトニア”で
働いている。専ら接客をしているのだが、これが意外と楽しい。普
段あまり社交的でない自分が仕事という力を借り、見知らぬ人と笑
顔で言葉を交わせる。ここに来れば、自分が変われる。それがいつ
からか楽しみになっていた。
「フランちゃん、髪の毛切ったんだね、ショートカットの君も愛し
てるよ。」
「フランちゃん、今日仕事終わったら遊びに行かない?え、予定が
あるの?忙しい人だなぁ、フランちゃんは。」

「フラン、あなた大人気ね。」
クレナは“ぴくっこの皮つけ麺”を口に流し込み、いやらしく顔を
覗き込んでくる。
私が恥ずかしそうに顔に手を当てると「そういうのが効くんだ。」と
マネし始め、二人して笑った。

おもむろに、クレナはフォークを置くと私を挑戦的な目で見る。
「ウェイトレスさん、この料理ってどういうものなのかしら?説明
していただける?」
私を試そうとしているのかしら?ふふ、甘いわよ。
「はい、この料理はシンクさんが仕入れてくれる新鮮なぴくっこの
血を抜き、残った皮を細く切り、麺状にし、茹でたものを先程抜き
ました血に秘伝のタレを加えたものにつけて召し上がっていただく
ものです。」
「わぁ、すごいわねフラン。ただちやほやされてるだけじゃないん
だね。」
 ・・・最近気付いたが、彼女の発言には皮肉っぽさが多分に含まれ
ていることが多い。まぁ、本人は自覚していないのだろうけど。

仕事を終え、クレナを引き連れてブルネンシュティグ自警軍の罪人
収容所に向かう。この一角にある小奇麗な建物、通称“秘密の花園”
にこの数ヶ月間、私は通い詰めている。中へ入るといつものように
幻覚に脅えてわめいている人や、虚ろな目をしてぶつぶつと独り言
を言う人や、暴れて辺りにあるものを手当たりしだいに投げつける
人などがゆったりとした大広間に所狭しと溢れかえっている。

 ・・・この“秘密の花園”は精神異常により犯罪を犯した者を収容
するための施設だ。ここ、ブルネンシュティグでは精神異常者と認
められれば、罪が軽くなり、更に、その治療まで無料で施してくれ
る。もちろん精神異常者を装った者には厳しい処罰が待っているわ
けだが。

2

906 名前: FAT 投稿日: 2005/09/23(金) 09:38:23 [ sA2y8tm. ]
様々な物が飛び交う中をくぐり抜け、奥の通路に出る。治療が無料
なのはいいが人手が足りず、ほとんど手放し状態では意味がないの
では?と思ってしまう。
その通路をひたすら奥へと進んで行くと自警軍の兵が二人、鉄の扉
の前で門番をしている。
「ご苦労様です。」
「あ、フランさん、こんにちは。おや、今日はクレナ様もご一緒で
すか。」
様付けされたクレナは照れた顔で
「やめてくださいよ~、私はお兄ちゃんみたいに偉くないんですか
ら」と抗議した。
「まぁ、我々にとっては同じことですから。それよりもどうぞお進
み下さい。レニィ様も既に面会されていますので。」
笑顔で門番は身を引くと、道を開けてくれた。

扉をくぐるとそこには牢屋が立ち並び、冷ややかな空気の中血走っ
た目をした者たちが部屋に侵入してきた私たちに対して敵意の眼差
しを向ける。

 ・・・ここは“秘密の花園”の中でも特に凶悪な犯罪を犯した者の
入る場所“奈落の園”と呼ばれている。牢に入っているものは皆通
常では死刑に相当するような罪を背負っている者ばかり。
そんな危険な空間の中で、明らかに他と比べて厳重に作られている
牢が一つだけあり、その牢は魔法仕込みの鉄格子で三重に囲まれ、
壁も魔法合金で作られている。掛けられている魔法は特殊な防具が
なければ触れただけでその部位は焼失してしまうほど強力なものだ。

ここに、レニィは居た。隣にはあの時の、青髪のガタイのいい大剣
をかついだ戦士も座っている。そして二人の前には・・・

「フラン!髪どうしたのよ?すっかり短くなっちゃって。あ、クレ
ナも来てくれたのね、ありがとう。」
数ヶ月に及ぶ牢屋暮らしで多少やつれてはいるものの、いつもの調
子のフプレは牢屋越しにではあるが嬉しそうに私とクレナに顔を向
けた。
「みんなが毎日来てくれるから全然退屈しないわ。ただ、ここから
出れたらもっといいんだけど・・・。」

 ・・・そうね、あなたがここに監禁されている必要は、もう無いも
のね・・・

悲しい目をしたフプレの横顔を見ながら、私はあの日のことを思い
出していた。


――小高い山の上に建ち、木々の生い茂る自然の中異様な存在感を
放つオート地下監獄。その側で私はフプレと再会した。いや、正確
に言えばシエルと初めて対面した。服は乾いた血の色で変色してお
り、全身が黒い赤褐色で染められていた。美しく、滑らかだった髪
もパサパサに痛んでしまっていた。そして、なにより変わってしま
っていたのは彼女の目つきだった。
監獄から彼女らが出てきたとき、私はそれが自分の片割れであると
いう事実を受け入れにくかった。それほどに彼女の放つ悪意は凄ま
じく、つりあがった目と眉は私の知るフプレのそれとかけ離れてい
た。
 ・・・そうだ、このときはまだ“フプレ”ではなく“シエル”だっ
たんだ。
彼女は私を認識すると“フプレ”に戻った。ようやく“フプレ”と
再開できた私は自警軍が駆けつけるまでの間、彼女を抱きしめ続け
た。

その後自警軍により連行されたフプレは精神鑑定を受け、シエルの
存在が発覚した。このことは私にとってとてつもないショックを与
えた。
なぜ?いつ?どこで?だれが?・・・私にはフプレが二重人格にな
ってしまったわけが分からなかった。二重人格というのは、そのほ
とんどの例が幼いころの虐待などによるストレスから生まれると言
われているが思い返してみても、様子がおかしかったことなんてな
かったし、ストレスを感じてしまうような家庭ではなかったはず。
となれば生まれつき二つの人格を持っていたのかしら?

3

907 名前: FAT 投稿日: 2005/09/23(金) 09:38:55 [ sA2y8tm. ]
結局、自警軍のほうでもその原因は掴めなかったようで、フプレは
再発の恐れありとの理由でこの堅強な牢に閉じ込められた。その期
限は半年。もし殺人の罪も加担されていたらこんな程度では済まな
かっただろうが、ここブルネンシュティグでは街の外であれば冒険
者を殺しても罪にならないので、今回はシエルの力を危険視しての
投獄だった。
この冒険者を殺しても罪にならないというのは昔から賛否両論ある
ようだが、毎日数十人の冒険者が死んでいるという事実から、その
全ての事件性を追及するのは無理だろう。傭兵という職業はよく、
その命を軽く見られるがブルネンシュティグでは冒険者は全員傭兵
という意識を持っていたほうがよいだろう。
その代わり、一般市民を殺した場合の罪は非常に重く、人一人で最
低三十年の監獄生活を余儀なくされる。そのためフローテックさん
のときのように、関わりのあるもの、疑わしいものは現場なり軍の
施設なりで詳しく事情聴取を行う。
また、冒険者と一般市民の区別についてだがこれはその人の稼ぎ方
による。一般に冒険者と呼ばれる人たちは人に頼まれた仕事をこな
したり、モンスターを狩りその戦利品を売りさばいたりして生計を
立てていて、それ以外の人や稼ぎの無い人を一般市民と呼んでいる。

牢に入ってから今まで、シエルが出てきたことは一度もない。フプ
レの精神状態も平常を保っているし、もう出所させてほしいという
のが本音。だがレニィを介しても刑期が縮まることはなかったので
こうして皆、暇さえあればフプレに会いに来ていた。

馴染みのメンバーの中、一人だけあまり面識のない人物がいた。

その人の名はジョーイ=ブレイズ

左目に龍印の眼帯をつけた青髪の戦士だ。あの日先陣を切ったメン
バーの中で唯一生き残ったつわもので、フプレが牢に入って数週間
経ったころからレニィに連れ立ってちょくちょく姿を見せるように
なり、最近では毎日通い詰めてくれている。
「なぜジョーイはフプレに会いにきてくれるの?」と聴いたところ、
「フプレではなく君に会いに来ているんだよ。」とからかわれた。
初めは、監獄で敵対したフプレに面会しにくるこの独眼の戦士を警
戒したが、しばらくすると彼の人柄を皆が認め、いつしか誰もが彼
を仲間だと認識するようになった。

中でもレニィはジョーイに対して並々ならぬ好奇心を抱いていた。
冗談の好きなジョーイはいつもくだらないことを言っては皆をシラ
ケさせたり、楽しませたりした。そんな明るい性格のジョーイだが、
ただ一つの淡青の瞳には悲しみや絶望といった負の色が、隠しきれ
ずに浮き彫りになっている。そんな相対する特徴を持ったジョーイ
のことを、レニィは深く知りたいと熱望した。自分は所謂エリート
というものでまだ挫折などというものは経験がない。言うならば生
きる上での痛みを知らないのだ。
レニィは考える。
自分はもしエリプトがあれば王になる存在だ。そして今、エリプト
を再興したいと思っている。
だが、こんな自分が王になれるのか?人の痛みが分かるのか?人の
苦しみが分かるのか?
 ・・・答えは否だろう。
今のままでは人間として未熟で、王の器ではない。だからこそ、こ
の陰を持った戦士を知りたいと思った。

そんなレニィの思いは通じ、この頃には肩を並べる良きパートナー
となっていた。


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最終更新:2008年07月21日 22:39