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オレはルリリバーの川河口で生まれ育った誇り高きゴブリン族。
アホ面下げて歩いてる呑気な人間どもを襲って、身ぐるみはいだりしながら生活してる。

そんなオレには最近ちょっとした悩みがある。他でもないオレの可愛い妹のことだ。
妹は最近妙な病にかかっちまった。すぐ治るだろうと高をくくってたけどそれから随分経つ。
あいつの体力がじわじわとなくなっていくのを見るのは、流石のオレも辛かった。

ここ最近は毎朝出てくる時に絶対外には出るなよって念押してんのに、それでも出てきて仕事(=追いはぎ)をしたがるやんちゃで可愛い妹。
ついさっきだっていつでも戦えるような格好で外を歩いてるのを発見して叱ったばかりだ。
「無理なんかしてないもん、病気なんかへっちゃらよ!私だってゴブリン族の戦士なんだから!」
って開き直ってぷーって頬を膨らませる姿は我が妹ながら可愛いと思ったが、そこで甘やかしちゃいけない。
「いいか、はっきり言って今のお前は足手まといだ、大人しく家に帰ってろ!オレの言うことちゃんと聞くんだぞ!」
ときつい言葉を投げて制した。
妹が悲しそうな顔したけど、ここで引いちゃならない。
病気になって体力が減っても頑張り続けようとするこいつのひたむきな姿を見たらオレだって応援してやりたくなる。けど、けど!
ここで妹の意思を尊重したら妹が無残にやられるような可能性がある限り、例え妹に疎まれてでも安全なところにいさせてやるのが兄の務めなんだ。

その日の夕方。
帰路を歩きながら、オレは妹の病気をどうにかする策はないのか?と考えていた。
そして考えながら家の前にたどり着くと、視界に入ってきた光景に思わず目を疑った。
妹が一割以下の体力を残して倒れていたのだ。
「おい!大丈夫か!!」
オレは驚いて、すぐさま駆け寄ってその体を抱きかかえた。
「お兄ちゃん…」
妹の息がすごく細くなってるのがわかった。
最期が近いと直感する。認めたくなんかないけど、オレの経験が物を言っていた。
「…私、さっき…人間に言われたの…ペットになったら治してあげるって。…でも拒み続けてこんなにされちゃった…」
オレの肩が強張る。人間のテイマーにペットにさせて治させる…それはこのオレもさっきまで少し考えてたことだった。
けど一度ペットになったらもう独立は出来ないって聞いたことがあったから、提案はしないでおこうとも思ってた。
「…よく頑張ったな」
髪を撫でてやると、妹は弱々しく笑いながら照れたような顔をした。
「だって…そしたらお兄ちゃんと離れ離れになっちゃうじゃない…。そんなのいやだもん」

その時だ、後ろから野犬の吼えるような声が聞こえてきたのは。
オレは慌てて振り返った。感傷的になってたせいで、気配に鈍感になってたらしい。
オレの背にぴったりとくっつくように、二人の人間の冒険者が立ってた。一人はごつい男、一人は狼男。
(……しまった、やられる……!)
とっさに妹を庇おうと抱きしめたオレの腕を、ごつい男がつかんだ。
「…っ離せ!」
「その子を診せてみろ、治せるかもしれない」
ごつい男は冷静な声で淡々と言った。
俺は思わず、「は?」と間抜けな声をあげた。

普段なら人間なんて視界にいるだけで攻撃対象だったけど、藁にもすがりたい状況だったから二人のやることを黙って見てた。
それにオレだって伊達に何年も前線にいるわけじゃない。
そいつが本気かからかってるのか見分ける目ぐらいはあるし、万が一怪しい動きでもあったらいつだって攻撃してやるつもりで見てた。
まず狼男が妹の体に憑依して体力の低下を止める。
ごつい男が憑依されたままの妹の体にフルヒールをかけて体力を回復させ、キュアで病原菌を殺す。
ついでにブレスとプレエビをかけた後、狼男が憑依をやめて妹に体の自由を返す。
それだけの手順で、妹はばっちり回復したようだった。
しばらくぱちぱちと不思議そうに瞬いていた妹は、立ち上がって軽く両手を動かすと実感が湧いてきたようで、飛び跳ねながら喜んだ。
「お兄ちゃん、今私すごく調子いいよ!橋の向こうのトライアングルにだって勝てそうな気がする!」
「それは言いすぎだろ」
オレはつっこみながら、顔が勝手に緩んでいくのを感じた。
「大丈夫そうですね」
狼男は満足気にそう言って、ごつい男に帰ろうという視線を送った。ごつい男も頷いてオレ達に背を向けた。
オレはとっさに口を開いた。
「いいのか?何も要求しなくて!…後悔するぞ!」
本当はありがとうって言いたかったけど、なんとなく素直になれなくてそんな言い方になった。
ごつい男は無表情で顔だけをこっちに向けて、
「物で釣られるような安い人間と一緒にしないでくれ。我々はそんな事の為に来たわけじゃない。これは我々が勝手にやったことだ」
と言い残すと、振り返りすらせずに狼男と共に去って行った。

後から風の噂で聞いた話じゃ、最初に妹をペットにしようとした人間は、病気の進んでる妹を見つけて放っておけなかったらしい。
でも妹のペットになりたくない意志が強くて自分じゃどうにもできないと悟ったそいつは、街に戻ってあの二人を呼んだんだそうだ。

後に、今回のブレスとプロエビがきっかけでここら一帯の誰より強くなった妹は、ゴブリンリーダーとしてルリリバーの川河口一体をしめるようになる。
そしてこの地域の全てのモンスターに、通過する人間を無差別に襲うことを徹底的に禁止する。
理由は言わずもがな。オレ達は人間もすてたもんじゃないことを知っているからだ。


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最終更新:2009年06月03日 20:46