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 私の名前はミルリス。
 昔、私がまだ何も知らなくて古都の人込みの中で静かに座っていた頃の話。
12月の暮だった、皆温かそうな格好で古都を徘徊し仲良さそうに喋っている風景が何時も当たり前に感じ始めてきたあの頃…私は一人ぼっちだった。
お金も無く、恋人もう奪われてから幾日が経っただろう…思い起こせば毎日ここで私は何かを考え何かを求めていたのかもしれない、今となっても私は同じ場所に座り続けている…あの人が帰ってくるまで…。

 11月の初め、私は一人古都の近くにある地下墓地へと仕事で出ていた。
夜な夜な古都周辺を徘徊しているマミーの生体調査及び徘徊の根源を突き止めて欲しいとの仕事だった。
当時の私は、まだ駆け出しの新米ランサー。右も左も分らない無力な傭兵。
 仕事を受け持ってから数日、古都で奇妙な噂を耳にした、それは周期的に町の子供達が行方不明になるということ。その調査を受け持っている一つのパーティーがあることを知り、私はその一人に話を伺う事にした。
「あの…」
そのパーティーは古都西口周辺を基点として活動をしている固定パーティーのようだった、戦士とランサーの二人組みのそのパーティーはすぐに分った。
「ん、君は?」
「私はマミーの生体調査を受け持っている新米ランサーです、少しお話しをお伺いしたいのですが…。」
彼の名前はベルスタッド、蒼髪で少し背の高い文字通りの戦士だった。腰に光る大きな大剣は綺麗に手入れされていていつでも戦闘状態に入れるほどの熟練度だと分る。
「君か、新米であの調査を受け持ったというランサーは…それで、話とは何かな?」
「最近、この町の子供達が行方不明になる事件についてです。少しお話しを伺いたいのですが…。」
彼は何もためらうことなく私に情報を流してくれた、事の発端は今から三週間ほど前…平凡な昼下がりだったという。五人で古都の西口を出たところでモンスター駆除の仕事を受け持っていたパーティーからの情報が最初だという。
突然聞こえた悲鳴、その直後に悲鳴が聞こえた場所へと急行したその五人組のパーティーは一つのぬいぐるみを発見した、そのぬいぐるみに書かれていた名前を見て持ち主を探したという、だが結果は三日間探しても見つからなかったという。
「そのぬいぐるみが発見された場所というのはどのあたりなのですか?」
「詳しい情報までは俺もしらねぇ、だが地下墓地の付近だと言うことだけは聞いている。まぁ、子供がそんなところで何をしていたのかはしらねぇがな。」

 「このあたり…か。」
その次の日、私は夕暮れ時にベルスタッドの情報どおりの場所へと足を運んだ。そこは地下墓地の入り口付近であった。
「やっぱり、調べてみる必要はありそうかな…。」
私が一つ、不可解に思ったことがあった。それが子供失踪事件。私がマミーの生体調査の依頼を受けたと同時期にこの話しが町中で騒がれていた。
いくつかのパーティーが地下墓地へと進入し、隈なく探したという現状報告も私の手元には入ってきている、だが…その資料の中に一つ、どうしても納得のいかない記載があった。
「B3にて、マミーの原因不明の増加と凶暴化…。」
元々地下墓地というのは、凶暴なモンスターが多い場所だということは有名であり、且つ凶暴故に人の出入りが少ない場所でもあった。
「そろそろ暮れる…調査だけでもしておいたほうがいいかな。」
右手に愛用の槍を持ち、一度深呼吸した後に私は用心しながら地下墓地の中へと入っていった、中は予想通り薄暗く、壁に灯されてる明かりだけが唯一の光となっていた。
どうにもこの場所は何時来ても好きにはなれない、この場所を好んで入る人の神経を知りたくなる瞬間でもある。
「…おかしい。」
入り口を少し過ぎたあたりからモンスターが襲ってくる気配が全く無い、このあたりは何匹か群れで襲ってくるはずの場所なのに何故。
何か嫌な気配を感じながらゆっくりと先へと足を進める、右手に持つ槍を握る力も次第に強くなって、手のひらには気がつかぬうちに汗ばんでいた。
「っ!」
何かの気配を後方に感じとっさに振り向く、槍を構え気配を感じた方向へと矛先を向けた。
「……。」
だが、やはりそこには何も無かった。ただし、何かしらの殺気を感じたことは言うまでも無いだろう。緊張と緊迫した空気だけが私の周りを流れ、そしてそれは墓地に入った瞬間からのものだった。
ゆっくりとあたりを見回して戦闘態勢を解除した、だがそれはその時に起こった。
「うわぁ!」
突如の地震だった、地盤が緩んでいた可能性もあるが…地震と地盤の緩みで私の足元はガラガラと音を立てながら崩れ始めた。なすすべも無く私はその崩れた床と共に下の階層へと落下していった。

「………。」
気がついたのはそれから数分のことだった、予想以上のダメージが自分の体に残っており気がつくのに時間が掛かったのだろう。
そこはB2ではなく、周りの風景からしてB3であろうと推測が着く。そして私の目に飛び込んできた映像は絶望を感じられるものだった。
「…ルーン。」
周りには数体のルーンマミーが群れを成してホールの中央で”ソレ”は行われていた、私の調査で分っていたことが二つある、ルーンマミーは満月の夜に生贄をささげ自らの身体能力を上げる、そしてもう一つがその生贄にされる供物だった。
壁には動物の血らしきもので何かの模様が描かれている、その模様は古代ルーン文字に良く似ていて、そして似遣わぬ物だった。
「あ…あれは!」
私の目に飛び込んできた映像の中に、いつか古都で見たことのある子供が泣き叫び助けを求めている姿があった。そしてその子供は私のことをずっと叫び続けていた。
「止めなさい!」
私は叫んだ、この部屋全体に響き渡るように大声で叫んだ。その声に反応したのか、数体のマミーがこちらを振り向いた。包帯の色は黄ばみ、ところどころ虫に食われた痕跡が残る。その名の通りマミーである。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
落ちていた自分の槍を手に取りマミーの群れの中に走り出した、行く手をふさぐようにたちはだかるマミーをなぎ払うように押しのけ泣き叫ぶ子供へと急接近を掛ける。数体のルーンマミーを先ほどと同じようになぎ払い、子供へと手を伸ばし、その子の腕を掴んだ。
「他の子供達は…」
部屋の中心部分の方に目を向けた瞬間、背中がゾッとした。
「な…なんて事を…。」
そこには無数の肉片とおびただしい量の血液があるだけだった、そしてその”供物”は祭壇へと捧げられていた。
そしてまた振り返ると現実を思い出す、この夥しい量のモンスターのなか、この子を護りつつ自分は地上へと逃げ帰ることが出来るのだろうかと一瞬だけ脳裏に過ぎる。
だが、考えている暇などマミーたちは与えてくれるはずも無く、供物となるであろう子供へと襲い掛かる。
「させない!」
襲い掛かるマミーの腕を切り落とし、さらに迫り寄るマミー達を槍で弾き飛ばす。一瞬だけ仰け反った瞬間に私は一筋の道を見つけ出し、マミーたちの間をすり抜けるように走り出した。
「あぁぁ!」
突如背中に激痛が走る、何かが刺さったようなその痛みと焼けるような感触が背中から脳へと伝達された。
弓矢だった、アーチャーの弓矢が自分の背中に一本刺さっている。
「お姉ちゃん!」
私の脇に抱きかかえられていた子供はいまだ泣き続けながら私の心配をしてくれた、そして私の前に出て小さなその体で小さい腕を横いっぱいに広げた。

「やめて!お姉ちゃんを殺さないで!」
泣き顔のまま私を庇うように前に出る、足は振るえ声は上がり、恐怖をいっぱいに感じているその子は大きな勇気を私に見せてくれた。
ゆっくりと迫りよってくるマミーの群れに、その子はびくともせずにまだ私の前に立っている。その子を左手で引っ張り私の元へと引いた。
「有難うね僕、お姉ちゃん大丈夫だから…。」
ゆっくりと立ち上がり、迫りよるマミーへと視線を向けた。そして私は覚悟を決めた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
どんなことをしてでもあの子を護る、翌日になればあの子の捜索がはじめるであろうパーティーを私は知っている、その時まで私があの子を護り続ければそれだけでいい。私自身が地上に帰ろうなんて事を願うことは無い。
そう、あの子が再び町で元気に友達と遊んでいられれば私はそれで満足だと自分自身に言い聞かせた。
ターゲットをリーダー格のルーンマミーへと絞込み、矛先を向けた瞬間、私はまるでなまりの棍棒が体に激突したような痛みを覚える、そして後方へと弾き飛ばされた。
「が…はぁ…。」
マミーの一撃だった、立ち上がるのがやっとなほどのダメージが体に残る。ふらふらと前方へと歩き出し再びマミーへと矛先を向ける。先ほどの矢とマミーの一撃で私の体は本当に壊れる寸前だったといっても過言ではないだろう、そして…この体力でこの数のモンスターを一度に相手をするのは無理だということを直感的に悟る。
その時だった、目の前に一つの光る槍が飛んできた。その槍は地面に刺さると幾つもの電撃がマミーへと放射され、数体のマミーが床に倒れこんだ。
「…世話がかかるじゃないか、ミル?」
その言葉と同時に上から何かが降ってきた、それは人の形をしていて男性のようだった。腰には大きな大剣がつるされていて、青い髪の毛をした人だった。
そしてその隣にもう一人降りてきた、黒髪で腰あたりまでの髪の毛をしていて、茶色い甲冑を着たランサーだった。
「ベルさん…。」
「怪我人は黙ってそこで見物してな、行くぞミア!」
「了解リダ!」
二人はそのままマミーの群れの中へと突撃をかけた、私の意識が朦朧とし始めていたのでその後のことは良く覚えていない。そして私は気を失った。


 目が覚めたのは古都の病院のベッドの上だった、消毒液のにおいと、白いスーツですぐに分った。私は一体ドレぐらい寝ていたのだろう…。
「お、目が覚めたか。」
私の最後の記憶にある人の声がする、ベルさんだった。その隣にはあの時のランサーの人までいる。
「…私…。」
「おっと、けが人はまだ寝てな。傷口が広がるぜ?」
「…怪我…そう、あの子は!?」
私がきびきを返すようにベッドから状態を上げた、ベルさんはゆっくりとベッドの脇にあるカーテンを空け、窓を開けた。
「動けるなら、下見てみな。」
軋む体をゆっくりと動かし、すぐ近くの窓へと移動した。そして下を見下ろすとあの時の子供が元気に走り回っている姿が見えた。
「あ…。」
「言ってたぜ、助けてくれて有難うってな。」
私は安心した、あの子の笑顔が見れたことと元気に走り回っている姿をみてあの時の願いがかなったのだと私は心のそこから安心した。
「あんたがあの時突撃をかけてなかったら、あの子もきっと供物にされてただろうよ。」
「…。」
私は知らず知らずのうちに涙を流しているのに気付いた。初めて誰かを助けたというのもあるかもしれないけど、それ以上に人の笑顔を見れたことに対しての幸せを感じていたのかもしれない。
「時にミルさん。」
ベルさんの隣で一言も喋らなかったランサーの人が口を開いた、私の名前を呼んでハンカチを貸してくれた。
「私たち、これからギルドを作ろうと思っています。そこで、ミルさんも一緒にどうですか?」
「え、ギルド…。」
「はい、あなたの心の強さと正義感を買っての話しです。如何でしょうか?」
困惑する私をみてベルさんが近づいてきて、肩にその大きな手のひらを乗せた。そして笑顔を作ってもう一つの手を私へとさし伸ばし
「一緒に、チームを作ろうぜ。あんたなら良い家族になれそうだ。」
「家族…。」
「ギルドは家族だ、仲間として存在し家族としても存在する。ギルドに居れば一人じゃない、一緒に同じ信念を貫こうぜ?」
このときのベルさんの言葉は今でも覚えている、この言葉があったからこそ私はこの人たちと一緒に旅が出来ると思った。
ギルドの名前は北風、その冷たい風の中に温かさを見出すために創設するとベルさんは言った。同じ信念の元一緒に仲間とし、家族として生きるのも悪くない…私はそう思った。

 月日は経って、12月のある日。
私はまた一人古都で人込みの中座り続けている、あの人が戻ってくるのを待って…。
アレから数日が経ったあの日、ベルさんは何も言わずにその姿を消した。相棒のミア・ステンバックさんと私を残して…。
 いつか戻るその日を信じて、”残されたたった一人”のギルメンを…私は待ち続けるためにここに座っている。
雪が降り始めた、その神秘且つ綺麗な雪は…冷たい北風に乗って古都に降り注いでいく。
「…どこかで、あなたもこの雪を見ているんでしょうか…ベル…。」
この日の前日、ミアさんが事故でその命を落とした…。


FIN


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最終更新:2009年06月03日 20:47