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25年前の今日。

古都ブルネンシュティグ周辺は記録的な豪雨に見舞われていた。
平素は穏やかな流れを湛えるギルディル河も、それに耐えかねて
ナス橋付近の田畑は勿論のこと、古都にまでその流れを届かせようとしていた。

古都に堤防を築くために集まった男達の声、そして鳴りやまぬ雨音。
そのような中にあって、かき消されてしまいそうな二つの産声が
一人の母の元から上がった。


誕生した双子の男子。
父はすでにこの世に無く、母子家庭にて貧しくはあったが
やがて二人は長じ、剣士である冒険者に師事するようになった。


用盾術と剣術のバランスの融合が求まれる、王道にして険しい剣士という職業。
二人は日夜努力し、古都周辺のモンスターであれば協力して倒せるまでに成長していた。
そのような知らせを、母は師匠である冒険者から伝えられ、我が子を頼もしく思った。


兄は用盾術が、弟は剣術が、まったくもって上達しないという一点を除いて。

見ず知らずの同業者と組むことが当たり前の冒険者にとって
求められる職能に欠点があるということは致命的である。
何故なら、それは個人のみにではなく、PTM全体の危険に繋がるためだ。

二人が18歳になった3年前の今日、冒険者は皆伝の証として
兄に愛用の盾を、そして弟に剣を渡してこういった。


「人に教わるだけでは真の成長というモノは得られない。」
「君たちには私の持ちうる全てを与えたつもりだ。」
「この贈り物は君たちの今後を祈っての私のメッセージも兼ねている。」
「二人ではなく、一人一人の冒険者として君たちには頑張って欲しいと願う。」


師匠の言葉を聞きながら、皆伝の感涙にむせぶ兄弟達。

しかし、兄弟達には兄弟達なりの考え方があった。


「俺たちは二人で一人。片方ずつが盾と剣になればいい。」

2年の月日が経ち、基本的に二人のみで行動してきた彼らも
「双子の強い剣士がいるらしい」という風の噂も手伝い
それなりに冒険者として名が売れ始めていた。

伴って、彼らに対する「仕事」のオファーも日々累増していった。

ある日、鉱山町ハノブの鉱山責任者から任された一つの仕事。
いまはもう掘削を辞めてしまった廃坑に住み着くモンスターの実態調査というものだ。


いつも通り二人での行動を条件に仕事を引き受けた彼らは
ハノブ町中にある鉄鉱山から廃坑を目差し、心許ないランプを頼りに歩みを進み始めた。


廃坑にたどり着いた兄弟達。
弟が敵を引き寄せて攻撃を防ぎ、黙々と兄の剣がモンスターをなぎ倒していく。
そして倒されたモンスターについて二人で書に記録していく。

淡々とした作業。順調に「仕事」は進んでいた。


だがやがて、兄弟はある強大なモンスターに遭遇した。
鋼鉄のような堅牢さをもった水色の巨人が、廃坑の奥深くを根城にしていたのである。

洞窟中に響き渡るような怒号とともに兄弟に襲いかかる巨人。
弟は咄嗟に、愛用の身の丈程もある盾を自分の周囲に回し、臨戦態勢を整えた。

戦いは死闘を極めた。
巨人の攻撃をひたすらに耐える弟。愛用の剣で高速で敵を斬りつける兄。
しかし巨人の堅牢さは兄弟の想像をはるかに超えており、全くたじろぐ気配がない。


(俺たちにこの巨人が倒せるのだろうか。)
兄がそう思った瞬間。
巨人が背後の石につまずき、ぐらつきを見せた。


(勝機!)


一瞬で状況を理解した弟は、普段は滅多に使うことの無い短剣を構え
巨人の目に向かって突きを放った。

だが、野生で育ったモンスターに対し、目を攻撃するということは
想像以上の技量と危険を要する。

そのことを弟は忘れてしまっていた。

巨人はぐらつきながらも弟に向かって蹴りを繰り出し
それによって盾がはじき飛ばされ、弟はその場に倒れてしまった。
そして巨人は容赦なく弟の胴を踏みつけた。


骨の砕けるイヤな音が鳴り響き、声にならない声を上げる弟。

なおも容赦ない追撃を浴びせようとする巨人。


(弟を護らなければ)


兄は弟の盾を拾い、不器用に巨人の前に立った。
最早攻撃することさえも忘れ、愛用の剣さえ捨てて、必死に巨人の攻撃を耐えた。
しかし、弟でさえも難儀を極めた巨人の攻撃を、兄が防ぎきれるはずは無かった。


最早反撃する余力も遺されていない兄の腕を巨人がわしづかみにする。
瞬間、兄の腕は無惨にも引きちぎられ、投げ捨てられた。
兄はその様を見て、自らの死を覚悟し、その意識は閉じられた。



鉱山町ハノブ、療養所。


兄「・・・。生きてる・・・?」

bis「おお、目を覚まされましたか。」
戦士「あの傷で再び目を覚ますとはな。」

床に伏す兄に声をかけた二人の男。
屈強な鎧を着たビショップと、光り輝く斧を持った戦士であった。

bis「私たちも依頼を受けて生態調査を行っていたのです。」
戦士「そこにキミが瀕死の状態で臥していたのを発見したというわけだ。」

兄「そうだったのですか・・・。うっ・・・。」
突然痛みに襲われる兄。あるはずの右腕が失われている。

(ああ、そういえば俺の手は・・・)

bis「申し訳御座いません。残念ながら、腕の方は・・・」
戦士「ビショップは回復や蘇生は出来ても、医療を施すことはできないんだ。」

兄「・・・。っ! 弟は!?弟は無事ですか!?」

bis「・・・。」
戦士「・・・。すまない。やれるだけのことはやったんだが。」
bis「折れた骨が心の臓に食い込んでおり、最早蘇生は不可能な状況でした・・・。」

兄「そんな・・・。」

戦士「・・・忘れろなんて他人の俺が言えるはずもないが、いまは傷を治すことだ。」
bis「町のために働いた貴方を、ハノブ住人は暖かく迎えてくれるはずです。
傷が癒えるまで、この町で療養したらいいでしょう。」

やがて時は経ち、兄は25歳となった。


とうに傷は癒え、淡々と仕事を引き受けこなす生活を送っている。
もう弟はこの世にないが、兄は一人の冒険者として、人生を生きている。


「隻腕の剣士」


そんな通り名で呼ばれるようになった兄の手には、愛用の剣ではなく古びたファビスが握られている。
「双子の剣士が0.5人前になっちまったなぁ」
などと揶揄する心無い者も無くはないが、それは実力を嫉妬してのものである。
兄は血のにじむような努力を重ね、PTの盾として、ある時は盾を攻撃に生かす戦法で
冒険者の中では一目置かれる存在になっている。


弟の6回忌。
墓前を訪れる兄。
手には弟が好きだったアウグスタの葡萄酒が握られている。

葡萄酒をなみなみと墓標に注ぐ兄。
そしてその場に座り込み、肩口を撫でる。


「・・・。」


しばし考え、葡萄酒を煽り、瓶を墓前に捧げて花を生ける。


25年前の今日、双子の男子はこの世に生を受けた。
しかし弟は最早この世になく、兄だけが遺された。


しかし兄は思う。
「俺は一人で戦ってるなんて一度も思ったことはない。」
「この盾が、お前が俺を護ってくれている。」





「だから、俺は一人じゃない。」





~おわり~


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最終更新:2009年06月03日 20:48