少女-1
夢を見た、昔の夢、懐かしい夢、知らない夢、夢?
何処までも続く草原だった、彼女はその草原に一人…たった一人で立っている。”赤い魔槍”それが彼女の通り名だった。赤い鎧を身にまとい、白いローブでソレを包み込み、手には身の丈も無い槍を握り締めてそこに居た。
彼女の手には深紅の血、純潔な白いローブを汚す幾多の血痕がこびりついている。そして彼女自慢の長い金髪の髪の毛をも血は遠慮なく汚していた。
腰まではあるであろう髪の毛を後頭部でゴムを使って縛っている。風が吹くとその白いローブと一緒に金髪の髪の毛がさらさらと揺れた。
私は彼女に声をかけられなかった、声を出そうとしてもなぜか声が出ない、私はその先に何があるのかを知っている。その先には…なにか、真っ黒なものが渦を巻いている。
何か一言、一言だけでもいいから声を掛けたい、それでも私の口から声は出なかった。
そんなことを知らず、彼女は草原の先一点を見つめて歩き始めた。その先に何があるとも知らず彼女は歩き始めた。
後を追いかけようとしても足が動かない、あぁ…これは夢なんだなとそこではっきりと分る。だが、何が夢で何が現実なのであろうか、何処からが夢で何処から現実?夢って何?
ようやく動き出した体はなまりのように重かった、そして手に何か不思議な感触を覚えた私は自分の手を見る。
そこには大量の血液を帯びた私の槍だけが握られていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
そこで私は目を覚ました、ばねのように体が動き額に乗せられていたタオルはその勢いで目の前にぽとっと落ちた。
「はぁ…はぁ…。」
夢の出来事が頭の中を鮮明に浮かび上がってくる、私は慌てて自分の両手を見た。だがそこに槍はおろか血すら付いていない。やはり夢だったのだと改めて実感する。
「っく…。」
両手で自分の顔を覆って少し俯いた、今の夢は何だったのだろう。見たことが無い景色、見たこと無い人。だけど自分の中でははっきりとそれは”見た”と言っている。それが何なのかは分らない。
とても懐かしくて、あまりにも知らない夢。そしてあの血…。
「どうしました!」
隣の部屋から一人の男性が飛び込んできた、私よりも身長が高くて、茶色い綺麗な髪の毛を持つウィザード。目が悪いのだろうか、眼鏡も着用していた。
左手には杖を握り締めて部屋全体を見回している、次に足元を確認した後大きなため息をついてその杖をテーブルの上に置いた。
「…はぁ、驚かせないで下さいよ…。」
「…………。」
思えばここは何処なのだろう、私は確か何時もの場所であの人の帰りを待っていて…あぁそうか。この人は確かあの時、”あの人”のことで話しがあると言った人だ。
「気が疲れたということは峠は越えたみたいですね。」
「…あなたは?」
彼はきょとんとして少し笑う、その態度が私に少し不快感を与え眉間にしわを寄せた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はアレン、”アレン・ケイレンバック”です。…おはようございますミルさん。」
「どうして私の名前を?」
「…ミアさんよりお話しは伺っていました。」
少しためらいながらも彼女の名前を出す、思えば彼女が死んでからまだ一日しか経っていないんだと時計を見て思った。彼女の笑顔をもう一度見たかったと、一度小さなため息をついた。
「そう…ありがとうアレンさん、ベッドまで貸していただいて。」
2
「気にする事はありません、それよりまだ完全に良くなったわけじゃないんですから寝ててくださいよ。風邪ぶり返しても私はしりませんよ?」
「…ありがとう、そうさせてもらいます。」
私は再び横になることにした、正直まだ体はだるいままだった。彼はニコっと笑って近くにあった椅子をベッドの近くに運んできて、そこに座った。
よく見ればとてもきれいな顔立ちをしている。遠くから見たら女性と間違えそうになるくらいの綺麗な顔だった。すらりとしたその体もとても細く。腕にいたっては私と大差変わらないぐらい細いだろう。
「落ち着いたところで、あの時のお話しをします。」
「…ベルさんのことですね。」
「はい。」
彼はミアに情報を聞かされたときからずっと古都中を探し回っていたのだという、私たち同様情報は何も無く…やっとたどり着いた情報が一つだけあったという。
その情報は、彼に良く似た戦士がハノブへと向かったという情報だった。彼は誰かを探しているのだという。
情報はここまで、それから先は全く分らず。しかもその情報は三週間も前の話だという。
「…そうですか、ありがとうございます。」
「いえいえ。」
「何時までもお世話になるわけには行きませんね。明日には出て行きますので。」
そういうとアレンは少し顔をこわばらせた、そして窓のほうへと目をやるとスッと立ち上がり窓のほうへと足を運ぶ、そしてカーテンをサーっとあけた。
「…こんな吹雪の中、あなた一人で行かせるわけには参りません。」
「…え。」
「あなたは弱い、それは戦闘での強さではなく心の弱さだ。私と出会ったときのことを覚えていますか?たった一人、あんな薄着であの寒い雪空の下ずっと座り込んでいて…もう少し遅かったらあなたは死んでいたかも知れなかったんですよ?」
先ほどまでの優しい声からは一転して急にこわばった声に変わった。そして振り返り私の目を見つめてきた。
「今のあなたでは人探しどころか旅も満足にままならない。ひとりでこの吹雪の中「はい、そうですね」って追い出す事すら出来ません。」
「…………。」
彼の言葉は、私に向かってその牙をむく。まるで鋭利な刃物に切り刻まれるようにその言葉は私の心を突いていく。何か一言言い返そうとしても彼の気迫に圧倒されて何もいえない、これが言葉の圧力というものなのだろうか。
「…私を、ギルドに入れてください。」
「…え?」
一度拍子抜けした声が部屋に聞こえた、ソレは私が出した声だった。突然ギルドのことを出されて一瞬驚いている私がはっきりとわかる。
「あなたを一人にさせたくない、ギルドならばずっと一緒に居られる。だから…私をギルドに入れてください。」
そうだった、今思えばマスターであるミアさんが死んで、ベルさんは行方不明。そうなると必然的にマスターは私になっているのだと。だけど…。
「…私の旅の終着点は何処にいるかもわからないベルさんの所、そんな当ての無い旅の途中で死ぬかも知れないんですよ?それでもいいんですか?」
私は真剣に尋ねた、何処に居るとも分らないベルさんの行方を追うだけの旅。道中魔物に襲われてその命を落とすかもしれない危険な旅。その他色々なことが重なれば必然と隣り合わせになる死。
「構いません、確かに危険な旅になる事は分っています。でも…。」
彼は少し腰を落とし、私の目線にまで顔を落としてきた。
「一人より、二人…ですよ。」
彼は再び笑った、そうなんだ…誰かが居れば私はひとりじゃない。二人居れば一人じゃない、二人居れば出来ない事でも可能になる。ソレをまだ何も知らない私に教えてくれたのは彼だった。
「…うん。」
私は頬に伝わる一つの流れる雫に気がつく、目頭が熱くなりそこから涙が流れ頬を伝ってベッドのシーツを濡らす。彼はふいっと横を向いてハンカチを手渡してくれた。
「…せっかくの顔が台無しですよ、マスター。」
「…ありがとう。」
ハンカチを受け取って涙を拭いた、外はまだ雪が降り続いている。まだまだしばらく降りそうだろうと私は直感した。
この雪が止めば私たちは古都を離れ、一路ハノブへと向かうだろう。そしてそこで又情報収集を行いまた次の目的地へと移動するであろう。
何時まで続くか分らない追いかけっこ。だが私は今一人じゃない。心優しきウィザードと一緒だ。二人なら見つけられる、必ずベルさんを見つけられる。そう思った。
少女 END
最終更新:2009年06月03日 20:50