あるウィザードが残したもの-1 (表紙)~(誕生、そして襲撃)
今日、フランテル大陸一と言われていたウィザードが亡くなった。
彼は私の父である。そしてその長男と私。母はすでにいないが、私は母のことは全く記憶に無い。
優しい父だった。父は、私を本当に愛してくれていた。私は父が大好きだった。
兄も優しかった。少しぼんやりした私をからかったりすることも多かったが、いつも私を気にかけてくれていた。
いつまでも変わらないと思い込んでいた。私にとってはこの上ない幸せな生活だった。
そんな生活がこんなに早く壊れてしまうなんて・・・だれが想像できただろうか。
私が昨日彼を見舞いに行き、病室の戸の前で彼の知人と二人で話していたのを聞いてしまったことも、私が私自身に現実を認めさせたくない原因だろう。
「彼女が捨て子だったこと、彼女にはまだ伝えていないんだ。だが話さない方が良いだろう。
彼女もそのことには気付いてないようだし。
なにより、今更言って何になるだろう。私は親として、彼女を心から愛しているんだ。」
私は黙って病院を後にした。渡すはずだった花と手紙を戸の前に置いて。
そのことが大きく心の中に留まっている。留まっているからこれほど苦しまなければならないのか。
私は一日中泣いていた。目を真っ赤に腫らしながら、ずっと泣き続けていた。
何時間たっただろうか。私はいつの間にか寝てしまっていたらしい。起きた時は朝の8時だった。
今までのことは夢だったんじゃないだろうか・・・・・そう思い始めた時、誰かが部屋に入ってきた。
兄だった。兄が起こしに来ることなんてなかった。
「お、起きたか。昨日お前泣いたまま倉庫で寝てたんだぞ。
起こしても寝ぼけたままでつれてくるのが大変だったんだからな。
疲れてるんだろう、今日は家事は俺がやるから夕方まで寝てていいぞ。
そのかわり夜には親父の葬式だからちゃんと準備しておけよ。」
そう言い残し、朝食らしき物を置いて部屋からでていった。
-そうか、やはり父は・・・・
そんなことを考えながら、兄が一生懸命作ってくれたレトルトスープを飲み干した。
ふと見ると、机の上のお盆の横に、見たことの無い厚目の本が置かれていた。
興味をそそられた私は、無意識のうちにその本を開いていた。
そこにはまさしく、流れるような父の字がしっかりと書かれていた。
一瞬で私はその本に心を奪われた。何が書いてあるんだろう・・・・・。私は一行目に目をやった。
「-夢から放り出されたような目覚め。そう、私は眠っていたようだ。
最初に君に言っておきたいことがある。
この部分には私が特別な魔法をかけておいたから君と私にしか読むことができないはずだから安心してくれ。
君はこの本を読む2日前に知ってしまったと思うが、君は私の本当の子ではない。
このことを隠していたのは本当に悪かったと思う。だが、君を親として愛していたのは本当だ。
君たちには話していないが、私もまた捨て子であった。だが、子供の頃に不幸せだと思ったことはない。
どうか君がここの生活を幸せに過ごしていたと感じられていたことを祈る。
平和すぎる・・・・・それは良いことだと皆は言う。
確かにそうなのだ。だが、何か不安な・・・・。
そうだ、君たちは平和ボケしてしまっている。自分が絶対に安全だと信じ込んでしまったんだ。
だがその考え方故に人を傷つけていることに気が付かない。相手は死に追いやられることだってある。
まるで嬲り殺しだ。地上で最も卑劣な行為・・・・。
平和の象徴である鳥が何故鳩なのか知っているかい?
一撃で相手を殺すことができる嘴を持たない平和さ故、相手を突付きまわし、羽を全部むしっても攻撃し続ける。
相手が息絶えるまで嬲り続ける。なんと平和な光景ではないか!
言っておくが、私は平和を反対するつもりはない。
ただ、君たちの心に上のことを戒めておきたいだけだ。
これから私の体験を書くつもりだ。読むも読まないも君次第だが。
君が読まなくとも、多分私の息子が古都の私の知り合いの政治家に渡してしまうだろう。私が言っておいたから。
だが君が満足するまで読んでから直接渡されるはずなので、渡されるまではまっていてくれとも言った。
残念ながら、私は書き終えて数分後に息を引き取るということを見てしまった。
自分の死期を知ると世界が変わるというのは本当のようだな、はは・・・。
では読んでくれ。ゆっくりと・・・・。」
私は迷わず次のページに目を進めた。
最終更新:2009年06月03日 20:54