白銀の弓兵-1
1
盗賊団による詰め所襲撃事件から三時間後、ミルたちは詰め所に戻り、男に指輪を受け渡し詰め所の周辺に男の仲間たちの墓を作った。
合計で11個、その墓は”忘れられた墓”という古都の歴代の王族や庶民、傭兵など。古都で生き古都で死んでいったものたちが奉られる場所だった。
少量の雪がまだ降り続いている。降り始めてから三日と二時間、一度は止んだものの再びちらほらと振り出し、気温を再び下げ始める。
地面は凍結し、息は白く。そして何より体力を一段と奪い始める。古都の歴史上これまでにない大雪となった。記録はいまだ伸び続けているという。
「では、私たちはこれにて失礼します。」
ミルは側にあった自分の持ち物を拾い、アレンも自分の鞄を背負い始める。そして詰め所の男に一度軽く手を振り、その場を後にする。
ザク、ザク、雪の冷たさから足を護るための皮の靴にミスリルを少し加えただけの靴が雪に音を与える。その音は深いところや浅いところ、すべるところなど全てに音を奏でた。
一面は雪景色、白化粧の中雪は深々と降り続いている。今朝方に比べればそれほどの量ではないが、既に積雪量は多いところで一メートルは有ると思われる。
そんな雪道の中を二人は歩いていく、古都を出たときとは裏腹にミルの隣をアレンが歩く。アレンは少し息を切らしながら歩き、体力に限界を感じたら少し休ませてもらった。
そんなことを続けながら二人は一路ハノブを目指す。この調子だとハノブも中々の積雪量だとうかがわせる。
「…あの、ミル。」
「ん?」
二人は顔をあわせずに会話を始める、話しかけたのはアレンだった。アレンはまっすぐ道の先を見つめ、ゆっくりとミルの歩調に合わせて歩く。
「どうしたのアレン。」
ミルも又前だけを見つめ、アレンのほうは決して振り向かなかった。アレンも又ミルの方へ振り向かずに話す。
「…盗賊団のこと。」
「…。」
ザク、ザク、音はその一定のリズムを狂わすことなく二人の会話を聞いている。アレンが少し発言に悩んで、そして立ち止まる。
「ミルは、何時もあんなふうに戦っていたのですか?」
「…。」
2
アレンより少し離れたところで立ち止まり、そして何も言わなかった。今までそのことに触れられなかったのがおかしいぐらいの内容である。
ミルは、あの時笑っていた。そう…まるで人殺しを楽しむかのように笑いながら盗賊団たちの命を次々に奪い、そして魂を冒涜していた。
「私には分らない、なぜミルがあそこまで笑いながらその槍で…。」
「止めて!」
ミルが突然大声を出し、アレンはその声に圧倒される。そしてアレンは冷静さを取り戻し自分が何を言ったのかを悟る。
「…ごめん。」
「…。」
言葉をなくした二人は、しばらくその場に立ち尽くしていた、数秒、数分の時間が流れ二人の頭や体、鞄などに雪がうっすらと積もり始める。
「………。」
「…え、何ですか?」
アレンはその沈黙から開放されたかのようにかすかに聞こえた言葉に反応する、アレンのほうに体を向けたミルの顔にはいささか疑問の表情がうかがえる。
「…私、何も言ってないよ?」
「え、でも今確かに…。」
再び二人の間に沈黙が流れる、そして二人は同時に何かに気がつきあたりを見渡す。一面白い雪景色の中何かを探すかのように必死で見渡した。
「…居た!あそこですミル!」
アレンが少し離れたところを指差す、アレンが指差すほうをミルが走り出す。そして雪を掻き分けて何かを探す。そしてソレは見つかった。
「アレン、ここからハノブまで後ドレぐらい!?」
「通常なら走って20分、この雪道なら速くても30分はかかると思います!」
「…そんなんじゃ持たないよ。」
雪の中から出てきたのは一人の少女だった。背中に突き刺さった一本の弓、体中に残る鞭の後、少女の体には目で見えるほどの凍傷が始まっている。低体温症と凍傷、物理的によるダメージが酷い、そう二人は判断する。
「…仕方ない、ミル。その子を担いで全力疾走するだけの体力は残っていますか?」
「何をしようとしてるか分らないけど、この際根性よ!」
ミルは左手の親指を上に突き出してアレンにそれを向けた、アレンは頷き腰から杖を取り出すと一つの詠唱を始める。
何を言っているか全く分らない単語、そして文面が次々に読まれるとアレンの足元から炎のが渦を巻き始めソレがアレンの体全体を覆う。足元には炎が輪を作り足元の雪を溶かしていく。
「行きます、走って!」
「了解!」
アレンは風の補助を自分とミルに掛け、そして自分は炎の力を借りて雪を溶かしながら疾走する。その後に続くミル。そしていまだ流れ続ける少女の体より流れる血。
白銀の世界の中で、一筋の道が出来た。
白銀の弓兵-1
END
最終更新:2007年06月05日 06:39