白銀の弓兵-2
1
二人が走ること10分、風のような速さで疾走し、古都からハノブまで一つの雪道を作りだして走ってきた二人はハノブの宿屋の一室に居る。
道中で見つけた瀕死の少女の治療と看病、医者の到着を待ちながら応急処置を施していた。
「その背中の傷はどうなのアレン君。」
「…それほど深くはありませんが、浅くもありません。肺に到達してなかっただけ救いとしましょう。背中の傷口は私の力でもなんとか処理できます。ただ…。」
「やっぱり、凍傷と低体温症ね。」
「えぇ、この二つばかりは時薬ですね。ですが傷口もちゃんと医者に見てもらうのが適切な判断だと思います。…時にミル。」
「ん、どうしたの?」
アレンは、この宿屋について少女の治療を始めたと同時にいつ聞こうと我慢していた事があった。感触は布のようなもの、厚さは光を通さないぐらい。
「なぜ私は目隠しをされているのですか?」
アレンは目隠しをつけたまま少女の看病に当たっていた、アレンの言葉にミルは少し呆れ顔でため息をついた後アレンの頭を軽く叩く。
「…ふ~ん、アレン君ってそういう趣味があったのね。」
少し意地悪そうに言葉を選んでミルは楽しそうに発言する、そしてその言葉の意味が全く分らないアレンは目隠しをされたまま首をかしげる。これは備考だが、目隠しの上から眼鏡が掛けられているのは当の本人、アレンも気がついてはいない。
「…ミル、趣味とは?」
ミルは少女に毛布をかぶせ、部屋の温度を上げるために暖房器具の暖炉にまきをくべる。腰を落としたまま薪を暖炉の中に放り込み一言。
「アレン君のロリコン。」
少女をミルとようやく到着した医者に任せるとアレンは町へと買い物に出かけた、これからの旅に必要になりそうなもの、薬やこれからの季節、さらに寒さが厳しくなる事を考えて断熱材と簡単な保存食、そしてミルからの言い伝えで少量の服を買っていた。
「あらお客さん、変わった趣味してるわねぇ~。」
「ははは、連れの服ですよ。」
「連れねぇ~、それにしてはずいぶんとサイズが小さいと感じるのは私の気のせいかしら?」
「…お会計いくらですか?」
店員に散々冷かされた後、話を強制的に終了させるべく会計に話を進める。周りに居る女性客からもすこし白い目で見られ、本人はとても不快感を抱いていた。
顔を真っ赤にしながらお金を払う姿は周りから見ればソレ相当の笑いものだろう、アレンは会計を済ませるとすぐさまその店から足早に外へと出た。
「ミルもミルです、何故私に女性用の服を買ってこさせるのでしょう…。」
つかつかと早歩きになりながら両手に袋、両脇にも袋、さらに首からも袋を掲げてハノブの町を歩く。その姿はやはり目立っていたが本人はミルに一言、なんでもいいから一言文句を言わないと気がすまないらしく、その言葉を考えるだけでいっぱいだった。
「おっと、忘れるところだった。」
アレンは渡されたメモ用紙の二枚目を取り出してその書かれている内容に目を通す、そして自分の血が引いていくような音を感じてやどのほうへと歩き出す。
「…これは、無理です。」
2
「ミル、帰りました。両手がふさがっててドアが開けられないので開けて頂けますか?」
少し不満そうな声でそういうと、中から明るい声でミルが答える。
「あ、お帰りなさい。でも少し待っててくれる?」
「人に買い物を頼ませておいてこの仕打ちですか、そうですか。」
完全に怒り出したアレンは少し怒鳴り声でドア一枚先のミルへと文句を言った、しかしミルはまるでそうなるだろうと予想していたのか、次の言葉を付け足した。
「女の子の着替え、そんなに見たい?」
「…ごめんなさい。」
「分ればよろしい。」
してやられた、そうアレンは敗北したとその瞬間に感じた。重い荷物を持たされたままドアの前で待つこと二分、ようやくそのドアが開けられてミルが申し訳無さそうに両手を顔の目の前で合わせ、片目をつぶった。
アレンは一つため息をついてからその重たい荷物と一緒に部屋の中へと入る。その中にはスースーと寝息を立ててベッドの上で毛布を二重、三重にかぶせられた少女の姿があった。
「…大丈夫、みたいですね。」
「えぇ、先生の話だともう峠は越したそうよ。後は時薬だって。」
テーブルの近くに荷物をいくつか降ろし、自分も着ているコートを脱ぎ椅子へ折りたたんで掛けた。マフラーを外してコートの上にかぶせ、ポケットの中からメモ用紙を取り出しミルへと突き出した。
「…これは無理です。」
「あはは、やっぱり?」
「当たり前です!私はこう見えても男なのですよ!女性の下着など買える筈がないでしょう!」
アレンは顔を真っ赤にしてメモ用紙をテーブルに叩きつける、バンと大きな音が鳴りミルがその音に少しビックリして左手で後頭部をかきだす。
「ごめんごめん、でも私のじゃないんだよ?」
「分ってます、そこで寝ている少女に着せるためでしょ。」
アレンはもう一つため息をついてベッドで寝ている少女に目をやる、黒い髪の毛でまだ幼い顔立ち。身長はミルの胸あたり。大体15歳ぐらいのいたいけな少女である事がはっきりと分る。
「でも、何故あんなところで倒れていたのでしょう。」
「それは分らないわ、古都に用事があった…もしくは一人旅の途中に行き倒れになった…他にも選択肢はあるけど…。」
ミルも少女のほうへと目線を移動させる。椅子を引いてゆっくりと腰を落とし、アレンは側にあったコーヒーカップを手に取る。その中には温かいコーヒーが入っていた。ミルがソレを見ると自分のカップを取り出してポットからコーヒーを入れた。
「…買い物の途中で、ベルさんの情報が無いかどうか少し調べましたが…何も情報はありませんでした。」
「そう…。」
アレンはカップを口元に運びコーヒーを少しだけ啜る、程よい苦さが彼の舌を堪能させ彼を満足させる。変わってミルはその中に砂糖とミルクを少量入れスプーンでよくかき混ぜ、程よくミルクで冷めたところで一口啜った。
「これから、どうするのですか?」
「…まだ何も…ただ、私たちみたいな旅人がこの町で一服入れているのを見つけて情報を手に入れるしかないでしょう。それまでお金もないし、古都にはまだ戻れないし…。」
「…そうですか。」
アレンは椅子から立ち上がり、窓の側にまで来るとカーテンをシャっと開ける。外は相変わらず雪が降り続け、このハノブの町もかなりの積雪量を観測している。窓ガラスが曇っているところを自分の手で少しふき取り外の様子をまじまじと見つめる。
窓に自分の左半分の顔が映り、その後ろのほうでコーヒーカップを手にとって椅子に座っているミルの姿が映った。そのすぐ後ろでは少女が小さな寝息を立ててぐっすりと眠っている。この日も雪は降り止む様子は無かった。
白銀の弓兵-2
END
最終更新:2009年06月04日 04:29