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ハードボイルドな露天商


1

俺は、誰もこない通りでひっそりと露店を開いている。来る日も来る日も儲けはほんの
僅か。それでも、幾人かはここで露店をしていることを知っていて常連というのもおかしいが、そのおかげでなんとかやっていけている。
 俺は、いつものように人通りの少ない場所で露店を開いていると一人の旅人風の男が
通りかかり、話しかけてきた。
「おや?こんなところで露店ですか?珍しいですねぇ」
俺は、一目でBISだと知るとすこしテンションが下がったが(BISはお金をあまり持ってないことが多いから)それでもお客には違いないと丁寧に応対した。
「ええ、まぁ。何か入用ですか?」俺は、BIS用に青POTでも並べようかと
準備にかかった。「今日、フルチャージPOTが入ったので並べますね。」
「いやいや、いいんですPOTなら十分ありますから」
・・・ちぇっ、冷やかしか・・・そう思ったが、特に気にはしなかった。
「これから、どちらへ?」そのBISはPTを組んでないようだった。ソロ狩だろうかとも
思ったが、それにしては装備が貧弱でその格好ではここら辺りでは苦労する事は目に見えていた。 
「あぁ、不思議に思われているんですね。何故BISが一人でこんなところをうろついているのか。」
「いやあ、そんなことはありませんよ・・・」図星だった。
「実は、迷ってしまって・・・お恥ずかしい話です。ここから、古都はどれくらいですか?」
・・・なんだ、迷子なのか・・・。
「古都?だいぶ遠くまできましたね。ここは、ビスルという街の近くですから。」
「ビスル?そんなところまで来てしまいましたか・・・。」
「早めに帰ったほうがいいですよ。ここのMOBは硬くてマズイ。」
「そうする事にします。それはそうと今、ちょっとある物を探しているのですが・・・」
「なんでしょうか?ないものなら売れませんが?」金は持ってるんだろうな?とは
聞かなかった。
「CP効率付きの首ものか、マント系なんですが。」 
「効率ものですか・・・難しいですね。」あるにはあったが、とても初期装備の旅人に出せるような金額ではなかった。「何%くらいですか?」
「大体70%↑で探してます。」さらっと言ってのけた。
「70↑!?それくらいだとかなりしますよ?」このBISは・・・。初心者か?
「そうなんですか・・・お金はあまり持ってないんです。」
俺は、やっぱり冷やかしか、と思った。次の瞬間・・・
「実は、ちょっとした足物を持っていまして・・・」そのBISは汚い使い古した感じの靴を目の前に差し出した。こ・・こ・・これは!!俺は、目をみはった。
大道無門だった・・・。かくいう俺も実物を見るのは初めてで、出かかる手を押さえるのに必死だった。まさか、こんなところで大道にお目にかかれるとは。
俺は、随分まえに捨てた筈のレアハンターの血が沸々とたぎってくるのを感じていた。こんなに熱くなるのは随分久しぶりだった。手に・・・入れてみせる・・・!!今では、こんな場末の露天商をしているが、俺も若いころは、古都はおろかアリアンにまでちょっとは名の知れたレアハンターだった。今でも、そのころのことを覚えてくれている古い馴染みがたずねて来てくれるから商売が成り立っていると言ってもよかった。
「これは珍しいものをお持ちですねぇ。」興奮に震えそうになる声を必死に抑制し
搾り出した言葉がこれだった。
「そうなんですか?知り合いがいいものだと言っていたので・・・」その旅人は、その価値を全く知らないみたいに言った。
いや、ただとぼけているだけかもしれない・・・気を付けなければ・・・。
「それで、これをCP効率と交換したいのですね?あぁ、そうだ、お客さん運がいい。
それなら、ちょうど今いい物がありまして・・・」俺は、一気にゴールを目指した。
焦りすぎたかもしれない。いや・・・案外いけるか・・、そう思った。
俺はこの大道を手にし、アリアンあたりでUアイテム専門の露天商に返り咲くことを一瞬
夢に描いた。これを、手にすることはそのための一歩・・・。懐かしいかな・・・ソルティで狩りに明け暮れる毎日、持ちきれないほどのレアアイテム、神装備で固めた全身、そしてUゲット・・・。かつての輝かしい日々が次から次へ思い出されてきた。俺は、あの場所に戻れるかもしれない。この大道で・・・!!

2

「あのう、それで・・・?」
俺は、そう聞かれ始めて自分が少し幻想に迷い込んでいたことに気づいた。
「ああ、これはいい物ですよ。私なら、1億くらい出しますね・・・。」
「一億!?ですか?」そのBISはやはりなにも知らないようだった。イケる!確信に似た思いを抱いた。俺は、そのときすでに場末の露天商ではなくなっていた。俺は、俺自身に戻りつつあると感じていた・・・。
「ええ、値段を付けるなら一億です。まぁ、実際には1億の価値のものと交換と言う形になりますが・・・。どうです?CP効率75%のレザーカラーと交換しませんか?」
「・・・ちょっと待ってくださいね・・・。」かなり戸惑っているようだった。
しばらく無言で待った・・・。俺は、今までの経験から相手はこの取り引きを拒絶できないと確信していた。一億の価値を正確に見極められる人間はそうはいない。
まして、奴の欲しかったものが目の前に現実にあるではないか・・・!このレザーカラーは
確かに大道と比べれば見劣りするかもしれない。だが、いつでも手に入るというものでもない。欲しいときに欲しい物が手に入るという甘い世界ではないのだから・・・。だが・・・。
もう少し押しが必要か・・・?

 そのとき一人の常連が通りかかった。よく良品を手に入れては自慢しに来る奴で、
嫌いではなかったがあまり好いてもいなかった。彼は、一通りこのやり取りを遠くから
聞いていたらしく、いきなりこう言い放った。
「お、また何も知らないルーキー相手にボッタクリですかぁ?旦那」
俺は、一瞬でマズイと感じた。しかしここであからさまに怒鳴っては、自ら騙そうと
していたことを認めるようなもの・・・。俺は、しばらく考えちょっとした芝居をうつことに
した。
「よぉ、相変わらず冗談が好きだなぁ。今日はなんのようだ?また、例のあれか?」
「いやね、通りがかったもんで。お?大道?ほぇーこりゃたまげた。」
マズイ・・・。俺は、大道が段々と遠ざかっていくのを感じていた。それは、まるで手に掬い上げた水がいつのまにか零れ落ちていくような・・・。そんな感じだった。俺に止める事など
できない・・・。だが・・・。
「今ちょっと取り込んでてね。また後できてくれないか?」俺はできるだけ、何気ない口調を努め奴に話した。
「大道と何を交換?」だがいきなり、奴はそのBISに話しかけた。
「CP効率75%のレザーカラーです・・・。」
彼もやはりさっきの言葉が気になるのか不安げに答えた。
俺は、この時点でこの交渉は100%ダメだと思った。もう少しでうまく行くはずだった俺の夢・・・。こんな奴に・・・。しかし、次に奴は信じられないことを口にした。
「大道とCP効率75%ねぇ・・・。まぁ妥当ってとこだな。あんたもBISならいい買い物だよ。これからも頑張りな。」
俺には、その言葉が信じられなかった・・・。

その奴の一声が功を奏したのか、取り引きはうまくいった。俺は大道を手にし、
また一流の露天商を目指すことを心に決めていた。それにしても、奴はなんであんな事
をいったのだろう。奴くらいのLvなら、この取り引きが不当とは言わないまでも妥当でないことくらいわかっているはずなのに・・・。
俺はその夜久しぶりに奴を飲みに誘った。

「だけど、なんであの時あんなことを言ったんだ?」俺は、少し酔いながらやつにそう切り出した。
それを聞くと、奴は急に真剣な顔で話し出した・・・。
「なぁ旦那・・・。俺は、みんな何か少し足りないんじゃないかって思うんだ。自分に必要な
何かが・・・。そりゃ、みんな自分はこれでいいですよって顔しながら日々を生きてるよ。
でも、やっぱり何かを失くしたり、何か足りないって・・・そう感じてると思うんだ。で、旦那は、それが大道だった・・・。俺は、あの時遠くから見ていてなんとなくわかったんだ。それだけだよ・・・。」
「そうか・・・。」
俺は、それ以上何も言えなかった。こんな辺境で露店を開いてる間に、
心まで錆ついちまったらしい・・・。そう思うとやけに切なかった。

「で?お前は何が足りないんだ・・・?」俺は、答えの見つかりそうにない質問をした・・・。

「20Mかな・・・ジムモリ破産で・・・。」

俺は、20Mを奴に手渡すと妖精のマントを着込みブリッジヘッドを目指した。
大道は、きっかけに過ぎない・・・。だが、きっかけってのは大事さ・・・。そうだろ?

「ハードボイルドな露天商」終


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最終更新:2009年06月04日 04:35