仲間という翼
1
かつて私には天空を舞う翼があった。
火の神獣の力の象徴たるRedStone。
護衛天使であった我が友を亡き者にし、『奴』は奪っていった。
探索のため、戒めのために同胞が次々と翼を折られ堕ちていく中、私は自ら翼を折った。
『奴』を追うために・・・・
地下界の時間でもう500年以上前の話だ。
共に堕ちた仲間の多くは人に姿を変え、地下界の人間を使い探索させようとしていた。
だが私はこの姿を捨てる気にはなれなかった。
友と同じこの姿で『奴』を討つ。それしか頭になかった。
そんな私に仲間達は呆れ、次々と離れていった。
だが私は気にしなかった。むしろ助かったくらいだ。
友の仇討ちを誰にも邪魔されたくはなかった。
2
長い探索の末、人間達が作り上げた機関「レッドアイ」の秘密基地の存在を私は知った。
そこなら数多くの情報が集められるだろう。逸る気持ちを抑え、道を急いだ。
私には驕りがあった。残された聖なる力をいくつも限界まで引き出していた自信から、
なんら警戒せず突入したのだ。たった一人で。
邪悪な意思により作り出された骨人像、狂信により人とは思えない力で襲い来る信望者共、
侵入者を排除しようと迫る所員の残党達。
今まで独力で切り抜けてきた私も傷つき、振り切るのがやっとだった。
通路の影に身を隠し、少しでも回復を計ろうとした私の前に、信じられない物が現れた。
デーモン。地下界でもめったに見られない上級悪魔だ。元々人間の施設になぜこんな奴が?
『奴』からRedStoneを奪おうとしているのだろうか?
息を殺し通り過ぎるのを期待したが、戦闘のためさらに開いた翼の傷から流れる血の匂いを嗅ぎ付け
デーモンは振り向いた。おぞましいニヤリとした顔で。
精も根も尽きかけていた私は冥府で友に詫びる言葉を捜しつつ、眼を閉じた。
3
巨大な落下音と金属音で私は再び眼を開けた。
見ると地下だというのに隕石が降り注ぎ、四方八方から槍が矢が剣がデーモンに突き立っていた。
数多の怒号と血飛沫が舞った後、デーモンは断末魔を上げて崩れ去った。
「無事なようだな?兄弟。」
浅黒く日焼けした顔に真っ白な歯を覗かせ、1人のビショップが笑った。かつての同胞だ。
「こんな所に1人でか?無茶にもほどがあるぜ。」
巨大な斧を担いだ戦士が呆れ顔でつぶやいた。
「・・・・余計な手間をかけさせたようだな。すまん。」
「ちょっと待って、『復讐の堕天使』さん。」
立ち去ろうとする私の背中に弓を持つ彼女の言葉が刺さった。
私はずっと1人で魔物を屠ってきた。よほど恐ろしい形相で倒していたのであろう。
いつしか冒険者達に『復讐の堕天使』の名で知られるようになっていた。
私の事を知る数名の同胞が漏らしてしまったのかもしれない。
「1人では厳しいでしょ?どうです?一緒に・・・」
「その名で私を呼ぶなら、私の事は知っているはずだ。どういう男かということを。」
「まぁ待てって、兄弟。あんたが人間嫌いなのはよく知っているけどよ。」
ビショップが頭を掻きながら続けた。
「あんた、ずっと1人だったんで人を見る眼が曇っちまったんじゃないかい?」
「なに?・・・」
4
「あんたが嫌っている欲に目が眩んだ連中はここには1人もいないぜ?だいたいあんた、
ここに来るまでどれだけの冒険者に会った?そんな奴らは墓か神殿に篭ってるさ。」
「・・・・・」
目の前にいる数人を私は改めて見た。
確かに欲望に曇ってはおらず、強い意思がその目にはあった。
「今ここにいるのはRedStoneと『奴』に人生を狂わされた者ばかりだよ。兄弟、俺やあんたを含めてね。」
「・・・私も悪魔への復讐のためにここにいます。」
先ほどの娘が語りだした。
「でも確信に近づくほど敵は強くなっていく・・・。1人の力では限界があります。あなたにも解ったでしょう?」
「傷を舐めあいながら生きていけ、というのかね?」自嘲気味に私は答えた。
「あーもうこのオッサンは!俺の何倍も生きているくせにガキみてーにウダウダと!!」
突然私の胸倉をつかみ戦士は怒鳴った。
「傷の舐めあいでもいいじゃねぇか!それで悪魔どもをぶっ倒せるならいくらでも舐めてやらぁ!
それが悪いことかよ?あぁ?!」
「おいおい、落ち着けって」慌てて間に入るビショップ。
「すまんな。こいつもいろいろあってな。それに・・・・」
「それに・・なんだ?」
「あいつの仇をとりたいのは兄弟、あんただけじゃないってことさ。」
まだ若い戦士の言葉と不器用にウインクした彼の顔が、冷え切った私の心の氷をいくばくか溶かした気がした。
「あなたのその力、貸していただけませんか?『復讐の堕天使』。」
まっすぐ見つめる彼女の瞳。ふと、友が心の中で笑ったような気がした。やれやれ、という表情で。
5
「フフッ フハハハハハ」突然笑い出した私に皆は驚いたようだ。
私自身も驚いた。声を出して笑うなんて数百年ぶりのことだ。
「いや、すまん。別に君らを侮辱しているわけではないさ。負けたよ。私の力どこまで役に立つかは解らんがね。」
「それじゃあ!」満面の笑みを浮かべる彼女。
「一つだけ条件がある。」 「このオッサンまだいうか。」
「黙ってろ若造。話は最後まで聞け。その字名で私を呼ぶな。私にも名はある。私は・・・・」
「奴」の足取りは未だつかめない。
きっと何処かで我々をあざ笑っているのだろう。
だが私はあきらめない。必ず「奴」を追い詰める。
かつて私には天空を舞う翼があった。
そして今、私は地を駆ける翼を手に入れたようだ。
『仲間』と言う翼を。
フランデル大陸にRedStoneを持つ悪魔が倒されたという噂が広まったのはそれから数年後の事であった。
~END~
最終更新:2009年06月04日 04:36