白銀の弓兵-3
1
何処までまでも続く真っ暗な暗闇、走っても走ってもたどり着かない何処か、そう…これはきっと夢だ。何処からが夢で何処までが夢?
私の名前はミト・メーベ。当ても無く旅を続ける一人のアーチャー。黒い髪の毛でまだ幼い顔立ち。身長は中の下。小型の弓を愛用し、私はこの弓に”琥珀の人”と名前をつけている。
家族は居ない、孤児の私を育ててくれた一人のランサーも今では何処か遠くへと旅立っている。そのランサーは赤い鎧を身にまとい、首には白いマフラーを巻いていて何時も同じ槍を持ち合わせていた。彼女の名前はオリエンタル・アラトール。大陸で一番有名なランサーであり、そしてその首を狙うものは数知れなかったという。
私はその人を探している、
そして、私は暗い闇をひたすら走っている。どこまでも、どこまで走り続け疲れては休憩し、そしてまた走り出す。
「…痛い!」
突然背中に激痛が走った、私はそのまま前に倒れこみ、背中の激痛に耐えながらも動く手と足を使って前へ前へと進もうとする。
背中が熱い、まるで焼けるように熱い。私はそれでも前へ進もうとする、しばらくすると手に何かの感触が伝わった。
精一杯の力でその感じたものを触る、人のようだった。その人のカタチをしているものは背中から大量の血を流し、体中冷え切っていた。暗闇が遠のく、一瞬目が眩み視力が回復するまでに少量の時間を要した。視界が一気に開けるとそこは一面白銀の世界。そして倒れていたのは私だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
部屋で休養を取っていた二人が突然その言葉に反応して同時に同じ方向を振り向く、アレンの手にはコーヒーカップ、ミルはほどけていたマントの裁縫をしている途中だった。
「はぁ…はぁ…。」
少女は目を覚ますと体をガバっと起こし、体中汗だらけで目を大きく見開いて息を荒らしている。悪夢から目覚めた少女は目の前に移る白いシーツと毛布を見て夢から覚めたのだと認識した。そしてあたりを見回し二人の男女の姿を見た。
「おはよう、目が覚めたみたいね。」
一人の女性が声を掛けてきた、その人はとても優しそうな顔でゆっくりと立ち上がり私のほうへと近づいてくる。男性のほうはカップを口に運んで何かを啜っている。
「ここは…。」
少し意識が朦朧とする中私はゆっくりと喋りだす、すると女性が私が寝ていたベッドのほうまで近寄ると額に手を当てて少し悩む。
「…ここはハノブよ、まだ少し熱があるみたいね。低体温症から回復したと思ったら背中の傷で熱が出てるみたい。まだ少し横になっていなさい。」
「あの…私。」
「ほら、寝てなさい。っとその前に。」
女性が男性のほうを振り向き、ドアのほうへ指を刺して笑顔で次のように言う。
「ほら、アレン君。いつまでそこでコーヒーなんて飲んでるつもりかしら?」
アレンと呼ばれた男性は少しキョトンとして女性のほうを見る、それから視線を少し落として私を見て何かを納得したかのようにドアのほうへと足を進めた。
「またロリコンなんて呼ばれたくないですからね、終わりましたらすぐに入れてくださいよ?」
「分ってるわよ。」
男性はやれやれと首を左右に振ってドアを開けて外へと出た。ゆっくりと閉まるドアがカチャリと音を立てて閉まるのを確認した後、女性は買い物袋の中から、その女性のものにしては小さすぎる洋服を取り出した。
「汗だらけね、着替えましょうか。」
「え…。」
2
私は自分が着ている服を見る、白いシャツがべっとりと汗で濡れていて少し肌が透けているのが分るそして顔を真っ赤にして先ほどの男性の顔が頭に浮かんだ。
「大丈夫、彼は目が悪くて眼鏡を掛けてないとほとんど見えない状態だから。あなたのことは良く見えてないはずよ。ささ、狼が戻ってくる前に着替えましょうか。」
女性が部屋の外で待っている男性にわざと聞こえるように大声でそういうと男性も少し大きな声で私たちに向けて言う。
「ミル、誰が狼ですって?」
「なんでもないわよアレン君。」
女性は笑いながら私が身に着けているシャツのボタンを一つ、又一つと外していった。そしてシャツを脱がせるとベッドの上においておいた一枚のシャツを私に着させてくれる。着替えが終わると私は女性にそのままベッドへと倒されて毛布を掛けさせられる。
「終わったわよアレン君。」
その一言で男性はドアを開けてゆっくりと中へと入ってくる、一つため息をついて中へと入ってくる男性は再び椅子を引いてその上に座った。
「あの…私は。」
「あなたは鉄の道で倒れてたの、あそこで何があったのか知らないけど。」
「鉄の道…。」
私はその場所で何があったかを必死で思い出そうとする、だが何も思い出せない。ただそこで倒れていたのは事実らしい。何があったのか…まるで記憶に無い。
「…あ、私の弓は!」
とっさに身を乗り出し部屋を再び見渡す、すると背中に残っていた傷口が少し開いてそこからゆっくりと血が流れ出す。
「っ痛…。」
「ほら、けが人は大人しく寝てなさい。」
「…でも、私の弓…。」
女性は一つため息をついて男性に何か告げる、すると男性はゆっくりと立ち上がり私の荷物が全て格納されているだろうと思われる大きな鞄を開けた。その中から取り出された一つの弓。それは間違いなく私の”琥珀の人”だった。
「あなたが持っていた弓よ、かなり古い弓みたいだけど…。」
男性がゆっくりと私の弓をもってこちらへと歩いてくる、そして私の目の前で止まるとその弓を差し出そうとして、やめた。
「…これを、何処で手に入れたのです。」
男性はとても険しい表情をしていた、隣にいる女性は顔に疑問の表情を浮かべて男性のほうへと顔を見る。男性は眉間にしわを寄せたままその弓を握る力が増えるのがわかる。
「…これは、そん所そこらにある弓ではありませんね。どこでこれを手に入れたのです。」
少しずつ男性の声に音量が増す、そして眼鏡を懐から取り出してソレをつけた。
「まじまじと見るまでは分りませんでしたよ、これは”琥珀の人”ですね。」
「…なぜソレを。」
女性は何がなんだか分けが分らずに少し困惑している、それを知ってか知らずか私と男性は話を続ける。
「答えてください、これを何処で手に入れたのです。」
「…そ、それは。」
私は怯えていた、あまりにも男性が怖く、そして何故琥珀の人を知っているのか。あの人はめったに琥珀の人を人前には見せなかった。だからこそ私はこの男性が知っているのかを疑問に思いつつも、その気迫に怯えている。
「ちょっとアレン君。」
女性がようやく口を開く、その言葉に我に戻ったかのように男性は握る力を弱め、そして私に弓を渡してくれた。
「…私らしくありませんね、頭を冷やしてきます。」
そういうと男性は自分のコートを手に取り部屋から出て行った。女性は少しため息をついてその後を目線だけで追って再び私のほうへ目線を向ける。そして一言言葉を掛けてくれた後、彼女は再び椅子へと戻った。
空からは相変わらずの白い妖精が舞い降りる、息は白く、大寒温度は恐ろしく低い。懐に手を伸ばして一つの箱を取り出す、やめていたはずのタバコだった。
それを口にくわえ、マッチで火をつけて一服する。一息ついてから空を見上げ、物思いに昔の事を思い出す。
「…あなたは、どこで何をしているのですか。」
自分が師匠と呼んでいた女性の事を思い出し、そして白い息と共に白い煙を口から吐き出す。あたりはすっかり暗く、街頭だけがアレンを照らし、煙と息、そして舞い落ちる雪だけを照らしていた。
白銀の弓兵-3
END
最終更新:2009年06月04日 04:30