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好敵手


1

今日もあたしはあいつに勝てない。
そしてあいつもあたしに勝てない。


ランサーのあたしと剣士のあいつは、出会ったときから何度も勝負を繰り返してる。
でもまだ一度も勝負はつかない。
あたしはあいつの攻撃を避けるし、あいつはあたしの攻撃を防ぐからだ。
火力に自信のあるあたしの攻撃は、硬いあいつに当たってもさして効果は得られない。
逆に硬さを追求して火力をおろそかにしてきたあいつの攻撃も、
あたしにあたってもさして痛くなかった。

人はあたしたちを最強だと言う。
あたしたちもそう思ってた。
でも…誰しも弱点はあるものなのだ。

あたしたちの弱点は、全属性の抵抗が低いこと。
あたしはとあるマジアチャと戦って、避けようのない範囲魔法であえなく敗れ、
負けたついでにその人に惚れて先輩と慕うようになった。
同時に剣士はウィズと戦ってチリとストーンタッチであえなく破れ、
あたしと一緒で負けたついでにその人に惚れて先輩と慕うようになった。
そして後にウィズがギルマスを、マジアチャが同じギルドの副ギルマスをしていることを知り、
あたしたち二人してそのギルドに入れてもらって今に至る。

そんなわけで、最強の回避力や防御力を持つあたしたちは、
物理攻撃では絶対叶わない状態異常魔法や範囲魔法に憧れているのだった。


2

さて、今日は先輩たちの発案で、ギルド全員で狩りに行くことになった。
標的はオート地下監獄のB4にいる守護鎧。
到着するなり襲い掛かってきた守護鎧たちに、まずギルマスが颯爽とチリを放ち、
チリで動きの鈍った守護鎧を先輩がマジアロで一掃する。
いつ見ても鮮やかな二人のコンビプレイの横で、あたしも見習うように敵に攻撃を仕掛けた。
………与えたダメージは先輩の半分以下だった。

ギルメンたちは先輩たちに続くように意気揚々と守護鎧たちに飛び掛っている。
あたしはそれを他人事みたいに見ながら、戦線から撤退し、端の方にちょこんと座った。
うちのギルドはギルマスと先輩の鮮やかな魔法に惹かれて加盟する人が多い。
むしろ負けて仲間入りなんてしたのはあたしと剣士ぐらいで、あたしたち以外は皆魔法を使う。
ギルメンたちの守護鎧への魔法攻撃を見てると、明らかにあたし以上に役に立ってるのがわかる。
数体に同時に襲われても範囲攻撃で一気にダメージを与えてるし…ついでに派手で格好いい。
あたしは深い溜息をついた。

「おら、何サボってんだよ」
不意に掛けられた声に、視線を移動させる。
そこにはあたしが絶対勝てないけど絶対負けない例の剣士がいた。
「べっつにぃ」
「別には答えになってねえだろ」
「…そーいうあんたこそ何サボってんのよ」
「………、…べ」
「別にって答えはナシね」
「………」
剣士は無許可であたしの隣に腰を下ろすと、ギルメン達の戦いに視線を向けながら言った。
「…俺らって、ギルマスと副マスの次に強い筈だよな」
「一応ね」
この間やったギルド内トーナメントでは、あたしとこの剣士が同着3位だったのだ(決着はつかなかった)。
剣士は壁に背を委ねながら、さっきのあたしみたいな深い溜息をついた。
「けどよ、普通の狩りでは全然使えてねえよな。お前さっき副マスの半分しか食らわせられてなかっただろ」
「…あんたこそ、あたしの半分しか食らわせられてなかったじゃん」
「……………」
あたしたちは二人して深い溜息をついた。


3

「どうした?」
「…べつ… マスター!」
あたしたちは慌てて立ち上がった。
でもギルマスはサボってるあたしたちを咎める様子は無くて、
それどころか笑みの中に申し訳なさそうな色を滲ませていた。
「ギルドの皆が普段あまり来ない所っていう基準でここを選んだけど、二人にはつまらなかったかな。」
「「とんでもない!!」」
あたしと剣士は同時に言いながら思い切り首を振った。
セリフも行動も被ってしまったあたしたちに、ギルマスが軽く笑った。
「そうじゃなくて、実は俺らっ」
ギルマスに懐いてる剣士が、あっさりとあたしたちの悩みを吐露した。
…あたしはこんな情けない思いを抱いてるって知られたくなかったのに…。まあいいけど。

一通り剣士の不器用な話を聞き終えると、いちいち頷いて丁寧に話を聞いていたギルマスは、
いつもの優しい表情で微笑んだ。
「どうやらそれは誰もが一度は通る悩みみたいだ。」
「へ?」
マスターもですか?と言いたげな剣士の表情を見て、ギルマスは無言で頷いた。
「昔の話だけどね。一度それに陥ったら、世界が見えなくなってしまう」
「世界が…」
ギルマスはあたしたちに背を向けて、魔法を放つ動作をしながら歩き出した。
「思い出して。この世界はもっとうまくできてるはずだ」
そう言い残すとギルマスは、守護鎧にチリを打ちつけながら、走ってギルメン達の所に戻っていった。


4

その場に残されたあたしたちは、ギルマスの背を見ながら呟いた。
「…どういう意味だ?」
「さあ…」
知識も知恵も無いあたしたちには、ギルマスの言いたいことが欠片も理解できなかったのだ。
「…まあいいや、マスターに心配かけさせちゃったのは確かなことだわ。
 これ以上心配させないように、いつまでもサボってないでちょっとは働きますか」
言いながら愛用の槍を見る。剣士は何も言わない。
「…ちょっと、何か言ったら…」
どうなのよ、と言おうとしたけどその後は続かなかった。
剣士がすっごい形相をしてるのに気づいたからだ。
「…なに」
ひっかけか?とか思いながら、剣士の視線を追う。
視線の先には…見慣れない怪物から逃げてくるギルメンたちの姿があった。
「なっ…あれはホワイトシェード!? い、いつの間にっ!!」
慌てて槍を構えるあたしを、剣士が片手で制する。
「ちょっと、なにすんのよっ」
「よく聞け!」
視線を怪物に固定したまま真剣な口調で言った剣士。
言うとおり耳に意識を集中させると、先輩の声が聞こえてきた。
「早く逃げなさい!こいつに攻撃は効かない!!」
先輩はそう言いながら、なんとか怪物を足止めさせようとマジアロを放つ。
…確かに効いてる様子はない。
ギルマスもギルメン達を守ろうと何発もチリを食らわせるけど、
さっき守護鎧に打ってたのの半分…どころか一割程度しか効いてない。
「おい、俺らも逃げるぞ!」
剣士があたしの腕を引く。あたしはそれを咄嗟に払った。
「てめ、何やって…」
「待って」

あたしは少ない知恵を総動員して、さっきのギルマスの話の意味を考えた。
この緊急事態にこそ、何か引っ掛かるのだ。
『この世界はもっとうまくできてるはずだ』
考えろ、考えろあたし。

相反する魔法と物理。
魔法が効かないとしたら?


5

……簡単な答えじゃないか!あたしは敵に向かって駆け出した。
後ろから驚いた様子の剣士の声が聞こえたけど、そんなの聞いてる暇はない。
愛用の槍を回しながら勢いよく近づき、
敵が槍に弾かれてうろたえた一瞬の隙に構え直して思い切り突き刺す。
布を引き裂く様な敵の叫び声が耳に届いた。
(やった、いける!)
あたしは確信に近い物を感じた。

そう、つまりこういうことなのだ。
この世界には完璧な超人はいない。いたら世界はとっくに滅びてる。
だから誰にでも長所があれば短所があって。
魔法攻撃が効かない敵には、きっと物理攻撃が効くはずなんだ!

けど、優位は一瞬だった。
すぐに持ち直した敵が、攻撃対象をあたしに定めたのだ。
必死で避けるけど、それに気を取られて攻撃する暇が無くなってしまった。
槍を回して敵を弾こうにもその隙さえ与えてくれない。
(このままあたしの体力が尽きるのを待つしかないのか…!?)
そう思って絶望した瞬間。

金属を叩くような聞きなれた小気味良い音が響いて、来ると思った攻撃が弾かれ消えた。
次々と来る敵の攻撃も、あたしに届かず消えていく。
目の前を見覚えのある盾が横切った。これは!
「先走んなっつっただろ!紙なんだから自重しやがれ!!」
そう言いながら、剣一本だけを手にした剣士があたしの前に躍り出た。
剣士があたしにシマーをかけてくれていたのだ。
「あんたこそ、盾無しで敵の前に!」
「へっ、俺を誰だと思ってやがる。俺はこの体が盾みてえなもんだかんな!」
自慢げに言いつつデュエルを仕掛ける。
全ての攻撃を受けて尚、確かにそんなに痛そうには見えなかった。
「…よおっし、ちゃんとひきつけといてよ!」
あたしはもう避けることもブロックすることも考えずに、
さっきまでのお返しとばかりに敵に攻撃を繰り出した。

それが、あたしたちがギルドに入って初めて自信を感じた瞬間だった。


今日もあたしはあいつに勝てない。
そしてあいつもあたしに勝てない。
けど、もう勝敗に固執することはない。

後にあたしたち二人は、ギルド戦で狙われたくないNo.1物理コンビと呼ばれ、
ギルマスが事情で先輩にマスターの座を譲った時、全員一致で二人同時に後続の副に選ばれることとなる。
まあ…状態異常魔法やら範囲魔法やらに弱いのは、相変わらずなんだけど…ね。

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最終更新:2007年06月05日 07:11