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白銀の弓兵-5


1

 「アレン君!」
数人の男に取り囲まれ、そして一人のリーダー格と思われる男に捕まり、首元にナイフを突きつけられて慌てているアレンの姿がミルの目に映った。
「てめぇか…俺の部下をあんな姿にしてくれたってランサーは。」
アレンの首元にナイフを突きつけている一人の男がそう言った。察するところこの間の盗賊団の頭と思われる人物、そしてその周りにはその部下達。
「おっと、動くなよ…。」
ミルが槍をとりだして構えた瞬間、アレンの首元にあるナイフは少し奥へともぐりこまされる。すこしだけアレンの首から赤い筋が流れるのがかすかに分る。
「何してんだ…槍を捨てねぇか!」
「く…。」
じりじりと間合いを詰められているのが分る、私はどうしやっても不幸と隣り合わせに生きていくしかないのかと頭の中でそうつぶやき、手にしていた槍を遠くのほうへと放り投げた。その槍を部下の一人が走って拾いに行き。その槍を構えた。
「なさけねぇ…こんな奴に全滅させられたのかよ…つかえねぇなぁ。」
「…生憎、彼らは素直に私の手に掛かってくれましたからね。」
「自分の立場ってのが分ってねぇらしいな…。」
ミルは相手を挑発するように相手に毒舌を吐く、その挑発に乗る盗賊団の一味は再びミルとの間合いを縮めていく。
「ふん…この腰抜けも杖ねぇ状態で大分いきがってたな。少しだけ自分が置かれている立場というものを教えてやろう。」
盗賊団の頭の前に数人の下っ端が列を成した、そしてそれぞれ武器を持つと戦闘態勢を整え再びじりじりと間合いを詰めていく。そのなかミルはとても涼しそうな顔をしている。それがアレンには分らなかった。
「やれ野郎供!」
アレンを捕まえていた盗賊の頭は、アレンを後方へと投げるかのように弾き飛ばし、その言葉と同時にいっせいに飛び掛ってきた、一人は正面から、一人は横から…四方八方から囲むようにしてミルにそれぞれの獲物を突き立てようとした。
だが丁度その時、上空から何かが空気を切る音を盗賊団の下っ端立ちは耳にする。その直後急に視界が走っている方向と逆の方向へと逆送し、そして激痛が襲ってきたと思った瞬間その命を途絶えさせた。
「何!」


2

一瞬の出来事だった、矢が刺さっている方向から発射地点を計測しその方向を頭は向いた。そこは宿屋の屋上、街頭の丁度真下あたりに屋根はあり、そこに上っている少女の姿を照らしていた。
そして、再び数本の弓矢が落ちてくる。空気を切る音は相変わらずの鋭さだ。だが男には命中せずに男の周りにドスドスと音を立てて地面に突き刺さった。
「早い…。」
少女は今度、きちんと弓矢をセットして、弓を引く動作を行う。その動作はなれたもので一連の流れのように綺麗だった。
狙いを定めると弓をしならせて一気に打ち込む。飛んできたのはたった一本の矢だった。それは又男の脇を通り過ぎ、ドスと地面に突き刺さった。
「馬鹿め、何処をねらってやが…。」
そこで男の声は途絶えた、突然声が出なくなったと思った刹那、喉に焼けるような痛さを覚える。その痛さは体のあちらこちらへと伝わり、そして背中から胸に掛けて一本の槍が突き刺さり、それは貫通した。
「残念ね…。」
素早く槍を抜くアレンが居る方向へと跳躍し、アレンを抱きかかえて再び空中へと跳躍する。
「…肉片すらのこさない!」
ミトがそう叫ぶと、屋根から空中へと飛んで目にも留まらぬ速さで弓を打ち続ける。同時に六本ずつ放たれるその矢は男に当たることなく地面へと次々に突き刺さっていく。そして最後に力いっぱい弓を引き、魔力増強装置のスイッチを入れた。
「やぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう叫ぶと空中で一本の矢を最後に放つ、その矢は男の体を貫通して地面へと突き刺さる。矢が刺さった刹那何本も突き刺さっていた矢が同時に爆発を起こしあたり一面を吹き飛ばした。その爆発に盗賊の頭はもちろん、部下である数名の男達も巻き込み、爆風で作物の一部が吹き飛んだ。
スタっと上体を起こして体にダメージが残らないような着地の仕方をする。そしてゆっくりと立ち上がりミルの方へ振り向いた。
「…。」
ミルは何も言わずにミトをじっと見つめ、そして笑顔で右手を前にだして親指を上に突き出す。するとミトも同じように笑顔で親指を上に突き出した。そして半場ぼろぼろ担ったアレンは同じ動作をせずにミルの方に捕まってミトへと言う。
「…グッジョブ。」




 「グッジョブ…じゃない!」
その次の日、宿屋の亭主はぼろぼろになった自分の宿について三人に説教を始めていた。当然アレンが一番責任を問われ旅の資金の半額を亭主へと工事費と修理費として渡した。
「だが…あんたらのおかげでこの周辺で悪さをしていた盗賊達は全滅だ、そのことにだけは礼をいうよ。」
アレンを残してミルとミトはそそくさと部屋へと逃げ始める、アレンは必死で頭を下げ同じ言葉を連発している状況だった。
その間に二人は荷物をまとめ、アレンが戻ってくるのをゆっくり止まった。アレンが戻ってきたのはそれから二時間後の事、爆風で吹き飛ばされた作物の弁償や責任について問われて既にぼろぼろになっていた。
「あ、お帰りアレン君。」「お帰りなさい。」
二人は声をそろえてアレンを迎えた、だがこのときばかりはその笑顔もまったく役に立たず、アレンは一人すねてしまった。
「ちょっとアレン君、そんなにすねなくても…。」
ミルが流石にやりすぎたかと反省した様子でアレンのほうへと近づいていく、だがアレンは昨夜と同様にタバコを懐から取り出す手馴れた手つきで火をつけて白い煙を吐き出した。
そしてミルのほうをギロンとにらむと再びそっぽを向いてタバコをふかす。
「…はぁ、これじゃぁお祝いも出来ないねミト。」
「そうですね、せっかくギルドに入れてもらって。頼もしい先輩も出来たというのに残念です。」
少しの間だけ三人の間には沈黙が流れた、そして何かに弾かれるようにアレンは素早く振り向き加えていたタバコをズボンの上へと落とした。
「アチチチチチチチチチチ!」
アレンは慌ててズボンの上へと落ちたタバコを手で払い、そしてその手にいまだ燃え盛るタバコの火を触れてさらに大騒ぎをする。その様子をポカンと黙って見ている二人、そんなことには目をくれずに洗面台のほうへと走り、蛇口の線を開けて火傷した手を冷やす。
「いってぇぇぇぇ!」


3

 事が収まったのはそれから五分後、アレンは足と手に少量の包帯を巻いて椅子に座っている。その対面にミルとミトがちょこんと座っている。
「それで、本当にギルドに入るおつもりですか?」
アレンは先ほどの騒ぎが嘘のように冷静さをとりつつもミトへと話しかけた、そうするとミトは軽く頷き、そしてアレンをじっと見つめて
「宜しくお願いします、先輩。」
と一言だけ言った。
「というわけなんで、アレン君よろしくね…って聞いてる?」
ミルは確認のためにアレンに同意を求めようとした、だがアレンはしたの方を向いて背筋を伸ばしたままカタカタと震えている。
「ちょ…アレンく…。」
「宜しくお願いしますミトさん!」
ガバっと正面を向き、そして立ち上がり椅子を膝の裏で押しのけて垂直に立った。その姿を見てミトは少しビクっとしながら素早く上下に首を振った。
「さて、そうと決まれば次の町で情報収集です!…ほら二人ともさっさと行きましょうよ。」
今までに無く生き生きとしたアレンの姿がそこにあった。荷物をまとめてアレンは急いで宿を出る準備をした。二人も既にまとめていた自分の荷物を担いで走り出すアレンの後ろを追った。ハノブの出入り口へはすぐにたどり着ける距離に宿屋は位置していて、すぐさま三人はハノブを出た。短い間だったがちょっとしたトラブルに巻き込まれた三人は一度も振り返ることなくハノブを後にする。
しばらく歩いた後、ミルはアレンの横について顔をうかがった。そして一度後ずさりをして後ろからゆっくりと歩くミトの耳元で小さな声でつぶやいた。
「…あの話、本当だったかもしれないよミト。」
そうつぶやくとミトはびくっと背筋を凍らせた、腰にぶら下げている琥珀の人がカタンと音を立てて地面に落下した。
「ん、どうしたんですか二人とも。」
「いや、なんでもないわよ。ねぇミト?」
ミルは少しあせった顔をしてミトへと同意を求める、だがしかし、ミトはそそくさとミルの背中に隠れ顔の半分だけを覗かせる。
「…。」
「どうしましたミトさん?」
「…あの。」
ガタガタと震えるミトの体がミルにはすぐに分った。そしてミル自信サァーっと血の気が引くのを覚えそして
「アレンさんって、本当にロリコンなんですか…?」
その言葉がアレンとミルを凍りつかせる。そして数秒後アレンは左手に持っている杖を上に振りかざして急に詠唱を始める。
「ミル…あなたって人はぁ!」
「ご、ごめんさ~い!」
アレンは頭上に火炎弾を数個作り出してソレを走り出したミルへと放った。火炎弾はミルの走るすぐ後ろで地面に激突し、そのいっぺんを焼き払う。
「今度という今度はゆるしません、覚悟しなさい!」
「ミトのばかぁ~!」
二人はそのまま荒野を走り続ける、一人取り残されたミトはすぐさま弓を拾って二人の後をわらいながら追いかける。そして荒野にはいまだ雪が降り続いていた。


 白銀の弓兵
 END


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最終更新:2009年06月04日 04:32