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サーヴェリー姉妹-3


1

―気がつくと、そこはいつものベッドの中だった。(あぁ、夢だった
んだ)とほっとした。部屋を出ると、不気味な程静まり返っていた。

「おかしいなぁ。」

私は少し不安になりフプレの部屋を開けた。
「フラン!!気がついたのかい!?体は大丈夫?痛くないかい?」
と、突然、母が心配そうな顔で尋ねてきた。
「え?私寝てただけだよ?」
私はキョトンとしてそう返した。
「!!…」
母は、言葉を紡いだ。
「ねぇ、なんか村がおかしくない?こんなお昼間なのに外に誰もい
ないみたいだよ。」
「…」
「お母さん?」
私は答えてくれない母に不安を覚えた。なにか隠しているんだろか?

「フプレ、よく寝てるね。」
と母の方を見てみると、母の目からは大粒の涙がこぼれていた。
「え?お母さん!?どうしたの?」
私は訳も分からず泣いている母に動揺してしまった。
「かわいそうに、この子は…。つらかっただろうに…」
「なに?なにがつらいの?お母さん、私は全然つらくなんてないよ。」
「…。」
母はもうなにも言うまいと、口を閉じた。
そんな母を見て私の不安は募っていくばかりであった。


しばらくして、誰かが玄関のドアをノックした。
「サーヴェリーさん、葬式が始まりますよ。お子様の看病は私がし
ますので、参列なさって下さい。」
と言って家の前で立っていたのはこの村唯一のお医者さん、カナン
さんだった。
「あ、もうですか…。分かりました。この子たちをよろしくお願い
します。」
といった後、母はカナンさんになにか耳元で囁いていた。
「…そうですか、分かりました。無理に思い出させるよりも時間を
掛けてゆっくりと、思い出させてあげたほうがよいでしょう。とに
かく、そのことには触れないようにしますよ。」
と、カナンさんが言った。 私にはさっぱりだ。
「では、お任せします。」
そういって母は出かけていった。

「やぁ、フラン、こんにちは。」
カナンさんは優しく微笑んだ。
「あの…、お葬式って誰か死んじゃったんですか?」
私はあいさつも返さずに尋ねた。
「あぁ、葬式っていっても人じゃないんだ。前の長老様のペットが
死んでしまってね。そのための葬式さ。」

…カナンさんは嘘をついていた。

「え~?あのファミリアロードの「ナイント」死んじゃったんです
か?」
「うん。前の長老が死んでしまってから日に日に弱っていたからね。
…しかたがないんだよ、生物が死ぬっていうことは。」
「かわいかったのになー。」

「うわっ!!」
いきなりカナンさんが声を上げた。

「ど、どうしたんですか??」
私は彼の声に驚きを隠せない。
「あ、いや、ごめんね。おはよう、フプレ。」
カナンさんはベッドのフプレに向けてニコッと笑いかけた。
見ると、フプレがいつのまにか体を起こし、目をパッチリとさせて
いる。
「おはよ、フプレ。」
私もニコッとカナンさんの真似をして笑いかけた。
「フラン…。よかったぁ、生きてたんだね…」
いきなりフプレは訳の分からないことを言い出した。
「え?なんのこと?どうしたの、恐い夢でも見たの?」
「フラン…。覚えてないの?メラーくんが死んじゃったんだよ…」


あれ?それは、私が見た夢の中のお話じゃないの??フプレも同じ
夢を見てたの??


「フラン?」
彼女の呼びかけは私の耳には届かなかった。私はすこし混乱してい
た。

…夢が、現実……現実?夢??


2

カナンさんは少し様子を見ていたようだがようやく口を開いた。
「フラン、いいかい、よく聴くんだ。これは君や、フプレにとって
すごく大事な話なんだ。」
そう言ってカナンさんはゆっくりと、昨日起こった出来事を話始めた。

まず、赤山を通った冒険者が倒れている二人…とメラーの遺体を発
見し二人を担いでビスルに行き、それからメラーの遺体を回収。リ
ンガ村の子供ということが分かり、ここまで運んできてもらったの
だという。

「二人とも怪我はなかったんだがね、フプレは服がところどころ焼
けていて、よくヤケドしなかったものだと関心しているよ。」


私は…。どうしても信じられなかった…


「じゃあカナンさん、今葬式をしているのって…」
「うん…。メラーの葬式だよ…」
カナンさんの答えを聞いた瞬間、私の足元に転がっているメラーくん
の姿が脳裏に、鮮明に浮かび上がってきた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は叫びながら気を失ってしまった。

それを見ていたフプレはベッドから立ち上がると、真っすぐに玄関
へと向かっていった。
「お、おい。フプレ、待ちなさい!」
カナンさんはフプレを追いかけようとしたが、フランを放ってはお
けない。言葉で呼びかけるも、フプレは外に出て行ってしまった。

「くっ!!」
ひとまずフランをベッドに寝かせて、カナンさんはフプレの後をつ
けた。
しかし、玄関をでたところでカナンさんは立ち止まってしまった。

「あ、あれは…」

彼の目の前にいるもの―それは“あの化け物”であった。
「フプレ、君は…」
カナンさんは驚きと恐怖を隠し切れない、といった感じで彼女に問
いかけた。
「メラーくんはどこ? ん…。あっちかな…」
なにかに取りつかれたように、フプレは葬儀の場所へと向かってい
った。カナンさんは腰がぬけ、もはや追いかける気力もなかった。



葬儀は長老の家で行われ、全員で静かに黙祷を捧げているときだった。

「ガチャ」

不意に開いた扉に参列していた全員が目を向けた。
そして、次の瞬間、家の中はパニックに陥った。

「ば…化け物だ!!」「うわぁぁぁ!」「メムニー、奥へ逃げろー!!」
「どけー!」「痛っ!!押さないでよ」「こ、こわいよー!」「も、も
うだめだー!!死んじまう!!」

様々な叫び声がこだまする中で、冷静に化け物のほうに近づいて行
く人物がいた。メラーの父親である。
「よくも息子をーーーー!!」
彼は何の策もなしにその化け物―サラマンダに飛び掛っていった。
彼は激しい怒りをあらわにし、サラマンダに殴りかかる…が、サラ
マンダは一切反撃をする気配が見られない。
長老はその光景を冷静に見つめ、一言放った。

「フプレ、そのサラマンダは君のペットかい?」

その言葉にパニックに陥っていた人々はピタッと動きを止めた。メ
ラーの父親も例外ではない。そして、少女の返答を待った。
「はい…。そうです…」
そのフプレの答えに一同は先ほどとは違ったパニックに陥った。


―普通、サラマンダなど、何種類かのモンスターは意思疎通ができ
ないため、熟達したテイマーでもテイムすることはできない。その
ことは周知の通りである。
しかし、今目の前にいる少女はそれをやってのけたのである。人々
の知る限りでは、そういった例はなく、その光景を目の当たりにし
てもまだ信じられないといった面持ちである。


3

「フプレ、寝てなきゃだめじゃないか。フランはどうしたんだい?」
母親がようやく娘に話かけた。
「フランは寝ちゃった。ごめんね、お母さん。私、どうしてもメラ
ーくんに会いたかったんだ。」
そう言うと彼女はメラーの遺体に向かい歩きだした。
人々が道を作るようにサァーっと左右に分かれた。

遺体の前に着くと、フプレはメラーに語りかけるようにしゃべりだ
した。
「メラーくん。この子がね、メラーくんに謝りたいって。あのとき、
冒険者がこの子の子供を殺したのに怒ってて、自分を制御できなく
なってたんだ。そこで大声上げたメラーくんに反射的に火を噴いち
ゃったんだって。あの後、この子、すごく後悔してたんだよ。メラ
ーくんを殺しちゃったこと。自分の子供が死んで、こんなにも悲し
いのに、メラーくんみたいな子供を死なせてしまって…ごめんねっ
て……ご……め……ん…って。」

そこまで言って、フプレは泣き崩れてしまった。
その姿に、メラーの父親ですら、怒りを忘れていた。

「フプレ…」
不意に長老が話しかけた。
「君はそのサラマンダをどうするつもりだい?」
フプレはすぐには答えられなかった。

「そのサラマンダの気持ちはよく分かったけど、メラーを殺したの
は事実なんだ。生かしておくのはメラーの遺族の方たちからしたら
酷だろう?」

フプレは悩んでいた―サラマンダの気持ちも分かるが、メラーくん
の家族の気持ちも分かる。9歳の女の子にその判断を委ねるのは酷
なものであった。

「私は…」
そのやりとりを見ていたメラーの父親が重々しくも、言葉を続けた。
「私は…。メラーの命を奪ったこいつがにくい。しかし、こいつも
親で自分の子供を殺されている。では、私がこいつの命を奪ったら
それで終わりか?またこいつの親なり、兄弟なりが悲しみにくれ、
人を襲ったりしないのか?」さらに続ける。
「こいつを殺すのは簡単だろう。しかし、殺したところで何も変わ
らない。メラーは帰ってこない…」
「ならば…いっそのこと、「メラー」として、生き抜いてはくれまい
か?」

フプレは、また泣きだした。なぜか…うれしかったのだ。メラーく
んは死んだりしてない、この子と、私の中で生きているんだ…



その後、葬儀を終えて家に帰ると、目を覚ましたばかりのフランと
メラーが鉢合わせしてしまい、彼女は再び倒れてしまった。


―今でも思い出す、あのメラーくんの死体。正直、「メラー」に馴れ
るのは時間がかかったが、今ではすっかりフプレのパートナーとな
っている。あの一件以来、彼女は天才、ともてはやされたが、一方
では魔物の子だの、悪魔の使いだのと、彼女を軽蔑する輩もでてき
た。そんなことを知ってか、あれ以来、彼女はいつでも明るく振舞
ってきた。


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最終更新:2009年06月04日 06:52