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こいのわかれみち-4


男の言葉に、ドロシーは困ったように笑った。
「周りを気にして交流を絶つのは愚か者か臆病者のすることよ、私はどちらにもなりたくないの。
 それに、鎧を脱いだ貴方をケイルンさんだとわかる人はそう多くない筈でしょう」
ケイルンと呼ばれたその男は、何も答えずにドロシーの隣に腰掛けた。
「あら、私が来たからって鍛練を中断なさるなんて。珍しい」
「昼間」
ドロシーの言葉が終わるか終わらないかの内に、視線の先を自らの足元に向けたケイルンが口を開いた。
「ひだり、と叫んだのは…」
ドロシーははっとして、ごめんなさい、と小声で言った。
「すぐにケイルンさんには助言なんて必要ないって気づいたわ。でも咄嗟だったから、つい。」
「……やはり君だったか…」
ケイルンはゆっくりとドロシーに視線を向けた。何かを確認するような、品定めするような眼だ。
「ドロシー、君はあの戦士の太刀がどう捌かれたか、再現できるか?」
ドロシーは「それはちょっと」と即答すると、一息置いて苦笑しながら続けた。
「あんなに早い動き、私には出来ないもの」
ケイルンの眼が僅かに見開かれる。だがドロシーはそれに気づかずに立ち上がった。
スローモーションでの再現を試みる気のようだ。
立ち方から、昼間のケイルンの真似をしているのがわかる。
「ええと…左からきた刀を…こう」
そしてゆっくりと、右手で左腰に差した刀の柄を握って大振り気味に抜刀するという流れをジェスチャーで表現した。
「…おしまい。これがどうか?」

ケイルンは神妙な表情で押し黙ってしまった。
そう、確かに自分は昼間、それだけの動きで戦士を倒した。
腹を着実に割るつもりだったのだろう、ご丁寧にフェイントまでつけて水平斬りを仕掛けた戦士の剣を、
左腰に差していた剣を抜刀することで止めたついでに鍔の部分まで刀身を導引し、そこに絡ませて少し捻ってやったのだ。
戦士はケイルンの鮮やかな罠に反応しきれずに、引っ張られて倒れてしまった。
ギャラリーの大半を占めていた街の住人には、戦士が垂直斬りを仕掛けた次の瞬間に勝手に倒れたように見えただろう。
小数いた冒険者は、垂直斬りは戦士のフェイントだったことまでは気づいたかもしれない。
そう、あの戦士はそれだけの実力を持ってはいたのだ。
だがケイルンはそんな彼を一瞬で地に伏せる実力を持っていた。
そして…ドロシーは、それら一部始終を"全て"見ることが出来た。

ケイルンは立ち上がり、まっすぐドロシーの目を見た。
「ドロシー」
「はい?」
しっかりとした低い声に名を呼ばれて、ドロシーは胸が高鳴るのを感じた。
鼓動が聞こえてしまいそうな気がして、誤魔化すために慌てて自分の髪を撫でる。
けれどケイルンはそんなドロシーの仕草など気にもとめずに、ただドロシーの目だけを見て言った。
「その動体視力は一介の薬屋が持ち得るものではないな。…君は何者だ?」


つづく


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最終更新:2009年06月04日 06:48