サーヴェリー姉妹-6
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翌朝、ファーガソンさんの元を訪ねたが、「彼はラボに閉じこもって
しまい、当分は出てこない。」とご家族の方に言われたので、しかた
なく家を出た。笛のことはしばらく謎のままになりそうだ。
ふらふらと街を歩き、南西地区を通りがかったとき、一人の老人の
熱い視線に気付いた。その老人はフローテックといい、なんでも、
街の西にある地下墓地に出現するバインダーという人の霊魂を鎮め
て欲しいというのだ。
「バインダーってやつは生前、金持ちでな。いろんなやつに恨まれ
ることをやって成り上がったんだ。その怨念か、彼は死後、安置さ
れていた墓から突然蘇ってその墓に訪れていた遺族たちを皆殺しに
したのさ。もちろん、彼の意思ではないと思う。ただ、いまでも時々
冒険者や参拝者を襲うって話だ。私の家族の墓もあの墓地にあるん
だが、そんなのがいたんじゃ安心して墓参りなんていけないからね
ぇ。少し危険かもしれないが、頼めるかな?」
「分かりました、やってみましょう。」
フプレは快く二つ返事でそう答えた。
私は・・。少し恐がっていた。なにせ、幼いころから霊感が強く、
墓地などは進んで近づくような場所ではなかったのだ。まして、今
回の相手は悪意をもった霊、悪霊だ。正直、断れるのならば断りた
い・・。
「フラン?どうしたの?」
フプレは中々返事をしない私の顔を覗き込んだ。
「あ、いえ、なんでもないわ。ぜひ、やらせていただきます。」
・・あぁ、なんでこういうとき、断れないのだろう・・。
「すまないね、頼んでおいてなんだが、・・気をつけておくれ。」
「ええ。すぐに帰ってきますよ。」
フプレはそういうと、街の西口に向けて歩き出した。私も彼女に遅
れぬよう、トコトコ歩き出した。
「フランったら、どうしちゃったのよ、あんな嫌そうな顔してたら
おじいさんに失礼じゃない。」
街の西ゲートを出たあたりでフプレは少し怪訝そうな顔をして私を
咎めた。
「あなただって知っているでしょう。私が幽霊とか嫌いなのを。」
私がそう答えると、はたと歩みを止めフプレは笑い出した。
「やだっ、フランったら、18にもなってまだそんなこと言ってる
の?あははは・・。」
「もうっ、からかわないでよ。」
「あははは、ごめん、ごめん。じゃあ、フプレさんの背中にしがみ
ついてなさい。守ってあ・げ・る。」
「フプレ!ばかにしすぎよ!!こら~!!」
「わぁ~、おこった~!!」
「逃げるな、こら!!」
そんな風に追いかけっこをしているうちに、墓場に到着してしまっ
た。
「はぁ、はぁ・・。あ、もう着いちゃった。」
目の前に広がる無数の墓標。薄気味の悪い柵が周りを囲い、重々し
い門がその口を開け私たちを中に招待してくれた。
・・昼間なのに・・。
墓地の至る所にふわふわと浮いている霊を少なくとも6体は確認し
た。幸い、悪意はなさそうだ。
「入り口、あったよ。」
フプレは早速地下へと潜ろうとしていた。その背後には顔の崩れた
2体の霊が憑いていた。見えないっていうのは幸せだなぁ。
「フラン、霊なんて迷信よ。いないものを恐がったって、しかたが
ないでしょう?行きましょう。」
そんなことを言われても、私には見えてしまっているのだ。この事
実を信じるなというのは無理な話。
「もう、先に行くわよ。」
そういうと彼女は地下への階段を下って行った。
「はぁ・・・」
ため息を大きく一つ吐き、霊に憑かれぬよう一気に階段を駆けおり
た。
地下
といっても決して暗いわけではなく、設置されているたいまつの光
のおかげで中々の明るさを保っていた。
「明るい・・。誰かが火を絶やさないように松をくべにきているの
かしら。」
「いえ・・。これは魔法よ。ほら、全然熱くない。」
私はそういいながらたいまつの中に手を入れてみせた。
2
512 名前: FAT 投稿日: 2005/08/15(月) 20:55:15 [ yJCwVqfI ]
「すごい!魔法ってなんでもありね。」
フプレは感動した様子で目をキラキラさせている。背後霊たちはた
いまつを恐れているように彼女の背中にすっぽりと収まっている。
「ねぇフプレ、その・・。」
どうせ信じないだろう。と分かりつつも彼女に背後の霊のことを知
らせておこうと思った。
「ん?恐くなったの?いいわよ、いつでも背中を貸すわ。」
「・・・。」
やめた。世の中、知らないほうが幸せなことだってあるのよね、き
っと。
「遠慮しなくていいのよ、ほらっ。」
くるっと回り、背中を向けた。霊たちは私を見て微笑んでいる。私
も微笑んでみせた。・・・相手が照れた。
「なによその笑い。もう、調子狂うなぁ、今日のフランは。」
先へと歩みだしたフプレの肩越しに霊たちの熱い視線を感じる。惚
れられたか・・。
憑かれたくはないので以後、彼らのほうは見ずに先を急いだ。
進めど進めど、バインダーらしき悪霊は見つからなかった。・・浮遊
霊はたくさんいたけれど。
今まで小さな部屋ばかりしかなかったのに、突然巨大な部屋に出た。
「!!フプレ!!!」
私は合図を送り召喚獣たちを召喚した。つられてフプレもメラーを
出す。
中央だ。この部屋の中央から殺気立った何かを感じる。
先手を取られぬように慎重に進んで行くと目の前に赤焦げた色の怪
物が立っていた。全身が骨のような華奢なつくりで頭部は尖り、手
にはギラギラと刃を光らせた斧を携えている。そして、その全身か
らは殺気に満ちたオーラのようなものが立ち込めていた。
『いけっ!!』
二人同時に敵への攻撃命令を出した。
まず、メラーが激しい炎を吹いた。これはバインダーに直撃し、そ
の体を火が覆う。勝負あり。
と思ったがやつは火だるまのままメラーに向かい突進してきた。す
かさずウィンディが横から一撃を与えバインダーは体勢を崩しメラ
ーの横を転がっていった。
・・甘く見すぎてた。
私は反省しすぐさまウィンディとスウェルファーを3段階―神獣型
にパワーアップさせた。
火が効かないということにフプレは動揺していた。どんな化け物で
も、メラーの火炎一つで倒せると思っていたからだ。
「フプレ、早く指示を!!」
「あ、うん。えっと、どうしよう、フラン。私、どうしたらいいか
分からないよ。」
まごついている間に敵は体勢を取り直し、すぐ横のメラーに斬りか
かる。本能で体を捩り直撃は避けたもののメラーの側腹部からポタ
ポタと血が滴り落ちた。
「くっ!!」
私はやつをメラーから離そうとウィンディに強力な風を起こさせ、
放った。与えたダメージは微量だが距離を離すことには成功した。
吹っ飛んだバインダーをスウェルファーが追い、地下水脈を槍の形
に変え、彼の元に召喚した。バインダーの体の下から水が吹き上げ、
無数の水槍が彼の体を突き・・破れない!!刺さりはしたが硬質な
彼の体は槍が貫通するのを見事に阻止していたのだ。彼は我に勝算
あり!とニタリと笑った。しかしその直後、彼の体を水槍が貫き、
あっけなく活動を停止した。槍に貫かれた彼の上にはこの勝負を決
めたウィンディがその死体を見下ろしていた。そう、あの強風を、
今度は上空から見舞ったのである。
「フプレ・・。」
気になり、彼女のほうを見ると、せっせとメラーの治療をしている
ところだった。
「ごめんね・・。メラー、ごめんね・・。」
バッグから簡単な薬などを出し、涙ながらに治療をしている彼女は、
とても・・小さく見えた。
私は、治療が終わるまでの間、彼女を元気付けようと笛を吹いた。
昨日とは全く違う、悲しい、でも・・どこか希望を持たせてくれる
ような曲が笛から溢れだした。
「・・・ありがとう。」
治療を施しながら、彼女は小さく呟いた。
間もなく治療が終わり、彼女も笛を取り出し差し詰め昨晩の続き、
といった感じで二人の演奏会が行われた。聴衆は召喚獣2、ペット
1、霊2。美しい二人の音は静寂の墓地に異質に鳴り響いた。
3
513 名前: FAT 投稿日: 2005/08/15(月) 20:56:18 [ yJCwVqfI ]
すると、メラーの体に異変が起きた。先ほどまであった傷が跡形も
なく消えているのである。
「え?ええっ??」
フプレは驚きと共に嬉しさに満ちた、いい顔に戻った。
「見て!フラン。傷がなくなっちゃったわ!!」
私も当然驚いた。先ほどまでその痛々しい傷口を見ていたのだから。
「それだけじゃないわ、なんだか、たくましくなったみたい。」
そういわれて見れば確かに、以前よりも体が大きく、ガッチリとし
た印象を受ける。この現象はメラーだけでなく、私の召喚獣たちも
どこか、体つきがよくなっているようである。
「笛のおかげかしら?」
私はそう言ったフプレの意見に賛成した。そもそもこれは魔法の笛
(たぶん・・。)である。少しくらいは不思議な現象があっても不思
議じゃない。
「やったね、私たち、ラッキーよ。こんな素敵なものを頂けたんだ
もん。」
「そうね。」
じゃあ、帰ろうか。と言おうとした瞬間、この部屋に入った時と同
じ殺気が、倒れている骸から発せられた。
「いけっ!!」
やつが完全に立ち上がる前に、フプレは笛をかざしメラーに命令し
た。バインダーが立ち上がるとほぼ同時に、メラーの口から吐き出
された炎はバインダーを包みこんだ。
・・・。
笛の力なのか、目に見えて強力になったその業火はバインダーを灰
にしてしまった。
これで自信を取り戻したフプレは「この灰、全部持って帰る?」な
どと冗談めいたことを言ってのけた。
が、結局小さな瓶一本分の灰を持って、再びフローテックさんを訪
ねた。
「おお!よく戻ってきた。早かったな。で・・。どうだ、あいつは
いたかい?」
私たちは灰の入った瓶を渡した。
「ん?まさか・・。これがバインダーだというのか?」
「はい。斧を手に持って、赤黒い体をしていました。」
「こんなになっちまって・・。あ、いや、すまない。・・・実は、バ
インダーは私の祖父でね、皆殺しにされたのは私の家族・・両親と
姉だったのさ。ちょうど私はそのときもう片方の祖父のほうに行っ
ていてね、知らせを受けたときはショックだったよ・・・。バイン
ダーを憎んではいたが、いざこうして灰なんかを見せられるとショ
ックでね。一応肉親なんだ・・・。」
私たちは困惑してしまった。頼まれごとをしたのになぜか、悪いこ
とをして責められているような気持ちに陥った。
「あ、いやいや、すまない。歳をとるとどうも余計なことばかり口
から出てきてしまう。ありがとう。これはお礼だ。」
そういって16000Gをくれた。
「二人とも、本当に感謝しているんだ。よくやってくれた。」
『あ、ありがとうございました。』
私たちは力なくお礼を言うと宿に戻った。・・あんな本音をぶつけら
れたあとでは、素直に喜べなかった。
「ただいま・・」
家のドアを開けたフローテックは元気がなさそうだった。
「あら、どうかなさったの?お元気がないじゃない。」
家の奥から彼の奥さんが出てきた。
「あぁ・・。今日、またいつものバインダーのやつを2人の娘さん
にやってもらったんだ。そしたら」
と、あの瓶を取り出し、
「この通り、しっかりやってくれたのにお礼の言葉よりも先に肉親
が灰になったことに驚いてしまって・・いや、元より死人だからお
かしな話だが、その・・。」
「わかりましたよ。どうせ咎めるような言い方をしてしまったので
しょう?明日にでも、その娘たちを探して謝りましょう。」
コクリ、と頷きフローテックは自分の部屋に入った。あぁ、自分は
良い妻にめぐり合えたものだ、と一人満足そうに微笑んでいた。
・・・・その日が彼の人生最後の日となってしまった・・・・
最終更新:2008年07月07日 22:07