「どうしたん?遠慮しないでいいんだぜ?」
「お、おぅ・・・」
俺こと真堂ゆうは生まれて初めて感じる死の恐怖に怯えずにはいられなかった。
(ど、どうすりゃいいんだよ・・・)
休日の昼下がり。机の向かいには愛しい彼女の太陽のような笑顔、その隣には苦笑いをしてる彼女の親友。そして俺と彼女の間には・・・
「幸せの味」
それは昨日の昼休みまで遡る。
「お待たせ!」
「おせぇってばっ!」
「わりぃわりぃ、購買込んでてさ」
「まぁまぁみさちゃん、ゆう君も来たんだしご飯にしよう?」
昼休み、俺はいつものように彼女である日下部みさお、その親友である峰岸あやのと昼食を共にしていた。
「そういやいつも思うんだけどさ、峰岸さんの弁当って美味そうだよね」
「そうかな?」
「あやのは弁当いつも自分で作ってるんだぜ」
「マジで!?すげぇな」
「そ、そうでもないよ~」
「でも毎日だと大変じゃない?」
「うん。でも私の分だけってわけじゃじゃないから」
「って事は、家族の分?」
「いんや、ウチの兄貴の分だよ」
「兄貴?」
そういえばみさおのお兄さんって峰岸さんの彼氏だったっけ。こんな美味そうな弁当いつも作ってもらってるのかぁ、正直うらやましい。
「ねぇ峰岸さん」
「うん、どうかしたの?」
「おかず一つ貰っていい?」
「え?」
「いやぁ、すごい美味そうだからさ」
「うん、構わないよ。どれでもどうぞ」
お許しも貰えたのでさっそく弁当に入っている魚の煮付けを食べてみる。うん、思った通りすんげぇ美味い!
「どうかな?」
「すっげー美味しいよコレ!今まで食べてきた煮付けで一番かも」
「お、大袈裟だよ・・・ふふ、でもありがと」
「全然大袈裟じゃないって。こんなの毎日食べさせてもらえるみさおのお兄さんがマジうらやましいもん」
彼女の手料理かぁ・・・。そんな会話をしているとやはり隣で幸せそうにミートボール食ってる俺の彼女の料理の腕も気になってくるわけで。
「そういえばみさおは料理ってしないの?」
「んぁ、私?んー・・・学校の調理実習くらいしか料理なんかすることねぇけど」
「・・・そっか」
俺の「手料理を彼女に作ってもらおう計画」はものの10秒で崩れ去ってしまった・・・。
「もしかして料理作ってもらいたかったのか?」
「そりゃ彼女の手料理は男のロマンだからな」
「そっか・・・なら作ってやってもいいぜ」
「マジッスか!!」
「たださっきも言ったとおり全然料理しねーから期待はすんなよ」
「おっけおっけ!ってか作ってくれるだけで嬉しいからさ」
「なら、そーだな・・・明日の12時位に私の家に来いよ」
「え?弁当じゃないの?」
「だってほら、弁当人前で渡したりすんのはずかしーしよ・・・///」
そう言って顔を赤く染めるみさお。あ~もう!かわいいなぁ。学校じゃなかったら100%抱きしめてんぞ。
「・・・う。ゆう!」
「はぇっ!?」
「ぼーっとしてどうしたんよ」
「あ、いや。ナンでもない、ナンでもないぞ!」
やっべ。ちょっとトリップしちまったぃ。と、意識が戻るのとほぼ同時に予鈴が鳴り響いた。
「っと。教室戻るわ」
「おー、またな」
「じゃあね、真堂君」
こうして俺の昼食は終わったのだが、二人に別れを告げて教室に向かう最中終始にやけ面だったのは言うまでもない。
その夜、みさおが明日何を作ってくれるのか気になった俺はみさおに電話で聞いてみたが
「明日になったら分かんだから待っとけよ」
と、言われて結局教えてもらえなかった。ならばと思い峰岸さんに聞いてみることにした。
「あ、もしもし。峰岸さん?」
「うん、真堂君どうかしたの?」
「峰岸さん、明日みさおが何作るか聞いてるかなって」
「聞いてはいるけど・・・みさちゃんには聞かなかったの?」
「明日には分かんだから待っとけってさ」
「そっか。なら私も秘密にしとこうかな」
「え~っ」
「ふふ。知っちゃったら楽しみが一つ減っちゃうでしょ」
「・・・それもそだね。明日までの楽しみにしとくよ。ありがと、それじゃね」
「うん。私も手伝うつもりだし、ちゃんとしたもの出せると思うから」
「あぃよー」
結局分からなかったなぁ。ま、言ってた通り楽しみは明日までとっとこうっと。峰岸さんも手伝うって言ってたし美味いもんが出てくるに違いないしな~。
そして次の日。
ピンポーン
タタタタタタ・・・ガチャ
「よっ」
「おー、いらっしゃい。中入ってよ」
「ん。おじゃましまーす」
案内されたリビングには既に峰岸さんがいた。そういや前髪を下ろしてる姿は初めて見たな。
「こんにちは、真堂君」
「ん。こんちわ」
「じゃー、もうすぐ出来上がるからそれまであやのと適当に遊んでてよ」
「あぃよ」
どうやらもう仕上げの段階みたいだな。とりあえず出来が気になるから峰岸さんに聞いてみよ。
「峰岸さん、料理の出来どうだった?」
「うん・・・。実はね、私も分からないの?」
「え?手伝ってたんじゃないの?」
「そのつもりだったんだけど、みさちゃんが『1人で作るんだ』って」
「そうだったんだ」
「だからちょっと不安なんだよね」
「うーん。まぁ、食べれるもの使ってるなら食べられないもんは出来ないっしょ」
なんて会話をしてると
「二人とも~。出来たからこっちきちくり~。」
「お、完成したみたいだね」
「行こ、真堂君」
この時、俺は何を作ったか早く知りたい気持ちでいっぱいだったせいで峰岸さんの不安そうな表情なんか全く見えちゃいなかった。
「おまたせ―っ」
「おー、もう腹ペコペコだよ」
「そっかそっか。今よそうから、そこに座って待っててよ」
もうすぐで夢にまで見たみさおの手料理だぜ。やべぇ、超ワクワクしてきたんだけどっ!
「はいよ~」
ついに、ついにみさおの手料理との・・・
コト
ごたいめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ん゛っ゛!?!?!?
「んぁ?どした、ゆう?」
「ふぉあっ!?ナ、ナンデモナイゾヨ」
「ゾヨ?」
「あ、いや。感動して気が動転しちまったみたいだ」
「な、なんだよー。そこまで嬉しがってもらわれると照れるじゃないかよ///」
顔を赤く染めるみさお。いつもならそれに魅入ってしまうとこだけど、今だけは別なものに見入ってしまっていた。
(これは・・・一体なんなんだろう)
みさおの手料理は見た目からしてインパクト抜群だった。・・・悪い意味でだけど。
ちなみに俺が抱いた第一印象は「血の海」って感じだった。
「・・・なぁ、みさお」
「なんだー?」
「これ、なんて料理かな?」
「え~っと、なんつったかなぁ?前にあやのが作ってくれたやつなんだけど」
ちょっ!?峰岸さんがこのカオスなもんの創作者なんですか!?
「・・・みさちゃん。もしかしてペスカトーレ?」
「お~お~、それだそれ!」
ペスカトーレ!?・・・まぁ言われてみればそんな感じはするな。むきえびにアサリ(貝が開いてたり開いてなかったり)にマグロ・・・って
マ グ ロ!?
ペスカトーレにマグロって入ってたか?ってかよく見たらこれって・・・
刺 身 用!?
ってかイカも形的に刺身じゃねぇのか?後はパスタだけど・・・とりあえずフォークを入れてパスタをすくいあげる。
ぬおぉ――っ(イメージ音)
・
・
・
恐ぇっ!!なんつーかペスカトーレ自体から「オ゛ォ゛ォ゛ォ゛・・・」みたいなオーラが出ててもおかしくねぇっ!
「み、みさおさんや。作り方は確認したかい?」
「いんや。前に聞いたのなんとなく覚えてたからそれを頼りに」
・・・あはは。俺今日無事に帰れっかな~。
「どうしたん?遠慮しないでいいんだぜ?」
「おっ!?おぅ・・・」
(ど、どうすりゃいいんだよ・・・)
目の前には笑顔で感想を待ってるであろうみさお。そしてその隣に苦笑いの峰岸さん。
その状態で数秒たった時、不意にみさおの顔が悲しみの表情になった。
「やっぱり・・・食べられないよな。こんなの」
「え?」
「ごめんな。ちゃんと作れると思ってたんだけど作ってたらこんなになっちゃって・・・。もう下げるな」
なんで・・・なんでみさおが謝るんだ?手料理が食べたいって言ったのは俺だろ?みさおは一生懸命作ってくれたのにこんな風に言わせちまって・・・・・。
俺は馬鹿かっ!見た目も味も関係ねえだろ!大事なのはあいつが俺のために作ってくれたってことだろうが!
みさおの手が皿にのびる。俺はとっさにその手を掴んだ。
「え?」
「なに下げようとしてんだよ。感動してただけだってのっ」
「けどさ・・・」
「腹ペコなんだからさっさと食わせろって」
ソースの中にフォークを入れてパスタをからめとって口に含む。正直言ってヤバい味だ。だけど、みさおが俺のために作ってくれたんだと思うとそれさえも美味しく感じる。矢継ぎ早に口に運び食べていく。みさおも峰岸さんも目を丸くしていた。
そしてスープまですべて飲み干して俺は言った。
「みさお」
「う、うん・・・」
「すっっげー美味かったよ!ホントにありがとな」
言いながらサムズ アップ。数秒の後
「うんっ!」
目尻に少しだけ涙を溜めながらも満面の笑顔で答えてくれた。俺の大好きな、太陽みたいな笑顔で。それを見た瞬間、俺は意識を失った。
「・・・ぅん」
「あ、目ぇ覚めたか?」
「・・・みさお?俺どうして寝てたんだ?」
「私の料理食べ終えた後倒れちゃったんだよ。ビックリしたぜ」
「そうだったのか」
それにしても食べて気絶する料理って・・・今思うとすげぇな。
「なぁ」
「うん?」
「なんで無理して食べたりしたんだよ」
「無理なんかしてないって」
「嘘つくなよ。さっき一口食べてみたけど我ながらひでーと思ったもん」
「作ってるとき味見はしなかったの?料理の基本だぜ?」
「その・・・一番最初に食べてもらいたかったからさ・・・///」
う~ん、やっぱ照れた顔可愛すぎ。
「みさお」
「うん」
「さっきも言ったけど俺は無理なんかしてないよ。」
「けど・・・」
俺はみさおの手をとる。指には沢山のバンソーコーが張ってあった。
「みさおが指をこんなにしてまで一生懸命作ってくれたんだって思ったらすんげぇ美味かったんだ。なんつーか・・・幸せの味って感じがした。」