アットウィキロゴ

『楽しい時間ってのは早いモノだ』なんてのは、世間一般で、よく言われている。
そして、そんな風に思っているのは、この俺も例外ではない。

起きているような寝ているような頭で、そんな事を考えている俺、佐藤ひろしと、
彼女―――かがみさんが付き合い始めてから、もう一ヶ月が経った。
楽しい時間は早いというのを、再確認するには十分過ぎる時間だ。
毎日が楽しくて、見慣れつつあった風景が新しい輝きを放っているようにすら思える。
ただ、プラスがあればマイナスもある訳で。
そのマイナスは極めて強力で、その名も、寂しん坊症候群。

先ず、その日その日の別れが辛い。
数十時間後に会える。 それも眠ってしまえば、感覚的には数時間でしかない。
次に、気付けば相手の事を考えていて、日常生活に支障が出たり。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、罹ってみればわかる。絶対。

そんな病に罹ったのはかがみさんも同じようで、その状況を打開するべく幾つかの約束をする事にした。

ひとつ目に、モーニングコールを忘れずに。
これは朝一番に声が聞けて、しかも早起きという一石二鳥な約束なのだ。

ふたつ目は、別れ際には、また明日ねと、指きりをする。
ぶっちゃけキス出来たらいいなと思ったりしないでもないのだけど。

で、みっつ目は、夜の十時の電話。
クラスが別だと色々と話題があるのだが、どうにも時間が足りない。
だから、話し足りない分をここで話す。それでも足りないのだけど。
ちなみに、電話は日毎に交互にかけている。
これは電話代を気にするかがみさんから提案されて決定。

そして、最後にバカップルにはならない。
これはふたりで決めた事だ。社会の皆さんに迷惑をかけたくないし、当然だ。

ガチャリと扉の開く音が聞こえて、ぽんぽんと胸元を優しく叩れる。
母さんかな?
早く起きろって事だろうか。
大丈夫、半分起きてるから。

それに用事があるのは昼間からだしさ。

ああ、ちなみに用事というのは、我が家で開催される勉強会だ。

それには俺と、こなたさんとみゆきさん、そしてつかささんとかがみさんが参加する。
キッカケはかがみさんの「今週の日曜日、ちょっと家行っていい?」という言葉からだ。
それを聞いたこなたさんがからかいの言葉をかけて、かがみさんが反応する。
良くも悪くもいつもの流れ。

が! その日は違った。
ふと、つかささん男の子の部屋ってどんなの?見てみたいなぁと呟いた。
一度来た事のあるこなたさんは細かい所を見たいと言い出して、
更にはみゆきさんまで興味を持ったものだから、誘わない訳にはいかない。

まあ、本来の目的は試験勉強であった訳だし、人が増えるのは問題無いと言うと、
かがみさんは一瞬残念そうな顔を見せて、それを了承。今日の予定が決定したのだ。

ていうか、元は何の話だったっけ?
…ああそうだ、バカップルの事だ。

今なら彼等の気持ちが、わからないでもない気がする。
大好きな人と、少しでも濃密な時間を過ごしたい。
推測でしかないけど、多分そんな感じなのだろう。
でも、社会の人々に迷惑をかける訳にも行かないし。

そんなジレンマの所為なのか何なのか。
俺とかがみさんは二人きりになると、必ず互いの身体に触れ合っている。
時には手を繋いで、時には抱き合う。
それを求められた時こそ驚いたが、今ではそうしないと落ち着かない程だ。
潤んだ瞳、赤らめた顔で、それを求めてきたかがみさんの顔は忘れられない。
だが、幾ら触れ合っていても気恥ずかしさは消えないらしく、今でもそうする時は似たようなものだけど。
ふにゃふにゃになった笑顔を見ると、なんていうか、どうしようもなくなってしまうのだ。
しっかり者なかがみさんだけを知ってる人は、想像も付かないであろう表情と態度。
こなたさん風に言えば、ツンデレのデレという奴なのだろう。

正直、堪りません!と力説したいが、この事は俺の胸に閉まっておこう。

俺を起こそうとする優しかった手付きや、声が段々と強くなってくる。
だから起きてる…って、声に出さなきゃ気付かないよね。
起きよ。皆が来るんだし、部屋を片付けておきたいし。

ていうか、かがみさんみたいな声を出せば、起きるとでも?
もっと名前に大蛇とか付いてる人っぽい声だったと思うんだけど。
とと、早くも寂しん坊症候群が…。
母さんの声がかがみさんの声に聞こえるとは…。

「起きてる…起きてるから…あんま大声出さないでよ、母さん…」

気合一発と目を開けて、次の瞬間に視界に入ってきたのはかがみさん。
いつだったか、こなたさんの作戦を阻止しようとした時と同じような体勢。
今度は慌てて退くような事はない。そんな今の二人の関係。
それにしても、なんでかがみさんが朝から家に…?
時間…は、朝の八時半。皆が来るまでには、後五時間程度ある。
じゃあ、やっぱりこれは…。

「……ああ、夢か…」
「誰が母さんか!って、夢でもないし!」

目覚め一番、開口一番にかがみさんのツッコミを受ける日が来ようとは。
それにしても、夢の中で夢じゃないって、ツッコミは混乱するな。
まあ、本当に目が覚めるまで、幸せな気分を味わうとしよう。
だから、今はこうさせてもらいますよ、と。

スッと腕を伸ばして、俺に覆い被さっているかがみさんを布団の中へ。

「ちょっ!? こ、こら!」

突然のことに慌てふためくかがみさん。
まあまあと言いながら頭を撫でると、徐々に大人しくなっていく。

「も、もう…なんなのよ…」

満更でもない様子で、俺の胸に顔を埋めて、ぼそぼそと呟く声が聞こえた。
嫌?と訊くと、嫌な訳無いじゃない…と、赤い顔を更に赤らめて、ぎゅっと抱きついてくる。

「じゃ、もう少しこのままで居ようか」
「え?…あ…うぅ……う、うん…」

少し悩む素振りを見せた後、身を預けてくる。
ドキドキするのと同時に気持ちが落ち着いてくるのがわかる。
矛盾しているとは思うけど、そうなんだから仕方ない。
落ち着いてくると眠気が増す。
まだ時間はあるし、もう少し眠っていてもいいだろう。

「じゃあおやすみ、かがみさん」

「え?…も、もう…おやすみ…」

唇が触れるだけのキス。
そういえば、これが初めてのおやすみのキスだ。
夢の中でなんて、演劇の事もそうだったけど、やっぱり俺ってむっつりスケベかも…。
って、それにしても夢の中で、これは夢だとわかってて、その上に眠くなるって、変な夢だなぁ。

あの幸せな夢から、どれ位の時間が経っただろうか。
俺は再び目を覚ました。 いや、正確に言えば、今日始めて目を覚ますのだが。
感触や、感覚がリアル過ぎたからだろうか?
それとも、もしかして、また夢か?

ふと胸に感じる温もりや、耳に届く寝息に気付く。
これが自分のモノではない事は確かだ。
視線を落とせば、そこにはかがみさん。
すーすーと可愛い寝息を立てている。
こうして見ていても、やっぱり可愛いなぁ。

…って、あれ? これは夢?現実?
時計に視線を送ると、皆との約束の時間だ。
快眠だったので、目は完全に覚めている。
この息のかかるくすぐったい感じや、ふにょふにょと形を変えている感覚も、明らかにリアルのモノだ。
って事は、さっきのあの出来事は現実って事になるのか?

「うぅん…あ…私…寝ちゃったんだ…おはよ…」

あまりにも自然だった為に、おはようと、普通に返してしまう。

「んー」

くいっと顎を上げて、お目覚めのキスをねだってくるかがみさん。
いやまあ、求められたら応えるまでなのだけど。
……ぶっちゃけ、おねだりしている顔に破壊力ありすぎて、状況忘れただけなんだけど。

「ん…んぅ…ふぁ…」

満足したのか、唇を離して、照れた顔で微笑む。
その顔が堪らなく可愛いぞこんちくしょう!と、抱きしめてキス。
ベッドに倒れ込んで、深いキスに移った時だった。

「やふー!…ってえええ!?」
「お、おねえちゃん大胆過ぎるよぉ」
「あの…これは…なんと言いますか…あうう…」

昼間だというのに幸せに浸りすぎた俺に対する罰なのか何なのか。
扉を開けて、次々と入ってくる友人達。
ちなみに、やや赤いこなたさんを除いた二人は真っ赤になっている。

そして、それに負けない程に俺の下で真っ赤になっているかがみさん。
あ…とか、う…と声にならない声を出して、プルプルと震え出す。
その様子を見て、余裕を取り戻したのか、ニヤニヤと笑うこなたさん。
そして、立ったまま気絶でもしているのかと疑いたくなる程に直立不動なつかささんとみゆきさん。

「ノック「いやいや、そこは人としてちゃんとしたよ?」
「何を言うのかわかってたとでも言うのか!」
「いやー、こういう状況で聞かれる事なんて限られてるからねぇ」

相変わらず何を言ってるのかは、よくわからないが、実に恐ろしい!

「じゃあ、そろそろ説明してもらおうかな?」

そう切り出したこなたさんに同調するようにコクコクと頷き始めるつかささんとみゆきさん。
見逃してくれないものかと、縋るようにこなたさんを見るが、チシャ猫のような笑みを深めるだけ。

どうする!? どうするよ俺!?って、前にもこんな事やってたよな、落ち着け俺!
ひっひっふー…ひっひっふー…って、これは出産の時のアレだ!
めちゃくちゃ混乱している俺に、どういう訳か神様は優しくしてくれない。
ああ、誰だっけ? 神様は居ないんじゃなくて、ただ残酷なだけだって言ったのは…。

それから一分程の沈黙の後、俺は無条件降伏を言い渡した。
ちなみに、説明を終えるまでの間、かがみさんが元に戻る事はなかった。

 

かがみさんが戻ってきた後、からかわれて再び硬直したのは言うまでもない。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年04月12日 09:32