三陸海岸では、漁に出て戻ってこない男たちを案じる女房のところへ、大きな風呂敷き包みを持った「ウミニョウボウ」が訪ね、「時化で溺れ死んだ者たちの首を持ってきてやった」と言って、笑いながら包みを解くと、中から漁に出た男の生首が五つほど転がり出たという。佐賀県東唐津では、鎮西町加唐島には「ダキ」が出る為、碇を下ろすだけで艫綱はつけないという伝承がある。 東唐津の漁師が、島の海岸で火を焚いていると、見知らぬ女が「魚をくれ」と言って近づいてきたが、様子が変だと思った漁師は、船にはない魚を取りに子供を遣り、子供が「ない」と言って戻ってくると、自分も探す振りをして船に戻った。乗り込むが早いか、漁師が艫綱も碇綱も切って沖に逃げると、女は「えい、命を取りそこねた」と言って口惜しがったと言われる。 島根県岩見地方でいう「ヌレオンナ」は、「牛鬼」に使われる水妖で、海辺に現れ、抱いている赤子を人に渡して海に入ると、牛鬼が現れる。頼まれた人間は、赤子を投げ捨てて逃げようとするが、赤子が重い石になって離れない。その為牛鬼に喰い殺されてしまうと伝えられる。従って、赤子を抱かされたときは手袋をはめて抱き、逃げるときは手袋ごと赤子を投げ出すものだと云う。
『画図百鬼夜行』の濡女は人面蛇体であり、水の女性的混沌原理の図像は一般に蛇をモティーフとするが、幾つかの説話に登場する濡女は、赤子を人に抱かせるウブメとしてあらわれることもある。どちらも穢れや渾沌の表象である赤子を手渡して、人間に死をもたらすようである。
最終更新:2006年05月02日 01:23