逆鱗(げきりん)とは竜のあごの下に逆さに生えているとされるうろこ。竜は元来おとなしい動物であり、人がその背中に乗ることもできる。しかし、のど元に一尺ほどの逆さまに生えたうろこがあり、これに人が触れると竜は必ず人を殺すとされている。このことから目上の人の怒りに触れることを「逆鱗に触れる」というようになった。
出典は『韓非子』説難(ぜいなん)篇。君主を臣下が説得することの困難さを述べた文章の中にある。
『韓非子』は古代中国の戦国時代末に思想家韓非の著作を一派の論者が取りまとめた書。韓非は「法」と「術」を用いた君主論を大成した。説難篇は主君に対する臣下の心構えについて様々な寓話の形でまとめられており、逆鱗もその中の一つである。君主は絶対的権力を握っており、臣下がこれを諌めることは命をかけた行為であった。『史記』老子韓非列伝によれば韓非には吃音癖があり、主君に疎んじられ献策が受け入れられなかったということもこの寓話の成立に反映しているといえる。
夫龍之為蟲也、柔可狎而騎也、然其喉下有逆鱗径尺、若人有嬰之者、則必殺人。人主亦有逆鱗。説者能無嬰人主之逆鱗、則幾矣。
夫(そ)れ龍の蟲(むし)たるや、柔(じゅう)なるときは狎(な)れて騎(の)るべきなり。然(しか)れども其(そ)の喉下(こうか)に逆鱗の径尺(けいしゃく)あり、若(も)し人之(これ)に嬰(ふ)るる者有らば、則(すなわ)ち必ず人を殺す。人主(じんしゅ)も亦(ま)た逆鱗有り。説者(ぜいしゃ)能(よ)く人主の逆鱗に嬰るること無くんば、則ち幾(ち)かからん。
龍という動物は、おとなしいときはよく人にも慣れ、背中に乗ることもできる。しかし、そののど元には一尺ほどの大きさの逆鱗があり、もと、これに触る者がいれば、かならず竜は人を殺してしまう。人の君主にもまた逆鱗がある。意見をする者は君主の逆鱗に触れることがなければうまくいくのである。
最終更新:2006年04月25日 03:30