「文章系その2@2008.12」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

文章系その2@2008.12 - (2009/03/30 (月) 17:49:27) のソース

その2

#contents()


**無題その1
作:創る名無しに見る名無し
お題:「12」「鐘」「冬」

「そんなに回してもチャンネルの数は変わらないぞ」
ボソボソとした声が横合いから聞こえる。
うるさい、そんなの分かってる。
第一、回すってなんだよ。昭和かよ。


年末のある夜、私は兄と二人で居間のコタツに足を突っ込んでいた。
親は二人でどこかに出ていった。家には私たち二人だけが残されている。
見たい番組が無かったのでチャンネルは適当にボタンを押して決めた。
結果、テレビからは青い狸の声が聞こえてくる。

兄は黙々と本を読み続けている。
さきほどの一声がおそらく今夜で初めての発言だ。
快活で明るかった兄。
私に懐かれて、友達の前で苦笑いしていた兄。
毎日遅くに帰って来て、それでもニコニコしていた兄。
その面影はどこにも無い。


きっとテレビのスイッチを切れば、この部屋の中では本当に何の音もしなくなるだろう。
そうしてその後、じっと見つめ続けていたら流石に気になって構ってもらえるかな。
普段家に引きこもって家族とも話そうとしない兄、
最近はその存在を邪魔にしか感じないのに、今は何故かそう考えた。

それほどに私は退屈していたのだろう……私は自分で理屈付けた。


そうしてテレビの電源を切って数十分。
除夜の鐘は鳴り止んだが、結局部屋の中で何か音を出したのは時計の針だけだった。
兄はひたすら本を読んで――一冊読み終えたのに次の本を取り出して――私に話しかけようとはしなかった。

とても寒かった。
部屋の中には暖房が効いている筈なのに、薄っすらと汗をかいているのに、私は真冬のような寒さを感じていた。


**枯れ木
作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」「金」――金……だと……?

 冬の寒さが骨身に染みる。季節が冬なら景気も冬で、財布の中身は凍死寸前だ。
 親の脛をガジガジ齧ってキャッキャウフフと季節外れの人生の春を満喫してるバカップルが腹立たしい。
 ついつい奴等のご両親の心労をお察しして欠伸と一緒に涙を流してしまう。
 何年かして社会に出て世間の風に吹かれれば、語り合う愛は砂上の楼閣よろしく崩れ果て、金をたかり合うこと請け合いだ。
 そもそも愛を語っても一銭にもならない。
 別れる時に水を掛けられて、とっておきの吊しのスーツをクリーニングに出す羽目になるから収支的にはマイナスだ。
 騙るなら息子を語れ。見知らぬ人に電話して舌先三寸口八丁で誤魔化せば金になる。
 その後は八丁堀か鬼平に取っ捕まるかは運次第。捕まって塀の中に入る奴は運がない奴だけだ。
 運試しするなら宝くじの方がマシかも知れない。
 なけなしの金で夢を買って、当たれば億万長者にだってなれる。夢が破れても金の使い方を妄想する楽しさがある。
 間違いなく三百円は当たるからタバコ銭ぐらいにはなるだろう。
 値上げされたら素直に諦めよう。諦められない頑固者は四の五の言わずにストをしよう。
 二の句にでもはご法度だ。海の向こうでやったら偉大なる将軍様のケツに火が着くガスを吹く。
 何にせよ、議事堂前ならいけすかないバカップルの姿はない筈だ。

 お後がよろしいようで。

 了。


**無題その2
作:創る名無しに見る名無し
お題:「12」「鐘」

「ふふふ、いい感じにカップルを呪っているようだね。四捨五入すると30男」
「余計なお世話だこんちくしょう。それにまだ25才だ! わざわざ四捨五入するな!」
「ふふふ、私は四捨五入すると20だぞ」
「四捨五入しなくても20だろ! お前は!」

一人さびしく粉雪の舞う冬空を歩いていると、唐突に声を掛けられた。
目の前に現れたそいつは、口を笑みの形にして俺を見ている。
あー、くそ! 分かってるよ! クリスマスなんてつぶれちまえなんて思ってるよ!
カップルなんて、しっと団にでも襲われちまえと思ってるよ!
だからって、彼女いない歴=年齢の俺をわざわざ蔑みにくるなよ!

「今日は12月24日。クリスマスイブだというのに相も変わらずお寒い御様子で」
「うるせーなー」

俺の態度を露骨に無視し、そいつは腕を組み、鷹揚に頷く。

「そんな眼光鋭く、世の中を恨んでます、な様子だから彼女の一つもできんのだ」
「そんなことをいっているお前はどーなんだ」
「……」

あ、止まった。

「ま、まあいい。それはともかく、借金の取り立てに来た」
「唐突だな。しかも俺は、借りてねー」
「……」

ゴホンと咳払いし、そいつは再び口を開く。

「将来、私に借金をするかも知れないから、取り立てに来た」
「たかりの間違いじゃねーか。それ」
「そうともいう」
「そこはあっさり認めるのか!」

俺の突っ込みは再び無視。そいつは地図を取り出すと一つの場所を指す。

「ほれ、居酒屋『鐘』、12日に開店したばかりだが評判はなかなかだ」
「……愚痴ぐらい聞けよな」
「くっくっく、交渉成立だな」

――結局、朝まで生愚痴大会が開催された。
   最後に除夜の鐘1080回打ち鳴らし大会を開くから強制連行な、と言い残しそいつは去っていた。

後に残るは12円しか入っていない財布のみ。
その財布の中身を見ながら――思う。


まったく……俺と違って見てくれはいいのだから、彼氏の一人くらい作れというのだ、妹よ。


**冬の味覚
作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」「12」

1/2
 お喋りだとは思っていたけれど、感心した。
 まさかカニを食べる時までお喋りが止まらないとは思いもよらなかった。
「ん、食べないの? 美味しいよ。カニミソなんか特にね」
 積み上げられる蟹の殻はゆうに12分匹はある。
「食べ過ぎると痛風になるよ?」
「ん、大丈夫。今日はヤケ食いしてるだけだから」
 器用に蟹の身をほじくり出しながらパクパクと食べ続ける姿に、見てる私が胸やけしそうだ。味噌汁だけでお腹一杯になってしまう。
「ヤケ食いって、なにかあったの?」
「ん。バイトでさー、サンタやった訳よ。ミニスカサンタ」
「ええ? アンタが!?」
「そうだよ。やりたくなかったけどね」
「だけどあんたがミニスカサンタなんてしんじられないわ。だって色気ないじゃん」
 そう。彼女は良く言えばスレンダーだ。出るべきところが出ていない。へこむべきところが出ていないのが救いだろう。
「わかってるよっ! どうせ私は寄せて上げるブラでも寄せて上げれませんよ!」
「無駄な贅肉がついてないだけ良いじゃん」
 あの手の矯正ブラでサイズアップ出来ないのはある意味美徳だ。引き締まった身体という事になる。
「でもさぁ、アンタのどこに入るんだろうね、蟹」
「胃の中っしょ」
「そりゃそうだけどさ。感心するわ。蟹食べながら喋るし身体と小さいし」
「小さいは余計だろっ!」
 怒りながらも蟹を食べるのをやめない。喋る口と食べる口とで口が二つあるのだろうかと妙な勘繰りをしてしまう。
 でも、こんなに食べて大丈夫なのだろうか。
「あんたさぁ、大丈夫?」
「ん、平気平気。食べた分だけ動けば太らないし」
「そっちじゃなくてこっちの方」
 人差し指と親指でまるを作る。心配なのはお金の方だ。食べた量が激しく違うのに割り勘だったらたまらない。
「んー、大丈夫。ミニスカサンタのカッコで稼いだから」
「――変なバイトじゃないよね?」
 私の心配が解ったのか、やっと蟹を食べる手が止まった。
「ただの客寄せパンダだよ。ビラ撒くだけさ」
「ミニスカサンタは何処行った」
「そんなの知らん」
 お腹一杯食べて満足したのか、彼女はお茶を飲んだ。

2/2

「ところで、クリスマスはどうする?」
「ケーキ買ってアンタんちで食う。独り者同士楽しくやろうよ」
「私が男を見つけたらどうする」
「んー、びっくりする」
 びっくりとは失敬な。私は彼女を睨み付ける。
「睨まれてもねえ。だってさ、アンタ散々言ってたじゃん。クリスマス前に彼氏探したってろくな男残ってないってさ」

『クリスマスから現実逃避してるやつ?』
 二人して同じ事を言ったのでハモッてしまった。そして、お互いに顔を見合わせて笑い出す。
 まあ、色気より食い気の彼女に付き合ってばか騒ぎするのもたまには良いのかもしれない。
 ――ジングルベル、鳴るのは鈴と腹の虫のどっちだろう。

 了。


**携帯
作:◆4c4pP9RpKE
お題:内容参照
出身:>いつもは獣人スレにいたりいなかったりラジバンダリ

テレビを席巻する年明けカウントダウンに厭きた僕は、時報を聞いてしっかり時間を合わせた時計を眺めながら、除夜の鐘に耳を傾けていた。
年明け第一報のメールは、思いがけない人物からだった。

『明けおめ!』

別れて二週間も経つ彼女から、そのメールは届いた。
そういや、送信日時指定メールの送り方を教えてあげた頃だっけ。
文面には、画像アップローダのURLと、謎の暗号。
『《□*3^2=新年》
□に入る1文字が画像ページのパスでーす☆(o^-')b

わっかるかなー?わっかんねーだろーなー(笑)』
ちょいウザイメールが懐しかった。
Aから順に1文字づつ確かめていってもいいのだけど、僕は敢えてその挑戦を受けてたった。
過去の君と、今の僕。
二週間は二人を隔ててしまったけど、この戦いは現在進行系だ。
3^2ってことは9だから……9かけると新年に関連するものを考えればいいわけか。

──ゴォーン……ゴォーン

そうか、除夜の鐘、108だな。
答えは12だ。
僕はパス入力画面に12を打ち、送信した。
『パスワードを入力してください』
失敗だった。
除夜の鐘は関係無いのかな?……いや、そうだ。
やはり除夜の鐘だ。
わかったぞ。
僕はCを打ち、送信ボタンを押した。
案の定、画像のページに繋った。
16進数で12とは、手の込んだ事を考えるね。
画像は、彼女のキス顔の写メに、今年もよろしく、という文字フォントを足したものだった。
機械オンチの彼女にしては頑張ったほうかな。
僕は、少しためらったが、やがて返信を書き始めた。
『問題、一回間違えたけど解けたよ』
送信。
『ユーガッタメール』
合成音声がなる。
彼女の形見が、受信を告げる。
僕は聞かないフリをする。
メール、届いたかい。
君のメールは時間を超えたよ。
僕のメールも、超えられたかな?


おわり


**サンタ撲滅委員会~裏切り~
作:◆R4Zu1i5jcs
お題:内容参照

「やっと見つけたぜ。愛しい愛しいサンタクロォォォース!!」
 血に染まった衣装。蓄えられた白い髭はふてぶてしさを強調している。
「はて……私に何の用じゃ」
「昔は待ち焦がれた聖夜。ただ今では――あぁ、狂おしいほどに会いたかったぜ……」
 男は爪で血が滲むほど拳を固く握り締めた。
「だから、クリスマスを破戒する!!!!」
「ほぅ、クリスマスはただの『現象』に過ぎん。それをどうやって」
「ふっ、お前がその『現象』の具現化、象徴……つまりお前をやれば『現象』自体破戒できるはずだ!」
 ――嗤う。赤い悪魔は高らかに嗤う。
 それは男に対する悲哀と侮蔑が混沌と渦巻いていた。
「たが少々私を見つけるのが遅かったようだ。あと三分で『性の六時間』に突入。喪男は皆行動不能となるぞ」
「三分もあれば――充分だ」
 男は懐からしなやかに小箱を取り出す。
「結婚――してくれ」
「なっ……」
「大丈夫、今度はちゃんと戒めのために避妊具を持って来た」
「……ホテル行こっか」
 サンタもとい彼女はミニスカートを裾をもじもじとそう言った。
 男はそっと彼女の付け髭を外し、優しく口付けをする。
 二人の姿は街中にそびえる絢爛な城壁の中へと消えていった。俺は泣いた。


了



-----
目安箱バナー