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少年と女性

大都市として有名な竜崎は、今日も通勤者や通学者で溢れかえっていた。

竜崎の南部には、マンションや寮などが立ち並ぶ白金区がある。
嘗て白金区は森林であった。
だが、土地を必要とする現代社会では森林は必要のないものであった。
故に、森林伐採を行い、伐採した木々は木材として使われ、土地はマンションや寮を建てるのに使われた。

そして、その白金区には、有名な噂が存在する。
”白金区にあるマンションのうち、一つが幽霊の巣窟となっている”という噂である。

いつこの噂が立ったのかはわからないが、それは竜崎に住む、もしくは通っている人々の殆どに知れ渡っている。



ある日の夕暮れ、白金区に建つ一つのマンションにて、二階の端の部屋のインターホンが鳴らされた。
インターホンを鳴らしたのは一人の女性であった。
女性の髪は後ろで纏め上げられ、ポニーテールにされている。
身長はそれほど高くなく、女子高生並である。

しばらくすると、長髪の高校生らしき少年が部屋の扉を開け、外を覗き見た。

「あ、こんにちは」
「…どうも」
「私は出版会社トゥルースの河上優華という者です」
「天野喜久です」

女性は高い声でゆっくりと話した。

「この街に立っている噂についてお伺いしたいことがありまして」
「そうですか」

少年は女性の服装を視た。
女性はビジネスカジュアルを着用しており、右腕で茶色い安物の鞄を抱えていた。
用件や服装などから、おそらく出版社とかで勤務しているビジネスレディーだろうと察した。

少年はしばらく考え事をした後、女性を部屋へと招き入れた。



少年の足に続き、ストッキングを履いた女性の足がその後を追いかける。
やがて、リビングらしき部屋にたどり着いた。
高い足のテーブルが配置され、そのテーブルを挟むように椅子が二つ配置されている。

女性は一つの椅子に座らされ、少年は女性の向かい側の椅子に腰をかけた。
女性は安物の鞄を膝の上に置き、中から録音機具を取り出しスイッチを入れた。

「それでは、天野さん」
「はい、まずは何から話せばいいですか」
「幽霊をこの近くで目撃したことがありますか」

少年はしばらくの間、口を動かすのを止めた。
外からは黄金色の光が差し込んできている。
きっと外は夕焼けなのだろう。
古時計がゆっくりと時を刻む音が聞こえてくる。

「…あのー、どうかしましたか」
「あ、いえ」

「幽霊なら、深夜によくこのマンションをうろついていますよ」
「え、そうなんですか」
「えー、まぁ」

女性は頬を吊り上げてにっこりとした。
外からの光のせいだろうか、女性の顔が少し紅くなったように見えた。
少年はそれを冷めた目で見つめていた。

ふと、少年は心の中に何かが入り込み、それが胸の奥から沸き立つように体全体に広がっていく感じがした。


「他に聞きたいことは…」
「大体いつ頃に来ればうろついていますか」
「…深夜の1時ぐらいですかね…」

女性は大きく微笑んだ。
少年は外から差し込む光が急に眩しく感じた。

「それでは…明日の深夜1時、また来ますが…」
「はい、いいですよ」
「わかりました、それでは失礼いたします」

女性は少年に小さくお辞儀をし、録音機具のスイッチを切り、鞄に入れた。
今度は少年の足がストッキングを履いた女性の足を追いかけた。


「今日はありがとうございます、また明日来ますので…」
「はい、わかりました、さよなら」
「はいさようなら…」



少年は女性の後姿を見ながら壁にもたれかかった。
室外機のファンの音がどこからか聞こえてくる。

少年は部屋の奥へと戻っていった。

2011年 3月 11日 22:32 著



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最終更新:2011年03月11日 22:32
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