小説アイドレス090522

到着のアナウンスが車内に流れ、人々が荷物を手に立ち上がる。
「到着か、んー」
腕を組んで眠っていた男性、冴木悠は背を伸ばし長時間の移動で固まった体をほぐす。
一斉にドアが開き、人々がホームに出始める。
冴木悠もサングラスをかけ旅行バックを背負い、歩き始める。
「やっと着いたわねー」
可愛らしい女の子の声がサングラスをかけた男性冴木悠から聞こえ、隣を歩いていた旅行者がうさんげな顔で冴木悠を見る。
旅行者の視線に気づいた冴木悠は、サングラスを外しにっこりと笑い会釈。
会釈を受けた旅行者は、腑が落ちない顔をしつつも会釈を返し歩き出す。



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『電脳適応アイドレス』

紅葉の舞う国で





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冴木悠が胸ポケットを指ではじくと、はじいた辺りで「きゃっ」と可愛い声がして、胸ポケットから小柄な女の子が顔を出す。
「いったー、何すんのよ」
「声だすなって言っただろう」
「だってー、何時間黙ってたと思ってるのよ。いい加減喋ってしまわないと死んでしまうとこだったわ」
「泳ぎ続けないと死ぬサメみたいだな。変な目で見られるのは俺なんだから勘弁してくれよ」
「今の状況だと、女声で喋る男から、胸ポケットの人形に話しかける男にレベルアップね」
「はあ、本当に勘弁してくれ。わかった、もう出ていいよ」
「ホント?やった」
「目立つけど仕方ない、変な目で見られるよりましだ。」
その言葉に、小柄な女の子は胸ポケットを飛び出し空中で背伸びをして、冴木悠の頭の上に落ち着く。
付近の人々が遠巻きに見ているのがわかる。
人が多い中、冴木悠の周りにだけ人がいないのだ。
「やっぱり結構な注目を浴びてるな。まあ、あちこちでタケモンの宣伝をしてるから大丈夫だろ。どう見ても危害加える生物には見えないだろうし」
「そのタケモンって呼び名気に入らないんだけど。モンって何よ、モンスターの略?どう見たらモンスターに見えるっての」
この小柄な女の子、テタニアと呼ばれる妖精の一種である。
「便宜上の呼び方に文句付けてもしょうがないだろ」
「こんなに可愛いのに失礼よねー」
「自分で可愛いって言うのがむかつくわ」
軽口を言い合う二人。
喋りつつ妖精の女の子ラヴが、遠巻きに見ている子供に手を振る。
子供はわーと声を上げてを振り返す。。
冴木悠も一緒になって手を振るが、子供は怖がって親の後ろに隠れてしまう。
「なぜに?」
「いや、サングラスかけた男に笑いかけられても怖いだけでしょう」
「はあ、へこむわ」
肩を落とし歩く冴木悠。
「それにしても、残念だな。虹の岬や温泉など地上部は観光地として有名なんで一度見ときたかったんだけど。それに国の名前になるほどの紅葉を楽しみにしてたんだが」
「仕方ないわよ。このドームのおかげで被害少なかったみたいだしね」
共和国各国が夢の剣の被害を受けていたが、紅葉国は被害の少なかった国である。
地上部がダメージを受けたが、地下ドームはほぼ無傷の状態であった。
「まあ確かになあ、人々が無事で何よりか」
被害を受けたレンジャー連邦はひどい有様であった。
被害数こそは他国に比べて少なかったが、事件後正体不明の黒い塊とやらが出るということで人々の大半が屋内に避難している状態である。
政庁が様々な対応策を出してはいるものの、かつての活気は見るべくもなかった。
「海底ドームか、まあこれはこれで一度見てみたかったんだよ」
ドーム外に見える光景は、海であり神秘的な光景が広がっている。
「確かに凄い光景よねえ、想像よりもずっと広いし」
地下ドームとはいうが広大なスペースが広がっている。
「お、タケモンの試合は地上でやるみたいだぞ。」
「本当、やった。ドームも悪くはないけど、やっぱり外の空気もすいたいしね」
「何でもタケモンの試合用に無人島一つ会場するとか。お、大統領がゲストコメンテーターとして来るらしい」
「へー、他国開催のことといい今回は大掛かりね」
「今回は賞品も豪華みたいだし、参加人数も結構なものになりそうだよ」
「そう。よーし、気合入ってきたわ。今回は何に参加しようかしら、やっぱりレーシングで2連覇を目指すってのも・・・」
「頼もしい発言だが、ちょっと待った。今回はゲーム一つだけなんだよ」
「あら、そうなの。何のゲーム?」
「タケモンコロシアム」
「・・・」
「コロシアムだ、言い換えると闘技場のことだな」
「訳さなくてもそれくらい分かるわよっ! コロシアムってことは、戦えってことでしょ。無理無理無理、どう見ても私って戦闘系じゃないじゃない。タケモンってそれこそモンスターみたいのいっぱいいたわよね」
必死に訴えるラヴ。冴木悠はふと目を逸らしあっさての方を向く。
「ラヴが来てから早2周年か。恋妖精が俺についてるのに、恋のこの字も訪れないのはこれいかに」
「何が言いたいのよ」
「たまには恋妖精らしく、デートチケットでも取ってきてくれるとありがたい」
「そうは言っても私か弱いし、バトルロイヤルはちょっと・・・」
「取ってきてくれるとありがたい」
「はあ、その他力本願なとこが恋が出来ない理由だと気づきなさいよ」
がっくりと肩を落とす、ラヴ。
「まあ、大会まで大分余裕あるしそれまで観光でも楽しむか」
「よーし、こうなったらめいいっぱい遊ぶわよ。悠、ご飯は雰囲気の良くて美味しいとこを探しなさいね」
やけくそ気味に、言い放つラヴ。
そんなラヴを見て苦笑しつつ片手をあげる悠。
そんなコロシアム開始前の光景。
最終更新:2009年11月09日 13:52