4-856氏 無題

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修学旅行の二日目は丸々自由行動。 私達の班は事前に立てていた予定の通り、JR奈良線に乗って一路南へ。 伏見駅で降りて、有名な千本鳥居の下をくぐって山頂の稲荷大社にお参り。 ………の筈だったんだけど。 「ここどこ?」 寝不足でぼんやりしていたせいで、気付いたらみんなからはぐれちゃったみたい。 千本通りは細かく道別れしていて、山頂に至るルートは沢山あるから 「はぐれるなよ咲」 って京ちゃんにも念を押されてたのに……。 「みんなー!」 いくら声を上げても山道を包む静寂はびくともしない。 千本鳥居の名前の通り、緋色の鳥居がどこまでも続く光景は幻想的で、 一人ぼっちだと寂しさが沁み込んでくるみたいに感じられる。 「和ちゃーん!優希ちゃーん!京ちゃーん!」 山頂に向えばいずれ合流できる筈。 そう思って声を掛けながら参道を登り始めたんだけど、暫く経っても辺りは相変わらず静かなまま。 「みんなどこ行っちゃったの?」 心細くて目頭が熱くなってきたのを、鳥居に背中を預けてやり過ごそうとしていたら 「―――さん」 って微かに声が聞こえた。 きのせいじゃないかと思って耳を済ませたら、 「咲さん!」 って今度ははっきりと聞こえた。 和ちゃんの声が。 その瞬間やり過ごそうと思っていた涙が不意にこぼれてしまった。 恥ずかしい手の甲で拭って、和ちゃんの方に走っていったんだけど、 「咲さん!!」 「ふぇっ!?」 開口一番怒られて、それから抱きつかれた。 「勝手にいなくなったりしないで下さい!」 「の、和ちゃん」 「心配したんですよ!」 「…ごめん」 「どうして勝手な行動をとったりするんですか?」 「悪気があったわけじゃないんだよ。ただちょっと寝不足で、いつの間にかみんなからはぐれてたの」 「寝不足?」 「うん……」 「//////」 急に顔が赤くなったと思ったら、和ちゃんは抱きついていた体を離してしまった。 どうしてかわからないけど、それを見てたら私も急に恥ずかしくなっちゃった。 なんだか落ち着くかなくて何か会話を繋げようと思うんだけど、 (なんて言ったらいいんだろう?) ちっともいい考えが浮かばない。 どこまでも続く緋色の鳥居の下に二人きり。 その鳥居みたいに言いたいことは沢山あるはずなのに……。 参道の静寂に呑まれたみたいに黙っていたら、 「どうして寝不足なんですか?」 って、唐突に和ちゃんが口を開いた。 理由を考えるまでもなく昨日の和ちゃんの言葉が頭に浮かんで、全身が熱くなる。 どうしたらいいのかわからなくて、でも自分の気持ちを伝えたくて、深く息を吸ってから心を決めた。 「あ、あのね。昨日の夜ずっと考え事をしていたから、眠れなくかったんだ」 「考え事ですか?」 「うん。私ね、ずっと好きな人がいるんだけど、その人に昨日、 『あなたは私のことをどう思ってるんですか?』 『私はあなたのことが大好きです』 『こんなことを言ったらびっくりするかも知れませんが、でも大好きなんです』  って言われたの。私も同じ気持ちだから、本当なのかなってずっと考えてて……」 木々の間を縫って差し込む陽の光が、鳥居の影を和ちゃんを照らしていた。 桜色の髪が映えてとても綺麗だった。 永遠みたいに思える鳥居の中に、そこだけ出来た陽だまり。 何だかそれは、ずっと胸にしまっていた私の気持ちを伝えることが出来た今という瞬間が、切り取られたみたいだった。 「その相手って誰なんですか?」 もうその言葉に迷うわけもなくて、私は今、和ちゃんを抱き締めた。

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