5-316氏 無題

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〈咲視点〉 (私は変わったのかも知れない) みんなの言葉に少しずつ納得がいくようになってきた。 だって今日 「おはようございます、咲さん」 登校途中の待ち合わせ場所に、一足先に着いていた和ちゃんからそう声を掛けられて、とても嬉しくなったから。 前の晩からずっと次の日が来るのが待ち遠しかった。 北極星を中心に星々が回って、朝が訪れて、思わず駆け出した田舎道。 朝日に照らされた空の下、十字の交差点で待っていた和ちゃん。 「おはよう」 って何度も心の中で繰り返しながら駆けよる途中、唐突に (そう言えば、こんな風に誰かに会いたくてたまらなくなることなんて、今まで無かった) って、気付いてしまったんだ。 会えたことが、声を聞けたことが、嬉しいっていう言葉では表せない程、特別に感じられた。 それは今まで抱いたことのない気持ち。 生まれて初めて出来た特別な人に対する、特別な感情。 ようやく自分でもわかった気がした。 私は変わったんだって。 〈和視点〉 (優希がマニキュア?) 今朝のことです。 咲さんと一緒に登校してくる途中、校門でばったりと出会った優希が渡してきたのは 「和ちゃん、咲ちゃん、これやるじぇ! OPIのディレクターズカラーエディション!」 黒いキャップのついた2つの小さな瓶。 中の液体はそれぞれピンクとブルーで、どちらも発色が高くキラキラと光に反射しています。 「なぁにそれ?」 物珍しそうに咲さんが尋ねるのが聞こえましたが、私の胸中にも同じように「?」が沢山。 答えを聞こうと顔を向けたのですが、当の優希はなんだか得意顔。 咳払いを一つしたと思ったら、続けて 「数あるネイルブランドの中でもトップに君臨する王道ブランド。 ネイルサロンでの使用率が最も高く、マドンナやキャメロン・ディアスなど、世界中のセレブに愛されている。それがOPIだじぇ! ボトルとキャップの形は使いやすさを計算してデザインしてあり握ったときのフィット感や 使用時の重量のバランスまで考えて作られているんだじょ。 発色も抜群で、色もちの良さはNO.1との呼び声が高い、それがOPIだじぇ!」 と、一気にまくしたてました。 そんなことを言われたって、私には何がなんだかさっぱりわかりません。 横を見れば咲さんも目を白黒させています。 ちんぷんかんぷんな者同士、顔を見合わせてから優希を伺ったところ 「二人ともそれでも女の子かぁ!!  OPIって言ったら女子高生は誰でも知ってるマニキュアブランドだじょ!!」 という答えが返って来て、ようやくそれがなんなのかわかったんです。 それにしても…… (優希がマニキュア……ですか?) そんなことに興味を持っていたなんてちっとも知りませんでした。 中学からずっと一緒だったのに、いつの間にか置いてけぼりにされた気がしてなんだか少し寂しい気分。 それと同時に負けず嫌いな性格が頭をもたげて 「お、オペくらい知ってます!」 思わず強がりが口から出てしまいました。 それに対して優希が浮かべたのは満面の笑顔。 「のどちゃん、オペじゃなくてオピだじょ」 !!! そう言われた瞬間、一気に顔が熱くなりました。 強がってみせた自分が恥ずかしいと同時に、隣にいる咲さんに呆れられたらどうしようかと気になって仕方がありません。 穴があったら頭まですっぽり入ってしまいたい気分でいると、 「私も一昨日知ったんだけどな」 という声が聞こえてきました。 私がすっぽり入った穴から少しだけ顔を覗かせると、そこにはマニキュアのボトルを差し出した優希の姿が。 すっかり私を置いてけぼりにしたと思っていたその親友は、 「OPIの限定色でタコスチリソース色が出たのを行きつけのタコスショップで聞いたんだじぇ。  買いに行ったら3本セットしか無いし、タコスチリソース色以外はいらないからのどちゃんと咲ちゃんに一本ずつあげるじぇ!」 悪戯っぽくそう言って私と咲さんの手に一本ずつ押し込むと、さっさと校舎に向って歩き出してしまいました。 狐につままれたような歯切れの悪い後味を感じつつ、それでも優希が相変わらずだったことにほっとしている自分がいます。 横を見ると咲さんも笑っていて、私達は仕切り直すようにまた並んで歩き出しました。 〈咲視点〉 『OPIって言ったら女子高生は誰でも知ってるマニキュアブランドだじょ!!』 最初はそう言われてびっくりしたけど 『タコスチリソース色以外はいらないからのどちゃんと咲ちゃんに一本ずつあげるじぇ!』 だなんて、優希ちゃんらしい。 私は思い出し笑いを堪えながら、今日一日優希ちゃんから貰ったマニキュアの小瓶を眺めていた。 日光に反射してキラキラ輝くそれはピンク色。 見れば見る程 (私よりも和ちゃんに似合うだろうなぁ) って、そう思える。 午前の授業が終わって、午後の授業が終わっても、頭から離れない。 ホームルームの終了を告げるチャイムが鳴った時 (そういえば今日は部活ないんだ) って気付いた私は、クラス全体で行う帰りの挨拶もそこそこに和ちゃんの教室に向っていた。 どうしてかはわからないけど、どうしても和ちゃんにマニキュアを塗りたくなった。 以前の私ならそんな風に思うことは勿論、みんなの視線を気にせず教室を出て行くなんて、絶対しなかったはず。 廊下を早足で歩きながら、はっきりとわかった。 自分が変わったんだって。 和ちゃんのクラスはもうみんな帰ってしまっていた。 けれど、和ちゃんは一人教室に残っていた。 そして窓際の席に座って、マニキュアを見てた。 「和ちゃん」 声を掛けたら、びっくりして体を一回強張らせて、それから私に気付いて笑ったんだけど、その顔がとても可愛くて胸がドキドキした。 あんまりにもドキドキし過ぎて 「どうしたんですか?」 って聞かれても上手く答えられなかったくらい。 「えっと、マニキュア……」 なんだか言葉を覚えたての赤ちゃんみたいになっちゃってる。 そんな自分をもどかしく思ってたら 「綺麗ですよね」 和ちゃんが、開け放っていた窓から吹き込む風に綺麗な桜色の髪をふわっとなびかせながら、にっこりと微笑んだ。 時間が止まったかと思った。 目が離せなくなった。 私は吸い込まれるみたいに我知らず近付いて、気付くと和ちゃんの隣の席に腰を下ろしていた。 〈和視点〉 優希がマニキュアと言った瞬間とてもドキリとしました。 私の知らない内に大人になっていたんだと思って、寂しかったんです。 それと同時に背伸びをして張り合おうとしたのは、きっと私が大人になりたかったから。 いつまでも踏み出せない子供とは違う。 気持ちをきちんと伝えられる、そんな大人に。 憧れと恐れ……… 二つの入り混じった淡い痛みを感じながら、私はマニキュアを見つめました。 数学の時間も、社会の時間も、ずっとずっと。 いつしか全ての授業が終わっても、目をそらすことが出来ませんでした。 その時突然 「和ちゃん」 名前を呼ばれたんです。 びっくりして振り向くと、咲さんがいました。 いつもと変わらない赤みがかった瞳。 ボーイッシュなショートカット。 それを見た瞬間淡い痛みが走りぬけて、改めて思いました。 (大好き) 目が離せなくなった私に向って、咲さんが 「えっと、マニキュア…」 ポツリと言いました。 私は大人への憧れと恐れを抱きながら 「綺麗ですよね」 と答えました。

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