5-847氏 無題

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ずっと、人に優しくしたいと思っていた。 けれど父子家庭という特殊な環境に育ったために優しくされた経験が少ない私は、どうやって人に優しくしたらいいかわからなかった。 自分の気持ちを上手く表現出来ない私はいつも天邪鬼で、八つ当たりみたいに煙草を吸い、投げやりな気持ちで夜遊びを繰り返していた。 (誰も私のことなんてわかってくれない) 一人で勝手に諦めて、殻に篭っていた。 そんな私に優しさを教えてくれたのは和だった。 「煙草は健康に悪いんですよ? 私はこれからも宮永さんと麻雀を打ちたいんです。  だから健康に悪いことはやめて下さい」 面と向かって叱ってくれた和。 私を本心から必要としてくれた和。 その場しのぎの嘘なんてつかずに、真っ直ぐ私の目を見てくれた和に、私は本当の優しさを教えて貰った気がする。 だから、私もそんな彼女に真正面から向き合いたいと思った。 自分の気持ちを彼女に伝えたいと思った。 それで、私はあの日、 『私にとって、和は今誰よりも大切な存在』 『私、和が好きだよ』 私達以外は誰もいない学校の屋上で、その気持ちを言葉にした。 緊張し過ぎて頭が真っ白になったけれど、和は 『はい』 って、私の気持ちを受け入れてくれた。 飛び上がる位嬉しくて、思わずキスをしてしまった。 あの時の和の真っ赤な顔を、私は一生忘れないと思う。 それくらい、その日のことは私にとって大切な思い出だ。 それはつまり、一生忘れないくらい和が好きだということ。 告白してから少し日が経つけれど、彼女を思う気持ちは少しも色褪せない。 それどころか、和に告白してから、もっと彼女のことが好きになったようにさえ思う。 今まで上手く表現出来なくて天邪鬼になったり、八つ当たりに煙草を吸ったり、投げやりな気持ちで夜遊びを繰り返したり、 (誰も私のことなんてわかってくれない) 一人で勝手に諦めて殻に篭っていた分まで、気持ちが溢れてくるみたい。 夜遊びばかりしていたせいですっかり耳年増な私は、この『大好きな』気持ちの先に何が待っているか知っている。 大好きな者同士だけに許されるその行為を、私は和と一緒にしてみたくてたまらない。 彼女を抱きしめて、愛の言葉を囁いて、そしてその体を……。 私は今まで誰とも経験を持たなかったことを嬉しく思うと同時に、上手く出来なかったらどうしようと不安にも思っている。 そうやって一人でこんがらがってしまう位、和のことばかり考えている。 麻雀部の練習中でも彼女の横顔を盗み見ているし、 昼休みに一緒にお弁当を食べながらどうやって切り出そうか考えている。 たまにそんな自分に疲れて煙草を吸っているのは、勿論、和には内緒だ。 今日は麻雀部の練習が休み。 でも、和といるとついつい良からぬ妄想で頭が一杯になってしまうから、今日は彼女と一緒に帰らなかった。 私は今、一人で屋上のお気に入りの場所に寝転んで、空を眺めている。 その透き通った青いキャンバスには、雨の気配なんてこれっぽっちも感じさせない真っ白な雲がのん気に浮かんでいる。 いわゆる、本日は晴天なり、というやつ。 校庭では運動部の子達の掛け声が飛び交っていて、まさに絵に描いたような午後の陽気。 そんな文句のつけようもない穏やかな時間の流れの中にいると、自分の心まで澄んでくるから不思議だ。 私は下心でもなんでもなく、和を抱きしめたいと思った。 彼女に好かれたいとか、思い通りにしたいとか、そんな気持ちとは一切無縁に、ただ彼女を大切にしたいと思った。 大切にしたいという気持ちの延長線上に、『大好きな者同士』だけに許される行為があることを感じた。 (だから、一方通行では意味が無いんだ) 和が私と同じ気持ちでなければ意味が無い。 そうでなければ、彼女を大切にしたことにはならないから。 彼女の気持ちがそこに無ければ、虚しいだけ…… そう、虚しいだけなんだ。 遥かに視界を覆う、澄んだ青い色を眺めているうちに空しくなるのは、和の気持ちと私の気持ちが違うから。 和が私と抱き合いたいと考えてるとは、とても思えない。 だって和は優等生で、生真面目で、私とはまるで違う時間を過ごしてきたから、きっとそんなことをするなんて想像もしてないと思う。 私は寝転んだまま煙草を咥え、白い煙を吹き流して青い色を曇らせる。 そうすれば、少しは虚しさも薄れる気がして……。 咥えていた煙草がやがて燃え尽き、新しい煙草を取り出してまた火をつける。 なかば自棄になって煙を吹き流していたら、ふと隣に人の気配がして咥えていた煙草が取り上げられた。 「煙草は駄目だって、前に言ったのに」 ひょっこり現れた大好きな人の姿に面食らいつつ、それでもなんとか平静を装って、私は少し笑った。 「どうしたの?」 和は、そんな悪びれない私の態度にムッとしとみたいで 「いつも一緒に帰っていたから、咲がいないとちょっと気持ちの座りが悪かったの」 視線を合わせずにそう言った。 意地らしい様子に胸がキュンとなり、手を伸ばして頬を突っつくと、彼女は 「煙草臭い」 と言って、あっさりその手を払った。 けれど、元々性根が曲がっている私には、そんな態度までもが可愛い。 可愛すぎて、どうにも気持ちを抑えきれずに和の体を自分の方に引き倒してしまった程。 体をずらし、腕の中に倒れこんできた和の上に跨りながら 「ごめん、和が好き」 私は切実な声で言った。 「和が好き過ぎて、苦しい」 そう言って、彼女の首筋にキスを落とした。 唇を奪わなかったのは、せめてもの良心だったのかも知れない。 (君の気持ちを無視してこんなことをしてしまう位、君が好き) (だから、辛くなる) 和の瞳に映る真っ青な空の色を見て、心に鋭い痛みが走るのを感じた。 けれど私はそれを無視して、彼女の首筋にキスの雨を降らせた。
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