4-463氏 ONE DAY⑥

某日。

「んー……」

「どうしたんです?咲さん」

大学でのサークル活動の休憩中、何やら悩ましげな咲に和が問いかける。

「名前、ないと不便だなあと思って…」

「ああ、確かにそうですね…でも…勝手につけるのも気がひけますし…」

「でもずっと"あなた"とか"君"って呼ぶのも可哀想だよね…」

「「う~ん…」」

2人はそのことについて頭をいっぱいにしながらサークル活動を終えた。

帰り道、まだ2人は悩んでいるようだった。

会話は何もなく、お互い下を向いて歩いていたため、端から見れば喧嘩しているように見えたかもしれない。

2人は無言のまま家路の途中にある本屋へ入った。
そして無言のままあるコーナーの前で止まった。




【子育て支援!子供の名前】




「同じこと考えてたみたいだね」

「そうですね」


二人は目を合わせ微笑んだ。
咲と和は真剣に本を吟味し(和は顔を赤く染めていたが)結局無難に一番売れているものを選んだ。

帰りはさっきまでの無言が嘘のように仲良く歩いた。

一冊の本を、持って。


翌日。

「決まった!」

「はい、これなら画数もばっちりです!」

一晩中悩みようやく子供の名前が決まったようだ。
二人は名前が書かれた紙を持って、居間で遊ぶ子供の元へ行った。

「ねえねえ、いいものあげる!」

「え、なになにー?!」

「はいっ!」

咲は名前の書かれた紙を子供の目の前に差し出した。
子供はそれを見てキョトンとしている。

「……つばき?」

「あなたの…名前です。」

「私の…?」

「うん!いつまでも"君"とかじゃ嫌でしょう?」

咲がそう言うと椿は静かに涙を溢した。

「き、気に入らなかったんですか?」







「ううん…すごく、嬉しい…」





咲と和は顔を見合わせ、ほっとしたように、また嬉しそうに、安堵の息をもらした。


「椿、これからよろしくね?」

「うん!」



椿は大きく頷き、咲と和に抱きついた。
その顔には和やかな笑顔が咲き誇り、嬉し涙が美しく輝いていた。





ONE DAY⑥完
最終更新:2010年04月24日 22:57
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