某日。
「んー……」
「どうしたんです?咲さん」
大学でのサークル活動の休憩中、何やら悩ましげな咲に和が問いかける。
「名前、ないと不便だなあと思って…」
「ああ、確かにそうですね…でも…勝手につけるのも気がひけますし…」
「でもずっと"あなた"とか"君"って呼ぶのも可哀想だよね…」
「「う~ん…」」
2人はそのことについて頭をいっぱいにしながらサークル活動を終えた。
帰り道、まだ2人は悩んでいるようだった。
会話は何もなく、お互い下を向いて歩いていたため、端から見れば喧嘩しているように見えたかもしれない。
2人は無言のまま家路の途中にある本屋へ入った。
そして無言のままあるコーナーの前で止まった。
【子育て支援!子供の名前】
「同じこと考えてたみたいだね」
「そうですね」
二人は目を合わせ微笑んだ。
咲と和は真剣に本を吟味し(和は顔を赤く染めていたが)結局無難に一番売れているものを選んだ。
帰りはさっきまでの無言が嘘のように仲良く歩いた。
一冊の本を、持って。
翌日。
「決まった!」
「はい、これなら画数もばっちりです!」
一晩中悩みようやく子供の名前が決まったようだ。
二人は名前が書かれた紙を持って、居間で遊ぶ子供の元へ行った。
「ねえねえ、いいものあげる!」
「え、なになにー?!」
「はいっ!」
咲は名前の書かれた紙を子供の目の前に差し出した。
子供はそれを見てキョトンとしている。
「……つばき?」
「あなたの…名前です。」
「私の…?」
「うん!いつまでも"君"とかじゃ嫌でしょう?」
咲がそう言うと椿は静かに涙を溢した。
「き、気に入らなかったんですか?」
「ううん…すごく、嬉しい…」
咲と和は顔を見合わせ、ほっとしたように、また嬉しそうに、安堵の息をもらした。
「椿、これからよろしくね?」
「うん!」
椿は大きく頷き、咲と和に抱きついた。
その顔には和やかな笑顔が咲き誇り、嬉し涙が美しく輝いていた。
ONE DAY⑥完
最終更新:2010年04月24日 22:57