電気をつけていなかったから、カーテンを閉めた寝台は薄暗かった。
かろうじて見える和ちゃんの顔が、緊張しているのがわかる。
返事を待ってる私の心も同じ様に固まって、沈黙が重苦しい。
(御願い、和ちゃん)
心の中で必死に祈りながら固唾を呑んで見守っていると、その口が動いて
「私も……」
っていうか細い声が聞こえてきた。
その響きを追いかけて、先に続く言葉が予想されて……刹那、胸が高鳴る。
数秒後にきっとやってくる筈の返事。
思い浮かべた途端、嬉しくて心が痺れるみたいに感じた。
それなのに、その時………。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「和ちゃんのことが好きなんだ」
一瞬夢を見ているのかと思いました。
気付いた時には咲さんのことが気になっていたんです。
それが彼女を好きだからだと気付くまでに時間はかかりませんでした。
それからずっと、少しでも一緒にいたい、彼女に触れたい、そんな風に考えてばかり。
だから名前で呼んで貰えた時は本当に嬉しく思いました。
でも、今回はその思い出とも比べられないほど………
びっくりして、とても嬉しくて、全身が熱くなりました。
(咲さんが私と同じ気持ちでいてくれたら……)
そんなのは叶わぬ願いだと思っていたんです。
半ば諦めていたのに、私の耳に聞こえたのは紛れもなく
「好きなんだ」
という言葉。
夢が現実になったことを知った瞬間、息が止まりました。
「私も……」
(同じ気持ちです)
言いたくて、でも言えなかった言葉……。
(漸く伝えることが出来るんですね)
もう胸の中にしまっておくことなんて出来なくて、
(早く言葉にしたいです)
そう思ったのに突然電車が動き出し、
「きゃっ」
床の動きに重心を崩されてベッドに倒れこんだ私は、咄嗟に目を瞑ってしまったみたい。
暗く閉ざされた視界を開くと、すぐ目の前に同じように倒れこんだ咲さんがいました。
「大丈夫、和ちゃん?」
「は、はい」
「びっくりしたね」
「そうですね」
「返事を聞かせて?」
不意打ちのような言葉に、改めて頭がぼーっと熱くなります。
(同じ気持ちです。ずっと、ずっと前から//////)
大好きな咲さんがこんなに近くにいる。
そしてその目がまっすぐに私を見つめている。
(あなたを好きでいて良かったです)
寝台列車の走り出す気配を感じながら、
(あなたの気持ちに応えてあげられる)
嬉しくてたまらなくて、
「私も、同じ気持ちです」
と、溢れる想いのまま口にしました。
電気のついていない暗い部屋にその言の葉が静かに溶けていった後、浴衣と浴衣が触れ合う衣擦れの音を聞きながら、私はゆっくりと近付いてくる咲さんの唇を受け止めました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「星が綺麗だよ」
カーテンを開けた咲さんの言葉を受けて視線を向けると、窓のそとには満天の星空。
その下を夜のネオン街が通り過ぎて行く光景は、とても幻想的に見えます。
車輪の音が絶え間なく響き、そして窓の外に広がるその幻想的な夜空を背景に、咲さんが同じ部屋の中に居る。
何もかもがいつもとは違っていました。
星明りや街の灯を眺めるだけで何だかとても幸せで、こっちを見つめる咲さんに頷き返していたら、
(二人だけの思い出ですね)
(ずっとこうしていたいです)
時が流れ去って行くのを不意に寂しく思いました。
その心の隙間に染み入って来るようなもどかしい気持ちを、
「こっちはもう使わないよね?」
そう言って私の横になっている下段のベッドに滑り込んで来た咲さんの体にぎゅっと抱きついて、ぶつけます。
「の、和ちゃん//////」
「幸せ過ぎて、何だかちょっぴり悲しいです」
「え? どうして?」
「明日になったら、こんな風に一緒にいられないじゃないですか……」
「う、うん。そうだね……」
静かになった部屋に寝台列車の走行音が響きます。
車輪が回った分だけ、この幸せな時間も少しずつ終わりに近付いている。
例えようもなく寂しい気持ちになっていると、咲さんの唇が降って来ました。
「でも、これからも一緒にいられるよ?」
「咲さん……」
「それに、今までよりももっと和ちゃんを大切に出来るし」
「大切ですか?」
「うん。だって恋人になれたんだから」
「……そうですね。ちゃんと大切にして下さい//////」
満ち足りた笑顔を浮かべる咲さんにキスを返したら
「の、和ちゃん」
首筋を優しく噛まれて
「きゃっ」
思わず声が漏れてしまいました。
「あのね。大好き。言葉になんて出来ないくらい……」
「さ、咲さん?」
突然彼女が首筋に唇を這わせたので、体が強張りました。
今まで経験したことがない感触にびっくりして、咲さんを押しのけようと反射的に手が動きます。
ですが、その些細な抵抗は彼女の抱き締める力の強さにあっさりと弾かれてしまいました。
「あの、咲さん?」
「の、和ちゃんが欲しいの。駄目…かな……?」
「欲しいって……」
「もっと和ちゃんに触れたいんだ。えっと、こんな風に……」
「きゃっ!」
咲さんの手が浴衣の中に入り込んで来て、下着をつけていない胸に触れました。
それは少しだけ冷たくて、でも優しくて、拒むことが出来ませんでした。
「ずっと思ってたんだよ?」
「な、何をですか?」
「和ちゃんを独り占めしたいって。誰も知らない和ちゃんを知りたいって」
「咲さん……んん!」
ゆっくりと胸の全体を撫でられる内に、何だか不思議な気分になります。
くすぐったいのとは違う、もっと甘い、陶酔してしまいそうな心地良さ。
初めてのことへの戸惑いもありますが、大好きな咲さんの前ではそれもあまりにも小さくて、すぐに流されてしまいたくなりました。
「駄目?」
「駄目じゃ……ありません」
少し不安げに私を見つめるつぶらな瞳が愛おしくて、気持ちを込めてキスをしました。
「咲さんなら、いいですよ」
その拙い口付けを受け止めた咲さんの顔に、こぼれる様な笑みが浮かびました。
(可愛い//////)
そう思ったのも束の間、彼女は笑顔を浮かべたまま私の顎に指を掛けて唇を開かせるや、突然舌を差し込んで来ました。
不意打ちだった上に、その感触が痺れる位もどかしくて、たちまち絡め取られてしまった私の舌は、もう自分のものではないみたいに震えるばかり。
「うぁ、ぁぁ、ぁあ」
柔らかく、それでいて鋭い不思議な刺激に振り回されて、言葉にならない声が漏れてしまいます。
上段ベッドに跳ね返ったその声が自分の耳に届いて恥ずかしくなりましたが、咲さんはそんなことに構わず執拗に私の舌をついばみ、そればかりか浴衣の中に手を入れました。
「ま、待って下さい」
何とかキスから逃れて口を開いたのですが、言い終わった時にはもう胸を撫でられていて、
「ま、待てないよぉ」
という言葉が聞こえたかと思うと、真ん中を摘まれてしまいました。
(咲さんのエッチ…。どうしてそんなことするんですか?)
反抗のつもりで少し睨んだのに、申し訳なさそうな表情が返って来たのが可愛くて
(何だかずるい)
途端に眉間から険が取れてしまいます。
咲さんはそんな私を見ながら、じゃれつく子犬のような仕草で口を開きました。
「和ちゃんの乳首、固くなってる」
「そんな、乳首だなんて……」
「舐めてもいい?」
「え!?」
「駄目?」
「それは、あの、その……」
「駄目?」
「……いいですよ//////」
(どうして断れないのでしょう?)
目の前の大好きな彼女を見つめながら
(でも、こんなことがあってもいいかも知れませんね)
すっかり流されてしまいたくなって体を預けます。
腰に手が回され、その唇が「乳首//////」に近付いていき……。
咲さんの唇に甘く挟まれて、舌先で舐められた瞬間、胸が溶けてしまったのかと思う程気持ちよくて
「きゃっ!!」
無意識のうちに声を上げたかと思うと、ぎゅっと抱きついてしまいました。
「わっ! の、和ちゃん!?」
「ご、ごめんなさい。気持ちよくて……」
「気持ちよかった?」
「え! あの、その」
「良かったぁ」
「//////」
急に恥ずかしくなってしまいましたが、咲さんが嬉しそうに見つめるので、複雑な思いに駆られます。
(でも、今日はいいですかね)
ぎゅっと目を瞑って体を委ねると、再び強い快感が「乳首//////」の上に花開きます。
思わず声が出そうになりましたが、必死に唇を噛んで耐えました。
その時何かがもぞもぞと浴衣の上を伝っていく感触があり、やがてそれが下腹部で止まって前衣を割って、中に入ってくるのがわかりました。
ハッとして目を開くと、咲さんの手が浴衣の中に差し込まれていて
「そ、そんな所に触ったらいけません!!」
慌ててその手を掴みます。
寸での所で難を逃れ、取りあえず安心しましたが、
「御願い、和ちゃん」
返って来たのは意外な反応で、一心に向けられた咲さんの眼差しに、思いがけず押されてしまいました。
「御願いって……」
「もっと和ちゃんを気持ち良くさせてあげたくて」
「こ、こんな所を触ってですか?」
「うん」
「恥ずかしいです…」
「私でも駄目なの?」
「それは……」
「駄目?」
(こんな所に触りたがるなんて変ですよ)
(でも、咲さんが触りたいなら)
視線を向ければ、そこには縋るように私を見つめる愛しい人の姿。
(そんな顔をされたら………もう!)
すっかり心を奪われてしまった私はそれ以上断ることが出来ませんでした。
けれど、面と向かって許可するのも恥ずかしいので、黙って体を預けます。
「ありがとう、和ちゃん! いっぱい気持ちよくするからね」
(咲さんの馬鹿//////)
一気に顔が熱くなるのを感じていると、胸が舐められ、そして下腹部にほっそりとした指が添えられるのがわかりました。
お母さんにさえ見せないその場所を、見せるどころか触られて、たまらない気持ちになりました。
でも、咲さんのために必死にそれを我慢します。
(そんなところを触るなんて変ですよ)
最初の内はそう思っていたのに、おしっこの出る場所の上あたりを触られた途端
「んんっ!」
(どうして!?)
咲さんの言った通り、いいえ、言葉からは想像出来ないほど気持ちよくて、腰が跳ね上がってしまいました。
「だ、、、、めっ!あぁ!!」
(気持ちよくておかしくなりそう)
突然何かのスイッチが押されたみたいな予期せぬ刺激にどうすることも出来ずにいると、
「もっと気持ちよくしてあげるね、和ちゃん」
という咲さんの声が……。
「やぁぁぁ!(やだ、咲さん。怖いです)」
「大丈夫だよ。安心して」
「はっ!んんん!!!(そんな、駄目)」
「和ちゃん、大好き」
その言葉を最後に突起に添えられていた手が下腹部に刺さり、激しく掻きだす様に出し入れを始めました。
貫かれたみたいな快感に体が反射的に逃げようとしましたが、咲さんが両足で私の右足を挟み込んだため、逃げることが出来ません。
やがて左足まで咲さん手で押さえ込まれた私は、股を大きく開いた格好でベッドに固定され、成すすべも無く指を突き入れられるばかり。
(怖いのに。怖いのに……でも)
(もう、駄目です。気持ちよくて)
くの字に曲げた指で掻き出される度に腰が跳ね上がります。
どうすることも出来ずにいる内、体の奥が何かが膨れ上がるような感じが生まれました。
「咲、さんっ。何か、変です」
「大丈夫だよ。そのまま出していいから」
(出していいって…)
最初は意味がわかりませんでしたが、膨れ上がった何かが溢れそうな気配を帯びるのを感じて「出していい」という言葉に実感が沸いて来ます。
耐え難い快感はそうする間にもどんどん大きくなって、
「だめ、、、ほんとう、に、、、で……」
「和ちゃん」
「きゃあっ!!」
とうとう咲さんの指先に導かれるまま私から溢れて出てしまいました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ごめんね」
「………」
「和ちゃん……」
強引にいかせちゃったことを後悔しつつ謝ったら、背中を向けていた和ちゃんがこっちに向き直った。
思わず身構えたんだけど、その顔は怒ってなくて、どちらかというと恥ずかしそうにはにかんでいた。
「………ですよね?」
「え?」
「これからは、今までよりももっと大切にしてくれるんですよね?」
「う、うん。勿論」
「じゃあ、次はもう少し優しくして下さい//////」
「……はい//////」
それから暫く同じベッドの中で温めあってから、
「お腹がすいてしまいました」
という和ちゃんの言葉がきっかけで、私達は食堂車へと向った。
等間隔に明りが灯る真夜中の静かな寝台の中、窓を覗けばもうすっかり東京を離れて、ネオンなんて無い見慣れた暗闇が広がっていた。
(明日になったらもうこんな風に二人ではいられないんだ……)
そう思うと何だか今という時間が惜しくてたまらなくなる。
その時、食堂車へと向けて前を歩いて和ちゃんが振り向いて
「休憩を挟んだら、さっきの続きですよ?」
って言ったから、笑顔が浮かぶのを止められなくなった。
(これからもずっと大切にするからね)
列車はまた無人駅を一つ過ぎて、新しい未来に向って走り続けていた。
最終更新:2010年04月24日 23:00