「・・・・・1位、ですか」
朝のニュース番組の終盤にあるおまけの占いコーナー。
興味はありません。私はこういうの、信じていませんから。
ならなぜ今こうして最後の方まで見ているのかというと、
それはあの人――宮永さんのため。
私は信じていないけれど、宮永さんならきっと好きだと思ったから。
(いい結果だったら教えてあげましょう)
と思い、チャンネルを切り替える手を止めたのはつい先ほどのこと。
そして見事に2位という輝かしい結果を残した宮永さんの星座。
これならきっと喜んでくれるはずと、その日1日の大まかなアドバイスと
ラッキーカラー、ラッキーアイテムを頭に入れ終わったその時、
『おめでとうございます!今日の1位は○○座の皆さんです!』
という女子アナウンサーの元気な声が耳に入ってきた。
それが、今のこと。
どうやら今日は私が1位らしい。でもだからって、あまり嬉しくはない。
だいたい、生まれた日にちだけで見ず知らずの人のその日に起こることなんてわかるはずないじゃないですか。
・・・なんて、宮永さんに言ったら落ち込むでしょうから絶対に言いませんけど。
ちらりと時計を見てみる。
いつのまにやらあと少しでいつもの時間。
そろそろ出ようと腰を上げ、テレビのスイッチを切ろうと電源ボタンに親指を添えた―――その時!
『・・・○○座の皆さんは特に恋愛運が絶好調ですね♪
勇気を出して1歩踏み出せば、きっと進展があることでしょう!
ラッキーカラーはイエロー、
ラッキーアイテムは傘です!日傘でもOKですよ~♪・・・』
ピタリと、手が止まってしまった。
い、今・・・なんて言いましたか?恋愛運?し・・・進展!?
一瞬で浮かび上がるあの人の笑顔。
胸の奥の方が、じわりと熱を持つのを感じた。
「いや・・・、なな、何を考えているんですか!私はっ」
占いなんて非科学的ですっ!オカルトですっ!
ラッキーアイテムとかカラーとかっ、そんなもの持ち歩いたところで何かあるはずありませんっ!
ぶんぶんと首を振りながら、まだ最後まで原稿を読み上げていないであろう女子アナの声を
ぶちっとテレビの電源を切り遮ったところで、私は鞄を持って玄関へと足早に向かった。
しかし、普段の私らしくないよからぬ考えを少しでも消そうと、
忘れ物はないかと慌てて辺りを見回したのが失敗だったのかもしれない。
「あ・・・」
お父さんの大きな黒い傘の隣にかかっている、私の・・・黄色の水玉模様の・・・お気に入りの、傘。
それが目に入ってしまった。
認識するのと同時に、先ほどの星座占いが一瞬でフラッシュバック。
う、占いなんて・・・
そんなことで私の運命なんて・・・
だけど、万が一それで・・・宮永さんと・・・・・・!
どれだけ迷っていたのだろう。
ハッと我に返りリビングの時計を見ると、時刻はすでにいつもの出発時間よりも7分ほど、
いや、10分は過ぎていた!
(しまった・・・!)
本来ならこの場合、学校に遅刻してしまうかもしれないことを
最初に心配するのだろうが、私は違った。
自分のことよりも、私を待ってくれているかもしれない彼女のことを1番に思った。
意を決してその傘を手に取る。
悩んでいたってしかたがない!
そうです!
占いを信じるのではなく、
占いを信じる宮永さんを信じればいいんです!
それならなんの躊躇いもなく、これを持っていける。
(多少の無理があるのは承知の上です)
「行ってまいります!」
左手に鞄、右手に傘を持って勢いよく飛び出した。
目指すは学校――ではなく、宮永さんと落ち合う予定のあの場所。
・・・だけど。
(何もこんなに晴れてなくてもいいじゃないですか・・・・・
せめて、せめて曇っていればよかったのに)
だなんて、この天気をよく思っていないのは私くらいなんだろうな、と思いながら走った。
どうか、いい1日にっ・・・・・・!!
『私たちの日常~and Happy Day!~』
*
「・・・はあっ・・・はあっ・・・!」
あれからずっと走り続けている私ですが、ふと気付いた2つの事実がその足取りを重くさせました。
1つ目は、「ラッキーカラーとアイテムを1つにまとめる必要はなかった」ということ。
ラッキーアイテムの傘だけなら、折りたたみ式のもあった。
それならわざわざ手に持たず、鞄の中に隠して登校できたのに・・・。
2つ目は、「宮永さんが私を今でも待っている可能性はとても低い」ということ。
少しだけ冷静になって考えてみれば、別にこのことを約束していたわけではないし、
一応こうやって急いではいるけれど、恐らく5分以上は遅れているだろうから。
「はあっ、はあっ、はあ・・・はぁ・・・・・」
今のは荒れた息?それともため息?
ああ、私は朝からいったい何をしているんでしょうか。
晴れているのに傘を持ち、
割と本気で全力疾走なんかして。
考えれば考えるほどに呆れてくる。
でも、まったく期待していないといえばそれはウソになった。
きっともういないとは思いつつも、心のどこかで
もしかしたらまだいるんじゃないか、待っていてくれるんじゃないか・・・と、考えずにはいられなかった。
・・・それはもう、願望に近いものだったと言ってもいいかもしれません。
ようやく待ち合わせ場所(?)が見えるところまでやってこれた。
祈るような思いで―期待:不安=6:4くらいの気持ちで―そこに目を凝らせば・・・
そこには、何やら落ち着かない様子で同じところを行ったり来たりしている念願の彼女の後姿が!
「み・・・みやながさ・・・・・・っ!」
いたっ!宮永さん!
待ってくれていた!
待ってくれていたんだ!
あまりの嬉しさに思わず破顔!
沈みがちになっていた足取りが一瞬で回復!
そして一目散に彼女の元へ!
「み・・・っ、みや、宮永さーん・・・!!」
声を掛けたあとにすぐさま振り向いてくれた彼女の笑顔を見て
つい手を振りそうになってしまった私ですが、
近付くにつれてだんだんとはっきりしてきた宮永さんの目元に
うっすらと涙がにじんでいるのを確認できたその刹那、そんな浮かれた思考はどこかへ消えていきました・・・。
「はあ、はあっ・・・ごめんなさい、待たせてしまって!
あの、支度に戸惑ってしまったもので(き、きっと私のせいですよね!?)」
「お、おはよう! ううん、大丈夫!気にしてないよ!」
「お、おはようございます・・・。ホントですか?
(よかった・・・)ありがとうございます!
・・・あれ?宮永さん、なんだか顔が赤いような・・・?」
「ぅええっ!?あ、な、なんでもないから!全然!気にしないで!」
「??」
「ほ、ほらっ。もう行こう?遅刻しちゃうかも!」
「あ、そ、そうですね!すみません私が遅れたばっかりに・・・」
「だ、だから気にしてないってば!」
てっきり私のせいで泣いてるんだと思いましたが・・・どうやら違ったみたいです。
それはそれで一安心なのですが、やっぱり申し訳なさが込み上げてくるのには変わりありません。
もう一度・・・いや、もう何度でも謝ろうと口を開きかけたその時、
ふいに宮永さんに手をとられ、嬉しいやら恥ずかしいやらで言葉に詰まってしまいました。
ってこの短期間で一喜一憂しすぎです!私っ!
*
「ところで原村さん、さっきから気になってたんだけど・・・」
「・・・はい、なんですか?」
「今日、雨降るの?」
とうとうきたな、と思いました。
予想していた通り、今日という日には到底ふさわしくない傘というアイテムを持っている私に対し疑問を投げかける宮永さん。
それに対する私の答えは、こう!
「夕立があるって聞いたんです」
「え、ホントに?あちゃー、私折りたたみ傘も持ってきてないよ」
「あ、でも!たぶん降らないでしょうから・・・心配しなくていいと思います」
「でも天気予報でそう言ってたんでしょ?」
「う・・・あの、その、あまり当たらない予報士のものなので・・・」
「そうなの?」
「ええ・・・」
な、なんとか誤魔化せましたが、余計な心配をさせてしまいました・・・
もう少しくらいまともなことは言えなかったんでしょうか・・・
結局、いつもとさほど変わらない時間に着きました。
これならもうちょっとゆっくり歩いてもよかったんじゃ・・・。なんて。
「じゃ、原村さん!また部活でね♪」
「あ、はい!・・・じゃなくて み、宮永さん!」
「ん?」
無意識の内に例の傘を握り締めながら、私はあの星座占いのことを思い出していました。
そう、『勇気を出して、1歩踏み出せば』・・・・・!きっと!
「よかったらお昼・・・一緒に食べませんかっ?」
「!・・・うん!もちろんいいよ!
今日は私もお弁当作ってきたから、おかずの交換っこしよ!」
「はっ、はい!楽しみにしてます!」
「私も♪じゃあまたお昼にね~」
控えめなれど、今度こそ手を振り返した。
宮永さんが教室に入るのを最後まで見届けてから、自分の教室へ向かう。
その顔が自然とほころんでいるのにも気付かないまま。
あの占いが言っていたように、自分なりに一歩踏み出したら・・・いいことがあった。
正直言って複雑ですが、ああでも言われなきゃ私から宮永さんを誘うことはできなかったと思います。
(で、でも最終的には私自身の努力の結果ですからっ!)
という言い訳はいったい誰に向けたものなのか。
ともかく、この日以上に待ち遠しいお昼休みはありませんでした。
*
待ちに待ったお昼の時間。
前に麻雀部の皆さんとで食べた所と同じ場所で食べました。
で、ですが、今日は2人っきり。
初めて出逢った頃は、まさかこんな風になるだなんて想像もしてませんでした。
何から何まで色んな意味で驚きの連続。
隣でニコニコとお弁当を開ける宮永さんを見つめながら、想う。
できることならもっともっと近付きたいですが、今のままでも私は充分――。
約束していたおかずの交換を交わした後(お互いに卵焼きでした。おいしいと言ってもらえてよかったです!)、
色んなことを話ながらお昼休みを過ごしました。
たわいもない世間話から、
ご近所が最近飼い始めた子猫がとてもかわいい話だとか
売店新発売のメロンパンが結構おいしいらしいとか、とにかく色々。
ですが、ここで予想外のことが起こりました・・・!
宮永さんから今朝の占いの話題が出たんです!しかも!2位のことまで!
ということは宮永さんも同じ占い番組を見たってことですよね?
イコール今日の1位が何座なのかもわかっているはず・・・!
イコールなぜ私がアレを持っていたのかバレてしまうかも!?
今日の私ではどんなに冷静に“宮永さんの星座が2位だった”ことを伝えても
何らかの形でボロを出してしまうような気がして、あえて黙っていたというのに・・・っ。
少しでも早くこの話題を終わらせたくて、「それはよかったですね!なにかいいことありましたか?」と尋ねたら
「うん!ちゃんとラッキーカラーとラッキーアイテムもそろえてあるんだよ!」と、
嬉しげに見せてくるはかわいらしい赤色のチェックのハンカチ。
(えぇっ!どうしてここまでそろえてあるのに1位のことを突っ込まないんですか!?
それはそれでいいんですけど、逆に怖いです宮永さん・・・!)
それともまさか、私の星座を知らないなんてことは・・・
あ、2位の結果だけ見て1位が何座なのかまでは見てないとか・・・ないか。
いや、宮永さんならありえそう・・・。たとえばすぐにそのハンカチを取りに行ったとか・・・ど、どうでしょう?
すっかり挙動不審になってしまっていた私がとりあえず肯定したその返答に、
さすがの宮永さんも不思議に思ったのか、「? う、うん!だといいよね!」と若干の苦笑い。
・・・よし、なんとか一区切り付きました。
もしここで追及されでもしたら間違いなく終わります。早く、次の話題を―――。
キィーンコォーンカァーンコォーン・・・・・
「えっ!もうそんな時間!?」
そう言って驚いた宮永さんに続いて、私も内心かなり驚きながら時計を見ました。
もう5分前・・・時間、ですね。
短い間でしたけど、すごく楽しかったです。
宮永さん、なんだか残念そうにしてますけど・・・
また・・・誘ってもいいんでしょうか・・・・・?
*
「ふう、疲れた!」
「お疲れ様です、宮永さん」
「うん!原村さんもお疲れ!」
今日の部活も有意義に過ごすことができました。
緊張が解けたみなさんとまどろむこの時間が好きです。
この大切な時間を終わらせてしまわないためにも、全国で優勝しなくては。
改めて思い、ふと眺めたベランダの先には、澄みやかな夕空が広がっていた。
きれい。
雀卓やお茶の後片付けをしたら解散。
ゆーきと部長と染谷先輩と須賀くんにあいさつを済ませたところで、
宮永さんから「一緒に帰ろ?」と声を掛けてもらい、部室から出た。
宮永さんと一緒に帰るこの時間も、絶対に失いたくない時間のひとつ。
昇降口へ到着した辺りで、そういえば持ってきたんだったと
例の傘を傍らに、宮永さんに聞こえないよう軽くため息をついたところで
「うわっ!雨降ってきたんだけど!」
という他の清澄生の声に驚いて顔をあげた。
「「雨!?」」
私と宮永さんは急いで昇降口から外を見てみた。
すると、ぽつぽつと確かに雨が降っている。
それは見る見る内に大降りになり、私たちが帰るタイミングを完全に打ち消してしまった。
・・・って、夕立ですか!?
ま、まさか本当に降ってくるとは・・・・・!!
「朝に言ってた夕立、当たっちゃったね」と宮永さんが驚いていましたが、
実はこの時1番驚いていたのは・・・私でした。
へ、変な偶然もあるものですね・・・・・。
*
「今日雨って言ってたっけ?」とか、「マジありえね~」とか、
昇降口付近で立ち往生してる他の清澄生のそんな会話はつゆ知らず、
私はあることだけを一心に考えていました。
天候は雨。
人数は2人、でも傘は1本しかない・・・ということは、これは
相 合 傘 の チ ャ ン ス なんじゃあないでしょうか・・・!?
あああ、でも、どうしましょう!?
この期に及んで相合傘に誘う勇気なんて持ち合わせていませんし、
占いが言っていた一歩はもうすでにお昼休みを誘うのに踏み出してしまいました・・・
で、でも一緒に帰りたいですし・・・ここは雨が待つまで待ってましょうか。
そうすればもう少しだけ長く、一緒にいられる。うん、それがいい。・・・はぁ、相合傘。。
「は、原村さん、先に帰りなよ?
一緒に帰れないのは残念だけど、せっかく傘持ってきたんだし。
私は大丈夫だから。ね?」
いえ、待ってますよ、と言いかけて止める。
残念・・・と言ってくれましたか?今。
「ね?原村さん!その分明日、ちょっと寄り道とかしてさ!」
「残念、ですか?」
「え?」
「私と一緒に帰れないことが・・・残念、なんですか?」
「・・・あ」
別にそんな深い意味で聞いたつもりはなかったのに、宮永さんは急に顔を赤くしてしまった。
そして、そんな彼女は次に
「・・・うん。すごく残念。実は私、原村さんと一緒に帰るのいつも楽しみにしてたから」
と、はにかんだ笑顔で続けた。
いやいや、反則でしょう。
そんな嬉しいことを言われたら、勇気がどうとか占いがどうとか関係ないような気がしてきました。
いや・・・そうですよ!絶対に関係ありません!
占いなんて、生まれた日にちや手相なんかで運命を決めようとするオカルトものなんです!
それをなんですか、私としたことが!
「占いが言っていた一歩はもう踏み出した」??
占いなんかの言うとおりにしてしまうから、運命を決められてしまうんです!
私の運命は・・・、私が決めます―――!!
「では、宮永さん・・・い、一緒に!帰りましょう!」
*
今だから言います。心臓ばくばくでした。
「い、一緒に?」
「そうです!」
「え、でも雨・・・」
「で、ですから!これで!一緒に・・・!」
「・・・・・相合傘・・・ってこと?」
「・・・・・・・っ。」
傘を持つのも、うなずくのも精一杯。
もし相手がゆーきだったら、傘を支えるこの両手がこんなにも震えることはなかったと思う。
そのワケは・・・言わずもがな。
とにかく、この時の私は何かと必死だった。だけど、返ってきた返事は・・・
「あ、ありがとう!原村さん!で、でもやっぱり悪いよ。
私が傘持ってこなかったのがいけなかったんだし、夕立だからきっとすぐ止むと思うし・・・ ・・・・・・」
恐らく宮永さんはこの後も何か言葉を続けていただろうけど、
あいにく私の聴覚はそれを思いっきり受け流してしまっていた。
今頭の中にあるのは、Σガーン!断られたっ! ←これだけ。
ぜ、絶対変だと思われた・・・踏み出すんじゃなかった、一歩・・・orz
「あ・・・で、ですよね・・・・・。ごめんなさい、宮永さん。迷惑でしたよね・・・」
「だかr・・・え!迷惑!?」
「急に相合傘だなんて・・・そんな変なこと。それも、私なんかと」
「えっ、ちょっ、ちょっと!原村さん!?」
「しかも夕立ですし、すぐあがりますよね・・・。そこまでして私と帰る必要なんてどこにも・・・・・」
「わあぁっ!!原村さん!ストップストップ!」
「はい・・・?」
「帰る必要ならあるよ!充分ある!だからやっぱり帰ろう!一緒に!!」
「えっ!?で、でも、迷惑じゃ・・・」
「そんなの全然思ってないよ!むしろ・・・っ、あ・・・」
「・・・むしろ・・・・?」
「む、むしろ・・・嬉しかった、かも・・・・・」
「!! 宮永さん・・・っ!」
「え、えへへ・・・。じゃ、じゃあ、行こっか?」
「は、はいっ!」
前言撤回。踏み出してよかったです、一歩!
「お邪魔します」と傘の中に入ってくる宮永さんを見ると、自然と笑みがこぼれます。
やはり、信じるべきは自分自身なのですね。今改めてわかりました。
一方その頃、この時のことを一部始終見ていたらしい部長たちに
翌日思いっきりからかわれてしまったのは、また別のお話。
*
「いれてもらってるんだから、私が持つよ!」
「誘ったのは私なんですから、私が持ちます!」
で、結局「2人で持とう」ってことに落ち着いた、傘持ち合戦。
宮永さんがそう言わなかったらずっと続いていたような気がします。
というわけで私たちは今相合傘をしているので す、が!
近い!こ、こんなに近くなるものなんですね、相合傘って・・・!
決して密着しているわけではないですが、初めてやった分、緊張の高まりがものすごいことに・・・!
(心臓が、うるさい・・・っ)
何か話をしなければいけないのはわかってる。けど、そこまで考えがまわらない。
ふと目が合うこともあったけど、この現状がはずかしすぎてついそらしてしまった。
そういえば、私は今どれくらい赤面しているんだろう・・・いつもの比じゃないことだけは確かだけど。
いや、そんなことより、話だ。もうなんでもいいから何か話そう!(このままじゃ心臓が持ちません)
「「あのっ・・・、!!」」
え、かぶった!?
思わず足を止めてしまう。
「あ、ご、ごめんなさいっ!なんですか!?」
「う、ううん!原村さんから言って!」
「い、いえ!宮永さんから・・・」
「いいよいいよ!私なんでもないから!」
「わ、私もなんでもないですっ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・あははっ」
「・・・・・・・・・ふふ」
なんだかおかしくなって笑いあった。
そうしたら、さっきまであんなに緊張していたのがウソだったかのように、気持ちが落ち着いた。
そしてどちらからともなく、また歩き出す。
やっぱり、こういった雰囲気の方が好きですね、私は。
かなり雨が弱くなっても、完全に止むまで黙っていました。
少しでも長く、相合傘を続けていたくて。
でも止んでしまったものはもう仕方ありません。
なんだかんだでいい思いをさせてくれた黄色の傘にちょっとだけ感謝の気持ちを込めつつ、
ばさばさと傘をたたみながら、宮永さんに話しかけました。
「あの、ま・・・またできたらいいですね!相合傘」
「あ、うんそうだね!またしよう!」
「はい!・・・あ!宮永さんっ!」
「ふぇっ!?なっなに!?」
宮永さんが慌ててこちらを振り向くのが気配でわかる。
私がいきなり大きな声で呼んだもんですから、驚くのも無理はないですね、ふふ。
・・・ですが。
「ほらっ、見てください!虹ですよ!」
「え、虹!?」
そう。私が指差す空の向こうに、一際大きくてきれいな虹が架かっていたんです。
夕立の後にできやすいみたいですが、ここまで感動するような傑作は初めて見ました。
「・・・きれいだね」
「ええ、ホントに・・・」
またひとつ、いい思い出が増えた。
今日は朝から星座占いなんかに振り回されて大変な1日になると思いましたが、
1位とか2位とか・・・そんな結果に関係なく!とても幸せな1日になったと思います。
「原村さん」
「なんですか?」
「明日も、一緒に学校行こうね?」
「・・・はい!」
そう、彼女のおかげで。
~FIN~
最終更新:2010年06月15日 09:18