正月の間延びした空気がようやく一段落した頃、清澄高校も新年最初の登校日を迎えた。
朝八時。
まだ日の昇りきっていない冬空の下、制服姿の男女が入り乱れのるも久しぶりのこと。
去年の暮以来静まっていた通学路に、冬休みの思い出を語り合う明るい声が響いている。
霜柱を踏みしめながら歩いて行く楽しげな生徒達の一団からほんの少し離れた所で、
桜色の髪をおさげにまとめた女子高生と、明るい栗色の髪をショートカットに切りそろえた女子高生の二人組が
親しげに言葉を交わしていた。
「見たこともない場所にいて、どこに行けばいいのか全然わからなくて……」
「あんまりいい初夢では無かったみたいですね」
繋いだ手を小さく揺らしながら、その二人の少女は歩調を揃えて歩いて行く。
「そんなことないよ」
「?」
「だって、隣に和ちゃんがいたから」
「そうですか」
「うん」
ショートカットの少女がこくりと頷いた時、山の端に引っ掛かっていた太陽が顔を出して、二人の視界が光で満たされた。
桜色の髪の少女が眩しそうに目をつむり、歩みが遅れる。
二人の間に距離が生まれ、冬の風が一陣吹き抜けて行ったところで、ショートカットの少女が振り返った。
彼女は桜色の髪の少女が瞑っていた目を開くのを待ち、やがて
「これからもずっと一緒にいようね、和ちゃん」
笑いかけた。
その顔に浮かんだ友情とは違う温かい感情が、朝の光に透けていく。
それを見た桜色の髪の少女は頬に朱を散らした。
「はい。ずっと一緒に」
冬の染み入るような冷たさの中で手が繋ぎ直される。
再び歩きだした二人の少女はやがて通学路に遠く見えなくなった。
最終更新:2010年04月24日 23:05