4-841氏 無題

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なんでも、元々は花街だったんだとか。

かつて旅籠やお茶屋さんが軒を連ねていたという通りは今もその面影を色濃く残していて、
提灯の吊されたお店はどれも和風の装い。
敷きつめられた石畳とあいまって、まるで江戸時代にタイムスリップしたように思われます。

ここは鴨川沿いの先斗町。
実は今、私達清澄高校の一年生は修学旅行で京都に来ているんです。

新幹線の車両を借り切って長野駅を出たのが今朝のこと。
お昼に京都駅に着いた私達はその足で二条城、清水寺といった定番所を周り、
夕方から班ごとの自由行動となりました。

私の班には優希、須賀君、そして大好きな咲さん……。
彼女と一緒に京都を回れるのが嬉しくて胸が高鳴りっぱなし、
気を抜くと知らず知らずの内に顔が綻んでしまうという状態。
変に思われないよう必死にそれを抑えつつ、
こうして晩御飯を食べにこの先斗町にやって来たというわけなんです。

旅先ということもあるのかでしょうか。
鴨川のせせらぎを聞きながら細い通りを歩いると、手を繋ぎたくなります。
けれど自分から踏み出す勇気はなくて、咲さんへの想いを持て余すばかり。
その時掌が温かい感触に包まれて、見ると他でもないその人が優しく私に微笑み掛けていました。

「寒くない?」
「は、はい。大丈夫です」

心臓の鼓動が急に大きくなったので、繋いで手を通してそれが咲さんに聞こえてしまわないか一瞬に心配に……。

(そんなわけありませんよね)

すぐさま自分自身で打ち消したその時、隣から声が上がりました。

「あ、納涼床だ」
「のうりょうどこ?」
「咲、なんだそれ?」
「京都の夏の風物詩でね、ああやって川沿いに作られた桟敷のこと。
あそこで御飯を食べながら歌舞伎踊や河原芝居を見たりするんだよ。森鴎外の『高瀬舟』にも少しだけ出てくるんだ」
「咲さんは相変わらず文学少女ですね」
「凄いじぇ咲ちゃん」
「麻雀以外にもとりえがあったんだな」
「京ちゃん、それ褒めてないよ」

折角咲さんが教えてくれたのですが、折り悪く季節は冬。
納涼床で御飯を食べることは出来ません。
けれど、暖簾をくぐったお店で幸いにも鴨川のせせらぎが聞こえる窓側の席へと通されました。

和服姿の給仕さんによると、先斗町の定番は湯葉の入った豆乳鍋とのこと。
早速それを注文して、屏風で区切られた畳の上で膝を崩します。
お通しの小皿と飲み物に手をつけて、今日の修学旅行を振り返って、
そうしてとうにゅうなべをまっているうちに、、、、
なんだか、、、とてもねむくなって、、、

「すいませんおきゃくさま。まちがえてしょくぜんしゅをおだししてしまいました」

ということばがきこえたようなきがするんですが、、、よくわかりません、、、

~~~~~~~~~~~~~~~

「……お鍋はどうなったんでしょう……」

前触れ無しに視界がぼんやりと明るくなり、

「あ、起きた、和ちゃん?」

次いで聞こえてきた言葉によって、意識をうつつに引き戻されました。

(えっと、あの、その、これは一体どういうことですか!?)

「給仕さんが間違えてお酒を出したんだよ」
「のどちゃんは酔っ払って寝ちゃったんだじぇ」

声が聞こえて来た方を向くと、須賀君と優希の顔が普段より少しだけ違う位置に見えます。
それもそのはず、私は咲さんの背中に負ぶわれていたんです。

「ほ、本当ですか? それより下ろして下さい」
「あの、和ちゃん。一度に言わないで」
「すいません…」
「うん。本当だよ。それと、心配だからもう少し私がおんぶする。そのまま楽にしてて」
「えっと、それなら男の子の須賀君に…」
「駄目だじぇ! 男は狼! 任せられないじぇ!!」
「わかってるって。ま、あんなことを聞いた後じゃ、おんぶしようっていう気にならないよ」
「それもそうだな。のどちゃんってばおしとやかなふりして案外過激だじぇ」
「あの、なんのことですか?」

揃って含みのある表情を浮かべた優希と須賀君に少し心がざわめきます。
咲さんの方を伺うと、何だか急に無口になってしまっていて………。

(何があったんですか?)
(まさか……)

恥ずかしくなって、私は暫く咲さんのうなじに顔を押し付けました。

「の、和ちゃん…?」

咲さんの困ったような声が聞こえて来ましたが、顔を上げることが出来なくて。
そのまましばらくそうしている内に、ふと咲の肌が熱っぽいように思えたのですが、
私の気のせいだったんでしょうか?

京都の夜は次第に寒さを増していて、
鴨川のせせらぎは相変わらず耳に心地よくて、
私はただただ咲さんの背中に負ぶわれるまま、
自分が何かをしでかしてしまったことを知って落ち着かなくなるのと同時に、
この時間がいつまでも続いてくれればいいと、心のどこかでそんな風にも思いました。

終わり。
最終更新:2010年04月25日 23:51
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