4-906氏 無題

何だか最近和ちゃんの様子がおかしい。
寝不足みたいで、朝一緒に登校する時もあくびばかりしてるし、
休み時間に声を掛けても上の空。
気になることがあるのかな?
話の途中で返事がかえって来ないなんてことも…。
もしかして嫌われちゃったんじゃないかって、凄く心配。

和ちゃんの様子が変わったのは多分PSP
(であってるのかな? ゲーム機とか持ってないから詳しくなくて)
を買ってから。
学校のお昼休みも、部活が始まるまでの空き時間も、ずっとそのPSPとにらめっこ。

「何してるの?」

って聞いても、返ってくるのはいつも

「ま、麻雀ゲームです」

慌てて取り繕うような言葉。
元々ネットの麻雀ゲームが好きだって言ってたから最初は気にならなかったけど、
折角二人で一緒に帰ってる時もずっとそのことばっかり考えてるみたいに思えて

(私と一緒にいても面白くないのかな?)

寂しくなっちゃう。
ゲームに負けちゃったのかな……。

「宮永」さんが「咲さん」に変わって時間が経つというのに、その先に中々進めません。
「咲ちゃん」とか、あるいは
「さっきー」とか、もっと踏み込んで
「咲」なんて、
頭の中では考えがどんどん飛躍していくんですが、それに追いつけない日々が続いていました。

そんな時、パソコンをアップデートしようとして量販店に行った時、偶然見つけたんです。
私にぴったりなPSPのゲームを。
その名も『咲-Saki- Portable』。

(咲さんの名前と一緒!)

そう思ってパッケージを手にとってみたら、

『県大会予選も終了した夏休みのある日……。
咲と二人っきりで勉強会(お泊り)をしたい和とそれを聞きつけなにか企む久部長。
決勝参加の各校のメンバーも巻き込んだ謎の麻雀対決が始まる……。

和は咲と二人っきりの時間を守りきれるのか!?』

というオリジナルストーリーがあることがわかったんです。

(そのオリジナルストーリーを進めていけば、咲さんともっと仲良くなるためのヒントが得られるかもしれない)

そう思った私はお年玉をはたいてそのソフト購入しました。

実際にプレイしてみて驚いたんですが、ゲームの中の咲さんは名前が一緒なだけでなく、
現実の咲さんに声も見た目もそっくりだったんです。
私はその咲さん(?)とのお泊り会のためにすっかりゲームに夢中になり、
連日夜更かしするようになってしまいました。
オリジナルストーリーは章ごとに構成されていて、
上手くステージをクリア出来れば咲さん(?)とのご褒美タイムが貰えるというんですから、尚更熱が入ってしまいます。
ゲームだとはわかっているんですが、咲さん(?)が可愛くて、
気付けば昼休みや部活の前の空き時間にもPSPの電源を入れるようになってしまいました。

ご褒美タイムが貰える度に咲さん(?)の意外な一面が明らかになっていき、
それと同時に親密度もアップ。

(こんな風に現実の咲さんとも仲良くなれればいいんですが)

そう思わずにいられません。

そんなある夜、オリジナルストーリーを一章クリアしたのですが、
ご褒美タイムがなんと一緒にお風呂に入れるという内容!

(ど、どうしましょう)
(取り合えず先にお風呂に入って体を綺麗にしておいた方がいいですよね)

そう思ってお風呂を済ませたのですが、緊張して続きをプレイすることが出来ません。
咲さん(?)と一緒にお風呂に入れると考えただけで頭がぼーっとして、
どうしても先に進むことが出来なくなってしまいました。
結局その夜は一睡も出来ないまま朝を迎え、いつものように現実の咲さんと一緒に登校したんですが……。

「……ちゃん!」
「…ちゃん!!」
(はい、なんですか?)
「和ちゃん、やっと目が覚めた!」

気付くと私は学校の保健室に横になっていました。
何でも校門の前まで来たところで急に倒れたんだとか。

「心配したんだよ。取り合えず保健室に連れてきて先生に診て貰ったら、軽い貧血だろうって言われて。
 少し安心したんだけど、中々目を覚まさないから授業に出る気になれなくて。
 ずっとここに居たんだよ」

咲さんにそう言われてようやく事情がわかりました。
それにしても、ずっとここに居てくれたなんて……。
そんなに私のことを心配してくれたのだと聞いて嬉しくなりました。
咲さんの目は真直ぐ私を見ていたので何だか照れ臭くて、
視線を合わせることが出来ずに布団を被って顔を隠します。

保健室の窓から見える校舎の廊下に人の姿はなくて、授業中だとわかりました。
その向こうの空は青く澄んでいて、白い雲が浮かんでいます。
いつもの教室とは違う静かな部屋で咲さんと二人きり。
そのことにしみじみと感じ入ると、不意に声を掛けられました。

「の、和ちゃんさ、最近寝不足みたいだね。いつも何か考えてるみたいだけど、どうしたの?」

咲さんにじっと見つめられているのがわかって、何をどう言っていいものやら、咄嗟に考え付きませんでした。

「ゲームのこと?」

そう言われてますます言いにくくなって、

「えっと、麻雀をもっと上手くなりたくて」

一先ずお茶を濁したのですが、どうやらあまりいい判断ではなかったようです。

「私と一緒にいても楽しくない?」

寂しそうな言葉が返って来て、思わずドキリとしました。
そう言えば最近咲さんと話をしていないような、
会話の途中でついつい他のことを考えて返事がなおざりになっていたような。
知らない内に咲さんを傷つけていたのだと知って愕然としました。

(ごめんなさい)

と言おうとして口を開いたのですが、口にする前に

「他の人なら気にならないのに、和ちゃんだと何だかとても悲しくて」

咲さんの言葉に遮られます。

「それで考えていたんだけど、私……私ね」
「はい」
「びっくりするかも知れないんだけど、和ちゃんのことが好きみたいなんだ…」

(え! えぇ!? こ、こんな時は)


1 「私も好きです!」
2 「急に言われても困ります」
3 「ごめんなさい。咲さんは友達です。それ以上でもそれ以下でもありません」
4 「ひっかかりませんよ。どこかにカメラがあるんですよね?」
5 「温暖化問題についてどう思いますか?」

この中から最も親密度が上がる言葉を選ばなくては……。
でも何を選んだらいいんでしょう?

……………どうするんですか?
…………どうするんですか、私!!

おしまい。
最終更新:2010年04月25日 23:57
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