5-7氏 無題

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(和視点)

今日程咲さんと違うクラスだったことをもどかしく思ったことはありません。
出来ることなら一日中張り付いてその行動を監視……
ではなくて見ていたい位なのに、彼女がいるのは違う教室。
学校の規則の中では、私の都合を通すことなど到底出来ません。

(はあ、咲さん……)

あなたは今何をしているのですか?
もしかしたら誰かに本命チョコをあげていたりして……。

(そ、そんなオカルトあり得ません!)

頭に浮かんだ考えを必死に否定していると

「どうした原村? 授業中だぞ」

不意に私の名前を呼ぶ声が聞こえてきました。
周りを見ると教室中の視線が私に集まっていて、

「期末が近いんだから、ちゃんと集中するように」

教壇に立つ先生まで呆れたような顔を向けています。
心の内を声に出してしまっていたとわかって途端に恥ずかしくなり、
嗜める先生の言葉に力なく頷いたっきり、私は顔を上げることが出来なくなりました。

(こんな風になってしまうなんて、どうかしている)

注意が散漫になっている自分を責めつつ、授業に集中しようと言い聞かせて黒板に向かったのですが、
チョークで書かれた文字列を追っていても、咲さんの顔がちらつきます。
同じように黒板に向かっているはずの彼女に想いを馳せながら、
私はもう何度目になるかわからない溜息を吐きました。


今日は2月14日。
バレンタインデーです。
言うまでもありませんが、女の子にとっては特別な日。
もっとも、この歳になるまでそんな風に考えたことなんてありませんでした。
麻雀が大好きで、友達と麻雀をするのが楽しくて、男の子を好きになることなんてなかったからです。

(そんな私が誰かを好きになるなんて…)
(しかも相手はボーイッシュではあるけれど、紛れもない女の子…)

あれこれ考えて頭がパニックになるのを必死に堪えながら、チョコを準備したのが昨日のこと。
パソコンで弾き出した黄金率に沿って幾つかのチョコをブレンドし、
溶かして固めた上にカカオパウダーを塗したちょっぴりビターな自信作。

(笑顔で受け取ってくれたら嬉しいです)
(美味しいと言って笑ってくれたらもっと…)
(それで、それで、、、私の気持ちに応えてくれたら……)
(でも、女の子から本命チョコを貰って『うん』と言ってくれるなんて…)
(そんなオカルトありえませんよね…)

思わず溜息を吐いた所で、気付くとみんなの視線が再び私に集中していました。
教壇の前の先生は、先ほどよりももっと渋い顔をしています。

「何度も言わせんなー。授業中だぞー」

どうやら、またいつの間にか思っていることを口に出していたようです。
恥ずかしさのあまり居た堪れなくなって火照った顔を手で覆いましたが、それでも

(咲さん…)

頭の中では想い人の姿がチラついて……

(こんなに好きになってしまうなんて)

思わず嘆きたくなりました。



(咲視点)

一昨日、図書館に行った帰りにスーパーでバレンタインフェアをやっているのを見掛けた。
誰かを好きになったりとか、恋の駆け引きとか、そういうことに今まで気を使ったことなんてなくて、
お父さんにチョコをあげるくらいしかやってこなかったんだけど、
どうしてか「バレンタインフェア」という文字から目が離せなくなってしまった。

(ううん)
(そうじゃない)

理由なら本当はわかってる。
生まれて初めて、お父さん以外にチョコを渡したい相手が出来たから。
その人を思い浮かべて胸がすっきりしないのは、

(原村和ちゃん…)

女の子だから……。

(もし私がチョコを渡して嫌に思われたらどうしよう)
(貰ってもきっと困るよね)
(それで仲がぎくしゃくしたら嫌だな)

頭に浮かぶのはみんなネガティブなものばかりで、私は結局チョコを買わないまま2月14日を迎えた。
それでもやっぱり、和ちゃんが誰にチョコを渡すのか、どうしても気になっちゃう。

(誰にも渡して欲しくないな)

なんて、そんな風に思うのはやっぱり和ちゃんが大好きだから。

(もし誰かに渡してるのを見たら……)

そこまで想像して、溜息が漏れた。

(なんだか今日は憂鬱な日になりそう)

私は教室の窓から外を眺めて、神様に自分勝手な御願いをした。
最終更新:2010年04月26日 20:40
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