5-22氏 無題

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〈和視点〉

長い長い午前中の授業が終わってようやくお昼。
私はいつものように教室を抜け出して麻雀部のみんながいる校庭の一角へ。
一瞬考えてから、お弁当の他に優希と須賀君用のチョコと、咲さんのために作った本命チョコを携帯。
優希と須賀君がいる手前渡せるかどうかはわかりません。
でも、何かのきっかけで咲さんと二人きりになれるかも知れない。
そんな淡い期待に突き動かされてしまいました。

いつもの場所に着くと既に優希がレジャーシートを敷いて待っています。
私は自分が少しだけがっかりしていることに気付いて、申し訳ない気持ちになりました。

(優希は中学校からの大切な親友なのに…)

謝る気持ちを込めてチョコを差し出すと

「おお、のどちゃんありがとうだじぇ」

と無邪気な笑顔が返って来て尚更心が痛みます。
『恋は盲目』だなんて自分には一生無縁の言葉だと思っていました。
でも、咲さんによってその予想を呆気なく覆されてしまったことに気付かされます。
自責の念から結局、次に到着した須賀君にもチョコを渡したのですが、

「おお! マジで? サンキュー!!」

その笑顔を見て、良心が痛みました。
大切な仲間を邪険に思っていた先程の自分が恥ずかしくなって、
渡せて良かったと、私は素直にそう思いました。
もっとも、心のどこかで

(咲さんに本命チョコを渡しづらい展開になってしまった)

と思っているのも紛れもない事実。
『恋は盲目』という言葉はどこまでもついて回るようです。


〈咲視点〉

(なんだか今日は憂鬱な日になりそう)

薄々感じてはいたんだ。
でも、それがこんなに早く現実のものになるなんて、流石に思ってなかった。
麻雀部のみんなと御飯を食べにいつもの場所に向ったら、
京ちゃんが綺麗にラッピングされた包みを持ってて、聞いたら

「あ、これ? 和に貰ったんだよ」

なんて言うんだもん。
優希ちゃんも同じものを貰ってて少しホッとはしたけど、すぐにがっかりすることに。
だって、私の分が無かったから……。

「あれ、咲の分は?」

っていう京ちゃんの言葉を聞いて、少しドキドキした。
義理チョコでも、和ちゃんから貰えるって考えた瞬間、何だか落ち着かなくなっちゃったんだ。
それなのに

「えっと、その、今持ってなくて……」

和ちゃんから返って来たのは私をどん底に突き落とすには十分過ぎる言葉。

仲良くなってるって実感はあったんだ……。
苗字で呼び合うのも不自然な位だったし……。
そう言ったら和ちゃんも頷いてくれた……。
本命は貰えなくても、義理チョコだったらきっと……。

密かに持っていた自信が、和ちゃんの言葉に根こそぎ折られちゃった。

(こんなは憂鬱な日、人生で初めてかも知れない…)


〈和視点〉

不覚でした。

優希にチョコを渡し後で、須賀君にもチョコを渡したら、
流れとしては次に咲さんにも渡さなければ不自然だというのに

(………………!?)

気付くのが遅かったんです。

(わ、渡せません!)

咲さんのだけが他の二つと違う本命チョコだということに…。

「えっと、その、今持ってなくて……」

慌ててごまかした私の判断は、失敗でした。
咲さんは悲しそうな顔で俯いて、けれど誤解を解こうとすれば本命チョコだとバレてしまって、、、
頭が混乱してグルグルと回る中、須賀君が

「しょうがないから半分やるよ」

と慰める声が聞こえました。
それに対して咲さんが

「折角和ちゃんがくれたんだから悪いよ」

健気に言うのを聞いても、私はどうすることも出来ず…。
つくづく自分の考えの至らなさを身につまされました。


(はぁ……不覚でした…)

その思いは時が経つごとに大きくなっていきました。
というのも、麻雀部の時間になっても咲さんががっかりしたままだったからです。

部長が学生議会の後輩から貰ったというチョコを抱えながら部室に入ってきて、
それに染谷先輩からのチョコが加わって、
染谷先輩が更に私、咲さん、優希、須賀君のみんなにチョコを渡したこともあって、
尚更お昼に私が渡さなかったことが強調される始末。
何か言わなくてはと思いながら、みんなが居る手前何も言うことが出来ません。
そればかりか

「今日は咲も和も調子が悪いみたいね。何かあったの?」
「のどちゃんが咲ちゃんにあげるチョコを忘れちゃったんだじぇ」
「あら、そう言えば私も和からチョコ貰ってないわ」
「わしもじゃ」
「えっと……………二人の分はあります」
「じょお!?」
「咲だけ忘れられちゃったの?」
「ほほぉ」

なんていう展開に。
その後の咲さんは手順ミスからの少牌(ショウハイ)で和了放棄をしたかと思えば、
壁山を崩しての罰符という具合に普段からは考えられない失敗ばかり。
かく言う自分の捨て牌にロンしてしまい錯和(チョンボ)という有様。

部活が終わる頃にはもう後悔の念でペシャンコになっていました。


〈咲視点〉

(もう間違いないや)
(こんなは憂鬱な日、人生で初めてだよ…)

部長と染谷先輩にチョコを渡す和ちゃんを見てたら、大袈裟かも知れないけど涙が出そうになっちゃった。

『本命は貰えなくても、義理チョコだったらきっと……』
(なんて、もう口が裂けても言えないよ…)

落ち込んだ気分に引き摺られてその日の出来は散々。
少牌(ショウハイ)をはじめとして手順をミスを連発。
挙句の果てに罰符でみんなに2万4千点払うはめに。
部活が終わった後で部室に残っている気分には到底なれなくて、

「失礼します」

と言い残してすごすごと退散。
旧校舎の道を歩きながら、

(帰り道にあるあのスーパーではまだ『バレンタインフェア』をやってるのかな?)

そんなことを考えていたら、目頭が熱くなっちゃった。

(和ちゃんのためにチョコを準備しなくて良かった)
(もっと惨めな思いをするところだったよ)

瞼を拭って自嘲気味に心の中で呟いた時、

「待って下さい! 咲さん!!」

後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえて来て、振り向いたらそこに和ちゃんがいた。


和ちゃんはパタパタ走った来た勢いのまま私に抱きついて、
それが初めて麻雀を打ったあの雨の日を思い出させて、
私は馬鹿みたいにドキドキしてしまった。

(仲良くなってるって実感はあったんだ……)

それが勘違いだったって思い知ったばかりだっていうのに、
やっぱり和ちゃんに名前を呼ばれると、抱き締められると、
期待しちゃ駄目だってわかっていてもドキドキした。

「ど、どうしたの?」

冷静な風を装ってそう言ったら、和ちゃんは

「嘘をついて御免なさい」

って、息が切れているのに必死にそう答えてくれた。
わけがわからなくて頭の中に『?』が一杯浮かぶと同時に、
真直ぐな視線に見つめられてまた胸が高鳴る。

「チョコが無いなんて、嘘なんです」
「ふぇっ!?」

和ちゃんの息が掛かって、それだけもう苦しい位にドキドキしていたのに

「よければこれを貰って下さい」

差し出された包みがみんなに渡していたのとは違うことに気付いて、

(もしかして…もしかして……!!)

大袈裟じゃなくて死んじゃうかもって思った。
最終更新:2010年04月26日 20:41
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