5-329氏 無題

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〈咲視点〉

「綺麗ですよね」

和ちゃんがそう言って微笑むのが見えた。
今まで見たことがない表情だった。

校庭では野球部の生徒達が練習してるみたいで、ボールを打つ

「キーーン」

っていう音が、開け放った窓の向こうの空に吸い込まれていった。
雲一つないその澄んだ青色の背景に、和ちゃんの桜色の髪がなびいていた。

空も、風も、それに乗って運ばれてくる音も、何もかもが和ちゃんのために存在しているみたい。
何て言ったらいいんだろう……。
とても大人っぽくて、目が離せなくなる。

(綺麗だね、和ちゃん)

私はまるで花に誘われるミツバチや蝶みたいに、和ちゃんの隣に腰を下ろして

「あ、あのね」

って、話しかけた。

「ずっと考えてたんだけど、このマニキュア、きっと私もよりも和ちゃんに似合うと思うんだ。
 だから、和ちゃんが持っててくれないかな? なんて」


昼下がりの学校。
誰もいない教室。

和ちゃんは私が差し出した小瓶を受け取ってくれた。
それから恥ずかしそうに笑って

「でも、マニキュアの塗り方を知らないんです……」

って、小さな声で教えてくれた。
その言葉を聞いた瞬間

(それなら……)

弾かれたみたいに、

(それなら……)

「私が塗ってあげるよ」

思いを言葉にしていた。
それはきっと、近くにいたかったから。
初めて出来た特別な人に、私の印をつけたかったから。

和ちゃんがそれに対して

「じゃあ、御願いします」

って答えてくれたから、私は嬉しくてたまらなくなった。


〈和視点〉

『私が塗ってあげるよ』

その申し出を断る理由なんて、何もありませんでした。
それでも、やっぱり恥ずかしくて自分からは踏み出せずにいると……
咲さんが優しく手を握ってくれました。

その感触にドキリとして、膝から崩れそうになりました。
掌を触れられただけなのに、まるで心まで奪われたみたい。
柔らかくて、温かくて、絡んだ私の指が溶けてしまうんじゃないかと思った程。
抗うことなんて出来るはずもなくて、私は咲さんにいざなわれるまま指を伸ばし、爪を露にしていました。

「私もマニキュアなんて塗ったことないから、上手く出来ないけど」

と言われても、

「か、構いません」

それだけ返すのがやっと。
もう目を合わすことも出来ない私の指を優しく握り締めつつ、咲さんが小瓶のキャップを外しました。
マニキュアのツンとした匂いが広がって、胸が締め付けられて……
思わず息を深くした時、マニキュアを染み込ませたブラシが私の爪を撫でていきました。
その跡にピンク色のキラキラ光る一本の道が出来て、それが二本になり、三本になり……
やがて爪全体がピンク色になった頃にもう、私は咲さんの手で染め上げられていました。

もう隠しようが無い位、大好きで、、、、、、、、
その気持ちが大きく過ぎて、いつまでも踏み出せない子供の自分はすっかり塗りつぶされてしまって、、、、、、、、


「咲さん、――――――――――――」

…………………

「――――――――――――――」



お互いの気持ちを伝え合った二人は、それから暫く記念のマニキュアを落とすこと出来なかったそうな。
麻雀部のみんなにからかわれても、和の指にはピンク色のマニキュアが、咲の指にはブルーのマニキュアが輝いていたんだと。
つっても、ベースコートも塗らずにべた塗りした爪は当然痛んじまってよ。
マニキュアを落とした翌日、ガサついた爪をまたみんなにからかわれたんだとさ。
その後二人はどうなったのかって?
さあねぇ。 そんじゃ ノシ
最終更新:2010年04月26日 20:50
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