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以前からやろうやろうと思っていた同棲18禁連載をこっそり始めようと思います。
5-113の続きです。シリーズ名だとバレンタインシリーズになります。
〈和視点〉
今日は、推薦入試で一緒に受かった大学の入学式。
一緒に住むアパートから並んで登校するなんて、いざその場に立ってみても信じられないくらい嬉しいことです。
玄関を出てすぐに咲さんが手を繋いでくれた時は、大袈裟かも知れませんが、それこそ夢が適ったような気持ちになりました。
そのまま、繋いだ手を離さずにアパートの階段を下りて公道へ。
刹那、朝日に光るアスファルトの中へ咲さん半歩先に踏み出すのを感じたので、私も追い抜かさないようスピードを合わせました。
まるで私を守っているみたいな咲さんの様子に目を細めていると、ふと短い襟足の髪が揺れるのが見えて、
(恋人同士なんですね)
それだけでもう胸が一杯になりました。
けれど、咲さんらしいと言ったらいいんでしょうか。
入学式に出席する新入生と、それを勧誘するべく集まった先輩達でごった返す大学構内に足を踏み入れてからは
「の、和ちゃん待ってよぉ」
迷子癖のある彼女がはぐれてしまわないよう、私が半歩前に出ることに。
すっかり立場が逆転してしまったことが可笑しくもあり、また
「先に行かないで」
なんて、相変わらず頼りない咲さんが可愛くもあり。
(恋人って、凄く楽しいですね)
私は握っていた手を離さないよう、人ごみの中でぎゅっと力をこめ続けました。
型通りの入学式を終え、その足で入部することが決まっている麻雀部の新入生歓迎会に出席した私と咲さん。
会場となっている大学近くの居酒屋で先輩達に自己紹介をしてから、
「かんぱーい」
というお決まりの掛け声に合わせて、生まれて初めてお酒を飲むことに。
未成年ですし、最初は固辞していたんですが、同じ大学に一足早く入学していた竹井先輩とマコ先輩、それから一緒に入学した優希から
「礼儀なんだから、諦めなさい」
「まさかお酒飲んだことないとか?」
「わりゃあ何歳じゃ!」
「お子様だじぇ!」
と冷やかされて、結局口をつけることに……。
飲んだのはサワー1杯だけだったのですが、私も咲さんもいわゆる下戸なようで、こうして歓迎会が終わる頃になってもまだ少し足元がフラフラしています。
とはいえ、飲んだ直後は横になるしかなかったのですから、それに比べたら雲泥の差。
気分の方も大分よくなっていて、店を出た時に一般入試で合格した須賀君が
「送っていかなくても大丈夫だろ?」
と声を掛けてくれたのに対して、しっかり頷くことが出来ました。
それから自分の足で駅まで歩いてみんなと別れ、少しの間電車に揺られてアパートのある駅で下車。
帰宅途中のOLさんやサラリーマンの方に混じって改札を抜け、営業終了を知らせる音楽が流れる商店街を歩き出します。
ようやく二人きりになれたので、私は再び咲さんの手を握ったのですが、その時、彼女の顔がいつもと違うことに気づきました。
「咲さん、まだ気持ち悪いんですか?」
心配になって思わずそう声をかけたところ、返ってきたのは
「そ、そうじゃないの」
という歯切れの悪い言葉。
「じゃあ、どうしたんですか? なんだかいつもと違うように見えるんですが」
何か内に秘めているような気配を感じて重ねて尋ねた私に、向き直った咲さんが真っ赤な顔で言いました。
「あのね、今流れてる曲なんだけど」
「商店街のスピーカーから流れてる曲ですか?」
「うん…この曲ね、オラシオ・サルガンの『A frego lento』という曲なんだ。
昔読んだ本に出てきてCDを借りたことがあるんだけど、邦題はね…」
「邦題は?」
「……『トロ火で』っていうの」
なんとなく、咲さんの恥ずかしがっているわけがわかった気がしました。
「と、突然変なこと言ってごめんね。な、なんか、『トロ火で』っていうタイトルを思い出したら、和ちゃんのことが頭に浮かんで……
それで、あの、その……な、何を言ってるんだろ、私。ごめんね、まだ酔ってるのかな」
彼女の焦っている様子を見て、もっとはっきり……。
「か、帰ろう」
必死に誤魔化すように私の手を握った咲さんは、もう半歩だけ前を歩く余裕なんて無みたいで、ずんずんと先に進んで行きました。
それが自分の言葉を置いてその場から逃げようとしているみたいに見えて複雑なのは、何故でしょう?
何か言おうと思いましたが、でも何と言ったらいいかわかりませんでした。
見上げた空には星が出ていて、時折吹き付ける少し風は冷たくて、そんなどこにでもありそうな春なのに、
なんで私は今こんなに胸を高鳴らせているのでしょう…?
それはきっともう心は決まっているから……
ずっと前から決まっていたから……
だから胸が高鳴っているんだと、不意に自分の胸の内に気づきました。
それで私は、その場から逃げようとする咲さんに抗ってその手を引いたんです。
「あの、さ、咲さん…」
「な、なに?」
「私、その、大丈夫ですから。咲さんにだったら、何をされても大丈夫ですから」
言い終えて少ししてから、まだ商店街のスピーカーから音楽が響いているのがわかりました。
それは、咲さんに言われてからずっと頭の中で鳴り続けている『トロ火で』でした。
私はもう一度手を引いて、咲さんにキスをしました。
間を置かずにキスが返って来た後、私は歩き出した彼女にもう逆らいませんでした。
アパートに辿り着いて、階段を上がって、名札に『宮永・原村』と書かれたドアを開けて、そのまま真直ぐベッドへと向う咲さんに、私も逆らわずについて行きました。
でも、電気を点けず、カーテン越しに入ってくる青い明かりを頼りに向かい合った咲さんの顔はやっぱり緊張しているみたい………。
同じ18歳の女の子なのに、頑張って半歩前を歩こうとする咲さんを勇気付けてあげたくて、私は夜目にも赤く見えるその唇にキスをしました。
本当は自分から何かしてあげたいのに、でもそういう知識のない私はキスから先をどうすればいいのかわかりません………。
申し訳なくて、悔しくて、
(せめて自分から)
そう思って着ていた服のボタンに指をかけました。
ですが……
「和ちゃん……」
小さな声で呟いた彼女に頷いて
「大丈夫ですから」
と告げると、動かしていた手をそっと遮られてしまいました。
「気を遣わせてごめんね。こんなこと初めだから、緊張してて。無理してない?」
整った顔立ちの中に不安な気持ちを覗かせながら、それでも必死に私を気遣ってくれる咲さんに、私は強く首を振って口を開きました。
「ずっと、咲さんとこうなりたいって思ってたんです。だから、無理なんてしてません」
どうしたらこの気持ちはあなたに伝わるんですか?
初めて会った時からずっとあなたのことを想っていた私の中で、どれだけあなたが特別な存在になっているのか、伝えたいです。
切な想いに胸を締め付けられて、私は咲さんにぎゅっとしがみ付きました。
それから彼女の手を取って自分の胸の上に置き、
「無理なんてしてません」
再びそう口にしました。開いた両目に、咲さんが優しい顔を浮かべるのが見えて、
「ドキドキしてるよ、和ちゃん。私と一緒だね」
その手に導かれるまま胸に手を当てると、心臓が高鳴っているのが伝わってきます。
同じ気持ちでいてくれることに胸を締め付けられながら再びボタンに手を掛けると、咲さんも着ていた服を抜き始めました。
やがて一糸纏わぬ姿になってから見詰めた彼女の体は、月明かりに照らされてとても美しく映りました。
「好きです、咲さん。とても、とても……」
「ありがとう、和ちゃん。私も同じ気持ちだよ………綺麗だね…」
私はいつしかベッドに横にされていました。
「この唇も、この頬も………」
言いつつキスをされて、やがて
「この胸も………綺麗」
と、その場所を撫でられた時に、思わず声を漏らしてしまいました。
咲さんはそんな私を見てちょっぴりはにかんで、
「綺麗だよ、和ちゃん」
と耳元で囁き、耳朶を甘く噛みました。
続く
最終更新:2010年06月04日 02:32