カーテンの間から朝日が差し込む。
薄暗い私の部屋を照らしてくれるそれは眩しくて、私は目をそらす。
土曜日の朝はよく晴れていた。
少し散らかった部屋。
昨日、原村さんと一晩中遊んだ。夜遅くまで沢山話した。
麻雀のこと。部活のこと。進路のこと。私のお姉ちゃんのことも話したし、原村さんの家族のことも。そして……私たちのこと。
お互いどんなとこが好きなのか、とか。
私たちのこれから、とか。
最後の方はもう、恥ずかしいくらい…好きだって、何回も言っちゃった。
今思い出すだけでも恥ずかしいよ。
朝日が私を起こして、ふと隣に目をやると…原村さんも目が覚めたみたい。
「…おはようございます…」
「…おはよ…」
私のベッドで、隣同士で寝た。
手は繋いだまま。
目が合うと、少し恥ずかしくて。
「…昨日は楽しかったね…」
「はい…」
「なんか飲む?」
「じゃあ…ミルクを…」
というわけで、牛乳を開けた。
台所からもってきたそれは冷たくて。
純白なそれは、原村さんにぴったりだった。
「いただきます…」
原村さんは美味しそうに飲み干す。
「…もしかして」
「…なんですか?」
「牛乳、飲むと…胸って大きくなるのかな?」
つい思ったことを言ってしまった。
「もう、宮永さんたら…」
恥ずかしそうに、胸を隠す。…可愛い。
私とは比べものにならない、豊かなそれは、私にとって憧れに近かった。だって…私の、小さいんだもん。
「昨日は暑かったよね…」
「本当…熱帯夜でした」
「あ、シャワー浴びる?」
「よかったら…お願いします」
「うん、いいよ…その間に私、朝ご飯作ってるよ」
「え…そんな、私も手伝いますよ」
「いいよ~。入ってきなよ、原村さん」
「…一緒に…朝ご飯、作りたいんです…」
頬を赤らめ、はにかんで俯く。
もう、可愛いすぎ!
「じゃ…一緒に作ろっか」
「はい…」
「でも…シャワー、浴びたくない?」
「…確かにそうですね…」
「あ…。ねえ、原村さん……今度は私から我が儘言っても、いい…?」
私の我が儘。それは…。
口にしたくないくらい、恥ずかしいことだったから。
「………」
なかなか、言い出せない。
だって…原村さんに、変な子だなんて思われたくないよ。
「…わかっちゃいました、宮永さんが言いたいこと」
「え…本当?」
どきどき、した。
「…一緒に、お風呂、入ろうってことですね」
当たっちゃった。…何でわかっちゃったんだろう。
言葉に出さなくてもわかりあえてしまったことが、嬉しいのだけれど、今は少し…いや、無性に恥ずかしい。
「…うん。いい?」
「勿論です♪」
「…ごめんね?私、変なこと考えちゃって…」
「…何言ってるんですか。宮永さんは私に、何でも言って下さい。…恋人なんですから」
…恋人。
そっか…私たち、恋人なんだもんね。
「…ありがとう」
「…いえ…」
優しい原村さんに、感謝の気持ちを伝えた。
「あはは…朝から何やってるんだろ、私たち…」
「…私は幸せですけどね」
「私もだよ…原村さん♪」
休日の午前中から、一緒にお風呂に入る私たち。…なんというか、この何とも言えない、甘ったるい空気が私は好きだった。
「お父さんはいらっしゃるんですか?」
「ううん、仕事。…もしかして、……する?」
「あの……も…もし、宮永さんがよかったら…少しだけ…あの…」
もじもじして言う原村さん。今日恥じらうのは何回目なんだろう?……可愛いから何回でも見たかったり。
「…いいよ。でも…朝だし、控えめでお願い…」
というわけで、お風呂で流しっこと、それに加えて…恋人同士がする何かをするためバスルームへ向かった。
「もぅ、原村さん…控えめって約束だったのに…」
「あぅ…ごめんなさい…」
お風呂から上がって、今は一緒に台所に立つ私たち。
私は目玉焼き、原村さんはサラダ用のキャベツをきざむ係。
「…でも…よかったよ、原村さん」
「……ありがとう…ございます」
自分がしたことを思い出したのか、これ以上無いくらい恥ずかしげに。
…って危ないよ、ちゃんと丁寧に切らなきゃ…。
照れ隠しの為か、原村さんは雑にきざむ。
「、痛っ!」
「大丈夫!?」
気付いたときに注意してあげてればよかったのに…。原村さんは包丁で、彼女の指を傷めてしまった。
幸いかすり傷だった。…よかった。
…舐めたら、治るかな?
ふと思い付いたから。
「…えいっ」
「!?み、みみみ宮永さん…!」
ちうちう、と音がする。…今、一体自分が何をしているのか、深いことは考えないようにしよ…。
「…あ…いや、あぅ…ん…み、やなが…さぁ、ん……」
「………痛い…?」
「………痛く…なぃ…です…」
「……もしかして…気持ちいい?」
「…っ………」
こくり、と頷く原村さん。
もしかして、今…とんでもないことをしているのかな、私。風紀紊乱とか、そんなレベルじゃないことを…。
原村さんの血の味は…甘かった。
「…あの、宮永さん…もぅ…」
「あ…ごめん」
思わずしてしまったことを…恥じた。
今になって、自分がしたことを意識して…。罪悪感が襲う。
「…ごめん…原村さん…」
「…ちょっとびっくりしちゃいました」
「…私…暴走しちゃって…」
原村さん…ごめん。でも、そういう乱れたことも、あなたとしたいっていうのは本当なんだよ。
原村さんといろんなことがしてみたい。
原村さんにもっと触れてみたい。
原村さんは、私にとって…憧れだった。
日常生活の中でも、原村さんと一緒だと些細なことが煌めく気がした。
沢山遊んでみたいし、色々な場所にも行ってみたいんだ。
原村さんと色々なものを眺めたい。
原村さんと沢山のものを感じたい。
お互いに、どちらがいいな、なんて思えたこと、そういったものを共有してみたいんだよ。
そんな、気持ちなんだ。その気持ちはみんな、本当なんだよ。
朝食、といっても二切れのパンと、私の作った不格好な目玉焼き。それと、原村さんに怪我をさせたにっくき、でも彼女の愛情がこもったみずみずしいサラダ。
「何飲む?」
「じゃあ…紅茶で」
「…私は牛乳にしてみようかな」
ちょっとは原村さんに近づけるかも?なんてね。原村さんの指には、一つだけ絆創膏。
好きでたまらない、直ぐ私の隣にいる、でもちょっとだけ遠いあなたのそばで、私は少しだけ牛乳を飲んだ。
最終更新:2010年04月22日 12:39