1-170 「無題」



カーテンの間から朝日が差し込む。
薄暗い私の部屋を照らしてくれるそれは眩しくて、私は目をそらす。

土曜日の朝はよく晴れていた。

少し散らかった部屋。
昨日、原村さんと一晩中遊んだ。夜遅くまで沢山話した。

麻雀のこと。部活のこと。進路のこと。私のお姉ちゃんのことも話したし、原村さんの家族のことも。そして……私たちのこと。
お互いどんなとこが好きなのか、とか。
私たちのこれから、とか。
最後の方はもう、恥ずかしいくらい…好きだって、何回も言っちゃった。

今思い出すだけでも恥ずかしいよ。

朝日が私を起こして、ふと隣に目をやると…原村さんも目が覚めたみたい。

「…おはようございます…」

「…おはよ…」

私のベッドで、隣同士で寝た。
手は繋いだまま。

目が合うと、少し恥ずかしくて。

「…昨日は楽しかったね…」

「はい…」

「なんか飲む?」

「じゃあ…ミルクを…」

というわけで、牛乳を開けた。
台所からもってきたそれは冷たくて。
純白なそれは、原村さんにぴったりだった。

「いただきます…」

原村さんは美味しそうに飲み干す。

「…もしかして」

「…なんですか?」

「牛乳、飲むと…胸って大きくなるのかな?」

つい思ったことを言ってしまった。

「もう、宮永さんたら…」

恥ずかしそうに、胸を隠す。…可愛い。
私とは比べものにならない、豊かなそれは、私にとって憧れに近かった。だって…私の、小さいんだもん。

「昨日は暑かったよね…」

「本当…熱帯夜でした」

「あ、シャワー浴びる?」

「よかったら…お願いします」

「うん、いいよ…その間に私、朝ご飯作ってるよ」

「え…そんな、私も手伝いますよ」

「いいよ~。入ってきなよ、原村さん」

「…一緒に…朝ご飯、作りたいんです…」

頬を赤らめ、はにかんで俯く。
もう、可愛いすぎ!

「じゃ…一緒に作ろっか」

「はい…」

「でも…シャワー、浴びたくない?」

「…確かにそうですね…」

「あ…。ねえ、原村さん……今度は私から我が儘言っても、いい…?」

私の我が儘。それは…。
口にしたくないくらい、恥ずかしいことだったから。

「………」

なかなか、言い出せない。
だって…原村さんに、変な子だなんて思われたくないよ。

「…わかっちゃいました、宮永さんが言いたいこと」

「え…本当?」

どきどき、した。

「…一緒に、お風呂、入ろうってことですね」

当たっちゃった。…何でわかっちゃったんだろう。
言葉に出さなくてもわかりあえてしまったことが、嬉しいのだけれど、今は少し…いや、無性に恥ずかしい。

「…うん。いい?」

「勿論です♪」

「…ごめんね?私、変なこと考えちゃって…」

「…何言ってるんですか。宮永さんは私に、何でも言って下さい。…恋人なんですから」

…恋人。
そっか…私たち、恋人なんだもんね。

「…ありがとう」

「…いえ…」

優しい原村さんに、感謝の気持ちを伝えた。


「あはは…朝から何やってるんだろ、私たち…」

「…私は幸せですけどね」

「私もだよ…原村さん♪」

休日の午前中から、一緒にお風呂に入る私たち。…なんというか、この何とも言えない、甘ったるい空気が私は好きだった。

「お父さんはいらっしゃるんですか?」

「ううん、仕事。…もしかして、……する?」

「あの……も…もし、宮永さんがよかったら…少しだけ…あの…」

もじもじして言う原村さん。今日恥じらうのは何回目なんだろう?……可愛いから何回でも見たかったり。

「…いいよ。でも…朝だし、控えめでお願い…」

というわけで、お風呂で流しっこと、それに加えて…恋人同士がする何かをするためバスルームへ向かった。


「もぅ、原村さん…控えめって約束だったのに…」

「あぅ…ごめんなさい…」

お風呂から上がって、今は一緒に台所に立つ私たち。
私は目玉焼き、原村さんはサラダ用のキャベツをきざむ係。

「…でも…よかったよ、原村さん」

「……ありがとう…ございます」

自分がしたことを思い出したのか、これ以上無いくらい恥ずかしげに。

…って危ないよ、ちゃんと丁寧に切らなきゃ…。
照れ隠しの為か、原村さんは雑にきざむ。

「、痛っ!」

「大丈夫!?」

気付いたときに注意してあげてればよかったのに…。原村さんは包丁で、彼女の指を傷めてしまった。

幸いかすり傷だった。…よかった。
…舐めたら、治るかな?

ふと思い付いたから。

「…えいっ」

「!?み、みみみ宮永さん…!」

ちうちう、と音がする。…今、一体自分が何をしているのか、深いことは考えないようにしよ…。

「…あ…いや、あぅ…ん…み、やなが…さぁ、ん……」

「………痛い…?」

「………痛く…なぃ…です…」

「……もしかして…気持ちいい?」

「…っ………」

こくり、と頷く原村さん。
もしかして、今…とんでもないことをしているのかな、私。風紀紊乱とか、そんなレベルじゃないことを…。

原村さんの血の味は…甘かった。

「…あの、宮永さん…もぅ…」

「あ…ごめん」

思わずしてしまったことを…恥じた。

今になって、自分がしたことを意識して…。罪悪感が襲う。

「…ごめん…原村さん…」

「…ちょっとびっくりしちゃいました」

「…私…暴走しちゃって…」

原村さん…ごめん。でも、そういう乱れたことも、あなたとしたいっていうのは本当なんだよ。

原村さんといろんなことがしてみたい。

原村さんにもっと触れてみたい。

原村さんは、私にとって…憧れだった。
日常生活の中でも、原村さんと一緒だと些細なことが煌めく気がした。
沢山遊んでみたいし、色々な場所にも行ってみたいんだ。

原村さんと色々なものを眺めたい。
原村さんと沢山のものを感じたい。

お互いに、どちらがいいな、なんて思えたこと、そういったものを共有してみたいんだよ。

そんな、気持ちなんだ。その気持ちはみんな、本当なんだよ。


朝食、といっても二切れのパンと、私の作った不格好な目玉焼き。それと、原村さんに怪我をさせたにっくき、でも彼女の愛情がこもったみずみずしいサラダ。

「何飲む?」

「じゃあ…紅茶で」

「…私は牛乳にしてみようかな」

ちょっとは原村さんに近づけるかも?なんてね。原村さんの指には、一つだけ絆創膏。

好きでたまらない、直ぐ私の隣にいる、でもちょっとだけ遠いあなたのそばで、私は少しだけ牛乳を飲んだ。



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最終更新:2010年04月22日 12:39
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