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「あっ・・・どうしたの原村さん!その薬指・・・」
「あぁ、これですか?夕べ、ノート整理しているときに紙で切ってしまったんです」
「あちゃー痛そう・・・大丈夫?」
「えぇ、このくらいの傷何ともありませんよ。部活にも大して影響ありませんし」
「そっか、よかった!」
こんな小さなことでも気にかけてくれることに大きな喜びを感じながら、
今説明した通りの傷――左手の薬指――に巻いてあるバンソーコーを見る。
ちょっと曲げづらくなっただけでも、意外と不便に感じるものなんだと改めて思った。
利き手だから、なおさらそう感じるのかもしれない。
「ねね、原村さん。実は私もなんだ!ホラッ」
「え?・・・って、宮永さんこそどうしたんですかっ?」
「私は朝ごはんの支度中に、ついうっかり・・・あはは」
「あはは、じゃありませんよ・・・。だ、大丈夫なんですか?」
「うん、ちょっとヒリヒリするくらいだから!」
そう言って笑う彼女。
その左手にはバンソーコー・・・――なんと、私と同じ薬指に。
「なんだか不思議だね。私たち、おんなじところをケガしちゃったんだ」
「おかしな偶然もあったものですね」
と、2人でクスクスと笑っているところへ、
「やっほーのどちゃん!咲ちゃん!調子はどうだい!?」
飛び込んできたタコス好きの我が友人、優希。
あいさつもそこそこに話を盛り広げていると、ふと優希が私たちのケガに気付いた。
「ところでどうしたんだー2人とも?その指!」
「あ・・・えへへ、これね。私はお料理中に切っちゃって、原村さんはノート整理してるときに切っちゃったんだって」
「そうなのか・・・もう平気か?」
「ええ、ご心配なく!」
「そかそか!・・・。ん~、にしても・・・・・」
「? どうしたの?」
「・・・優希?」
突然、何かしらよからぬことを思いついたようなニヤケ顔で
私と宮永さんの左手を交互に眺め始めた優希。
少し居心地が悪く感じたので、隠すようにその左手を右手で覆おうとしたら・・・
「左手!薬指!おそろい!うむ、まるで結婚指輪みたいだじぇ♪」
――― け っ こ ん ゆ び わ ?
ポカーン。数瞬の沈黙。
「けっ・・・・・!」
その意味をようやく理解できた途端、カーッと急激に体温が上がっていくのが感じ取れた。
見えはしないが顔だってきっと真っ赤だろう。
胸のドキドキが増していく。左手に熱がこもる。
「んなっ・・・!!
な!な、何を言い出すんですかゆーきっ!!」
「ナハハ!本当のことを言ったまでだじぇ??」
「も、もぉ!貴女という人は・・・っ!!」
「きゃー!のどちゃんが怒った~!」
「こら、待ちなさいゆーき~!
み、宮永さんも何か言ってくださいよ!」
――まるで結婚指輪。結婚指輪・・・結婚・・・・・!
どうしても頭の中で反芻してしまうこの言葉が、よりいっそう私を動揺させた。
いや、果たしているのだろうか?
好きな人と結婚指輪をしてるようだとからかわれ、一切慌てないでいられる人なんて。
だって結婚ってことはアレですよ?
お互いがお互いを愛し合ってて・・・ふ、夫婦円満で・・・ってあぁもう!!
自分で更に顔を赤くさせるようなこと考えてどうするんですか!
「・・・み、宮永さん??」
未だに笑っている優希をやっと捕まえて、はたと気付く。
・・・・・宮永さん、さっきから何もしゃべってない・・・。
・・・嫌な予感がよぎった。
(もしかして・・・イヤだったんじゃ・・・・・)
私と、結婚指輪(※もどき)をしているのが。
恐る恐る、彼女の元へ歩み寄る。
さっきまであんなに赤かった顔も今や真っ青と言ったところで、体も冷め切っている。
胸のドキドキも、さっきとは全然違うものになっていた。
俯き気味で左手を見つめ続けている彼女は、今何を考えているんだろう?
「あ・・・あの、今のは優希が言ったただの冗談で・・・で、でももしイヤなら私剥がしますから!」
「え!?剥がしちゃうの!?」
「えっ?」
思っていたのとは違う答えが返ってきたせいで、ついまぬけな声が出てしまった。
驚いて顔をあげた彼女。
今の今まで前髪で隠されていてわからなかったその表情は、なぜだかとても不安そうに見えた。
「まだ貼ってたほうがいいよ・・・っ。バイ菌入ったら危ないし、ね?」
「は、はい・・・?(宮永さんがいいなら全く問題ないですけど・・・)」
「よかったぁ。原村さん、いきなり剥がすなんて言い出すからビックリしたよ」
「ご、ごめんなさい」
「ん!いいよ、気にしないで。・・・あ、やっぱりダメ!」
「えぇっ!?」
これはまた予想外の返答。
あたふたとしている私に、クスクスと笑いながら彼女はこう言った。
「罰として、治ってもしばらく貼ったままにしておくことっ!
・・・なんちゃって♪」
――あ、もちろんイヤだったらすぐ剥がしちゃっても・・・!え、いいの?ホントに?
と慌てながらに続けたのは、すっかり固まってしまった私を見てのことだと思う。
でも、私はそれにはっきりと言葉で答える余裕なんてなかった。
ふつふつと湧き上がってくるこの感情をいったいなんと表現したらいいだろう!
まるで沸騰したかのように、このままでは湯気が出るんじゃないかと思うくらいに、
再び真っ赤になってしまった私は、無言で何度も頷いた。
頷くしか、なかった。
―
――
「はー、今日も平和だじぇ~・・・」
同時刻。
もぐもぐとタコスを食べながら、今の私たちの耳には届かない位の声で、優希がつぶやいた。
そして、ふと思い出す。
――バンソーコーの“バン”って、確か「キズナ」とも読むんじゃなかったっけ?
と。
~FIN~
最終更新:2010年07月13日 15:06