6-190氏 無題

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趣味は読書。
お気に入りの読書ポイントは河川敷。
その上に腰を下ろして、開放的な気分で本を読むのが好き。
外で時間を過ごすことも多いから、インドア派というわけではないと自分では思う。
でも、運動はちょっと苦手。
体を動かすこと自体は嫌いじゃないけれど、徒競走とか球技とか、人と競い合う競技が駄目というか……。
運動神経がいい方じゃないから、いつも負けてばかり。
あんまりいい思い出もないし、それでイマイチ好きになれないのかも。

えーと……
なんでこんな話をしているかというと、実は今、ホームルームの時間を使って、
体育祭の出場種目を決めている真っ最中なんです。
体育祭といえば、学校の年中行事の中でも最も盛り上がる行事の一つ。
どのクラスも目指すは優勝!
というわけで、花形である100mリレーのメンバー決めも真剣そのもの。
当然、私なんかにお鉢が回ってくるはずもなく、立候補者のいない(人気の無い)借り物競争のメンバーに回された後は、
早々にメンバー決めの輪から外れてしまい……。
それで、ちょっとしょんぼりした気分で

(運動神経が良かったらなぁ…)

溜息をついていた今しがた。

ふと窓の外を見れば、雲ひとつ無い青空。
体育祭の当日もこんな風に天気がいいんだろうな、と思うと複雑な気分。
ついつい

(原村さんと同じクラスだったら良かったのに…)
(そうすれば、少しは楽しめるのにな…)

なんて、逃げ道(?)を求めちゃってる。

もし原村さんが同じクラスだったら、きっと体育祭も楽しいはずだって思うのは、
原村さんと一緒にいる時間が好きだから。
………そういえば、麻雀部に入って以来、なにかにつけて

(原村さんがいたらなぁ…)

そんな風に思うようになったかも。
って、いつの間にか話がずれてる。
体育祭の話をしてたのに、どうして原村さんの話になってるんだろう?

(運動神経が良かったらな~、って思って…)
(運動神経が良かったら体育祭も楽しいのに、って思って…)
(別に運動神経が良くなくても、原村さんが同じクラスだったら楽しいのに、って思って…)
(……うーん……なんで原村さんなんだろう?)
(そこが一番大事なところなのに、いくら考えても答えが出ない……)

首を捻っていたら、いつの間にか席の前に来ていた京ちゃんの声がして、

「メンバー決め終わったぞ」
「ふぇっ!?」

びっくり。
私はまだ答え探しの途中だったけれど、

「部活行くぞー」

京ちゃんがさっさと歩き出してしまったので、答えが出ないまま宙ぶらりんに……。

でも、その答えはすぐに見つかることになった。



迎えた体育祭。
借り物競争のスタートを切って、伏せられたカードをめくった私に出された借り物のお題は

『大切なもの』

降り注ぐ日差し、応援の声、額を伝う汗の感触、
そして、思ってもみなかったお題に真っ白になる私………

(大切なもの……)
(た、い、せ、つ、な、も、の……)

ゆっくり頭の中で繰り返しても、何も変わらない。
相変わらず私の頭は真っ白で、

(大切なもの…)

肝心の答えに辿り着けず……

「頑張れー」
「宮永選手、立ち止まってしまいました」

応援の声と、放送部の実況が耳に響いた瞬間、汗が吹き出るのを感じた。

(このままじゃ駄目だよ…)
(なんとかしなきゃ)

頭の中でぐるぐる言葉が回るだけの現状に、なんとか出口を見つけたくて、辺りを見回して……。
そしたら、人垣の中でこっちを原村さんと偶然目が合った。
その瞬間

(見つけた!)

って……。
降り注ぐ日差しと緊張感で私は汗まみれで、ムードのかけらもなかったけれど、
でも、大切なものが見つかったことだけははっきりとわかった。
どうしてあのメンバー決めの時に原村さんのことが思い浮かんだのかにも、合点がいった。

(そっか、原村さんが大切な人だったからなんだ)

頭が急にはっきりとし始めた。
そしたらすぐに、みんなが見ている前で原村さんの手を引いていくのなんて出来っこないって、
そのことに思い至った。

降り注ぐ日差し、応援の声、額を伝う汗の感触、
そして、大事なことに気づいて諦める私……。

結局、原村さんを借り物として持っていくことが出来なかった私は、図書館の本を借り物にして、
一番最後にゴールに辿り着いた。
疲れのせいだけではない荒い息を吐きながら、なんとなく原村さんの方を向くことが出来なかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~


体育祭が終わった後は、片付けのために部活は休み。
帰る以外することもなく、借り物競争のこともあって、ぼーっとしながら家路を歩いていたら、

「宮永さん」

って、名前を呼ばれた。
振り向いたら原村さんが居て、急にドキドキし始めた。
そんな私の胸のうちなんてまるで知らない原村さんが、隣を歩き始めて……

(ど、どうしよう……)

さっきのことを思い出した私は、目を合わせることが出来なくなった。


陽は傾いて、陰が長い。
赤く染まった校庭にはまだパネルが立ったままで、体育祭の名残が感じられる。
まるで波が引いた後の砂浜に、水滴が残っているように……。
私の胸にも、さっきの想いが疼いている。
疼いているけど、口には出来ない。
黙って歩くことしか出来なくて、そしたら

「宮永さんって、やっぱり文学少女なんですね」

原村さんの声がした。

「どうして?」

前を向いたまま尋ねた私に

「だって、借り物競争で図書館の本を借りていたらから」

原村さんが答える。

「『大切なもの』に本を選ぶなんて、やっぱり本が好きなんだなって」

体育祭の名残が、胸の内で疼く。
もしこの気持ちを伝えたら、原村さんはどんな顔をするんだろう。

「大切だけど、一番大切なものは他にあるんだよ」

気になる、確かめたい、もうどうにでもなればいいや……
彼女の手を取って、校庭へと足を向ける。
私は、借り物競争のコースをもう一度歩き始める。

ふと見上げた空に、気の早い一番星。
一番星は金星で、他の星とは違って太陽の光を反射して輝いているんだって、聞いたことがある。
太陽の光を反射しているから、角度の都合ですぐに見えなくなってしまうんだって……。

体育祭の名残みたいな私の気持ちも、すぐに消えてしまう…
今日を逃したら、きっともう口に出来ない……そんな気がした。

原村さんの手を引きながら校庭を歩き、やがてゴールに辿り着く。

「これでようやく借り物競争が終わった」

私の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げる彼女に、

「一番大切なのは、原村さんだから……」

意を決してそう言った。

降り注ぐ日差しも、応援の声も、額を伝う汗の感触ももうない。
でも、あの時よりももっとドキドキしている。
気になって、確かめたくて、もうどうにでもなればいいやって思ってこうしたんだけれど、
本当はどうにでもなって欲しくなんかなかった。
私は今、希望に縋ろうという思いで一杯。
原村さんに応えて欲しいって、それしか考えられない。
固唾を飲んで見守っていたら

「返して下さい」

って、声がした。

「借り物競争で、私を借りていたんですよね? だったら返して下さい」

きょとんとしている私に言い聞かせるように、原村さんがゆっくりと言って、

「返します」

わけもわからず慌ててそれに答えたら

「これでようやく自分の気持ちが伝えられます」

って………
キスされた。

「宮永さんに借りられている間は宮永さんのものなので、自分の気持ちを表すことが出来ませんでしたが、
 今はちゃんと自分の気持ちを伝えることが出来ます。私にとってもあなたは一番大切な人です」

校庭の真ん中で、私と原村さんはしばらくそのままでいた。
最終更新:2010年08月14日 16:57
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