It's Lucky Day!




「に、2位…!」


朝のニュース番組の終盤にあるおまけの占いコーナー。
ちょっと気になって見てみたら、私の星座が今日12星座中2位だった。
ちなみにこのコーナーは、11位から2位、そして最後に1位と12位を順番に発表していくランキング式。

占いは確かに根拠のないものだけど、信じることに意味があるんじゃないかと思う。たぶん。
あんまり悪い結果は信じたくないけどね。


『…興味のあることはとことん追求してみましょう♪
今なら大きく花を咲かせることができるかもしれません!

ラッキーカラーはレッド、
ラッキーアイテムはハンカチーフです! では続いて第1位♪…』


「赤…ハンカチ!」


でもやっぱり、占いってなんだかワクワクしてくる!
12星座もある内で2番目なんて、うん!きっと今日はいいことがあるんだ!

私はスカートの中に入れていた水色の布地に猫の刺繍が入ったハンカチを取り出し、
新たに赤メインのチェック模様のハンカチを入れた。

「これでよしっ、と。」

ん~、今日は気分がいいからもう出発しちゃおうかな?
たまには“調度いい”時間にいるのもいいよねっ。


(いいことありますように)、そう願いながら玄関の扉を開けた。


今日も、いい天気だなあ。




――



「…あれ?」

なんとなく、ここで落ち合って一緒に登校するのが
お互いの暗黙の了解(言い方硬いけど)になりつつあると思っていたこの場所。
私は毎朝の楽しみにしていた。んだけど。

「ちょっと早く来すぎちゃったかな」

その楽しみの中心の人がまだいない。
時間を確認しようにも、ケータイもないし、時計もない私には無理なことで。
だけど、当たり前のように待つことにした。

いつもは私が追いつく方だけど、今日は私が先だ!
原村さん、びっくりするかな?

楽しみがまたひとつ増えた、とある朝のこと。



『私たちの日常~It's Lucky Day!~』



……たぶん、もう5分は経ったと思うんだけど…。

いつもならもう来ていてもおかしくないのに、なぜだか姿が見えない。
ど、どうしたんだろう?
まさか、何かあったとか…!

いったん嫌なことを思い浮かべると、それが連鎖してしまうのは私だけじゃないはず。

(ここに来る途中で事故にあったり…
 何か事件に巻き込まれてたりしたらどうしよう!?)

そうだよ、原村さんすっごくかわいいしキレイだから
それこそ変な人に誘拐とか…!!
た、大変だあ!今すぐおまわりさんに……!


「み…っ、みや、宮永さーん…!!」

「あわわわ……ふぇっ?は、原村さん!?」


そんなパニック寸前の私の思考回路を、ピタリと止めた念願の彼女の声。
バッと振り向いてみると、小走りで近付いてくるのがわかる。

「よかったあ…」

とつぶやいたのと同時に、あるところに目線が釘付けになってしまった。

あぅ…ゆ、揺れてる…!
前から思ってたけど痛くないの!?あれ!


「はあ、はあっ…ごめんなさい、待たせてしまって!
 あ、あの、支度に戸惑ってしまったもので…」

「お、おはよう! ううん、大丈夫!気にしてないよ!(み、見ちゃダメだよね…)」

「お、おはようございます…本当ですか?ありがとうございます…!
 …あれ?宮永さん、なんだか顔が赤いような…?」

「ぅええっ!?あ、な、なんでもないから!全然!気にしないで!」

「??」

「ほ、ほらっ。もう行こう?遅刻しちゃうかも!」

「あ、そ、そうですね!すみません私が遅れたばっかりに…」

「だ、だから気にしてないってば!」


このままだと一向に謝られてしまうような気がしたから、
私は原村さんの手を引いて早歩きで学校へと歩を進めた。

「っ!」

途端に言葉を詰まらせ目を泳がせる原村さんを横目で見て、
(ご、ごまかせたよね…?)と
今さっきのことをちょっと心配したのはナイショのお話。



*



「ところで原村さん、さっきから気になってたんだけど…」

「…はい、なんですか?」

「今日、雨降るの?」


そう、彼女は黄色の水玉模様の傘を持っていた。
だけど今はとってもいい天気。とてもじゃないけど雨が降りそうには見えない。


「…夕立があるって聞いたんです」

「え、ホントに?あちゃー、私折りたたみ傘も持ってきてないよ」

「あ、でも!たぶん降らないでしょうから…心配しなくていいと思います」

「でも天気予報でそう言ってたんでしょ?」

「う…あの、その、あまり当たらない予報士のものなので…」

「そうなの?」

「ええ…」


…?
原村さん、いつもそんな天気予報を見てるのかな?



――


いつもよりちょっと遅いくらいの時間に着いた。
名残惜しいけど、もうそろそろチャイムも鳴るし、教室に入らなきゃ。


「じゃ、原村さん!また部活でね♪」

「あ、はい!…じゃなくて み、宮永さん!」

「ん?」

「よかったらお昼…一緒に食べませんかっ?」

「!」

めずらしい…原村さんから誘ってくれるなんて!
いつもは何かと私からばっかりだったのに。えへへ、うれしいな。

「うん!もちろんいいよ!
 今日は私もお弁当作ってきたから、おかずの交換っこしよ!」

「はっ、はい!楽しみにしてます!」

「私も♪じゃあまたお昼にね~」


手を振りながらしばしの別れ。
だけど心はあったかあったか。
今思い返せば、さっき会った時「待たせてしまって」、とか言ってた。
ってことは原村さんも私と登校してくれる気だったって思っても…いいんだよね?

わあ!早速朝からいいことばっかりだ!
さっすが2位!
明日からあの占い、ごヒイキにさせてもらおうかな?


(早くお昼になっちゃえばいいのに)



*



待ちに待ったお昼の時間。
前に麻雀部のみんなで食べたとことおんなじ場所で食べた。
でも、今日は2人っきり。

ホント、最初の頃はこんなに仲良くなれるだなんて思ってなかった。
とってもいい友達――原村さんのおかげで、毎日がすっごく楽しいものになってる!
……ん?“友達”?

一瞬だけ、なぜか違和感を感じた。
あれ、なんでだろ。


約束してたおかずの交換を交わした後(ちなみにお互い卵焼き。もちろんおいしかったし喜んでもらえたよ♪)、
色んなことを話ながらお昼休みを過ごした。

たわいもない世間話から、
クラスのLHRでやったスイカ割りのこととか
数学が難しくて大変だとか、とにかく色々。

あ、そうそう!
朝見た占いで2位だったことも話したんだ。
でもそしたら原村さん、急に驚いてそわそわしだしてね?

「そ、それはよかったですね!なにかいいことありましたか?」
って聞いてきたから、
「うん!ちゃんとラッキーカラーとラッキーアイテムもそろえてあるんだよ!ホラッ」
って赤と白のチェックのハンカチを見せたらなぜだかますます慌てちゃって。

「さ、さっさすがですね、宮永さん!きっと今日1日いい日になると思いますよ!」

だなんて、占いなんてちょっと悪く言っちゃえばオカルトじみてるものなのに
それを思いっきり肯定するようなことを言ってた。

いつもの原村さんらしくないから、ここは占いの通り追求…いや、追及してみようと
私のイタズラ心が芽を出したその時、鳴り響くは鐘の音。
予鈴だ。


「えっ!もうそんな時間!?」

学校の大きな時計を見てみると、時刻は既に5時間目の授業の5分前。
ついさっき原村さんと話し出したような気がするのに、本当にもう、こんな時間?
楽しい時間が過ぎるのは早い。
感覚だけでもいいから、数学の授業と入れ替われと思った。

なんてね。



*



「ふう、疲れた!」

「お疲れ様です、宮永さん」

「うん!原村さんもお疲れ!」


部活。楽しい時間はあっという間に終わる第2弾。
あっという間に終わるのはイヤだけど、
楽しい時間ならあと第何弾でもやってきてほしいと思う今日この頃。
背伸びするのとついでにベランダの外を眺めてみると、澄みやかな夕空が広がっていた。

きれい。


雀卓やお茶の後片付けをしたら解散。
ゆーきちゃんと部長と染谷先輩と京ちゃんにあいさつを済ませ、
原村さんに「一緒に帰ろ?」と声をかけ、部室から出た。
これも毎日の楽しみの1つだったりする。

昇降口へと到着したその時に、ふとお昼休みに聞き損ねたあのことを思い出した。
早速聞いてみようと口を開きかけたけど、

「うわっ!雨降ってきたんだけど!」

という他の清澄生の声に遮られてしまった。
また聞きそびれた…。
で、でも今はそんなことより!

「「雨!?」」

私と原村さんは急いで昇降口から外を見てみた。
すると、ぽつぽつと確かに雨が降っている。
それは見る見る内に大降りになり、私たちが帰るタイミングを完全に打ち消してしまった。
でも、空はまだきれいなまま。

ホントに夕立って突然来るもんなんだと驚きながら、
「朝に言ってた夕立、当たっちゃったね」って原村さんに声をかけたら
「そ…そうですね」と苦笑い。
でもなんでか、原村さんが1番驚いていたように見えた。

ん?気のせい、だよね。



*



「傘持ってきてないよお」とか、「最悪ー」とか、
昇降口付近で立ち往生してる他の清澄生のそんな会話をなんとなく聞きながら、
私はどうしたものかとちょっと考えこんでいた。

原村さんと一緒に帰りたい。
でも雨。しかもどしゃぶり。
夕立だから少し経てば止むんだろうけど、原村さんは傘を持ってる。
私みたいにここに居座る理由がない。
どうしよう…引き止めてみる?
少しだけだから…っていやいや!そんなの迷惑だ。
私のために待ってだなんて、絶対言えない。

でもきっと、原村さん優しいから待ってくれるんだろうな…
ちょ、ちょっとだけ、甘えてみようかな…?
い、いやいや!困らせちゃダメだ!だけど……(ry

――結論。


「は、原村さん、先に帰りなよ?
 一緒に帰れないのは残念だけど、せっかく傘持ってきたんだし。
 私は大丈夫だから」

「ね?」と笑いかけることにした。
そうだよ。なにも今日だけじゃないんだから、明日こそ一緒に帰ればいいんだ。
でも心はウラハラに、今もなお降り続いているこの大雨と、
天気予報を見ずに登校した自分をほんの少しだけ恨んだ。

あーあ、私の2位もここまでかあ。


「ね?原村さん!その分明日、ちょっと寄り道とかしてさ!」

「…残念、ですか?」

「え?」

「私と一緒に帰れないことが…残念、なんですか?」

「…あ」


そ、そういえばそんなこと言っちゃったかも…!
あうう…ついポロッと本音をこぼしちゃったけど、改めて考えてみればそれって結構はずかしいことだったり!?

かあっと顔が赤くなるのを感じた。
原村さんはじっと私の答えを待ってる。ちゃんと、答えなきゃ。
スカート越しに赤いハンカチを握り締めながら、私は素直にこう答えた。

「…うん。すごく残念。実は私、原村さんと一緒に帰るのいつも楽しみにしてたから」

でもやっぱりちょっとはずかしくて、はにかみながらになってしまった。
私の答えを聞いた原村さんは、私と同じくらいかはわからないけど、とにかく赤くなった。
そしていったん目を閉じて、小さく深呼吸をして。
何かを決心したかのように、両手で持っていたあの黄色の傘の柄をぎゅっと握り締めた後、
それを勢いよく私に差し出して、こう言った。


「では、宮永さん…い、一緒に!帰りましょう!」



*



………えっ。


「い、一緒に?」

「そうです!」

「え、でも雨…」

「で、ですから!これで!一緒に…!」

と、目の前に再度差し出されるは例の傘。
今気付いたけど、その腕はかすかに震えているように見える。
顔はさっきよりも真っ赤だ。…たぶん私も。
だって、今やっと言われている意味がわかったから。


「相合傘…ってこと?」

「………っ。」

コクリと頷くのと同時にうつむく原村さん。
や、やっぱりそうなんだ…!
……どうしよう。嬉しい。
すごく嬉しい。
でも…それと同じくらい…!

(は、はずかしいよぉ!)


後になってから考えてみると、どうしてこの時私はそう思ったんだろう?
友達と相合傘なんて、そこまではずかしがることでもないのに。
たとえば、そう、相手がゆーきちゃんなら。
きっとそれほど遠慮することもなく、すんなりとその傘下に入れたはず。
なのになんで、原村さんが相手だとこうも……。
遠慮がちになっちゃうんだろう?
すごく意識しちゃうんだろう?


「あ、ありがとう!原村さん!で、でもやっぱり悪いよ。
 私が傘持ってこなかったのがいけなかったんだし、夕立だからきっとすぐ止むと思うし…
 だけど気持ちはすっごく嬉しいなっ!」

だから、原村さんさえよかったら、雨があがるまで一緒に待ってもらえない?
…と続ける予定でした。
原村さんがその手を降ろして、ものすごく打ちひしがれたような顔で、次にこう言うまでは。


「あ…で、ですよね……。ごめんなさい、宮永さん。迷惑でしたよね…」

「だかr…え!迷惑!?」

「急に相合傘だなんて…そんな変なこと。それも、私なんかと」

「えっ、ちょっ、ちょっと!原村さん!?」

「しかも夕立ですし、すぐあがりますよね…。そこまでして私と帰る必要なんてどこにも……」

「わあぁっ!!原村さん!ストップストップ!」

「はい?」

「(な、なんて暗い顔してるの原村さん!)
 帰る必要ならあるよ!充分ある!だからやっぱり帰ろう!一緒に!!」

「えっ!?で、でも、迷惑じゃ…」

「そんなの全然思ってないよ!むしろ…っ!」

「…むしろ……?」

「う…む、むしろ…嬉しかった、かも……」

「宮永さん…っ!」

「え、えへへ…。じゃ、じゃあ、行こっか?」

「は、はいっ!」


原村さんがバサッと傘を広げる。
そこに私はお邪魔します、と言って入った。
ホントはとてつもなく照れくさかったけれど、
「どうぞ」、と言って私を迎え入れてくれた原村さんの笑顔を見たら、
(…まあいっか♪)、なんて思えた。

一方その頃、近くでこっそり覗き見していた部長たちが
(このバカップルめ・・・)とかなんとか思っていたのは、また別のお話。



*



「いれてもらってるんだから、私が持つよ!」

「誘ったのは私なんですから、私が持ちます!」


で、結局「2人で持とう」ってことに落ち着いた、傘持ち合戦。
たぶんこれで正解だったと思う。

というわけで私たちは今、現在進行形で相合傘をしていますっ!
ああ…でも…近い。近いよ。
そこまで密着してるわけじゃないけど、1本の傘に2人が収まるとなると…ね。

(な、なんか緊張しちゃう…!)


何か話をしようと考えを巡らせてみるものの、ドキドキしてうまくまとまらない。
それは隣の彼女も同じらしく、なんだかまごまごしている。
時々ふと目が合うこともあるけど、なんとなくそらしちゃったり。
でもこのままじゃあせっかく誘ってくれた原村さんに申し訳ないよね…うん。

相合傘はふつうのこと、ふつうのこと!
緊張することもはずかしがることもない!大丈夫!よしっ!


「「あのっ…、!!」」


な、なんてこった。
かぶっちゃったよ、私の一声。
しかも足を止めるタイミングまで一緒だし!


「あ、ご、ごめんなさいっ!なんですか!?」

「う、ううん!原村さんから言って!」

「い、いえ!宮永さんから…」

「いいよいいよ!私なんでもないから!」

「わ、私もなんでもないですっ!」

「……」

「……」

「……あははっ」

「……ふふ」


なんだかおかしくなって笑いあった。
おかげですっかり緊張が解けちゃった!
そしてどちらからともなく、また歩き出す。
その表情はさっきまでガチガチだったのがウソみたいに、やわらかくなっていた。

雨がだんだん弱くなってるなと思っていたら、気付いたときにはもう雨は止んでいた。
すかっと晴れ渡る空。
きらっと輝く水たまり。
いつもは何気なく見ている風景も、なんとなく違って見える。
(そばにいてくれるからかな)とか思いつつ、傘をたたんでいるその人を見た。

その間、私は雨に濡れた左腕を拭こうと赤いハンカチを取り出す。もちろん原村さんに見えないように。
なんでって?原村さん、またきっと謝っちゃうと思うから。
繊細な原村さんに、もうこれ以上余計な心配させたくないしね。


「あの、ま…またできたらいいですね!相合傘」

「あ、うんそうだね!またしよう!」

「はい!…あ!宮永さんっ!」

「ふぇっ!?なっなに!?」


てっきり隠れて腕を拭いているのがばれたのかと思って、慌てて原村さんに視線を向けた。
けど、当の本人はなにやら嬉しそうな顔で空を見上げている。
な、なんだろう…?


「ほらっ、見てください!虹ですよ!」

「え、虹!?」


原村さんが指差す方向を見てみると、そこには確かに大きな虹が。


「…きれいだね」

「ええ、ホントに…」


しばらく、見とれていたと思う。
それほどまでにきれいで、感動したんだ。

朝は原村さんがちょっと遅れただけで変な心配しちゃったり、
さっきはいきなりの夕立ちでなんだかなあって思ったけど。
今、こうして今日1日を振り返ってみると…


「原村さん」

「なんですか?」

「明日も、一緒に学校行こうね?」

「…はい!」


とってもラッキーな1日だったな、と思います。



~FIN~



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年04月27日 10:34
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。